アニメ Animation
© 2017 市川春子・講談社/「宝石の国」製作委員会
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3DCGの出番

Posted: 2017.09.14

さて、アニメーション制作工程の表には3DCGの欄がありますが、そもそも3DCGって何?という疑問を抱いているならば、AREA JAPAN の「3DCGとは」のコラムを一読してみると良いでしょう。3DCGとはなんぞや、ということがとても丁寧に解説されています。

『3DCGとは』を読んでみる。

では、アニメーション作品の制作では、実際にはどんな時にCGが必要とされているのでしょうか?簡単に言えば「映像表現のため」か「省力化のため」のいずれか要望があることが条件となります。「映像表現のため」の場合は、作画や美術で描けないような、3Dでしか表現できないもの絵を作りたい時に使う。例えば、立体感がある背景やパース変化を見せたい、ディテイールが多くて作画するのが困難なキャラクターやメカが登場する、リアルな水の流れや煙の表現など。「省力化」の場合は、主に作画の手間を省くためが目的です。例えば、メインのキャラクターに作画の戦力を注ぎたいので、モブキャラはCGで作成する。登場回数が多いキャラや乗り物をCGにするとコストパフォーマンスが上がる、など。

上記のCGの使い方やどの様な作業が想定されるかを踏まえて、どのツールを用いるのかを検討していきます。思い描いている結果の通りに最も効率よく作業できるツールを選ぶのが大前提ですが、スケジュールと予算との兼ね合いを考慮して、新しい技術を取り入れていく余裕があるかどうかや、作品の規模によって協力会社にお手伝いをお願いする必要があるかどうかなども総合的に鑑みる必要がある。そういう意味では、CGのアニメーション制作の現場では、Autodeskの製品の使用がスタンダードになりつつあるので、殆どのスタジオは Autodesk Maya または Autodesk 3ds Max をメインツールとして使用しています。

亜人

©桜井画門・講談社/亜人管理委員会

アニメーション制作でのCGのパイプライン

CGのアニメーション制作では、アセット開発/制作とカット作業の二つに分けられます。アセットとは、制作に必要な各種素材のことです。分かりやすい例として、キャラクターや背景モデルデータがあります。演劇に例えると、役者、小道具や大道具などを揃えるのがアセットの担当です。そしてカット作業の方では、その役者に演技をさせ、小道具や大道具を活かして、実際の映像を作る訳です。

それぞれのパートは、また更に、制作の工程に応じた役割分担がありますが、作品規模とスタジオの規模によってこの細分化の仕方が変わります。では、各工程が受け持っている仕事はどんなものなのかを見ていきましょう。

モデリング

© 2017 市川春子・講談社/「宝石の国」製作委員会

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3Dソフトの3D空間内で立体の物体(オブジェクト)を作ることです。どれだけディテイールが高いモデルにするのかは、その作品での活用法によって変わってきます。例えば、メインキャラクターをCGで作るならば、かなり細部まで作りこむ必要があります。更に、動かした際に形状が破綻しないように、リグの仕組みと上手く連携できるような形状作りを心がけねばなりません。しかし、遠くにしか映らない賑やかしのモブキャラなどは、きっとあまり精密なモデリングが要求されないでしょう。

3Dのモデルが出来上がれば、リギング工程に受け渡して、アニメーションが可能になるための仕組みを付けて貰います。場合によっては、その仕組みなしの状態のものを3Dレイアウト担当に受け渡して、レイアウト取りを進めて貰います。

また、モデルに美術素材を張り込む予定ならば、必要なテクスチャ(3Dに張り込む画像)のサイズを割り出して、UV展開(3Dで画像を張り込むために用いる座標)などの情報を用いて、美術さんが素材を描けるためにガイドを作成します(PSD形式が主流)。

モデラー

3Dモデルを作成する担当。モデリングするものは、キャラクターから、小道具や大道具、乗り物やメカニックな構造物、建物や地形、等々。もう本当に創造主になったつもりで形あるものなら何でも作れちゃいます。ただ、イラストの様に一方向からだけ絵が成り立てば良いのではなく、立体的にぐるりと回しても、どの方向からでもバランスが良いものになるのが大事です。アニメーションを付ける前提のオブジェクト(3Dの立体物)を作成する場合は、どんな動きをするのかを想像しながら、形状を整えていく必要があります。

こんなツールが使用されています→ Autodesk Maya, Autodesk 3ds Max

また、他社のモデリング専用のソフトで作成された3Dモデルを Maya や 3ds Max に読み込み、アニメーションできるようにモデルデータの再調節を行うことがあります。

Mayaで作成したキャラクターモデル

Mayaで作成したキャラクターモデル

リギング

アニメーターがキャラクターやメカを動かせるための仕組みのことを「リグ」と呼びます。動かすべきものの構造や動き方をよく理解した上で、リグの骨組みを作成して、それぞれのパーツが正しく動くための仕込みを行います。また、表情の変化をコントロールするための仕組みも併せて作成します。

3Dレイアウトの担当が、キャラクターなどを含めたレイアウトを取れるように、簡単なポーズが取れるように簡易的なリグを仕込むことがあります。そして、より細かいコントロールができるリグを仕込んだモデルをモーション担当に受け渡します。

リガー

リギングを担当する人のこと。リグの構造上の問題でアニメーターが思い描いた動きができない、あるいは限られた表情しか付けられないとなると、あまり良いリグだとは言えません。また、あれもこれもスゴイことが出来るけど、他人にはどこを操作すれば分からないというようなリグを作っても、作品のクオリティに貢献するどころか、効率の妨げになってしまうので注意が必要。
演出的に求められているアクションが充分に対応できるような、且つアニメーターが要求する操作性を持ち合わせた、柔軟性が高いリグを作成できる人はかなり重宝されます。

こんなツールが使用されています→ Maya, 3ds Max
Mayaのボーン設定(基本的には、リグはアニメーションを付ける時と同じソフトで作成します)

Mayaのボーン設定(基本的には、リグはアニメーションを付ける時と同じソフトで作成します)

3Dレイアウト

3D空間の中にキャラクターや背景モデルを配置し、3Dのカメラの終点距離・位置・アングルを調節して画面の構図やカメラワークを決める作業です。まだ動きを付ける前の段階なので地味な作業と思われがちですが、カットの見た目の良し悪しは、6割はレイアウトで決まってしまうと言っても過言ではないので、実はとても大事な工程だったりします。

CGでレイアウトを取る利点は、例えば、教室やレストランの店内など、登場回数が多い空間を描くときに、サイズが定まっている3Dの舞台の中でカメラの位置やアングルを決めていく方が効率良い。それは、各原画マンが描いたレイアウトではサイズ感のバラつきがあるため、それを統一するためにそれぞれの絵を修正するより必要がありますが、3Dではどのカットも同じプロポーションで映る訳ですから、絵としては正確に近いし、各カットでプロポーション直しをしなくて良いので遥かに効率が良い。
もうひとつの使い方は、3Dのカメラワークがある場合は、演出家に確認を取りながら3Dレイアウトを行い、カメラワークも含めて画面全体の納まりを調節していきます。この場合は、担当者がアニメーションまで一貫して作業を行うケースが多いです。

レイアウトアーティスト

3Dのソフトウェア内でレイアウトを組む人のことです。アニメーション制作でCGの導入年数がまだ浅かった頃は、作画のレイアウトにCGを合わせるのが主流でしたが、年々、CGの方で先行して、絵コンテを元にレイアウトを取る作業が増えています。演出にチェックして貰い、CGのレイアウトをプリントアウトしたり、PSDにしたデータを作画の方に回すことになります。
レイアウトが決まれば、アニメーション担当にシーンを受け渡して、動きをつけて貰います。また、必要に応じて、作画のためのガイドを出力したり、背景美術が描かれるための3D原図を出したりします。

こんなツールが使用されています→ Maya, 3ds Max

CGのレイアウトを作画側に受け渡す際は、Photoshop などで確認及びプリントアウトできるように、PSD・PNG・TGAなどの形式でデータを出力します。

アニメーション

キャラクターに演技をさせたり、メカを動かしたり、実際にカットの動きを付けていきます。CGのアニメーションはコンピューターが自動的に生成していると思われている節がありますが、ここはちゃんと生身の人間(アニメーター)が3D内のオブジェクトに命を吹き込んでいるんですよ!やり方は作画とほぼ同じ感じで、原画となるポーズの変わりに、3Dソフト内でキーフレームを作成していきます。ソフトはキーフレームとキーフレームの間の中割りを自動的に作ってくれますが、動きのスピード感やニュアンスがしっかり伝わるように、そのキーフレーム間の補間の仕方をしっかりとコントロールする必要があります。

アニメーター

ソフトウェアの操作に長けていれば、表現したい動きも付けやすくなりますが、キャラクターにどんな演技をさせたいのか、どんな演習的な意図があるカットなのか、そして完成のイメージはどんなものなのかが想像できるかによって、出来栄えがかなり変わってきます。想像力と操作力のバランスが肝心です。

キャラクターの身体の動きをつけたら、次は顔に表情変化をつけたり(フェイシャルアニメーション)、服や髪の毛をなびかせたり、持っている道具やアクセサリーなど、細かいパーツのアニメーションも付けていきます。ボディの動きの方をプライマリーアニメーション、そしてアクセサリー的なパーツの動きをセカンダリーアニメーションと呼ばれることがあります。大規模スタジオでは、このプライマリーアニメーションを担当するチームとセカンダリーアニメーションを担当するチームがあったりしますが、国内の多くのスタジオでは同じアニメーターが「動き」を一環として担当することが多い。

こんなツールが使用されています→ Maya, 3ds Max, MotionBuilder

質感設定

名前から察することができますが、3Dのオブジェクトの質感をつける工程、または担当のことです。海外では「テクスチャリング」と呼ばれています。キャラクターの肌が透明感のある美しい肌に見せかけたり、つやがある髪の毛を作成したり、服装の布地が綿100%なのか合皮なのかが分かる質感にしたりします。とてもリアルな質感を求められる場合もあれば、水彩で描いたような質感とか、クレヨンで描いたような質感とか、粘土で出来ているような質感など、監督や演出が求めているイメージを表現するように勤めます。

誰が質感設定を行うの?

3Dの画面内でどんな見た目なれば良いのかを考えることが大前提ですが、どの様な設定を行い、どの様な操作を行えばそれが実現できるのか、使用中のソフトウェアに何が可能で何が出来ないのかが分かる人間でなければいけません。そのため、その辺をよく理解しているCG監督がCGのルック(見た目)の開発を行うケースが大半ですが、大規模のスタジオでは(海外)、質感を担当する部署もあったりします。

ライティング

3Dのシーン内に照明を炊いて、光と影の方向や強さを制御します。シーンによっては複数のライトを利用して、画面内の明暗に強弱をつけたり、その場面の雰囲気を作り上げていきます。日本ではあまりこの工程は独立していませんですが、海外ではちゃんと照明担当がいます。

3Dエフェクト

爆発、煙、炎、花吹雪、など、3D空間を使うエフェクトを制作します。水の流れや漂う煙などのリアルな動きをするエフェクトが求められる場合は、物理演算に特化したアプリケーションを使うことがあります。しかし、アニメーションの作品では、必ずしも「リアル」なエフェクトばかりではなく、絵的にカッコイイ特殊な形状をしたもの(平たく言えば作画のエフェクトの様なもの)を求められるケースが多く、以下にそれっぽいものを作れるのかが腕の見せ所です。

こんなツールが使用されています→ Maya, 3ds Max, After Effects
3ds Maxのパーティクルエフェクト

3ds Maxのパーティクルエフェクト

レンダリング

アニメーションがついたシーンに質感の設定を読み込み、正しくライティングされたなら、3Dのソフトウェアから出力されます。ここで書き出される素材は、後に行う合成の工程でのニーズに合わせて出すことがあります。数種類のCG素材を出力して、CGの仕上げ担当者がそれらを使ってコンポジット(合成)を行い、3Dセルまたは3D背景としてまとめた素材を「撮影」の方に受け渡します。

菱川パトリシア

菱川パトリシア

株式会社アイケイアイエフプラス(IKIF+)

CGディレクター・グラフィックデザイナー。『少女終末旅行』(TVシリーズ)、『BAYONETTA BLOODY FATE』(劇場作品)などのCG監督を務める。その他に『ゼロから始める魔法の書』、『モンスターハンターストーリーズ RIDE ON』、『うたわれるもの 偽りの仮面』、『映画ドラえもん 新・のび太の宇宙開拓史』、『ドラえもん のび太の新魔界大冒険』、『イノセンス』、『スチームボーイ』などの制作にも携わる。 アニメーション作品の制作と並行で、東京造形大学・東京工芸大学でアニメーションの講師としても務めている。

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