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CEDEC2026レポート:『プラグマタ』における髪・表情表現の開発事例――Maya XGen Interactive Grooming を RE ENGINE に

CEDEC2026レポート:『プラグマタ』における髪・表情表現の開発事例――Maya XGen Interactive Grooming を RE ENGINE に
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2026年7月に開催された「CEDEC2026」にて、「『プラグマタ』における髪・表情表現の開発事例」と題した講演が行われた。本作はカプコンが2026年4月にリリースしたオリジナル新作タイトル。宇宙服姿のヒューとアンドロイドの少女ディアナ、二人の主人公が織りなす冒険行が近未来の月面世界を舞台に描かれる。パズルとアクションを融合した新感覚のアクションゲームだが、ディアナというキャラクターの愛くるしさはゲームを普段はプレイしない層にも届いており、すっかり作品のアイコンとなっている。そんなディアナの魅力の要素を支えた技術を解説するのが本講演だ。株式会社カプコンのリードキャラクターアーティスト・入江健二氏が髪の毛の制作について、リードフェイシャルアニメーターの小原芹菜氏が表情表現について、登壇して解説を行った。

「ディアナらしく」生き生きとしたフェイシャルアニメーションを作り上げるFACSリグと演技

セッション前半「FACIAL ANIMATION - Creating Emotion」の扉スライド

フェイシャルを担当した小原氏は、フェイシャルアニメーション(以下、フェイシャル)について、「キャラクターを生き生きと見せることでプレイヤーはゲームの世界に没入しやすくなり、キャラクターや世界観への愛情が深まる」と、その目的を定義し、ディアナを実在感のある魅力的なキャラクターにすることを目指したと語る。

『プラグマタ』で目指したこと=生き生きとした実在感のある魅力的なキャラクター

ディアナは単に可愛いだけではなく、好奇心旺盛で無邪気な子供らしいキャラクター。ユーザーにとってどんな要素がそれらしく感じられるのか、そしてどのように落とし込めばより魅力的に見せられるのかをアニメーター同士で擦り合わせていった。

そこで気をつけたのは、常に可愛さを前面に押し出し続けないようにすること。表情の印象が単調になってしまい、キャラクター性が薄れてしまってキャラクターへ感情移入することが難しくなってしまう。それよりもディアナ(子供)らしくて可愛い表情を作ることを優先したという。

ディアナの演技を精査:例1「困り眉」を多用しすぎない

演技精査の説明の中で小原氏は、「困り眉」と「唇を噛む仕草」の2つの例を挙げた。前者は「不安、甘え」の印象を、後者は照れや迷い、感情を抑えようとする心理表現で、これらを多用しすぎると、ユーザーには「可愛い、守ってあげたい」という印象を過剰に受け取られる懸念があった。そこで、これらの表情はディアナが本当に悩んだり困っていたりする場面に絞って使用するようにしたという。

ディアナの演技を精査:例2「唇を噛む仕草」を多用しすぎない

小原氏は「その時にキャラクターが何を感じているかやバックグラウンドを踏まえ、単に可愛い表情を作るのではなく、そのキャラクターらしい反応を表現することで、ディアナらしくて子供らしくて可愛いと感じてもらえることを目指しました」と、要点を述べ、「表情にも着目しながらプラグマタをプレイしていただき、今お話しした内容がどの部分で採用されているかなどを見てもらえるととても嬉しいです」と語った。

カットシーンフェイシャル制作フロー全体像

本作のフェイシャル制作は、ポーズをブレンドする方式のフェイシャルリグとモーションキャプチャーを採用した。キャプチャーをする際に、まずは体の演技動画を見ながら俳優に演技をしてもらい、表情と声を一緒に収録する。アフレコを行いながら顔の演技も同時に収録することで、豊かな表情と一緒にリアリティのある口の動きを表現することができるのがメリット。また、収録は全て英語で行われるため、口の動きも全て英語になる。体の演技とは別で収録されるため、後工程のフェイシャル調整時には、場面に合わせた視線や表情の調整を行うことが重要となる。

細部まで表現できるフェイシャルリグ:FACS(ファックス)ベースのリグを使用

『プラグマタ』では顔の各パーツごとにポーズをブレンドするFACS(Facial Action Coding System)ベースのフェイシャルリグを採用している。これは心理学において顔の筋肉の動きを計測し、心理分析を行う手法。顔の各パーツを、筋肉の動く範囲と動き方で定義したアクションユニットの考え方をコントローラーに活用している。

ジョイント、ブレンドシェイプ、テクスチャブレンドを制御してアニメーションを制作

このリグの大きな特徴はジョイント、ブレンドシェイプ、そしてテクスチャブレンドを制御してアニメーションを制作できる点。Maya上ではこれら全ての要素をリアルタイムに変化させながら作業できるため、アニメーターはより直感的にキャラクターの表情を調整し、微細なニュアンスまで表現が可能だ。このリグで表示されたシワなどは、カプコン謹製のゲームエンジン「RE ENGINE」と同じ見た目になるため、Mayaの段階で演技の方向性がズレていないかなどを確認することができる。

Facewareによる顔の演技の分析。赤い点が各パーツの位置、青い点が歯の位置を示す

トラッキングされた表情芝居は、画像解析ソフトウェアのFacewareを使用して分析が行われる。Facewareに分析したい動画を登録すると自動で分析が開始され、次にリターゲットを効率的に行うために俳優の顔の可動域データベース(Range of Motion)を作成する。データベースに登録する表情は50種類程度あり、喜怒哀楽といった基本的な感情や目の動き、口の動きを中心に構成されている。

可動域(ROM)データベース制作

このROMデータベースを使用し、演技をアニメーションデータへ変換する。このとき単純な変換をしただけではアニメーションノイズがあったり、動きにメリハリがなかったり、舌のアニメーションが存在しなかったりするため、これらをアニメーターが手作業で編集を行っていく。

つづいて小原氏が「この工程がフェイシャルアニメーターの腕の見せ所であり、楽しい部分でもあります」と、述べたのは「演技を"魅せる"アニメーション工程」だ。

演技を
調整後の"After"の方が口角が広がり、瞼の動きも豊かになり表情全体が生き生きしている

ここでは、目や口がしっかり閉じていない箇所や、俳優の演技と異なる表情の修正を行う。ただし、単に俳優の顔の形状に合わせてしまうとキャラクターのイメージと離れてしまうため、顔の動きと感情のニュアンスを再現することを重視している。また、演技を誇張することもあるという。例えば、頬の動きについては光の当たり方や陰影の変化を手がかりに、どの部分がどのように動いているかを動画と照らし合わせながら細かく調整をしていく。

「今回は特に子供らしくハキハキと一生懸命話しているような印象になるようにリップアニメーションと表情のバランスを調整し、よりディアナらしくなるように注力しました」(小原氏)。

ボディアニメーションにあわせて自然な目線や表情になるように調整

次にフェイシャルとボディのモーションを合わせ、自然な目線や表情になるように調整する。ここではディアナがヒューの目を見て一生懸命話しているように表現するのが目標で、視線や瞬きなどを調整するほか、声の大きさやイントネーショントーンに合わせて口の動きを調整したり、眉毛や鼻を動かしたりする。これによりキャラクターの感情や状態がよりユーザーに伝わりやすくなる。

RE ENGINEに実装して行うクオリティを高める最終調整

シーン上での調整を終えた後、RE ENGINEに実装してライティングされた状態を確認しながら、顔の陰影の出方や目に落ちる影ハイライトの位置など細かくチェックする。必要なシワが十分に出ていないと感じた場合にはアニメーション側でより際立たせるような調整を行ったり、逆にシワが強く出すぎている場合は抑えるなどの調整を行う。必要に応じてライティングアーティストとも連携しながら狙った見た目になるように調整を重ねる。

さらにカットシーンでよく起こる問題として、目に落ちる影やハイライトの影響による目の錯覚で、Maya上では正しい目線に見えていても実際の画面ではそう見えないことがある。その場合は最終ルックであるRE ENGINE上で正しく見えるようにMayaでの調整・確認を繰り返しながら仕上げていく。

実制作で直面した課題と解決 課題1:ディアナが老け込んで見えてしまう

小原氏は実制作で直面した課題の事例を2つ挙げ、解決方法を紹介した。1例目は制作初期にディアナの笑顔の時に、ほうれい線がくっきり出て老け込んで見えてしまったケース。ここではリグのポーズの調整を行い、子供らしくふっくらとした笑顔になるように改善した。

こうした課題は実際にアニメーションさせたり、ライティングを行わないと気づけないことも多いため、アニメーションの制作中にリグのポーズの調整を行っているという。

実制作で直面した課題と解決 課題2:目にハイライトが入らず死んだ目に見える時がある

2例目はRE ENGINE上でディアナの眼球に光が入らず、いわゆる"死んだ目"のような印象になることがあったこと。これについては、常時表示される疑似ハイライト機能を実装した。カットシーンだけでなくゲームプレイ中でも導入されており、ディアナの魅力を引き上げる重要な要素となった。頻繁にRE ENGINE上でのルックを確認しながらトライアンドエラーを重ねることで、より魅力的なキャラクターへと仕上げることができた。

小原氏は最後に、「フェイシャルアニメーションは単なる表情の再現ではなくキャラクターの性格や感情をプレイヤーへ届けるための重要な表現手段」とフェイシャルの意義について語り、今後の更なる表現力の向上に意欲を見せて締めくくった。

ストランドヘア2万本以下で魅せる「沼のような新技術」

セッション後半「HAIR LOOK DEVELOPMENT - Creating Believable Hair」の扉スライド

後半は入江健二氏がディアナのヘア制作についての解説を行った。ディアナのデザインの特徴のひとつであるロングヘア。こうした髪の毛の表現にはリアルな揺れの再現が必要だった。従来であれば板状のポリゴンにテクスチャを設定した"ヘアカード"で表現するが、本作では髪の毛1本単位でレンダリングした"ストランドヘア"を採用。ディアナの動きに合わせたより自然に動く髪の毛を表現することができた。

ヘアカードとストランドヘアの比較
左:ヘアカード。右:ストランドヘア。ヘアカードは髪の毛のシルエットが全体的に直線的で、質感もバサバサして見えるため、キャラクターへの印象が変わってきてしまう。

ストランドヘアは動きがしなやかで滑らか。シルエットが繊細に表現されフォトリアルな見た目となっている。ジョイント数は、ヘアカードが見た目の安定性や処理負荷を考慮したため22であるのに対し、ストランドヘアが43万とまさに桁違いだ。各ヘアのポイント単位で計算をしているため、ジョイントよりも動作する部分が多くより豊かでしなやかに見える。

ヘア制作のワークフロー

ヘア制作のワークフローは、まずアートからデザインの方向性が提示され、そこからMayaでのヘアのモデリング、RE ENGINEでのルックの調整、シミュレーションの調整を行い、最終的な仕上げを行う。制作上、大きな課題となったのはアセット制作コスト、シミュレーションコスト、処理コストの3つだ。

ART:初期コンセプトアートとボブカット参考イメージ。ロングヘアの重要性

ディアナのロングヘアは上記のように制作コストがかかるため、早期に仮モデルを制作し、ゲーム画面で見ることで解決できる課題なのかどうか、このデザインにそれだけの価値があるかの検証を行った。入江氏は「開発の中盤ではボブカットにする話も真剣に話し合われたほどです」と、制作の裏話を述べた。結果として、ディアナのキャラクター性を表現するために、ロングヘアはデザイン要素として重要なものと判断され、R&Dチームとの相談を重ねつつ、初期コンセプトアート通りに開発が進められた。

Modeling:Maya XGenでのモデリング

ヘアのモデル制作にはMayaのXGen Interactive Groomingを使用。ヘアカードであればテクスチャに必要なデザイン要素や本数を削減することができるが、ストランドヘアはリアルな髪の毛の再現を目指しているため、シミュレーションを考慮し、実際の髪の毛の構造を再現する必要があった。特にディアナの髪型は複雑なデザイン要素が盛り込まれているため、頭皮から髪がどのように伸びているかを意識してスタイリングする必要があり、開発初期から長い時間をかけて制作された。

ヘアツールには複雑なノイズや束を作る機能があるが、既存機能のみだと綺麗すぎてしまうため、最終的なポリッシュタイミングでは実際のゲーム画面と比較しながら手作業で修正を行った。
Modeling DEMO:XGenモデリングのデモンストレーション

ここでCEDECの講演用の仮モデルを使用し、ゲームには登場しない髪型を作るデモンストレーションが行われた。手順としてはまずヘアのディスクリプションを設定しマスクでヘアが入る範囲を指定する。XGenにはガイド機能が備わっており、Interactive Groomingは髪の毛を詳細にコントロールできる分、逆に膨大なヘアを制御できないこともある。そこでガイド機能を使用すると、ヘアスタイルの大枠を容易に決めることができる。さらにリージョンマップを利用し、頭頂部と左右、後頭部などを分割し、デザインに応じてガイドが分かれるように設定を行う。最低でも頭頂部と側面は分けておくと、作業がしやすくなる。

大枠ができたらクランプモディファイヤーを重ね、スタイリングをして雰囲気を出す。さらに毛束がまとまりすぎないよう、別途ノイズを入れて手動で整えていく。髪の毛の構造を整えることで、一番上に出すヘアや交差している部分が見つけやすくなり、その部分だけを選択して作業することで時間短縮に繋がる。RE ENGINEではXGenのデータをすぐに動く状態で観ることができる。

青い部分はフリーズをかけている箇所。髪の毛自体がレイヤー構造になっている部分を直す際や、特徴的なヘアを生成する際に多用する。
課題1 アセット制作コスト:HairCardのモデリング

つづいて、アセットの制作コストについての説明が行われた。ストランドヘア以外にも別途各スペックに応じたグラフィック設定に対応するため、5種類のヘアカードのモデルも同時に制作する必要が生じた。そのため、ストランドのスプラインを再利用してヘアカードを制作し、一連のワークフローを決めてしまうことでクリアした。

RE ENGINE LookDev:質感、マテリアルの調整

その次はRE ENGINEに実装してルックの調整を行う。ストランドヘアの特徴はフォトリアルな見た目。ストランドヘアの描画では実際の髪の毛に起こる複雑な光の計算に近い処理を行うことでリアルなルックを実現している。

グラデーションテクスチャによる髪の色の調整

さらに現実の髪ではありえない髪の毛の色や、太さのパラメーター変更も可能。色はグラデーションにより頭皮から毛先まで詳細な色の調整をすることができる。光の散乱の部分では、髪の毛全体のボリュームを考慮した計算が行われ、ヘアカードでは難しい髪の毛の量感を表現している。

RE ENGINE Simulation:一本一本をそれぞれ動かすことが可能なシミュレーション

動きの制御はシミュレーションベースで行われているため、重力や風などが髪の毛1本1本に影響させることができるが、そのままではモデリングしたヘアスタイルを維持することができなくなってしまう。そこで、ストランドを構成しているカーブの中から特徴的な箇所を指定し、アーティストの意図する形状を保ちながら動きを表現する。指定はアーティストが手動で行うこともできるが、自動で各カーブから特徴を検出する機能もある。最終的には自動検出のみで十分な結果が得られたという。

課題2 シミュレーションコスト:環境への対応

ここで課題となっていたシミュレーションコストについての解決策が語られた。シミュレーションでは物理的な計算を行ったため、ゲーム中に非現実的な高速移動などを行うと、不都合な髪の動きが生じてしまう。その際には、ヘアカードも含め、風や重力をステージのカットの見た目に合わせて調整を行う必要があった。

Optimization:描画コストとルック優先時の見た目比較
髪の毛による処理負荷に対応した見た目の違い。左:ヘアカード。中:ストランドで髪の毛の持つ光の散乱などの計算精度を落としたもの。右:高品質のストランド
課題3 処理コスト:処理軽減の機能

そして課題の3つ目はストランドの処理コストだ。ストランドヘアは描画、シミュレーションともにGPU側で処理されているため、ビジュアルの品質を上げる段階でストランドヘアのコストの高さも課題とされていた。そこで、妥当な処理になるよう、ストランドヘアの数を再調整する必要が生じた。だが、ポリッシュ後のストランドの本数を自由に増減することは難しく、最終的にミドルウェアのOrnatrixを利用して最適な本数・形に再構築することで処理コストの課題を解決した。

カメラの距離に合わせてLODが機能し、髪の毛の本数が増減するように設定されており、さらに髪の毛の太さも自動で変更される。増減自体は一般的なLODと同様、カメラ内での占有面積などで制御でき、各キャラクターのヘアに対してもそれぞれ最適なLODの設定をすることも可能だ。実際の人間の髪の毛は10万本前後とされているが、ディアナの髪の毛は2万本以下に収められている。少し太めに見せたり、スタイリングの調整などを行うことで本数の差分を埋めている。本作のキャラクターに使うストランドはこの本数が基準になっているという。

まとめ:ストランドヘアはキャラクターの魅力をブーストさせる沼注意な新技術

最後に入江氏はまとめとして、「ストランドヘアはキャラクターの魅力をブーストさせる沼注意な新技術」と述べた。今回のディアナのヘアの実装は、これまで挙げた数々の課題をチーム全体の努力によって乗り越えられてきたものだ。「全てにおいて今までの表現とワンランク上の品質」であるストランドヘアによって、キャラクターの魅力が何倍にもブーストされるが、見た目の技術の裏で沼のような課題が発生する可能性もあり、プロジェクトで用いる価値があるかどうかは「最初によく見極めた上で導入したほうが良い」と注意を促し、講演を締めくくった。

TEXT:日詰明嘉
EDIT:カプコン、オートデスク

CEDECのデジタルライブラリー、CEDiLに本セッションスライドのフルバージョンがございます。
ぜひアクセスして、さらに知見を深めてください。
『プラグマタ』における髪・表情表現の開発事例 講演資料
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『プラグマタ』ビジュアル

プラグマタ

発売日:好評発売中
プレイ人数:1人
ジャンル:SFアクションアドベンチャー
レーティング:CERO:C(15才以上対象)
対応ハード:PlayStation®5 / Xbox Series X|S / PC / Nintendo Switch™2
©CAPCOM

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