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『名探偵プリキュア!』エンディング制作の舞台裏 ―絵コンテ作りの基本的な思考法からCGアニメーションを磨くヒントの探し方

『名探偵プリキュア!』エンディング制作の舞台裏 ―絵コンテ作りの基本的な思考法からCGアニメーションを磨くヒントの探し方
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アニメ制作における3ds MaxやMayaの活用事例を、実際に使用しているスタジオのクリエイターを招いて解説していただく「Autodesk X CGWORLD Animation Days 2026」が2026年3月26日(木)と27日(金)の2日間に渡り開催された。初日はオレンジから、2日目には東映アニメーションから、それぞれのクリエイターがゲストとして登壇し、各作品における活用事例を語った。

Animation Days 2日目のTOEI ANIMATION Day では「キュアット解説! 絵コンテ メイキング」と題され、放送中のTVアニメ「名探偵プリキュア!」をもとにエンディング映像の絵コンテ制作やカット作業、キャラクターCGメイキング、アニメーション制作のTIPSなどが紹介された。

登壇者

野島 淳志氏

野島 淳志氏
東映アニメーション株式会社
CG室第一アニメーション課長

CGプロダクション2社を経て2013年東映アニメーション入社。
入社以来、「プリキュア」シリーズを中心に多数のアニメ作品のCGプロデューサーを務める。

近藤 まり氏

近藤 まり氏
東映アニメーション株式会社
CG室 CGディレクター

坪川 尚史氏

坪川 尚史氏
東映アニメーション株式会社
CG室キャラクターモデリングスーパーバイザー

山口 洋平氏

山口 洋平氏
東映アニメーション株式会社
CGアニメーションスーパーバイザー

表に出ないアイディアの源泉――絵コンテの発想と準備の全貌

「自分で見て、感じて、考えて、"本当"の答えを出す 名探偵プリキュアEDの絵コンテメイキング」セッションタイトル

本セッションで最初に登壇したのはCGディレクターの近藤まり氏。「自分で見て、感じて、考えて、"本当"の答えを出す 名探偵プリキュアEDの絵コンテメイキング」と題し、制作模様を紹介していった。こうしたセッションでは珍しいことに、実際に絵コンテを描く作業に入る前のアイディア出しの部分を丁寧に説明することで、近藤氏のクリエイティビティを詳らかにしていった。

絵コンテとは3つの「利」を作ること(利己・利他・利知)

近藤氏はまず絵コンテの定義を問いかける。絵コンテとは「利己」、「利他」、「利知」の3つの「利」を作ることだという。これはクリエイターは単なるエゴだけで映像表現をするのではなく、視聴者や制作スタジオ、クライアントの要望をそれぞれ汲んだものを絵コンテに落とし込むことが肝要であるという考えに基づいている。

みんなが見たいものを作る――視聴者・企画(クライアント)・CG室(制作スタジオ)・クリエイター(制作スタッフ)それぞれの要望

『プリキュア』のシリーズ作品に当てはめると、視聴者には「プリキュアと踊りたい」というニーズがあり、クライアントは「子供に観せやすい」、スタジオは「クオリティとスケジュール・予算との兼ね合い」があり、クリエイターは「技術的な挑戦」など、それぞれに要望が考えられる。本作においてはそれらをすべて内包するキーワードが「カワイイ」だった。近藤氏はこのテーマをエンディング映像を作るうえでの最重要基準として位置づけ、制作を進めていった。

2. テーマを探す→モチーフを探す

テーマの次はモチーフを探すフェーズへと進行する。この場合、みんなが見たい「カワイイ」というメッセージを表現するための具体的な構成要素を指す。エンディング映像制作は本編制作と同時に進行するため、近藤氏は企画書やシナリオなどからモチーフを探していった。そこで見つけたのが「タイムスリップ」「名探偵」「1999年」といった要素だ。そこから「謎解き」を軸に、連想ゲームのようにアイディアを広げていった。また、絵コンテ制作前に背景アセットの制作コストを算出するため、横浜元町商店街へのロケハンを行なった。他にもロケハンでその場所の空気感を感じたり、自身がキャラクターと同じように振り付けで踊って身体に覚えさせたりするなど、コンテ制作の前に実体験を伴った創作活動を行なっていたことも明らかにした。

4. カット割りを考える――ストーリーとサブストーリー/ビートシート/カメラロール/シーンのつなぎかた/カラーパレット
4-2. ビートシート――画面のリズムをつくる

CGモデルや設定が用意された後、ついに絵コンテ制作へと進むが、そこですぐにレイアウトやキャラクターなどの絵を描くわけではなく、エンディング曲の構成に基づいて映像全体の設計図となるカット割りを行なっていく。この映像のメインストーリーは「3人の道は分かれている、やがてひとつになる」という作品テーマに基づいた構成だ。しかも、それだけではなく、「平成から令和のメディアを駆け抜ける」などのサブストーリーをいくつも仕込んでいる。エンディング映像は約半年間、毎週にわたって放送されるため、こうしたサブストーリーを入れておくことで発見や考察ができ、何度観ても楽しめるような作りになっている。

4-3. カメラロール――カメラの種類と役割を選ぶ

続いて、映像時間軸上での盛り上がりや、落ち着いた部分などの映像リズムを決める「ビートシート」を描き、その後にカメラの種類と役割を決める「カメラロール」を描いていく。序盤は止め絵のような2D的表現から始め、徐々に奥行きのある3D的なカメラワークに移行させることで、視聴者が自然に映像に入り込めるよう配慮されている。

これらの説明から、絵コンテは単にパッションだけで作り上げるのではなく、映像の骨格を徐々に固めて組み立てて制作をしているさまがよく分かる。

4-4. シーンのつなぎ方――これが決まれば勝てる

「常に悩む箇所です」「これが決まればうまくいく」と、近藤氏が話した重要ポイントが「シーンのつなぎ方」の項目。サビの3D映像部分に行く前にBメロで一旦、天井からのカメラで3人を映すカットがある。これで位置関係を示しておくのがポイントだ。「カットの繋げ方は演出指南書でもさまざまな方法論が書かれている項目です。逆に言えばそれだけ多様で難しい内容というわけです」(近藤氏)

4-5. カラーパレット――色の展開と役割を決める

その後、絵コンテの段階で、ある程度の色の展開と役割を設計する「カラーパレット」も描いておく。本作では前半は芝居に集中させるため彩度を抑え、後半は曲のサビに合わせてカラフルにし、サビの転調のタイミングでキュアアンサー(紫)の補色に近い黄色を効果的に使用している。以上の工程は必ずしも順番に形にしていくというわけではなく、頭の中では同時に進行していくものであると強調した。

7. ひたすら清書――実際に描かれた絵コンテ

そして「頭の中に潜っていく」(近藤氏)ように絵コンテを描く。芝居の細かい部分はアニメーターの山口氏を信頼して、あえて描き込まず、遊びの余地を残したカットもある。最終的にモーションキャプチャーの映像を参考にカットのタイミングを編集し、Vコンテとして提出した。

制作期間としては(『映画 キミとアイドルプリキュア♪ お待たせ!キミに届けるキラッキライブ!』と並行作業をしつつ)アイディア出しは6月頃から開始し、コンテ完成は9月中旬。実際に絵を描き始めたのは締め切り前の約1週間だったという。

キャラクターモデリングに込められたさまざまな技術

キャラクターモデルメイキング CGモデラーによる解説

つづいて登壇したのは、CG室キャラクターモデリングスーパーバイザーの坪川尚史氏。坪川氏が本作で制作した3Dモデルはキュアアンサーとキュアアルカナ・シャドウ(キュアミスティックとポチタンは監修・ディレクションを担当)で、シェーダーはレンダリング用とビューポート表示用の2系統で構成した。

Mayaのviewport表示設定(default/texture表示/flat表示/lightingあり/rendering)

このビューポート表示は今回の新たな取り組みで、Mayaにデフォルトで備わっている機能を使い、ビューポート上でテクスチャ表示、フラット表示、ライティング反映表示などの形式を即座に切り替えられるように設定してある。これにより、アニメーターは必要に応じてライティングを確認することができる。セルルックCGでは最終的な絵の出来がアニメーションに大きく依存するため、アニメーターが完成形に近い状態で作業できるメリットは非常に大きい。絵の情報量と動きの情報量が掛け算になるため、最終的な絵を見ながらモーションを整理できることは作業上、大きな意味を持つ。

また、モデルの形状に関する工夫として、まつ毛の表現、衣装の立体感、髪のモデリングについて、それぞれポイントを絞ってTIPS的な解説が行われた。

まつ毛の形状――設定画とCGモデルの比較
まつ毛は前作まではワンストロークになっていたが、本作では半円部分と目尻部分の2つのパーツに分割した。これにより、目を閉じる際のアイラインの表現力が向上し、斜めから見た際の立体感も改善された。
衣装のモデル
衣装のモデリング。従来のプリキュア作品では一枚板だったスカートなどに厚みをつけ、立体感を強調。カメラに対して衣装が垂直になった際の「板っぽさ」を解消した。厚みが出たことで、めり込みや動きの壊れが懸念されたが、Maya上でリアルタイム物理アニメーションを付与できるプラグイン「Ragdoll Dynamics」を使用したことで、問題は事前に回避された。
髪モデル毛先
髪の毛は結び目に向かうエッジの流れを意識して立体感を出している。毛先には十字に組んだ板ポリゴンを追加したことでキャラクターデザインにある、流れるような毛の表現を再現した。この板ポリを交差させた部分はPencil+を使うことで綺麗なラインを表現している。
ポチタンの口――ひげ袋(ウィスカーパッド)を別パーツで調整
ポチタンの口は、犬のようなウィスカーパッド(ひげ袋)を表現するため、口を別パーツのジオメトリとして作成。表情付けをしやすくした。

これまでの『プリキュア』シリーズエンディング映像の集大成となったフェイシャル表現

アニメーションメイキング CGアニメーターによる解説

セッションの最後に登場したのはCGアニメーションスーパーバイザーの山口洋平氏。主に表情に関する作業の解説を行なった。

キャラクターデザインをアニメーションさせる――リグチェックを兼ねた3Dモデル整形テスト

山口氏が最初に取り組んだのは、フェイシャルリグのチェック。3DCGモデルにおいて、2D用のキャラクター設定に掲載されている表情集をどこまで再現できるかの検証を行なった。画像下段の中央の笑顔の表情は、よほど注意深く見ない限り2Dと3Dの違いが見て分からないほどの出来栄えだ。それほどまでに本作のキャラクターモデリングとリギングが優れているという証でもある。

横顔、目(虹彩)の表現をどうするか

もう一つ挙げた例は、瞳の歪み表現。キービジュアルのような瞳の形を再現するため、歪ませ方のテストを繰り返し、アニメーション側でデフォーマを追加してピンポイントで対応した。

カット作業――「伏し目」の表現の検討
カット作業――「伏し目」の表現の作り込み

カット作業の具体例としては、デフォルトのブレンドシェイプだけでは表現しきれなかった「伏し目」の表現を挙げた。左の絵でも十分にキャラクターの特徴が表現されていると思うが、ここからさらにオーバーペイントで理想の形を描き、それを目標に細かいフェイシャルリグを駆使して再現した。

カット作業――絵を作るためのあれやこれや。キャラクター設定画に添えられた落書き

キャラクターらしさを表現するためには設定資料そのものだけでなく、落書きのように描かれた僅かな絵からも発想のインスピレーションを得ている。たとえばこちらの左図はキャラクター設定画に添えられた一コマで、三角の口を表現するためのヒントになっている。

カット作業――コンテ、作打ちから芝居と表情をつくっていく
カット作業――3人が歩くカットのレイアウト

また、ダンスアニメーションは基本的にモーションキャプチャーデータを使用しているが、手付けによるアレンジが随所に施されている。自由度の高さは表情作りと同様で、キュアアンサーとキュアミスティックのステップの動きは、「アニメーターによる自由演技」と言われるほど大幅なアレンジを加えている。近藤氏の絵コンテには、イメージとして小沢健二の『痛快ウキウキ通り』(のMV)が書き添えられ、キャラクターが歩くときの楽しさを表現する参考とされた。

カット作業――口の形の調整
このほか、キュアアンサーの「3」を逆にしたような形の口も上記絵コンテから拾われている。

本作のフェイシャルアニメーションにはこれまでの『プリキュア』シリーズのエンディング映像や、同社の『ガールズバンドクライ』などで培った技術が惜しみなく投入されているという。歴史あるスタジオに蓄積されたノウハウと、長年続くシリーズで発表し続けられる場が用意されていることで、さらに表現が磨かれここまでの映像に到達した。まさに東映アニメーションにしかできない芸当をこのセッションで見せて頂いた。

アニメ「名探偵プリキュア!」キービジュアル

アニメ「名探偵プリキュア!」
ABCテレビ・テレビ朝日系列全国24局ネットにて毎週日曜あさ8時30分放送中!
www.toei-anim.co.jp/tv/precure
©ABC-A・東映アニメーション

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