『君の名は。』新海監督のビジョンの表現に3DCGが必要な理由とは?!

株式会社 コミックス・ウェーブ・フィルム

『君の名は。』新海監督のビジョンの表現に3DCGが必要な理由とは?!

2017.02.21

社会現象を巻き起こした映画『君の名は。』。日本だけでなく、世界の人をも魅了するその映像。今回お話をお伺いするのは、『君の名は。』でCGチーフを担当した竹内良貴さん。竹内さんは、学生時代から新海監督の作品に参加。『秒速5センチメートル』から関わり、『君の名は。』に至るまで、長きにわたって新海作品を支えてきたクリエイターです。

竹内さんは言います。

「普通、アニメは難しいものを簡略化して描くけれど、新海さんは複雑なものを複雑なまま描く。それによって実在感が増している」

と。

その緻密な映像を支えるのが、3DCGによる画作り。『君の名は。』は基本的に2Dアニメーションで作られていますが、180ものシーンで3DCGが使われているのだとか。

どうして3DCGが使われるのか?!3DCGを使うとどういうことができるのか?!

その秘密を、竹内さんにお伺いしました。

秘密その1.レイアウト

----竹内さんは新海さんと長いあいだお仕事をされていますが、いつもどんな風に仕事を進めておられるんですか?

竹内良貴さん

竹内良貴さん

竹内:僕はアニメ制作の中の3DCGという部分を担当しています。具体的にはCGレイアウト、CG作画ガイド、CGカット制作などが中心になります。新海さんのアニメの作り方は、普通のアニメ制作とはちょっと違った作り方をしてるんじゃないかなと思います。通常のアニメ制作では、最初に絵コンテを描き、設計をして、アニメーションを描いて、コンポジット(映像合成)して映像にするという一直線の流れで進みます。うちも基本的には同様の流れで制作するんですが、特に新海さんの場合は、明確に"やりたいこと"が頭の中にあるので、それに近づけるために最大限の努力をする。ちょっと作ってみて、やっぱり色味を変えよう、というように、流れを行ったり来たりしながら作り上げていくんです。

----できたものに対してフィードバックをすることで、新海さんの中にあるイメージとすり合わせをしていくんですね。

竹内:いつも新海さんの要望を聞いて、それを"どうやって表現するか"を考え、いろいろな方法を模索するんです。例えば絵の素材を作る時には、なるべく修正しやすいものにすること。背景美術はAdobe Photoshopで作って、レイヤーで細かく分けていく。それもテーブルの天板と足、床、壁、全て分けるくらい細かいものです。これによって、壁だけにフィルターをかける調整も可能になります。

竹内さんの作業デスク

----竹内さんの担当されている"レイアウト"とはどのような工程なのでしょうか?

竹内:まず、アニメの制作のフローをご説明しますが、脚本ができて、アニメーションに移る過程で最初に作られるのは絵コンテです。絵コンテは演出の指示になるものので、人物がどういう配置で、どうやって動くかという演出のプラン、セリフや効果音も書かれています。

レイアウトは、この絵コンテをもとに正しい画を作るための設計図のようなもの。レイアウトは基本的にアニメーターさんが作りますが、カットによってはCGでレイアウトを作るという場合があります。CGレイアウトでは絵コンテをもとに背景美術担当がつくった「美術設定」の手描きのデザインを元に Autodesk 3ds Max というソフトウェアを使って3DCG(3次元コンピューターグラフィックス)に起こし、それにカメラを設定していくというのが具体的な作業です。

ラーメン店のレイアウト

----アニメにおける設計図とはどういうことでしょうか。

竹内:例えば、アニメーションの場面をひとつの舞台として考えたときに、絵のフレームの中でキャラクターが演技する場面を設計するのがレイアウトです。どの場所にどんな舞台装置を配置して、キャラクターを演技させるのかをシミュレーションすることが出来ます。CGレイアウトでは舞台の枠組みを作り、カメラで撮影して、アニメーターがキャラクターを配置するための舞台のガイドを作っています。

カフェのシーンは、カフェそのものを3DCGで作りレイアウトを作成。膨大な数のパーツがある

----新海さんが自らレイアウトを作ることも多いそうですね。

竹内:新海さんが作ったレイアウトにキャラクターを乗せていくこともあります。キャラクターがどんな感情で、動きをするのか、新海さんはものすごく細やかに考えているので、レイアウトはすごく重要な作業です。

レイアウトを見た新海さんから、人物の位置などの修正が入る

----3DCGでレイアウトを作るメリットは?

竹内:2Dよりも正確なレンズ感が作れること。手で描くとパース技法を使わなくてはならないし、"このシーンは望遠レンズの画にしたい"と思ったとしても、そのアングルを正確に描くのは結構大変なんです。それが3DCGでレイアウトを作れば、設定するだけで正確な下絵を作る事ができるのが魅力ですね。

----レイアウトの後は、どのように制作されていくのでしょうか?

竹内:レイアウトで作られた設計図をもとに、いろいろな工程の人が素材を作っていきます。アニメーターはレイアウト上で演技をさせたキャラクターの動きを「原画」として描きます。キャラクターがちょっと疲れたように歩いているのか、スキップしているのか、そういうディテールを載せていくんです。

(左)作りこみと全体調整などしたもの (右)シーン全体

CGレイアウト

----そうやって緻密なアニメーションが作られていくんですね。

竹内:レイアウトで作った絵は、最終的にキャプチャーやレンダリングをしてアニメーターさんに渡します。CGレイアウトで出力された絵はパースや物の形などが整った状態になるので、多少の調整でそのまま原画を描くことができるんですよ。

社内では背景スタッフやアニメーターらと協働で作業する

秘密その2.カメラマップ

また、『君の名は。』で印象的だったのは、流れるようなカメラワーク。冒頭、瀧の視点から、東京の摩天楼を飛び、都庁をすり抜け、野を越え山を越え、飛騨の山奥の三葉の視点までカメラがギュワーンと移動する、まるでロケットのような映像を覚えている方も多いのでは?

まさに、CGでしかできない表現。これを実現させたのが、「カメラマップ」という技法です。

カメラマップとは、お馴染みとなった「プロジェクションマッピング」のようなもの。2Dの絵を3D空間に配置させることで、立体的な効果をもたらすのだそう。

----オープニングシーンはどのように制作されたのでしょうか?

竹内:東京から飛騨まで、距離にして200キロぐらい移動する映像です。これは一番大変でした(笑)。まず東京から岐阜まで、地形データを作って空間を設定します。ここで、スタート地点の東京から順番に、カメラの位置に沿って、3ds Max 上で20枚の背景画像を貼り付けていくんです。一枚絵を貼って奥に行くと、どんどん解像度が足りなくなってボケてきてしまうので、また新しい絵を貼る、というように。

完成全体

(左)これがスタート地点 (右)完成都心方向から

----この手法はご自分で考えられたんですか?

竹内:カメラマップ自体は昔からあるものではあるのですけどね。通常のアニメでも、ズームで寄るカットでは、まず一枚の大きな絵を描いて、それとは別に寄った絵を描いて、途中で切り替えることはやっているので、その発展版です。20枚の絵を一つの空間に配置し、最終的な映像を撮るカメラと、カメラマップ用のカメラを別に設定しています。

----カメラマップのメリットは?

竹内:3D空間で絵を設定して、最終的にはレイアウトと同じく、カメラで撮影します。カメラを動かせば空間的なカメラワークができるので、複雑な環境における、空間的な映像がシミュレーションできるんです。空間的にトリッキーな場所や、何百個もの物がある空間などを表現する時には、一枚の絵を描いて投影すればいいというメリットがあります。

----やはり、壮大なシーンに使われることが多いですか?

竹内:クライマックスだから大変になる、ということはありません。ただ主人公が歩いているシーンの背景が大変なこともあります。『君の名は。』では紅葉のシーンですね。

紅葉のシーン

紅葉のシーン

----たしかに、特にクライマックスではないシーンでした。

竹内:全部3Dで空間を作っています。普通であれば、木だけ分けて描いて、スライドして動かすというように作るところですが、新海さんから「3Dの空間が欲しい」というオーダーがあったんです。そこで空間をカメラマップで作り、カメラで撮った絵を元に背景で絵を描いてもらって、それをまた配置して、、というようにレイアウトを作っています。おそらく見た方で気づいた方はいないと思いますが(笑)。

----具体的にどのように作られているんですか?

竹内:全部3ds Max上で木などのオブジェクトを配置して、単純にカメラをスライドして動かしています。3ds Maxの中で動かすことで、空間に近いようなパースの変化になります。木の奥にも空間があって、モデリングしたところにカメラマップを配置しています。

----どうして新海さんは3D効果が欲しいとおっしゃったんでしょうか?

竹内:3Dじゃなくてもできる絵ではあると思うんですが、キャラクターが歩くに従って移り変わる紅葉の情景というのは、歩くスピードや木の枝ぶりなど、たくさんの要素があります。それを2Dの止め絵で構成しようとすると、たくさんのパターンを描かなくてはならない。でも3D空間に配置すればある程度シミュレーションができるので、そういうことで3Dを使っているんだと思います。

----他にカメラマップを使われた箇所はありますか?

竹内:瀧が飛騨に向かう、新幹線からの車窓の風景もカメラマップで作っています。普通であれば一枚の絵を描いてスライドさせるところを、今回は実際に東海新幹線で名古屋方面に向かう途中の風景を撮影してアニメーションで再現しています。新幹線に乗った時には是非探してみてください。

----そこまでディテールにこだわっているんですね。

竹内:新海さんの作品では、基本的には実際の物があれば再現するようにしています。通常のアニメでは、実際の物や場所でもある程度簡略化して描いてしまうことが多いと思うんですが、新海さんの場合は複雑なものを複雑なまま描く傾向があるんです。そうすることによって、実在感がすごく増す。もちろん画面の要素はきちんと整理して描く訳なんですが、新海さんの映像が「写真みたいに綺麗」だと言われるのには、そういう理由があると思います。

クレーターの場面もカメラマップで作られている

----今回はどれくらいのCGのシーンを手がけられているんでしょうか?

竹内:実際に作ったのは182カットです。途中でなくなったカットを加えると200数十カットはあるんではないでしょうか。まず最初にコンテを読んで、CGになりそうなシーンを書き出してリストで管理しています。CGになりそうなシーンは、最初の想定だと130くらいでしたが、最終的に増えました。

----CGのシーンはご自分で作られてご自分で管理しているんですね。

竹内:そうですね。変則的にいろいろやり取りが変わってくるので、常に把握できるカタチでやっていかないと破綻しちゃうんです。普通は制作進行の担当が全部やるものかもしれませんが、新海さんと僕とのやり取りを把握するのは難しいと思うので...。今後はオートデスクのSHOTGUNのようなプロジェクト管理ツールを導入しようかとも考えています。

----普段お使いのソフトと、選んでいる理由をお教えください。

竹内:これまでには Maya、3ds Max、LightWave、Softimageなどを使ってきて、今はメインとして3ds Maxを使っています。3ds Maxはある程度機能やプラグインが揃っているので、今アニメを作るには便利だしやりやすいですね。3DCGアニメーションにおいては3ds Max とMayaが多く使われていると思いますが、Mayaは大勢のチームで使用してさらにカスタマイズして必要なツールを作る場合が多いと思います。3ds Max は3DCGアニメ制作を始めるには良いソフトだと思います。

竹内良貴さん

----竹内さんがCGクリエイターになったきっかけは?

竹内:中学の頃、電子工作などをしていて、ものづくりがしたかったんです。その延長でCGをやってみようと思って、専門学校(日本工学院八王子専門学校)のCG科に進学したのがきっかけですね。その後、さらにCGのことを学ぶために東京工科大学に編入しました。

----学校で学んだことで重要だと思うことは何ですか?

竹内:最も重要になる基礎はデッサンです。ものの見方を養うものなので、モデリングにしても、映像にしても一番重要になる"観察"の力が鍛えられます。モデリングで簡単な箱を作るにしても、何センチなのか、形が歪んでるのか、四角形なのか、という要素は読み取らなくてはいけない。そこがずれていると、不自然な感じ方をされるものが出来てしまいます。

----全ての基礎になる部分なんですね。

竹内:先入観をなくすというか、そういう見方を養うことは重要です。人物デッサンの時に、感情が乗った状態で認知してしまうと、人によっては顔を大きく描いてしまったり、バイアスがかかるんですよね。それはそれで突き詰めれば個性になるんでしょうけど。

----新海さんとのお仕事はいつから?

竹内:大学に編入した頃に『秒速』をお手伝いすることになって。通っていた専門学校の講師に、うちの会社(コミックス・ウェーブ・フィルム)の方がいた関係でお誘い頂いたんです。もともと新海さんの作品は、『彼女と彼女の猫』のCD-ROMを個人的に購入して、「こんなことをしている人がいるんだ!」と注目していたので。当時から、新しい道を切り開く人でしたね。

----これから3DCGを志す方に、アドバイスをお願いいたします。

竹内:単純にアニメが好きなだけだと、たぶん続かないと思うんです。作るのが好きなことが重要ですね。

----どうやったら続けられますか?

竹内:消費と生産が違うということを、明確に捉える必要があるでしょう。好きだから続けられるということもありますが、実際に作るとなると、好きなだけではやっていけないんですよね。長時間ずっとパソコンに向かって集中力が続くのか。『君の名は。』は約1年ぐらい作り続けていました。好きじゃないとできないことですが、好きなだけでも難しい。それでも、ものすごくやりがいのある仕事だと思います。

----『君の名は。』は興行収入が230億円を超えるヒットになり、米ロサンゼルス映画批評家協会アニメ賞にも選ばれるなど、評価も高い作品ですが、学生の頃、こうした状況になることは予想されていましたか?

竹内:これほどの状況は想像の範囲外でした(笑)。新海さんの作品には、最初は背景美術で入ったんです。途中からCG作業をするようになり、そこからCGでのお手伝いがメインになりました。僕がCGを始めた原点は、中学生の頃にペンタブレット(ワコムのFAVO)を買ったことなんですが、新海さんのようなまったく新しい映像表現は既存のアニメ制作フローでは実現が難しくて、CGでないとできないことがたくさんあります。「この絵を実現したい」というお題をいただいて、どうやったらできるのかを考えるのがCGの醍醐味。そうやって、デジタルだからこそ、CGだからこそできる、新しい表現をこれからも追求していきたいです。

©2016「君の名は。」製作委員会

原作・脚本・監督:新海誠
作画監督:安藤雅司
キャラクターデザイン:田中将賀
音楽:RADWIMPS
声の出演:神木隆之介 上白石萌音 成田凌 悠木碧 島﨑信長 石川界人 谷花音 長澤まさみ 市原悦子
制作:コミックス・ウェーブ・フィルム
配給:東宝