クリス・ハーヴェイが語るニール・ブロムカンプ監督のオーツスタジオ

クリス・ハーヴェイが語るニール・ブロムカンプ監督のオーツスタジオ

2018.02.20

  • 3ds Max
  • Maya
  • MotionBuilder
  • Mudbox
  • Shotgun
  • 映画・TV

Images courtesy of Oats Studios

制作会社オーツスタジオ(Oats Studios)はまるで、ハリウッドのクリエイティブの常識を何から何まで覆すために作られたようです。バンクーバーを拠点とするこのスタジオは、南アフリカ出身の映画監督、ニール・ブロムカンプのアイデアをもとに設立されました。同スタジオは実験的な短編映画をオンラインで無料公開していますが、そのクオリティとビジュアル エフェクトは、多額の予算をかけた大手スタジオの映画に匹敵します。また、ほとんどのクリエイティブ作業は社内で行われ、作品のルックと方向性にはコントロールが行き届いています。
Oats の VFX スーパーバイザーであるクリス・ハーヴェイ氏に、この(非常に小規模な)スタジオがユニークな存在である理由を語ってもらいました。

Oats に参加するまでの経緯

私は 20 年以上 VFX 業界に身を置いていますが、スーパーバイザーとして初めて大きな成功を収めたのは、『トロン:レガシー』とキャスリン・ビグロー監督の『ゼロ・ダーク・サーティ』の制作に参加したときでした。ターニングポイントは、2015 年、映画『チャッピー』の制作でニール・ブロムカンプ監督と出会ったことです。私たちの友情の始まりでした。

『チャッピー』の後、Industrial Light & Magic のバンクーバー オフィスでクリエイティブ ディレクターを務めましたが、ほんの短期間です。ニールから連絡があり、「典型的なハリウッドの体制を超えた」独立系制作会社の立ち上げに誘われたからです。これが、そのスタジオです。

チームメンバーの大半は、一度は仕事を一緒にしたことのある人物です。最高の人材を選ぶことが可能な状況ではありましたが、限られた予算で大きな目的を達成するためには、賢明な人選が必要でした。メンバー全員が複数の仕事を担う必要があるのは最初から分かっていたので、一流のスペシャリストだけでチームを編成することはできません。理想の候補者は、ジェネラリストとして万能型のスキルを持ち、かつ 1 つの専門分野を持つ人でした。

当社の巨大な倉庫を一目見れば、なぜそうする必要があったのかが分かるはずです。私たちはすべてをこの倉庫で行います。40 年前の映画制作と同じように、撮影、ビジュアル エフェクト、プロダクション デザイン、編集、サウンド、カラーリングなど、すべてを一つ屋根の下で行うのです。ここにはモーション キャプチャ ステージが 1 つ、追加撮影用のセットがいくつかあり、俳優をサイバー スキャンするためのフォトグラメトリー(写真測量)ブースもあれば、特殊効果や特殊メイクといった面白いものを作る物理的な作業場もあります。そしてもちろん、エディターやアーティストのためのオフィス スペースもありますよ。すべてが一つ屋根の下です。

最大の創造性

オーツスタジオが当初から掲げた目標は、最大限のクリエイティビティでした。重要なのは、昔ながらのやり方にただ従うのではなく、違う方法を試すことです。「一度すべてを壊して、また作ろう」と考えました。方法は 1 つではないからです。自分たちのやり方に固執する必要も、従来の方法に従う必要もありません。

「... 私たちのスタジオは、95% までは完璧を目指して進みますが、その後は成り行きに任せます。こうすると自らを解放して、新しい課題に取り組めるようになります。そして、たくさんのアイデアを出しながら、最大限の創造性を発揮できます」

映画業界でよく言われるジョークに、「半分の時間は 95% の完成度までの作業に費やし、もう半分は残りの 5% の仕上げに使う」というものがあります。私たちのスタジオは、95% までは完璧を目指して進みますが、その後は成り行きに任せます。こうすると自らを解放して、新しい課題に取り組めるようになります。そして、たくさんのアイデアを出しながら、最大限の創造性を発揮できます。もちろん、当社では常に複数のプロジェクトが同時進行していますが、それは課題の 1 つです。そのおかげで、いつも仕事が刺激的になるのです。

このやり方を成功させるには、チームメンバーに担当以外のことにも目を向けてもらう必要があります。たとえば、どんな脚本のドラフトにも、担当業務に関係なくメンバーの意見を取り入れることにしています。ここには、私たちが目指していることの全体像が表れています。それぞれが専門領域を超えて、創造的な意見を提供します。そして彼らの意見が脚本に反映されます。「これでもいいけど、こうした方が良くなるんじゃないかな」と誰かが言えば、そのように変更します。また、複数の脚本やストーリーが常に同時進行しているため、何か緊急事態が生じれば、「皆、ちょっと聞いて。今からやり方を変えて、これから数週間はこれに集中するよ。終わったらまた元の仕事に戻ろう」と伝えます。非常に柔軟で、ペースの速い環境です。

ツールキット

当社が手がけたすべてのプロジェクトで、オートデスクのツールが活躍しています。コンポジティングには Nuke、エフェクトには Houdini を使用していますが、私たちの CG パイプラインの根幹はオートデスク製品です。Unity プロジェクト(たとえば『ADAM』)でさえ、最終的なレンダリングとライティングにはリアルタイム エンジンの Unity を使用しますが、アセット作成はすべて MaxMaya で行い、アニメーションは Maya でつけました。

「当社は、多様なツールが揃った Autodesk Media & Entertainment Collection を採用しています。すぐに使用できる完全なソフトウェア スイートは、単に便利なだけでなく、必要だったのです」

当社は、多様なツールが揃った Autodesk Media & Entertainment Collection を採用しています。設立当初に雇用したのは 10 人で、社員は 20~25 人を超えたことがありません。これほど大量のショットを処理し、クリーチャー作成も完全に行うチームとしては、非常に小規模です。R&D 部門はなく、独自のプログラムを作成する時間もありませんでした。すぐに使用できる完全なソフトウェア スイートは、単に便利なだけでなく、必要だったのです。

私は、他の人が使用するソフトウェアに関しては強制しない主義です。使いこなせるソフトウェアがあるのなら、それを使えばよいと思っています。たとえば、当社の中心的なオーガニックモデラー、イアン・スプリッグスは Zbrush を使っていると思うでしょう? しかし実際は、ずっと Mudbox を使っていますし、私はそれに異を唱えるつもりはありません。それで結果が出るのなら、使うべきです。Media & Entertainment Collection なら、さまざまなツールを自由に使うことができます。

当社はまた、オートデスクのサブスクリプションを最大に活用しているため、社員はニーズに合ったツールを使用できます。Max 専門スタッフと Maya 専門スタッフが並行して作業したり、誰もがすぐに作業を始められます。MayaMax は主に Alembic を使用して頻繁にアセットをやりとりしていますが、非常にうまくいっています。たとえばモーション キャプチャでは、MotionBuilder で開始し、Maya に移動してから、最終的には MaxMaya に枝分かれして並行して処理します。また、アセットは MaxMayaMudbox で作成し、最終的なリギングで統合されます。

「当社はまた、オートデスクのサブスクリプションを最大限に活用しているため... Max 専門スタッフと Maya 専門スタッフが並行して作業したり、誰もがすぐに作業を始められます」

Shotgun も外せません。当社のとてつもない作業量と手がけているプロジェクト数を考えると、何らかのアセット管理ソフトウェアが必要でした。そんな私たちを大いに助けてくれたのが、Shotgun です。私たちは、MaxMaya、Nuke、その他さまざまなツールに Shotgun を接続しました。フリーランサーに依頼してカスタムコードを書いてもらい、Shotgun を意図した通りに接続し、すべてのデイリーおよびアセット管理などを処理できるようにしました。このおかげでパイプラインの無駄がなくなり、時間とエネルギーを大幅に節約できました。

ツールに関して最後に言っておきたいのは、私たちは融通のきかないパイプラインには反対だということです。柔軟性は当社が最も大事にしていることで、自由な試行を可能にするツールに魅力を感じます。変わった無償ツールを見つけたら、まずは使ってみて、性能を試します。うまくいきそうなら、パイプラインに組み込みます。新しいことを導入したり、新しい技術を試すことに関しては、私たちは極めて機敏です。非常に小規模なので、フットワークが軽く、順応性があります。これが、当社の創造性にとって大きな強味となっています。

Rakka

『Rakka』は、初めての大規模プロジェクトでした。近未来を舞台にエイリアンが地球を侵略し、自分たちが生活しやすいように大気を変え、地球を改造します。ビジュアル面では、実写のみのショットは少なく、メインのエフェクトはエイリアンのクリーチャーでした。わずか 21 分という上映時間に約 250 の VFX ショットを含む、CG が多用された作品です。

このプロジェクトには少人数で取り組みました。アニメーター 2 人、照明 3~4 人、コンポジター若干名、リガー 1 人、FX アーティスト 3 人、マット ペインター 1 人だったと思います。本当に小規模のチームです。最初に制作した物理的なマケットをベースにクリーチャー デザインを決めてから、テクスチャのバリエーションを作成したり、修正を加えました。どれも標準のクリーチャーですが、ショットごとに変化をつけたかったのです。このプロセスで役立ったのが、Shotgun です。たった 1 体のエイリアンに対して、複数のテクスチャ セットを持たせました。すべてを管理できたのは、Shotgun のおかげです。

Firebase

次のプロジェクトは 22 分間の『Firebase』でした。ベトナム戦争を舞台にした架空の物語で、骸骨のようなクリーチャーと、狙った人間の皮膚を剥ぐ何者か(私たちはスパイダーマンと呼んでいました)が登場します。CG の観点からいえば、細々とした CG 要素、大規模な実写のみのショットもいくつかありましたが、『Firebase』のメインはやはり CG でした。4~5 つのシーケンスがあり、それぞれにアセットとルック デベロップメントが必要でした。この作品では、それが課題でした。

Zygote

最後は、『Zygote』です。メインのクリーチャーは驚くほど複雑で、実際に 7 つのアセットで構成されていました。右側と左側の腕と脚、胴体、頭部は別々のアセットでした。単一のアセットとして扱うには重すぎたため、別々の 7 つのアセットを統合したのです。

「メインのクリーチャーは驚くほど複雑で...(彼を作るのに)合計で 63 人スキャンしたと思います」

アニメーターは、個別のメイン リグをロードして、その部分のアニメーションに集中しました。その後、高解像度でプロキシをリロードして、反対側を作業するといった具合です。これらのキャッシュをすべて取得して再結合し、最終的なフル アセットのライティングのレンダリングを行えるようにしました。また、最終的なクリーチャーは、社員やその友人たちの腕、脚、顔のさまざまな部位をサイバー スキャンして作り上げました。1 体のクリーチャーを作るのに、合計で 63 人スキャンしたと思います。

リガーのエリックにはかなりの難題でした。これらすべての手足が、互いにつかんだり離したり、曲げ伸ばしできなくてはなりませんでした。また、それぞれの手足の内部に骨があるかのように、物理的に正確である必要もありました。ついにはアニメーターを増員して、合計 5 名にしました。アニメートするには非常に重いクリーチャーだったからです。それから、5 つあったダメージ シーンのために(撃たれるシーン、手足をなくすシーン、骨が折れるシーンなど)、ダメージ テイクも必要でした。サイバー スキャニング、その後の詳細モデリングには、Mudbox とさまざまなダメージ テクスチャを使用しました。これらをすべて対応付けたのは、Shotgun です。さまざまなダメージ状況に対応するカスタム フィールドを作成することで、対処しました。使うべきリグはどれで、何をロードすべきかが分かります。

ニール・ブロムカンプとの仕事

ニールと私は気が合います。彼は私と同じく VFX 分野出身で、VFX 分野に関する知識はたいていの監督よりも豊富です。しかし大切なのは、もう数年間も一緒に働いている私たちの間には、ある程度の信頼が確立されていることです。率直に話し合える仲ですし、手短に話をしても、誤解は生じません。

「ニールは、シンプルかつ正直で、実質的な意見をくれます。チームにも同じことを求めるため、他人の真意を探ろうと無駄な時間を費やすことがありません」

ニールは、シンプルかつ正直で、実質的な意見をくれます。チームにも同じことを求めるため、他人の真意を探ろうと無駄な時間を費やすことがありません。これは素晴らしいことです。当社のチームの成功は、このアプローチによるところが大きいと思います。私たちは、あらゆる人からの意見を歓迎します。ご意見、ご感想をぜひお寄せください。私たちには見えていないことが、皆さんには見えているかもしれませんから。

アンチハリウッドと誇り

習慣的なやり方を受け入れるだけではなく、独自の方法を探ってきたことで、私たちは多くを学びました。一般的なハリウッド映画の制作方法には、たくさんの無駄があります。どこかの時点で、何か手を打たなくてはなりません。ハリウッドはどんどん大規模化していきますが、興行収益がそれを支えているわけではないのです。たとえば、『ブレードランナー 2049』です。高い評価を受け、素晴らしい映画に仕上がっていましたが、予算に見合う利益はあげていません。

「習慣的なやり方を受け入れるだけではなく、独自の方法を探ってきたことで、私たちは多くを学びました」

ハリウッドでは、誰もが孤立しています。部門、アーティスト、技術者たちの間には、連携がありません。ある人が何か選択をし、それが妥当な選択であったとしても、より広い視点で見たときには適切な選択ではないことがあります。そうすると、その人の専門分野から離れたところで面倒な問題に発展してしまいます。オーツスタジオではすべてが一つ屋根の下で行われるため、重要なことは会話をしてから決めざるを得ません。作業内容やその理由について、全員が同じ認識を持っています。

それが、作品に反映されているのだと思います。

クリス・ハーヴェイ氏とオーツスタジオの皆さんから、貴重なお話を伺うことができました。オーツの創造性とエッジのきいた取り組みは、実に刺激的です。

オーツスタジオ(Oats Studios)のサイトでは、『Kapture』『Gdansk』『ADAM』シリーズなどを無料で視聴できます。また STEAM では、オーツスタジオのアセットを購入できます。

Oats で使用されているツールキットに関する詳細は、Media & Entertainment Collectionをご覧ください。

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