『ブレードランナー 2049』への旅
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©2017 ALCON ENTERTAINMENT, LLC., WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED.IMAGE COURTESY OF FRAMESTORE
語り手:リチャード・フーバー(Framestore 社モントリオール オフィス、VFX スーパーバイザー)
Framestore(モントリオール)でビジュアル エフェクト スーパーバイザーを務めるリチャード・フーバーは、1982 年のオリジナル版『ブレードランナー』(リドリー・スコット監督)の制作現場に偶然居合わせて以来、この作品に多かれ少なかれ、関係を持ち続けてきました。2017 年の続編『ブレードランナー 2049』(ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督)の最も複雑なシーケンスの一部を担当することになったのは、自然ななりゆきのようにも思えます。
ここではリチャードが、詳しい経歴と本シリーズとの関係、映画ファンがかつて目にしたことのない、魅力あふれる VFX ショットを Framestore がどのように実現したかを語ってくれます。
一風変わった道で VFX へ
私はまっすぐにこの業界に入ってきたわけではありません。子供のころから人並みに映画を楽しんではいましたが、ビジュアルに特別な魅力を感じていたわけでもないのです。私はオレゴン大学に入学し、美術と建築を専攻していました。そしてある日、ビジュアル デザインのクラスで、大学院生が当時コマーシャルで多用されていたバックライト アニメーションについて特別講義を行ってくれました。本当に素晴らしかったんです。
それから 1 年半の間はアニメーションとバックライト技術の勉強に打ち込みましたが、その進路変更はさほど難しいことではありませんでした。建築を学んだことで、デザインを計画して作り上げる基礎訓練ができていたからです。その勉強に一区切りつくと、もう一度あの大学院生に連絡しました。映画業界で働き始めていた彼は、コマーシャル制作の仕事を紹介してくれました。それが私の初仕事です。
「私が監督した Levi's Cords のコマーシャルで、撮影用の模型を作っていたのがマーク・ステットソンでした」
『ブレードランナー』との(偶然の)出会い
もう 1 つの運命的な転機は、一作目の『ブレードランナー』の制作現場に居合わせたことです。Levi's Cords (ジーンズ会社の子会社)のコマーシャルを監督していたときに、ミニチュアが必要になりました。その撮影に使う模型をマーク・ステットソンが制作していたのです。彼の工房に打ち合わせに行くと、ちょうどカメラマンのドン・ベイカーと『ブレードランナー』の冒頭シーンを撮影しているところでした。煙にかすむタイレル社のビルのショットです。ミニチュアだけですべてが撮影され、その現場に私は立ち会ったのです。
運命の再会:『ファイナル カット』
ワーナー・ブラザース社がリメイク版の『ブレードランナー ファイナル・カット』(2007 年)の制作に関心を持ち始めたとき、私は Sony Pictures Imageworks 社に勤めていました。リドリー・スコット監督は、オリジナル版の『ブレードランナー』には改良点がある、つまりクリエイティブ コントールが十分でなかったと考えているようでした。そこで、ワーナー・ブラザースの依頼により、Sony Pictures Imageworks がいくつかのシーンのリメイクを手がけることになりました。
ワーナー・ブラザースは、バーバンクの巨大な倉庫に箱に詰めて保管していたアーカイヴ資料を調べ、オリジナルのフィルム リールや撮影に使われたミニチュア模型などを掘り起こしてきました。私たちの仕事は、セットを再構築し、デジタルで高解像度スキャンをとり、現代に合った高画質を実現することです。
これは、私たちの作業の中でも最も単純な作業の部類に入ります。
「ハリソンを再撮影することはできませんでしたが、彼の息子がスタジオの少し先のレストランのオーナーだったので、代役を頼んでみました」
チャイナタウンでデッカードとインド人の人工ヘビ職人が話すシーンでは、台本の変更によって後からセリフが変えられたため、ハリソン フォードの口の動きと彼が話す言葉が一致していませんでした。すべてが完全におかしな具合いにずれていたのです。ハリソンを再撮影することはできませんでしたが、彼の息子がカルバーシティにある Imageworks の少し先のレストランのオーナーだったので、代役を頼んでみました。最終的にそのシーンにはオリジナルのセリフを使い、彼の唇と顔の一部をハリソン・フォードの口元に重ね合わせました。
私たちが手掛けたシーンの中でも、最も大がかりだったのは、衣料品店のショーウィンドウを突き破って逃げる蛇使いの女型レプリカントを、デッカードが追い詰めるシーンでしょう。最初はかつらを付けたスタントマンでごまかそうとしましたが、かつらは彼には合わないし、どう見ても別人です。これでは使えません。そこで、オリジナル版の女優に連絡をとると、彼女かワーナー・ブラザースのどちらかがオリジナルの衣装を所有しているとのこと。いずれにしても、彼女が撮影現場に来てくれることになったので、グリーン スクリーンをバックにスタントマンと同じアクションを演じてもらい、撮影しました。彼女の頭と髪の毛、さらには衣装の一部をトラッキングして、スタントマンに合成してから、すべてのショットを再構築しました。
「『ファイナル・カット』でのすべての作業は、発売当初から愛用している Maya、それに Arnold と Flame で行いました」
2007 年公開の『ブレードランナー ファイナル・カット』は、技術的に難易度の高いプロジェクトでした。熱狂的なファンに支持されている映画だというプレッシャーはありましたが、映像やデザインの面ではとても楽しい仕事でもありました。
すべての作業は、発売当初から愛用している Maya、それに Arnold と Flame で行いました。Arnold を使用したのはこの時が初めてでした。レイ トレーシングはそれまでにも使ってきましたが、高速で、高性能のレイ トレーシングを行えるソフトウェアを使用できるようになったのは、画期的でした。イメージベースド レンダリング機能も、飛躍的な前進です。
『ブレードランナー 2049』
私が Framestore に入社したとき、『ブレードランナー 2049』のプロジェクトはすでに始動していました。エグゼクティブ プロデューサーであるビル・カラッロがスタジオ見学に来たので、チャンスとばかりに自分を売り込みました。私たちにどんな仕事ができるか、彼らの目的をかなえるためにどのような役に立てるかについて話したのです。2度目の見学にやってきたときには、『ブレードランナー 2049』の VFX 制作スーパーバイザー、ジョン・ネルソンも一緒でした。ジョンとは 30 年の付き合いだったので、彼は私の経歴や仕事、働き方などを知っていました。たくさんの仕事を私たちに任せてくれたのは、ある程度の信頼関係があったからだと思います。
「目標は人々をあっと驚かせることでした」
膨大な作業量
私たちは 2 つの主要な環境を制作することになりました。ロサンゼルス南部の廃棄物処理場であるトラッシュ メサと、未来のラスベガスです。目標は人々をあっと驚かせることでした。また、ジョイ(アナ・デ・アルマスが演じたホログラム)などのキャラクター モデルや、あえて目立たないようにした蜂の群れのシーンも担当しています。屋根にドローンが設置されたスピナー(K のパトロール カー)も、私たちのデザインです。約 300 ショットを納品しました。
映画を観た人は、環境が大きな役割を果たしていることが分かるはずです。私たちは重苦しい大気と、世界があまりに広大化し、人間が住み難い場所になってしまった感じを伝えようとしました。周りのあらゆるもののサイズや規模と比べると、人間の存在など取るに足りません。行きすぎた産業化の末路です。
私たちはまず、このテーマに沿った景観や建築を探しました。スペインではずらりと並んだ太陽光発電設備、アイスランドでは不毛な土地、バングラデシュでは造船所(古い船舶のいかりから金属を採取)を見つけました。また、ブダペストでは撮影をたくさん行いました。長い間ソビエト連邦の占領下にあったブタペストには、建築物が古いまま残っていたからです。コンクリート製のブロックのような建物は、飾りのない環境を完璧に伝えられそうで、私たちが狙う環境にうってつけでした。
「ベガス バレーのデータの上に(アセットを置いて)、すべての道路、建物、観光地をゼロから構築しました」
トラッシュ メサおよびラスベガスは、私たちにとっては難問でした。基本となるテーマ、多数のリファレンス ショット、大量の模型はありましたが、『ブレードランナー ファイナル・カット』の重要なショットは少ししかなかったのです。そこで、用意してあったビジュアル アセットをベガス バレーのデータの上に置いて、すべての道路、建物、観光地をゼロから構築しました。その後、空気感をディテールによって加えました。
模型の建物とデジタルの建物を最後に統合するのは、簡単ではありませんでした。データを提出するたびに、「もっと大きくしてほしい」という要望を受けたので、ついには限界に達してしまいました。映画で求められていたスケールは、ミニチュア模型では実現できなかったのです。この時点で、フォト スキャン マテリアルは使い果たしていました。私たちは当初、デジタルになるのはシーケンスの 25~35% もないだろう予想していましたが、2 つの大きなシーケンスを完全に CG で作ることが明らかになりました。これを知ったときには、残りの作業期間が 5 カ月ほどしかありません。不足を補い、何もかもを構築するには、このプロジェクトに可能な限りの人材(合計およそ 175 人)を投入しなければなりませんでした。
「『ブレードランナー 2049』では Maya と Arnold を併用しました。この 2 つのツール間のパイプラインは極めて堅牢です」
2049 で使用したツール
『ブレードランナー 2049』では Maya と Arnold を併用しました。この 2 つのツールの間のパイプラインは極めて堅牢です。私はこれらのツールが作り出す素晴らしい映像やアニメーションだけでなく、その柔軟性も高く評価しています。作業方法は 1 つに限られません。独自の方法やアプローチを開発できます。その自由が力になります。クリエーターがより柔軟に、独自のクリエイティブなビジョンを実現できるからです。
「(Shotgun は)素晴らしいツールです。現在の映画やテレビ番組は複雑なので、管理せずに作業するのは不可能です」
Shotgun も忘れてはいけません。私は数年前に Framestore に入社するまで使用したことはありませんでしたが、Shotgun は素晴らしいツールです。このレベルのスケールやディテールに対処するには、何らかの方法ですべてを追跡しなければなりません。現在の映画やテレビ番組は非常に複雑です。管理せずに作業するにはレイヤー、バージョン、コンテンツの数が多すぎます。私は今では、Shotgun の管理表示機能に感謝しています。
驚くべき進歩
振り返ると、私たちは驚くべき進歩を遂げたようです。『ブレードランナー ファイナル・カット』からこの最新作まで、制作に携わるうちに驚くほど多くの変化がありました。しかし、見方によれば変わっていないことも多く残っています。いまだにプロセッサを限界まで動かしたり、ディスク容量を使い切るなど、作業は常に可能性の限界です。一方で現在は、想像できるものはすべて作れるようにも感じています。必要なことが何であれ、実現できるツールがあります。以前は模型を多用していました。オリジナル版『ブレードランナー』はほとんどがミニチュアを使用して撮影され、実際に CG が使用されたのは『ファイナル・カット』を含めてもごくわずかです。現在とは正反対です。
「2000 年代前半、私たちの仕事の多くは、うまい問題解決策を見つけることでした。現在、必要なツールはすべて揃っているので、限界を定めるのは想像力だけです」
現在、ミニチュア撮影は一般的ではありません。コンピューターを使用すれば、実物大に見える建物を正確にデザインできます。4 分の 1 ミニチュア モデルを作っても、これほどリアルには見えないでしょう。2000 年代前半、私たちの仕事の多くは、ソフトウェアの設定を調整したり、新しいコードを記述したり、うまい問題解決策を見つけて、テクノロジーの限界を超えることでした。現在は、より純粋なデザイン作業に注力できます。必要なツールはすべて揃っているので、限界を定めるのは想像力だけです。
Framestore(モントリオール)は、Autodesk MayaとArnold を使用して、『ブレードランナー 2049』の 300 の素晴らしいビジュアル エフェクト ショットを作成しました。どちらのソフトウェアも Media & Entertainment Collection に含まれています。作業の追跡管理には Shotgun を使用しました。
*上記価格は年間契約の場合の1ヶ月あたりのオートデスク希望小売価格(税込)です。
*上記価格は年間契約の場合の1ヶ月あたりのオートデスク希望小売価格(税込)です。