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009 RE:CYBORG 
サンジゲン Interview 「3DCGアニメーションで2Dセルルックを! 独自の手法で切り拓くアニメーション新時代」

009 RE:CYBORG サンジゲン Interview 「3DCGアニメーションで2Dセルルックを! 独自の手法で切り拓くアニメーション新時代」
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これからのCGアニメ映画の新たなスタンダードに

頭部と体は別のライトで照らす。そこで体に落ちる頭の影を表現するため、インスタンスでカメラからは不可視の影用オブジェクトを用意した。インスタンスは顎が動いた時に影に影響を出すため選択した。

――その繊細なアニメーションを作る上で活躍したツールについてお聞かせください

鈴木氏:本作に限ったことではありませんが、サンジゲンはめいっぱい3ds Maxの"Biped押し"なんですよ。実際、今回もメインツールは3ds Maxで、全キャラクターがその標準的なキャラクターリグであるBipedで動いています。何というか、Bipedがなかったら私たちはアニメーションを作れないでしょうね。多少いろいろ他のリグを試してみた時期もありましたが、けっきょくBipedに戻ってきましたし。

松浦氏:うん、Bipedは本当に素晴らしいよね。考えてみると、そもそも僕とか大介さんが一緒にサンジゲンを始めた時に、それまで別のCGソフトを使っていたのを、3ds Maxに乗り換えたきっかけになったのがBipedだった。当初からぼくたちは、いずれ3DCGでキャラクターアニメーションをやらなければならない・やるべきだ、と考えていたんです。そして、キャラクターを動かす上でやりやすいのは、Bipedがある3ds Maxだろう、ということで3ds Maxに乗り換えたんです。それから約10年経って、いまやもうBiped頼みという処まで行き着いたというか......Bipedがあったからこそここまで来られたという実感がありますね。もちろん3ds Maxには他にもいろいろ素晴らしい機能がありますが、僕らにとってはまずBipedありきなんです。

――Bipedはカスタマイズされてますか?

植高氏:いろいろ付け足して、手足など多少弄れるようにはしています。基本モーションはもちろんBipedなんですが、その上に、また調節しやすくなるようなものを、階層ごとにいくらか乗っけている感じです。

鈴木氏:それと、BipedはやはりIKとFKが共存できることが大きいですね。ここを意識せずに一発でフレームで変えられるのは、やっぱり凄いと思います。あれができるようなツールが他にもあるのなら、教えてほしい(笑)。

――プラグインはどんなものを使っていますか?

松浦氏:他に使っているのは、モデファイア・プラグインのBonesProやシェーダープラグインのPencil+あたり。ぼくらにとっては、Biped、BonesPro、Pencil+が、3ds Maxの三大プラグインということになるかな。まあ、Bipedは標準で付いてるものだけど。

植高氏:あと面白いものとしては、エフェクト回りで、今回はFROSTをけっこう多用しています。3ds Maxの標準のメタボールよりも大量にビューポート上に出せる点が素晴らしい。しかも軽いし......流体系では意外なほどいろいろなものに使えるな、と感じました。

六本木ヒルズ屋上のカットは1カット内でカメラ周り込みや、パース変化等3Dらしさが横溢。スロー表現として雨は粒に、飛沫は形を保ちつつ微妙に変化し、キャラの動きはスローに。エフェクトはオブジェクトベースで、キャラの動きの変化も3ds Max上の実レートでゆっくりとした動きをつけた。

――FROSTはどのようなエフェクトに使われましたか?

植高氏:衝撃波的なものとか薄い煙のようなエフェクトとか、要するにアニメっぽいエフェクトを表現しやすいんです。パーティクルと組み合わせるとすごくやりやすいし、オブジェクトなどにも使えたので。

松浦氏:あれで新しいエフェクトとかも生みだしてたよね。

植高氏:そうですね。たとえば冒頭近くの六本木ヒルズの上で展開されるシーンの「水」などは全部FROSTで作っています。水しぶきとかも凄くやりやすかったですね。形状そのものがメッシュとして画面に表示されるので、要は形さえそのエフェクトのそれになっていれば、OKなんですよね。炎だったら炎だし、水だったら水、煙なら煙になる。何というか、アニメ的にすごく分かりやすいものになってくれるんです。

鈴木氏:エフェクト系をアニメっぽく表現するのは、実は今まで難しくて、 これまでけっこう悩みのタネだったからね。

――悩みのタネだったんですか?

鈴木氏:そうです。アニメって要するに線画じゃないですか。当然、煙とかも全部線画ですが、3ds Maxでふつうに爆発を作ったら、やはりボリューメトリックレンダリングしてしまう。だからボリュームは使わずに、爆発などもパーティクルとオブジェクトでやっています。昔はFumeとかAfterBurnも使っていましたが、この頃は使わなくなりましたね。

植高氏:まあ、FumeはFumeにしかできないものがあるので、使っている部分もありますが......。ただ、私たちにとっては、セルルックという最終的に目指す画面にさえ行きつけさえすれば、FumeだろうがFROSTだろうがオブジェクトだろうが良いわけで。カットによって求められる表現は異なりますから、その都度最適なものを選んで工夫していくということです。

鈴木氏:たとえば002のジェット噴射の炎も実はオブジェクトなんです。ひと昔前の技術と言われればその通りですが、セルルックにはその方が合っているんですよ、しかも制御しやすいし。実際、Fumeの煙の流れ方をパラメータ変えながら1日中調整していくより、実際にオブジェクトで作ってFFDで変形させたりした方がだんぜんやりやすいんです。

松浦氏:よし、「サンジゲン・エフェクトブック」を出そう!(笑)

立体視のためAfterEffects上で修正できず、全て3ds Max上でフレームごとにめり込みを調整した。ジョーの指の間がフランソワーズが触れた時にへこむように変形させ、手の甲の膨らみを大きくするモーフや指側面同士が触れた時にへこんだように見えるモーフ等を用意し、2人がきちんと触れあって見えるように調整。
マテリアルにSCMSの情報を埋め込んでいく過程。
例)009戦闘服の赤い色

――本作は立体視の3D映像も話題を呼んでいますが?

松浦氏:たしかにすごく評判がいいようですね。結果はまだですが、立体視のアワードの候補にも上がっていると聞きました。しかし、その制作に関しては予想以上に大変でした。正直、最初はカメラ2個で撮ってAfter Effectsでちょっと調整すればできるだろう、くらいに考えていたのですが、とんでもない。......立体視でなかったら2カ月は早く終わってましたね。

植高氏:たとえばパーティクル系のエフェクトとかに多かったんですが、ふつうのアニメでは、パーティクルをキャラで抜いたりしませんが、立体視のものでは、抜かないとパーティクルとキャラクターの関係がおかしくなってくる。水滴がジョーの身体に入り込んでいるような絵に見えたりするんです。

鈴木氏:レイヤー上は手前に来てるんだけど、本当は奥になければならないものが手前に見えていると、ものすごい違和感を生じるんです。立体視っていうのは、そういう箇所が1つでもあるともう全体がおかしく見えて、それだけでチェックにならないほどでなんです。本当にちょっとしたミスがカット全体をダメにする、恐ろしいものなんですよ(笑)

――そうとう苦労されたようですね

鈴木氏:実際にはテクニカルディレクターに、半自動で左右のカメラ間の距離を計測できるスクリプトを書いてもらい、レギュレーションをなんとか固定して進めたんですが、そこに行き着くまでが大変でした。まず、最初のPVのレギュレーションで立体視を100カットほど作ってみたんです。で、一気にレンダリングしてIMAGICAで監督に観てもらったら、100カットのほぼ全てがリテイクになってしまった。

松浦氏:仕方がないので、その制作手法も含めていったん全部捨てて......。

鈴木氏:そうそう。で、もう一度"どれくらいが良いのか"を監督と詰めたわけですが、そこがなかなか上手く固まらなくて......それが7月の終わりですから焦りました。私自身、監督という立場の人とあれだけ食い違いが生じたのは生まれて始めてで、初めて挫折ってものを味わいました。やはり神山監督の中に、立体視に関する「これだ!」というものがあって「何かが違う」という状態が続いたんでしょうね。で、とにかく細かく話していく中で、最終的に監督が、"画面にぴったり付けるのはやめ"て"絶えず画面のちょっと奥にいる"状態を基本に作っていこうということになりました。

松浦氏:つまり、立体視の映像でも、スクリーン面と同じ位置にいるものは立体視に感じないんですよ。ところがそれをちょっと奥に置くと、同じカメラでもすごく立体的に見える。そのことに神山さんが気付いたんだよね。

鈴木氏:そうだったね。で、実際に試したら、それがすごく好評で......。たぶんそれまで1カ月くらい悩み抜いてたんだけど、なんとかそのやり方で80カットくらい出してもう一度チェックしたら全然良くなってた。もちろんその後も大変でしたけどね。

――まだ問題が?

鈴木氏:立体視って結局1カット1カット手作りなんですよ。シーンによってけっこういろいろ変えなければならなくて......だから最後まで、監督と1カット1カット「ここは5ピクセル奥に」とか「2ピクセル手前に」とか(笑)。それを本当に約1,200カットの最後まで全部やりました。

松浦氏:だからというわけではありませんが、まあ、これは他の会社には作れないでしょうね、現時点では、あれだけこだわった3Dアニメーションの立体視は他では不可能です。ふつうの2D/3D変換ではない、全く別物の手法ですし、アニメであれをやっているのはウチしかない。ウチだけのノウハウですね。

――今回はそうしたノウハウをたくさん蓄積されたと思います。それを活かしたサンジゲンの今後の展開は?

松浦氏:スケジュールは2015年まで詰まっている状態ですが、それまでには会社の規模を500人くらいには持っていきたいですね。特に今回の『009 RE:CYBORG』への挑戦によって、ぼくらがこれまでやってきたセル調の3DCGという手法にあらためて確信を持てた、そんな手応えがあります。本作は、今後CGアニメーションを作っていく上で、1つのスタンダードになるでしょう。ぼくたちもこのスタイルをおそらく数年、数十年やり続けることになると思いますが、会社としてはやはりさらに挑戦していかなければなりません。もちろん新しい表現方法についても、すでにアイデアがありますよ。新作と関連するんで詳しくは言えませんが、まあCGにしかできないことですね。まだまだサンジゲンの挑戦は続きますので、期待してください!

導入製品/ソリューション ・Autodesk 3ds Max
導入目的 ・フルCG長編映画のメインツールとして
・多様なプラグインのベースとして
導入ポイント ・セルルックの3DCGという手法に最適
・キャラクターリグBipedの存在
導入効果 ・各クリエイターがパフォーマンスをフルに発揮
・監督がこれまで以上に演出に注力
・3Dキャラクターの繊細かつ豊かな感情表現
・高いクオリティと作業効率化を両立
今後の課題 ・蓄積した新しいノウハウの普及
・さらなる自動化の推進による生産性向上
作品概要 「009 RE:CYBORG」
製作年 2012年
原作 石ノ森 章太郎
脚本・監督 神山 健治
音楽 川井 憲次
アニメーションディレクター:鈴木 大介
リードアニメーター:植高 正典
制作プロデューサー:松浦 裕暁
配給 Production I.G / ティ・ジョイ
共同制作:Production I.G / サンジゲン

「009 RE:CYBORG」
©2012 「009 RE:CYBORG」製作委員会
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