リモート ワーク拡大前に確立したリモートワークフロー:『ミラ』の制作

リモート ワーク拡大前に確立したリモートワークフロー:『ミラ』の制作
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ストーリー アーティスト、作家、さらには監督として、アニメーション業界で四半世紀以上活躍しているチンツィア・アンジェリーニ氏にお話を伺いました。約 10 年前、アンジェリーニ氏は自作の映画を監督することを目標に、イタリアのトレントで第二次世界大戦の厳しい現実に直面する少女ミラの物語の作成に着手しました。夢に向けたアンジェリーニ氏の旅は、そこから始まりました。

始まりはフィーリング

私はアニメーターとしてキャリアをスタートし、その後、ストーリー アーティストに転身したいと思うようになりました。物語について考え始め、どんな物語を書きたいかを考え、個人として短編の作成を始めました。アイデアをいくつか書き出し、同僚や友人に見せたところ、全員が 3 つのうちの 1 つのアイデアに興味をもちました。それは戦争をテーマとした、一人の少女と彼女を救う女性についての少し変わったお話でした。ストーリーの始まり方は少し変わっていたのですが、その続きに皆がとても興味をもってくれたのは明らかでした。

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私は幼少期から、たくさんの物語を聞いて育ちました。祖母は第一次世界大戦と第二次世界大戦を体験しました。私の聞いた当時の体験談の多くが、『ミラ』の中に混ざり合っています。そして中でも母が私にしてくれた話が、アイデアの核となっています。彼女がどう感じたかとか、誰かが彼女をシェルターに連れて行ってくれるまで身動きできず、何もできなかったことなどです。その話は私にとって、常に「今、何が起きているのか」を考える原動力となっています。たとえ身体に怪我を負わなかったとしても、そうした体験が子どもの人生にどれほどの影響を与えるのか。

そんな思いが火種となり、このプロジェクトに対する情熱が燃え上がったのです。

メディアが重要である理由

私は 2D アニメーターとしてキャリアをスタートし、その後 3D に転身しました。『ミラ』にどうやって命を吹き込もうかと方法を模索していた当時は、3D アニメーションの制作を本職にしていました。この作品では、子どもたちにマンガ化された世界を楽しんでもらいつつも、現実に起こりうる影響の感覚を受けとって欲しかったのです。そこで 2D の平面的な表現よりも 3D の方が、爆発シーンなどにおけるインパクトのあるビジュアルで、より詩的な表現ができると考えました。私は 2018 年に TEDx で『ミラ』に関するスピーチを行った際に、衝撃的なテーマにもアニメーションを使用することの重要性について話しました。子どもたちは、大人が案じる以上に重大なテーマを受けとめることができます。小さな頃から他の時代や他の国、他の文化の現実に触れ、多くを学ぶことができるのは素晴らしいことです。私は、爆撃機が頭上から爆弾を落としてくるときの感覚を、観客にリアルに感じてほしかったのです。そうすれば、観客はすばやく物語に引き込まれ、身近に感じるようになります。自主制作であるにもかかわらず 3D にしたことは、狂気の決断だったかもしれません。非常に困難な挑戦となりましたが、結果的にはうまくいきました。

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私はストーリーをもう少し展開させるために物語の続きを書き始め、その後 2 人目の子供が生まれたため、しばらく間が空きました。そうすると色んな人から連絡がきて、「『ミラ』はやらないの?」と聞かれました。「予算がない」 と答えると、 「週末なら手伝えるよ」と言ってくれました。 そうして制作が始まりました。明確な計画があったわけでもなく、楽観的で変わり者なアーティスト集団のやる気と目標だけで、プロジェクトが始まりました。

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注目を集めたプロジェクト

その後すぐに、もっと多くの人々のサポートが必要なことに気づきました。そこで 2011 年頃に、Twitter(現 X)でアンディー・ゲイハン氏に連絡しました(彼はその後、この作品のエグゼクティブ プロデューサーの一人となりました)。彼は当時、ゲームブックの著者を務めるほか、フォーラムも運営していました。それは 90 年代風の古いタイプのフォーラムでしたが、ファイルや制作メモなどを保存するためには最善の方法でした。ある日私は、フランスのアヌシーでヴァレリオ・オス氏とビールを飲みながら、『ミラ』を売り込みました。彼は同じアニメーション学校に通っていた同窓生で、イタリアの Pixel Cartoon 社に勤めていました。「このプロジェクトはとても野心的な挑戦で、膨大な量のセットやキャラクター、爆発シーンが必要なんだけど、お金がないの」という風に相談したのです。 すると彼は、「いいね、一緒にやろう」と言ってくれました。 彼を通じてイタリアの Trento Film Commission と Fondazione Cassa Rurale di Trento から地元の資金を得ることができました。さらに口コミで、このプロジェクトに興味を持つ人がどんどん増えていきました。マスコミも、リモートで映画を制作するという手法に興味を持ってくれました。当時は、短編映画にしてもすべてをリモート環境で制作するというのは野心的な試みだったのです。これは 1 ロケーション、1 キャラクターの短編ではなく、16 分間の CG 作品です。10 年前の当時、これをリモートで制作するということは前代未聞だったので、マスコミが取り上げてくれました。

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そうして注目されたことで、世界中からボランティアで作業に協力してくれる人たちが集まり、とんでもないプロジェクトとなっていきました。私たちはそうして協力してくれた人々に、映画の公開前から、手がけた作業を作品として使用することを許可していました。なぜなら、特に学生や 2 ~ 3 年の制作経験しかない駆け出しのプロは、携わった作品の完成後も何年も人に見せることができないことが一般的だからです。作品にはもちろん、彼らのクレジットも入れました。プロジェクトでは、若手に熟練者をつけて指導してもらったり、スーパーバイザーに講習してもらったりしながら仕事を教えました。何かを学べると考えた多くの人々が、『ミラ』への参加を希望しました。『ミラ』のプロデューサーであるアンドレア・エムス氏と私は、参加してくれた人々が互いにつながり、ネットワークを広げ、仕事を得ることができるように、常にサポートしました。最終的に、35 ヵ国から 350 人以上のアーティストがこの映画に参加してくれたため、大きなネットワークが構築されました。

プロジェクト半ばでパイプラインを構築

2017 年に、デイヴ・ローゼンバウム氏が Cinesite 社のチーフ クリエイティブ オフィサーに就任し、私を迎え入れてくれました。彼とは以前、Illumination 社で一緒に仕事をした仲でした。その 1 年前、クラウドファンディング キャンペーンを行った際に、このプロジェクトを Illumination 社の幹部にプレゼンしたのですが、それ以来、彼はこの映画の熱心なファンになってくれました。そして、Cinesite 社のプロジェクト(『アダムス・ファミリー1』『アダムス・ファミリー2』)の合間に、『ミラ』の制作が組み込まるというパーフェクトな展開となったのです。Cinesite バンクーバー社のゼネラル マネージャーを務めるタラ・ケメス氏は、このプロジェクトはビジネスにはならないと言いつつも、ストーリーや背後にあるメッセージをとても気に入ってくれて、映画を完成させるためにできることを検討してくれたのです。一方、制作チーム内ではこの話になる以前から Maya のバージョンをプロジェクト全体で統一する必要性を感じていました。制作が長期化した『ミラ』では使われているテクノロジーが時代の進化に追いつけていないことが問題の 1 つとなっており Cinesite 社からの支援なしでは進められませんでした。Maya の最新バージョンに対応するために、さまざまなものを早急にアップデートしなければならなかったため、それは大がかりな作業となりました。Cinesite 社がアニメーションの一部の仕上げを手伝ってくれ、Pixel Cartoon 社が 1 つのシーケンスのレンダリングを完成させてくれました。CFX チームは、私たちが以前導入した髪・毛用のシステムが彼らのパイプラインで機能しなかったため、これをやり直す必要がありました。Cinesite 社は、目の前の膨大な仕事やリスクに気を配りつつも、このプロジェクトに情熱を注ぎ、一丸となってくれました。彼らはクライアントのための仕事とまったく同じように、私のプロジェクトに取り組んでくれたのです。

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「リモート ワーク」の拡大前に確立したリモートワークフロー

アンドレア・エムス氏は素晴らしいプロデューサーで、てきぱきと仕事を進める手腕をもっています。このプロジェクトはすべてボランティアで進められたため、彼女が忙しいときは私が仕事を代わり、その逆もありました。プロジェクト メンバーはさまざまな国や地域にまたがっていたので、常にマルチタスクをこなしながら対応する必要がありました。見方を変えれば、私からしたら「夜」の間にも(他のタイムゾーンのメンバーに)仕事を割り振ることができるため、進行を速めることができます。でも翌朝になれば、進行はまた少し遅くなります。チームは皆、ボランティアで参加してくれているので締め切りを決めることはできませんが、うまくいくことを願いました。このようにボランティア ベースで仕事を進める場合は、通常の 10 倍の時間を見積もる必要があることに気づきました。そして実際、それだけの時間がかかりました。普通なら 1 年半程度で完成するプロジェクトが、最終的には 11 年もかかってしまったのです。

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リモートワークだったことのメリットは柔軟性です。デスクやコンピューターを用意する心配もありませんでした。おかげで私たちは成長し続けながら、さまざまな人々から最大限のサポートを受けることができました。実際、このサポートがなければ、とうていプロジェクトを進めることはできませんでした。制作を進めるために、あらゆる人々の協力を積極的に受け入れました。

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そうして何年もの月日をかけて、リモートでのワークフローは改善されていきました。たとえば、フォーラムから Slack に切り替えたことは大きな前進の 1 つとなり、最終的には Shotgun(現 ShotGrid)を使用しました。それ以前、完全に個人として活動していた頃は、とにかくメールのやり取りに追われていました。何百万通のメールを送ったかわかりませんし数えたくもないですね。

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将来について

予算がないプロジェクトにもう 10 年取り組むエネルギーは、私には残っていないでしょう。予算さえあれば、短編映画はまた作りたいです。12 年前、私が初めて自分の作品を作ろうと思い立ったのは、アニメーションの世界で 18 年間経験を積んだ後のタイミングでした。監督に挑戦するなら、自分の力でやらなければならないことはわかっていました。自分に何ができるかは明確に理解していましたし、それが『ミラ』を形づくる一部となりました。当時は、訛りのある英語を話す女性がハリウッドで監督を務めるのはとても難しいことでした。

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振り返ればとても長い道のりとなりましたが、それだけの価値はありました。人に助けを求めることを恐れてはいけません。自分には価値がないとか、断られるのではないかと恐れる人を何度も見てきましたが、そんなの関係ありません。何度断られてもあきらめないことです。10 回のうち 1 回は、きっと「イエス」が返ってきますから。

ShotGrid は Flow Production Tracking に製品名が変更されました。
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