世界を虜にしたアニメ『鬼滅の刃』はどう作られたのか ufotableにしかできない作画とCGの融合 前編

世界を虜にしたアニメ『鬼滅の刃』はどう作られたのか ufotableにしかできない作画とCGの融合 前編

2020.09.30

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老若男女、様々な層のユーザーを虜にし、爆発的なヒットとなった『鬼滅の刃』。そのアニメーション版を手掛けたのが「ufotable(ユーフォーテーブル)」だ。これまでに『劇場版「空の境界」』や『Fate』シリーズなどを手掛け、そのクオリティの高さからアニメファンに絶大な支持を得ているアニメーション制作会社である。そのクオリティは、演出・作画・背景・3DCGなどほぼ全てを内製で行い、スタジオ内で精度の高いコミュニケーションを取っているからこそ生まれるものだという。アニメーション版『鬼滅の刃』がどのように作られたのか、デジタル映像部 撮影監督の寺尾優一氏と3D監督の西脇一樹氏に聞いた。

寺尾優一氏
西脇一樹氏

「水の呼吸」が生まれるまで

ーーTVアニメ『鬼滅の刃』のアニメーション版の最大の魅力はなんといっても原作生き写しの和風の技表現だと思います。まずは鬼滅のアニメといえば誰もが思い浮かべる、主人公・竈門炭治郎の"水の呼吸"の表現がどうやって生まれたのかをお教えいただけますか?

寺尾優一(以下寺尾):TVアニメはもとより、原作でも炭治郎の「水の呼吸」は作品の要となるような印象的なビジュアルで描かれていますね。「鬼滅の刃」のアクション面を独特のものとしているこの「呼吸」を、アニメではどう表現するのか。プリプロの序盤だったかな、西脇くんが3ds Maxでビジュアライズの試作を作ってくれました。あまりお披露目したことがなかったものなのですが、せっかくなのでご紹介します。

寺尾:懐かしいね。

西脇一樹(以下西脇):試行錯誤して、最初の段階で完成ルックとして決定したものです。「原作の絵の印象から浮世絵風に」というイメージをもらっていたので、浮世絵の作品を研究したり、何パターンも作ったあと、監督達に見せました。
そこから実際にモックとなるプレビュー映像を更新しながら、どこを作画で表現するのか?CGでやる場合は、どんなシチュエーションが良いか?一つ一つ、検討していきましたね。

寺尾:ファンの皆さんに向けて良いものをお届けしたい、といつも心がけてます。今作でも皆さんの原作に対する「ここが好き」という脳内イメージのようなものを再現するため、表現を徹底的に研究しました。そのために、CGを用いてモックとなるプレビュー映像を作成、実物の映像をみながら開発方法をセッションするのはよく行う手法ですね。

西脇:映像を見ながら作画の得意なこと、3Dの得意なこと。そこから更に踏み込んで、スタジオの「この人の得意なこと」「あのチームなら出来ること」みたいなことまで、具体的に検証していきます。長く一緒にやってきたスタッフ達ですから、こういったモック映像があれば精度の高い戦略を立てられるんです。

鬼舞辻無惨の本拠地「無限城」

ーー続いて、TVでオンエアされた「竈門炭治郎 立志編」その第26話に出てくる「無限城」についてお伺いしたいです。圧巻の「無限城」はCGですべて制作されたとお伺いしたのですが......?

西脇:そうですね、ここは背景を3ds Maxで制作。
クレジット見てもらえばわかるんですが、なんだかんだ、寺尾くんが色々やりましたね。

寺尾:はい、僕はこの話数では、無限城のシーンのコンテを一連で担当しています。

無限城のシーンのコンテ

ーーコンテから?CGチームがコンテから参加するというのは、よくあることなんでしょうか?

寺尾:一般には分かりません。ufotableでは「劇場版『空の境界』」やその他プロジェクトの中で折々歩んできた道ですから、初めてという訳ではありませんでした。
無限城の「方向感覚を失うような特殊な舞台」を活かした映像にしたい、3Dから起こした方がいいんじゃない?と事前に提案をもらいまして......面白そうだなと。

無限城
無限城

ーー鬼が逃げるシーンで、どこまでもどこまでも走っていくシーンがありますよね。
まさか城をまるごと作ったんですか?

寺尾:はい、作っていますね。岩田という建築に詳しいスタッフがいたので助かりました。若手ながら出来る子で......互いのチャレンジと思い、モデリングを一任した形です。CGを作る時って、作ってみてちょっとずつアップデートしていくんですよ。最初はざっくりした箱から作ってみて、上を見上げたら抜けが足りない気がするから階層をいくつか足そう、とか、ここに階段があれば画面外を感じるね、みたいに少しずつ変えていくんです。更にカットごとに構造は違います。"無限"城なので。このショットの為の構造設計だけで30バージョンぐらい試作したような。

西脇:中々大変だったね。カメラもズンズン動くし。質問のシーンは、一連のカメラワーク設計はチームのエースアニメーターに担当してもらいました。このショットでの城の構造から鬼のアニメーションまですべてチェックもらっています。佐藤号宙くんというのですが、こういった「魅せるカメラワーク×アクション」は彼しか出来ないだろうと。彼は非常に強いプレイヤーで、隣に座ってもらって、難しいシーンをよく相談しています。
その上でキャラクターの描画を木村さんという弊社ベテランの腕利き原画スタッフに押さえていただき、上がった素材をコンポチームに受け渡し、という感じです。

寺尾:といっても西脇くんの隣が佐藤くんでその隣が僕の席なので声かけだけで終わります。笑

ーー本当に、一つ一つのカットでものすごく考えられているんですね。

寺尾:2ヵ月くらいかけているカットも結構あります。"それっぽい"ところにいくのは早いんだけど、そこを超えるのが苦しい。その表現を詰めるのに、ずっとちまちまああでもない、こうでもないと水面下でやっています。

西脇:新しい表現というのは、やっぱり最初が一番時間がかかりますね。1、2ヵ月ずっとR&Dをやって、やっとできたらそこからパイプラインに乗せる、というやり方なので。

寺尾:3ds Maxのトピックを続ける前に、AREA JAPANという枠の中で恐縮なのですが、、少し作画のご紹介をしてもよいでしょうか?恐らく前提となる知識が読者の皆さんで異なると思いますので。

作画という仕事

我妻善逸のキャラクター設定

ーーキャラクター設定、でしょうか?

寺尾:はい、これは善逸の服の設定になります。
この三角模様......服全体で三角がいくつかあるのか、考えたことないですよね?

作画のアニメーターチームはこれを管理するんです。当然キャラクターは動くし、カメラワークによってはじっくりと回り込む―光から影に移動もする。三角模様が連続しているのが、描いているうちによくわからなくなってしまって、シーンを繋いで見てみると、服の中で三角が出たりなくなったり、途中で縮んでしまったり、魔法の服みたいになってしまいそうで。それで三角に番号を振って描くというやり方になったそうです。

西脇:禰豆子の着物も難しくて。それでufotable内で作画監督それぞれがどう描けば一番効率的に描けるか「○○○流」といったように各々で研究してマニュアルを作ったくらいです。

ーー1枚の線画だけで迷子になってしまいそうです。

竈門禰豆子のキャラクター設定
禰豆子の着物の模様の描き方

西脇:これが何人も、入り乱れて動きますから......。3Dだと仕組み上破綻することはないのですが、作画は真っ白なキャンパスにゼロから立体を描き上げていきます。結果、一見地味な表現に物凄いエネルギーがかかっていたりします。炭治郎や(我妻)善逸、禰豆子の服もそうですね。ただ、なかでも一番大変なのが善逸なんですよ。

寺尾:物語を描く、というとき、その主体であるキャラクターの感情や動きを最も精密に表現出来るのは、僕たちにとっては圧倒的に作画です。ただし、その表現には本当に膨大な作業が必用。基本的に描くという行為はものすごく人間の脳を消費するんです。でもコストがかかるからといって省略したり、なくしてしまうと、原作と食い違って違和感が生まれる。だからみんな死ぬ気で描くという。

西脇:そういうコストを作画が背負っているので、優秀な作画スタッフが本当に必要とされるカット・芝居に集中出来るようにサポートするというのもデジタル部の役割の一つだと思っています。

ーーそれでは、実はここもCGで作っている、というお話があれば伺えますか?

西脇:ちょっと画像をご用意しました。ほんの一部ですが、ご紹介します。CGで完結していたり、部分的にCGなんだけど、残りは作画、といったキャラクターもいます。例えば、兄蜘蛛ですね。

累の兄累の兄

寺尾:このケースでは累の兄は顔が作画で、身体がCGです。全身に生えている毛の表現に苦労しましたね。

ーー下弦の伍・累との戦いは息を呑みました。

西脇:糸の技の一部は3ds Max のプラグイン、tyFlowを使っています。コンテを見たときはどう表現したものかと悩んでいたのですが、tyFlowの汎用性の高さに助けられました。

ーーtyFlowはかなり最近の、β版のフリーのものですよね。使われているとは驚きました。他にはどんなプラグインを使ってらっしゃるんですか?

西脇:V-Ray、PhoenixFD、tyFlow、ForestPack、RailClone、GrowFX、HairFarm、Pencil+、その他もろもろですかね。鬼滅のCGカットは3ds Maxとプラグインでできてると言っても過言ではないかもしれません(笑)。

鋼鐵塚鋼鐵塚

西脇:後は、鋼鐵塚の風鈴なんかもCGですね。ある時、「揺れ続ける風鈴、これ作画にしないと駄目かな?」って監督の外崎さんに相談されて、まあ遠回しに「CGでやって」と言ってるわけですが......笑。あれを作画でやろうとすると、ものすごく難しいんですよ。でも4、5カットくらいしか出ない。CGってやっぱり、プリプロというかR&Dとか、仕込み、モデリングだとかいろんなことに時間がかかっちゃうので、すごくコスパが悪かったんですけど。

ーーほんの一瞬しか出て来ませんでしたからね(笑)。

寺尾:ちょっとでいえば、あとは鴉(カラス)ですね。

ーー鴉?!

寺尾:動物って、ほどよく作画するのが難しいんですよ。キャラが立ちすぎてもいけないし。身近な参考もないし、案外安定しなくて。だからキャラクターに隣接しないシーンはほとんどCGで作っています。動物好きのスタッフが担当していて、ほぼすべてのショットを作っています。動きがほどよくて、すごくいいんですよね。

鎹鴉鎹鴉

ーーありがとうございます。CGと作画、作品全体を通した際により適切なコストコントロールになるよう心掛けているんですね。

西脇:コストのバランスは気にしていますね。他にも、作画のレイアウトを取るために、CGで事前にモックを作ることも多いです。特に建物類はゼロから描くのがとても大変なので、ほとんどの建物は作画作業に入る前にCGで最初に作るんです。珠世の診療所や鬼殺隊本部などですね。美術さんも、やっぱりモデルがあったほうが作業しやすいと言っていますね。

寺尾:「ここから見ると何が写り込むんだろう?」っていうのを、やっぱり知りたいみたいなんですよね。このアングルからここを撮ると、この場所だと何が映るか?ということを知るためにCGで作ったコンセプトを参考にする。それが底上げになっていると思います。パース感は、個人の捉え方に寄りますからCGで作ることでシーン通しての統一感も作れます。

西脇:モデルを最初に作ることで、作画の速度とクオリティの両方に貢献できていると思います。背景のパース線を引く時間で、キャラクターの作画をもっと良くできる。

鬼殺隊本部

寺尾:そうやって分担できることはどんどんしていますね。カッコいい絵を作るときに必要なのって、「何がカッコいいかちゃんとわかっていること」だと思うんです。それさえあれば、その他の「ある物がだんだん遠ざかっていくのを描く」みたいなものはツールに任せる、という時間の使い方ができますから。

西脇:3Dモデルを作ることで他にもいいことは、作画担当者それぞれである程度の共通認識ができるということです。作画マンの作家性が出るのは良いことですが、例えば背景が全く別の場所に見えてしまう、というのは作家性とは違いますよね。しかもそれを直すのにまた人手をかけることになってしまう。

寺尾:逆にそこで万全なものを一個作っておけば、いろいろなカットで作画が常に短いプロセスで出力していけるので。クオリティが高い所を目指すのであれば、可能なところはショートカットしたいじゃないですか。モデルがあれば0ではなく60パーセントぐらいから頑張り始められるわけで。そこはやっぱり、CGが助けて、作画にしかできないことに、しっかり力を使ってくれたほうがいいだろうと思っています。

ーーそうやってCGが作画を助けるという体制があるからこそ、クオリティがますます高くなっていく......。

西脇:そのために、打ち合わせを丁寧にやっています。コンテを描いて、演出が決まると、まずは「演出打ち」という、監督と演出さんが話数の内容をコンテを順番に見て、内容の総ざらいしていく作業があるんです。その後に作画担当ひとりひとりと話して作画が始まるんですね。その「演出打ち」に僕が出て、その時に作画でどれをやる、CGでどれをやるっていうのを先にざっと決めちゃうんです。それをしないと、どこがCGでどこが作画なのか、コストの分散ができなくなる。そうやって決まった後に改めてCGに内容を絞った細かい打ち合わせをするので、打ち合わせは2段階体制になりました。

寺尾:それはこのスタジオの......というか、ufotableスタッフに共通の歴史があるからこそできることなのかもしれない。そもそも、CGを積極的に、背景をまるっとCGで描くようなカットが使われるようになったのは『テイルズ オブ エクシリア』(2011)のオープニング映像ぐらいからかな。それから『Fate/Zero』を経て10年ですから、その間に作画とCG、美術・仕上げチームの間に信頼関係ができて。この信頼関係がなければできないことだと思います。CGと作画の融合って、言ってはみるけど、実際にすすめると描いている間に互いの位置がズレてくるとか、細かな問題が色々と起きるんです。そこで直すための試行錯誤をしていくんですけど、この10年の間にその試行錯誤してたスタッフが、まだここに残ってやってくれるんですよね。

西脇:結局CGを先に出すのか、作画が先なのか、どれが理想的なのかって、CGを現場で見ている人じゃないとわからないんですよね。演出さんでも制作さんでも、作画さんでも。その中で、「こうするのが一番いいよね」っていうのを提案したりしながらやってきた10年間です。

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