公衆衛生の目に見えない脅威を視覚化 3ds Max と Arnold のテクノロジー
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多くの人々にとって、「クリプトスポリジウム」や「カンピロバクター」などの感染症の名前は、聞き慣れないものかもしれません。しかし米国疾病管理センター(CDC)のメディカル イラストレーション チームにとっては、ごく日常的な言葉です。5 人のメンバーから構成されるこのチームは、研究者や科学者たちと協力しながら、寄生虫、細菌、ウイルスなどによる健康リスクを、迫力のある 3D 画像、アニメーション動画、モーション グラフィックスで表現しています。
今や世界中で広く知られている新型コロナウイルスの 3D イメージの作成から、難聴者向けのアニメーション動画の開発、先天性欠損症者向けの 3D プリント モデルの設計まで。CDC メディカル イラストレーション チームは、さまざまなビジュアル表現によって微生物や極小の物体をリアルに描き出すことで、公衆衛生に対する人々の関心を引きつけています。
CDC のアーティストによる作品は、CNN、ニューヨーク タイムズをはじめ、大手報道機関のメディアに掲載、放映されています。チームの手がけるプロジェクトの多くは、科学者や研究者、CDC スタッフからの依頼で始まります。作業範囲、サイズ、納期などは、プロジェクトごとにさまざまです。納品物はアニメーション動画の場合もあれば、大規模なレンダリング画像、モーション グラフィックスの場合もあります。また、個人の衛生管理や手洗いなど、公衆衛生の取り組みを分かりやすく表現するために、トゥーンレンダリングを使用して漫画スタイルの作品を制作する場合もあります。
CDC の大規模な総合通信サービス部門は、毎年約 1 万件に上るリクエストに対応しています。この部門に属している Eckert 氏のチームは、商用作品と同等以上の作品を生み出し、素晴らしい顧客体験を提供するという目標を掲げて制作に取り組んでいます。
チームの制作プロセスではいつも必ず、関連する専門分野のエキスパートが監修につき、科学的・医学的な情報を提供しながら、できるだけ正確に表現できるようにイラストレーション チームを導きます。チームはプロジェクトに応じて、3D コンテンツ作成用のさまざまなアプリケーションを使用します。モデリング/アニメーション/VFX 用の Autodesk 3ds Max、レンダリング用の Autodesk Arnold、Adobe Creative Suite、デジタル スカルプティング用の Pixologic ZBrush、分子モデリング用の Chimera、フィギュアのモデリングとレンダリング用の Daz 3D などです。
コンピューターで生成されたアート作品のミッション
Alissa Eckert 氏は、2006 年から CDC でメディカル イラストレーターを務めています。まさに夢のような仕事だと彼女は話します。
「私はバイオメディカル アーティストとして、公衆衛生に影響を与えられるような作品づくりにフォーカスしています。そんな私にとって、CDC は最高の職場です。人々の健康や安全、安心に役立つことができる今の仕事が大好きなんです。」
Eckert 氏の仕事では、目に見えない脅威を視覚化することで大衆の意識を高め、理解を促すことがしばしば求められます。
「マテリアルをシンプルかつ明確に表現することが重要です。そのためには、科学に忠実でありながらも、メッセージを分かりやすく伝えるために自由なアート表現をするという、絶妙なバランスを取る必要があります。3ds Max で 3D コンテンツを作成すると、明確かつ高精度に情報を調整できます。さらに Arnold でレンダリングすると、マテリアルや光をリアルに表現でき、自然で精度の高い作品に仕上がります。」
科学的・技術的なイノベーションと共に進化するデザイン
Eckert 氏とチームがこれまでに作成したアニメーションは、ソーシャル メディア向けの GIF や JPEG などの短い作品がその多くを占めています。
しかし中には、長時間をかけた大規模プロジェクトもありました。
2019 年に手がけた、抗生物質耐性(AR)脅威レポートのプロジェクトはそのひとつです。完成までに 1 年以上かかり、多くの 3D 作業を行いました。Eckert 氏は、高品質なコンテンツをすばやく作成できるように、最新のデジタル コンテンツ作成ツールに関する情報や、作品の背景となる科学的情報について、常にアンテナを張り巡らせています。
「科学とテクノロジーは急速に進化しているので、私たちもすばやく適応していく必要があります。時代に乗り遅れないように、常に新しい学習技術やプログラムについて調査し、Photoshop の図面から 3D レンダリング、そして最近では AR/VR や 3D プリントへと移行してきました。」
Eckert 氏とチームは、日々さまざまな課題に直面しています。低コストで素晴らしい作品を制作すること、ワークフローを調整してレンダリング時間を短縮すること、GPU リソースを組み込み、スタジオのセットアップやライブラリを作成してチーム全体で共有することなどは、そうした重要な課題の一部です。そんなチームの日々の業務に欠かせないのが、3ds Max と Arnold です。アニメーションやイラストレーションの作成、3D プリント、さらには 360 度のプロトタイプ作成まで、さまざまな用途に 3ds Max と Arnold を使用しています。3ds Max 2020 と Arnold を使用することで、ベクトル図の描画時間を半分に短縮することもできました。
「Arnold のトゥーン シェーダを使うと、平面的なイラストや、フラット カラーのデザイン作成プロセスがスピードアップします。こうしたデザインは、解説用のイラストや公衆衛生情報の表現に使用します。3D デザインを利用すると、イメージ全体を描き直す必要もなく、あらゆる段階の画像を、あらゆる角度から再現できます。Arnold なら、カメラを回転させたり、モデルをアニメーション化するだけで済み、作業はとても簡単です。また、アクティブなシェーディング レンダラーで、あらゆるイメージをすばやく調整できます。」
3D プリントで目に見えないコンセプトに命を吹き込む
Eckert 氏とチームは、3ds Max を使用して、3D プリント用のモデル(海外の公衆衛生業務用トレーニング資料、研究室用の資料、ウイルス モデルなど)も作成します。Eckert 氏は、2019 年に 3ds Max を使用して、腹壁破裂という腹壁の先天性欠損症をもつ乳児の実物大モデルを 3D プリントで作成し、受賞しました。このモデルは、欠損症を適切に診断できるように、臨床医を教育・訓練するために使用され、この症状をもつ乳児のケア向上に貢献しています。
チームは、コロナウイルス、ポリオウイルス、ロトウイルス、インフルエンザ、大腸菌の物理モデルを作成するために、3D プリントも採用しています。
「モデルを作成して最適化し、3ds Max で色を設定してから書き出します。こうしたモデルは、さまざまな目的で使用されます。インフルエンザ モデルは学習用に CDC 博物館に展示され、ポリオ モデルはライブの実演説明に使用されています。また、その他のモデルは会議や講義などで教育目的に使用されています。」
一年にわたる大規模な CG プロジェクトの準備
チームの関心は今年は新型コロナウイルスに集中しましたが、2019 年は最新の抗生物質耐性の脅威レポート(致死率の高い細菌と現在の緊急度の分析)の作成に関する情報にフォーカスしていました。
2019 年 1 月に始まった 1 年にわたるプロジェクトでは、細菌の医療用 3D イメージを、あらゆるプラットフォームやコンテキストで使用できるように、明るい背景と暗い背景の両方のパターンで、さまざまな形式とサイズで作成する必要がありました。たとえば、9 月に開催された 2019 年国連総会では、展示用に淋病菌の大型 3D プリントを作成する必要がありました。
2019 年の AR 脅威レポートは、2013 年のプロジェクトの追跡調査でした。現在の CDC メディカル イラストレーション チームは、この 2013 年のプロジェクトにも携わっていました。当時このレポートは高く評価され、世界中に広まりました。その後、情報をアップデートする必要が生じたのです。チームにとっては、以前のビジュアルに新しい命とアイデアを吹き込む機会となりました。
この新たなプロジェクトで、Eckert 氏は制作リーダーとして技術的な下図を描き、全体的なデザインを洗練させていきました。「美しいけれど致命的」というテーマを決め、印象的なアートワークで魅了しながら、抗生物質の耐性の深刻さも伝えることに成功しました。
制作プロセスの舞台裏
「細菌を作成するプロセス全体を通じて、プロジェクトの設計と方向性について話し合うために、何度か会議を開きました。私は 3ds Max で、特定のカメラやライト、背景が設定されたスタジオ テンプレートを作成しました。
水中のクラゲのような光輝く美しい生物が、デザインのヒントになりました。そしてマテリアルの透過設定で、細菌の画像にクラゲの質感を再現しました。」と Eckert 氏は説明します。
「自然界に存在するものをベースに描画したことで、生き生きとしたリアルな作品を作ることができました。細菌の動きや移動方法、コロニーの形成方法、質感、ライティングなど、細菌のさまざまな特性を強調することで、手を伸ばせば触れることができそうな錯覚を起こすほどのイメージに仕上げることができました。」
Eckert 氏は統一基準として、3ds Max でキャラクター プロファイルに合わせてサイズ寸法を設定し、右側と下側はオープンにしました。そして、グラム陽性とグラム陰性の染色を表すピンクと紫色のマテリアルを特定の設定で作成しました。各アーティストはそこから、モデルの厚さに応じて透過度を調整したり、設定に基づいてライティングを調整するなどして、画像を作り込んでいきました。
Eckert 氏がこのテンプレートを作成する一方で、チーム リーダーは物理シミュレーションを作成して粒子の流れや布のシミュレーションを行い、オブジェクト同士の相互作用をリアルに表現しました。
アーティストたちは、設定されたスケールで各細菌をモデル化し、このモデルのシミュレーションを実行し、最適なシミュレーションのフレームと場所を見つけました。次に、シミュレーションのアニメーション フレームを分解し、設定したスタジオ テンプレートに取り込みました。
レビュー時にはチーム全員が集まり、すべての画像を印刷し、壁中に貼り出して検討しました。また、コンピューター画面に画像を表示して画像の一貫性を確認し、必要に応じて調整しました。Z-深度などの AOV を含む EXR としてファイルをレンダリングしたため、チームは After Effects でフォグ 3D の被写界深度などの 3D チャンネル エフェクトをすばやく操作できました。これによりレンダリング時間が短縮され、さまざまなレイアウトに必要な調整を臨機応変に行うことができました。
「私たちにとって最大の課題は、あらゆるメディアに馴染む、一貫したビジュアルのデザインを作成することでした。さまざまな出力環境で何度もテストを繰り返しながら、特定の色が純粋な発色を保つこと、美しい仕上がりで印刷されること、そして画面上でダイナミックに表現されることを確認しました。私は、2019 年の AR 脅威レポート プロジェクトを本当に誇りに思っています。このプロジェクトは、新型コロナウイルスが流行するわずか数ヵ月前に立ち上げられたにもかかわらず、非常に満足のいくものになりました。」と Eckert 氏は振り返ります。
未来に向けた道筋を描く
Eckert 氏は最後に、今後の展望について話してくれました。
「今後もしばらくは新型コロナウイルスが最優先になると思いますが、これからもワークフローをさらに進化させていきたいと考えています。 これまでリアルタイム ゲーム エンジンや、AR/VR と 3ds Max の統合、アニメーション プロジェクトのスクリプト処理について検証を行ってきました。今後は、実際のプロジェクトで試してみたいですね。」
CDC と最新のプロジェクトについては、 https://www.cdc.gov/ をご覧ください。
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