――佐藤さんが今20代に戻ったとしたら、挑戦したいことはありますか?
杜氏、ワインメーカー、日本画家、盆栽職人、またはカレー屋さんですかねぇ。
――佐藤さん、お酒お好きですもんね(笑)やはり職人気質という面では共通点があるかと思いますが、そこには幼い頃の原体験などはあるのでしょうか。
親は浅草橋の鞄問屋でしたが、周りに職人さんがいた訳ではないので原体験は特にありません。ただ、幼い頃から絵が好きで絵ばかり描いていましたし、吹奏楽やバンドで音楽にも親しんでいましたので、優れた芸術家は憧れの存在でした。今は伝統工芸なんかを作っているいぶし銀の職人さんをテレビで見るとカッコイイなあと思います。根はデジタル系ではなく、完全にアナログ系ですよ。
――今回手掛けられた『AMAZING SPIDERMAN』での仕事内容を教えてください。
スパイダーマンには、デベロップメントメンバーとしてスタッフ総勢10名程度の頃から参加しました。最初にテスト映像としてリザードの腕だけのアニメーションを作ったのは、プロダクションショットが始まる半年前でした。その後、アニメーション・スーパーバイザーとしてランディ・クック(『ロードオブザリング』のアニメーションディレクター)が加わり、しばらく2人でスパイダーマンやリザードのテスト、ティーザー用のアニメーションなどを作っていました。
ちなみに最初のティーザー(スパイダーマンがビルの上をカメラ目線で移動するもの)のアニメーションは、カメラや鳩も含めて僕が独りで作りました。鳩のアニメーションはスマーフスの時に僕が作ったものを、そのまま流用しています。
監督からの要望の中で難しかったのが、「スパイダーマンお決まりのポーズはできるだけ使わずに、普通のお兄ちゃんがやっている感じ。でも斬新に」というものです。つまり前の3作で固定されたイメージとの差別化を、アニメーションの中でも図る必要があった訳ですね。難しかったといえばその程度でしょうか、結果的にはどうだったんでしょうねぇ。
――実際に渡米して大変だったことは何ですか?
渡米の際は若かったので「自分でやれないはずはない」という気持ちでいました。自信というよりも希望に満ちていましたから、失敗を恐れる余裕がなかったんです。簡単にいえば "勢い"でしょうか。チャンバラを覚えて慢心した田舎侍が、居ても立ってもいられず都へ腕試しに行った心境に近いですね。
一番大変なのは、英語でのコミュニケーションです。一対一の会話ではさほど困りませんが、大勢の前で話すのは今でも苦手ですし、複数の人が活発に議論する状況では話についていくのがやっとで、発言する機会を逃す事があります。
あと、家族での海外引っ越しは骨が折れます。家、家財、車、保険、学校など。売ったり買ったり借りたり、仕事以外のものが多いですね。また、僕自身は幸運にも仕事探しで苦労した経験がそれほど無いですが、やはりレイオフ、ビザ取得、転職などで苦労しているアーティストも多いです。
――佐藤さんは、再度日本で働きたいという思いはありますか?
もしあるとすれば、どのようなお仕事でしょうか?
いつか日本に帰るつもりです。僕のようにアニメーションに特化したCGクリエイターは、日本では職種としてほぼ存在しないので、周到に準備しないと難しいでしょうけど。
方向性としては2つあります。1つは日本発で 「世界中で売れる作品」にコアメンバーとして携わること。もう1つはハリウッドの第一線の仕事を受注できるチームを作ることです。いずれにしても独りでは出来ないので、優れたクリエイター、特に海外とやりとりできるプロデューサーと組めたら良いですね。
あと仕事場としては、自然に恵まれた場所にサテライトスタジオを作れたらと思っています。僕は魚が好きなので、南房総とか伊豆半島とか。最近はネットワーク環境がどんどん進化していますから、ロケーション問わず働ける環境がますます整うのを期待しています。「何を寝ぼけたことを」と思われるかもしれませんけど、まずは夢ありきといったところで。
――ハリウッドの人々は、アジアのCGの人材をどう捉えているか、ご意見をお聞かせください。
アメリカで働いているアジア人は「勤勉、仕事が丁寧」という点で高い評価を得ていて、イメージワークスでも韓国人を筆頭に多くのアジア人が働いています。一方、言葉や気質的な理由でコミュニケーション能力にハンディを感じます。
アジアのCGプロダクションについては、コスト削減を主な目的に、現在インドやシンガポールなどに、ハリウッドの仕事が外注や支社設立という形で流れています。劇場用の長編映像は欧米で作り、ビデオリリースやテレビシリーズなど制作費が少ない仕事はアジアで作るという図式が成り立っています。
あるいはマッチムーブやロトスコープなど比較的地味な仕事はアジアで、という傾向もあります。個人的にはその辺りを改善したいのですが。
――日本の若手クリエイターと、海外のクリエイターで違いはありますか?
あるとすれば、どこが違いますか?
最近の日本人の若手クリエイターがどんな感じなのかよく判らないので、正確な比較はできません。しかし、こちらのアニメーターはポジティブ思考で、自信に満ちている人が多いです。それが良いかどうかはともかく、おしなべて謙虚な日本人とは気質的に違うなぁとは感じます。
ちなみにニュージーランドの人々は、どちらかと言うと日本人に近かったので、その辺はお国柄でしょうか。能力的には、どちらが上ということは無いと思います。ただ、日本では能力を発揮できる環境が、こちらに比べると少ないかもしれません。
――ハリウッドでクリエイターであり続けるためには、何が重要でしょうか?
「いい仕事をする!」ではなく「いい仕事をし続ける!」です。「いい仕事」というのは単に質(Quality)だけではなく、量=早さ(Quantity)も含まれます。その両方を高いレベルで維持するのが重要ですね。自分が常にそう出来ているという訳ではありませんけど。
あとは、ある意味職人に徹すること。自分の感性やスタイルよりも、監督が欲しがっているものを理解し、それにちょっとプラスしたものを提供すること。円滑なコミュニケーションも大事だと思います。優れたスキルがあっても、チームプレーヤーとしてやりにくい人は、次に声が掛からないことも多いので。それはハリウッドに限ったことではないですが。
――テクニカルな部分と、クリエイティブな部分、海外で自分を売り込む上で、どちらがより重要ですか?
CG制作全体を見るなら、どちらもハイレベルである必要があると思いますが、僕が携わっている映画製作の現場では分業化されているので、分野によって必要とされる物の度合いも違ってきます。
例えば、僕がいるアニメーションチームには、テクニカルな面をバックアップしてくれるアニメーションサポートというチームがいるので、アニメーターは純粋にクリエイティブな面に没頭できます。それに対して、開発などに携わる人は当然テクニカルの比重が高くなると思います。また、シェーダーライターやエフェクトアーティストなどは、両方の能力がバランス良く求められると思います。
いずれにしても自分を売り込む際は、自分は何と何が得意であって自分が雇う事が会社にとってどれだけプラスになるか、という事を具体的に伝える必要があるでしょうね。「何でもいいから、とにかく雇って欲しい」という売り込み方では失敗してしまいますから。
――TBS DigiCon6という映像コンテストでは、若い才能を発掘する試みをしています。もし佐藤さんが審査員をされた場合、作品のどこに注目しますか?
先ほどの内容と矛盾するかもしれませんが、コンテストの場合、まず期待するのは規格外の発想力や独創性です。次に、それを映像作品として昇華させる演出力や技術力です。プロの作った作品のように、ソツなくまとまっている必要はありません。ストーリーや演出であれ、アニメーションや映像表現技術であれ、何かキラッと光る突出したものを評価すると思います。
――今回、CG業界におけるフロンティアのお一人として、インタビューをお願い致しました。佐藤さんのように、海外で活躍する方に憧れる日本のクリエイターは非常に多いですが、そんな若者に何か1つアドバイスをお願いします。
まずは自分が本当にやりたいことを見極めて、ターゲットを絞ることが大事だと思います。それがわかったら頑張って腕を磨く。そして自信をつける。多少勘違いでもいいから自信をつける。すると簡単に諦められなくなる。それが結果に繋がってくると、また頑張る気持ちが湧いてくる。つまりプラスの連鎖。これが大事だと思います。
聞き手: TBS Digicon6 川鍋 昌彦(かわなべ まさひこ)
執筆:フリーライター 蓬莱 早苗(ほうらい さなえ)
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