『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』CG制作現場発 はじめてのFlow Production Trackingと熟達の3ds Max技術
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『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』(以下、『キルケーの魔女』)では、前作にも増して制作工程の中で3DCGの比重が高まることが予想されたため、3DCG制作チームの再構築が行われた。実際にエンドクレジットを見ると、CGに関連する部分だけでも20社以上のプロダクションやフリーランスのスタッフが携わっており、改めてその規模の大きさを実感する。制作にあたってはFlow Production Tracking(以下、Flow PT)を導入し、主にショットワークの遣り取りに活用した。今回はCGの中核スタジオとして機能したIKIF+とサンライズスタジオのスタッフやクリエイターにFlow PTや3ds MaxなどのAutodesk製品群の感触を聞き、作例とともに解説をして頂いた。
取材にご協力いただいた制作スタッフの皆さん
前作を上回る徹底したリアル志向で作られた高級感溢れる画面設計
『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』第1章では従来の日本アニメでは見ることができなかった実写的な画面作りが話題となった。それを可能にしたのは村瀬修功監督自身によるリアルな画面設計だった。監督が自らCinema 4Dを使用し3Dレイアウトを構築したシーンもあったというだけでも十分画期的だった。
本作『キルケーの魔女』から参加した演出家の金子祥之氏は「とにかく満足度の高いフィルムで、一度では理解しきれないほどの情報量。それをもっと知りたいがために何度も観てしまう吸引力を持った作品でした」と、その印象を語る。
本作ではその特徴をさらに推し進めた画面作りを村瀬監督が追求し、ワークフローもそれに対応すべく多くの部分で再設計が行われた。村瀬監督は自ら3D空間上でVコンテを作り、そこで一旦芝居や光源を決めた。そのリアル志向たるや、地球の曲率をシミュレートし、Cinema 4DのPhysical Skyを使用して太陽の位置や時間帯などから、リアルスケールの正確なライティングを構築したほどの徹底ぶりだ。そのデータをFBX形式で出力し、LightWaveや3ds Maxにコンバートして、3DCGアニメーターが作画ガイド兼背景原図となる3Dレイアウトを起こす。柴山一生氏は3ds Max側でのCGリードアニメーターとしてこれらをチェックする役割を担ったが、驚くべきは村瀬監督の精度に対するこだわりだ。"正しいレイアウト"を追求するため、ウソはギリギリまで許されない。cm単位の修正も繰り返されたという。
濱中氏は「顔のアップを狙ったりモビルスーツ(以下、MS)を画面の真ん中に据えるのではなく、広角レンズで状況を映す画作りを重視されていたのだと思います」と語る。その結果、前作以上に映画的な高級感のある画面が作り出され、観客の反響からその画作りが成功だったことがうかがえる。演出の金子氏は村瀬監督が出席する打ち合わせに可能な限り同席し、監督の考え方を自身に落とし込み、OKを出すラインを同一にし、監督が別業務のチェックに回っている際も制作現場が滞ることなく進行できる状態を作り上げたという。
すべてのアニメーションカットのワークデータをFlow PT上に集約
前作の制作現場では主にアセットや進捗の管理を一般的な表計算ソフトで行なっていたという。ところが制作が進んでいくにあたり作品の性質上、3DCGで対応する箇所が増えていき、表計算ソフトでの管理には苦労した経験があった。そこで本作では、3DCGのアニメーションカット制作の部分ではFlow PTを導入した。
その経緯を秋山氏は次のように語る。「3ds Maxを使用したアニメーション作業をカット毎に並行して数社の外注先へ依頼し、そのあがりを管理する上でFlow PTないしはそれに類する管理ソフトの導入は必須でした。そこで以前よりサンライズデジタルクリエイションスタジオ(現:サンライズクリエイション課)でFlow PTを使用していた佐藤(晃義)さんにリードしていただき、そこでのノウハウを採り入れつつ本作用に調整してもらいました」
Flow PTはアニメーションのカットワーク管理に使用された。まず1st Takeでは柴山氏がCGレイアウトチェックを行ない、柴山氏のチェックが通ったTakeを演出の金子氏がチェックする。その後、監督やメカ作監陣との立ち会いチェックを行い、それまでのフィードバックを一旦集約、その内容をFlow PTにアップする。「『キルケーの魔女』のチェック項目はすべてFlow PT上に集約されるので、あちこちフォルダを探すことなくとてもスムーズでした」と語る金子氏。当時は演出としてCGの内容以外にも作画のチェックも同時に進行しており、さまざまな連絡事項が飛び交う中で「Flow PTだけを見れば良い状態」が維持されたことは仕事効率にも直結した。
濱中氏は「修正指示をテキストで入力することもできますし、金子さんのように指示を入れたムービーを直接Flow PT上に容量制限なくアップロードすることもできます。協力会社さんもそれらをクラウド上で見て、リテイクがあれば修正作業に入ることができるのは制作管理の面でも時短につながりました。深いフォルダ階層の底にデータが埋もれても、そこに必ずそのTakeのデータがあがっているという点はデータ管理をする側にとっても大きな安心材料です」と話す。
なお前述でも記載したように、本作ではアニメーションの方向性を決めるチェック段階では、メカニカルスーパーバイザー・玄馬宣彦氏、メカニカル総作画監督・中谷誠一氏、金子氏、村瀬監督ら4人が同時に映像を見ながら意見を出し合い、それぞれのクリエイターのこだわりを集約した内容を記録しフィードバックとした。
このチェック時に活躍したのがFlow PTの新機能「Creative Review」(public β)だ。プレイヤー上で新旧の異なるテイクを重ねて、透かしのように比較することができる(オーバーレイ/ゴースト表示)。テイクごとの微妙な差異を確認する上で非常に便利だったという。

クリエイティブレビューを有効にするには:
- 1. 管理者として、[アプリ]>[アプリの管理]を開きます。
- 2. 「アプリの管理」画面で、「クリエイティブレビュー」の設定メニューを開きます。
- 3. 概要タブで、クリエイティブレビューを有効にします。
※「Creative Review」参照元
https://community.shotgridsoftware.com/t/autodesk-s-creative-review-public-beta-has-arrived/20100
「新たにFlow PTに搭載して欲しい機能」について尋ねたところ、異口同音に「スタンプ機能」と返ってきた。本作は外注スタッフも多く関わっていたのもあり、チェックバックについてのコメントもメールのようにかしこまって書くプロトコルが浸透していたようだ。「OK」をボタン一つで返事できたり、絵文字やスタンプのように遊び心がある機能が搭載されることで、和やかな雰囲気とともに時短にもなるのでは、という意見が多くあがった。
20年以上の3ds Maxユーザーが語る魅力的な機能
MSのモデリングとリギングにおいては、3ds Maxが中心的な役割を果たした。本作のMS制作においては10人ほどのモデリングアーティストが関わっている。それぞれのDCCツールでベースモデルを作成し、それらすべてをCGモデリングディレクターの石田龍樹氏(IKIF+)のもとに集約し、CATでセットアップを行った。
石田氏は2003年リリースの3ds Max 6から、20年以上にわたって使い続けている3ds Maxのプロフェッショナル。CATも2009年に3ds Maxに導入された当初から使用し続けている。
本作では3ds Max 2022を使用。3ds Maxの魅力的な機能としてモディファイヤ機能を挙げた。非破壊編集であること、編集履歴として活用できる点がモデリングやリテイク作業でも重宝したという。モデリングチェックの際には、調整をおこなったモディファイヤを重ねてリテイクの方向性を示すといった使い方をしたそうだ。
「どちらの形状が良いか迷った際もまずは試してみてモディファイヤのオン/オフで見比べるなど気軽に使えるのも便利です」(石田氏)
また、重み付けされた法線モディファイヤによる法線編集機能の強化、データチャネルモディファイヤ(Data Channel Modifier)のデータ変換機能、Open Shading Language (OSL)マップが充実していることを利点として挙げた。本作ではMSを画面に映す際に、距離感によって線の量(粗密度)を変えている。Pencil+4でもラインの太さを調整することはできるが、OSLマップを使いカメラからの距離を検出することで精密にコントロールしている。
ラインの描画にはもともとPencil+4 の「選択エッジにラインを描画する機能」を使用しているが、データチャネルモディファイヤを使用してその選択情報を頂点カラーマップに変換することで、マスクの作成が容易になり作業短縮になった。
中谷氏と玄馬氏が特に気を配ったのはオブジェクトの「面取り」だった。実際の工業製品は角がわずかに丸まっており、角が尖っていることは稀であるため、MSを工業製品としてリアルに表現する上では欠かせない作業。また、シェルフ・ノズルなどの面構成が複雑なパーツでは、必要なラインと不要なラインをより分けつつディテールアップを行うことが求められた。
MSを歩かせるための足首リギング
リギングは先述の通りCATを使用した。「MSは基本的に人型なのですが、関節の数や配置が人型から逸脱している部分もあるので、よりフレキシブルな構成ができるCATが重宝しました」と石田氏。
特に力を入れた部分を尋ねると、グスタフ・カール00型とメッサー系統の足首の可動を挙げた。このリグの仕込みは「MSを無理なく歩かせたい」という村瀬監督からの要望を受けて取り組んだという。中谷氏が第1章の際に作成した設定をベースに、全高22~23mのMSが歩いたときの足の着地の仕方や足を下ろすスピードなどをメカ作監陣の意見を踏まえつつ研究し、めり込まないようなリギングを試行錯誤した。足首は一見すると人間の足と同じように見えるが、踏み抜く時はつま先が接地しつつ、かかとが上がったあとで後ろの部分が上がるような人体の動きをトレースする構造になっている。位置コンストレイント、方向コンストレイントを入れ、スクリプトコントローラーによる制御によってつま先と踵の整合性を合わせる、といった複雑な構造を実現するためのさまざまな工夫が詰まっている。作中では一人称視点が印象的なアバンにて、グスタフ・カール00型に踏み潰されそうになる場面でこれを拝むことができる。出来栄えには村瀬監督・中谷氏・玄馬氏らを満足させることができたそうで、「今後のMSの歩き方や走り方の財産になる」との言葉をもらったという。
3DCGなくしてこの映画の作り方はなかった
ビームの残光や爆発などのエフェクト制作においては、3ds Max標準のParticle Flow(PFlow)とプラグインのtyFlowを併用して作成した。技術として熟れているPFlowは協力会社や外部のスタッフと共有し、類似のエフェクト作成に利用してもらったという。PFlowを使い慣れている柴山氏は仮エフェクトの作成に利用。「Particle Ageが適用してくれるので、色や不透明度の変化を作るのが容易でした」(柴山氏)と使い勝手の良さを語る。一方で石田氏はEvent内のレイヤーの視認性を高めるため、tyFlowを多く利用した。
「これほどまでに3DCGが根深く使われているセルルックのアニメは類例が見当たりません。最終ルックこそセルアニメですが、そこには村瀬監督が思い描く空間演出の仕方があり、3DCGなくしてこの映画はなかったと思う刺激的な作品でした。とても良い経験ができたと思います」
「村瀬監督の画面作りの意識の高さにとても引っ張っていただけた現場だったと思います。画に対して嘘をつかずに画面を良くすることに厳しさはありましたが、やり切って出来上がった映像は確実に良くなっていました。思い返してみれば、ミニチュアを作ったりとアナログ的な泥臭い作業を結構していて、それがこの作品の画面の豊かさに繋がっているのではないかと思います。この意識は今後の様々な仕事に必ず生きてくるのではないかと思います」
TEXT:日詰明嘉
EDIT:バンダイナムコフィルムワークス、IKIF+、オートデスク



































