チュートリアル / Mayaプロフェッショナルモデリング
第2回:Mayaでモデル制作 前編
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こんにちは、SAFEHOUSEの坂田です。
前回は【リファレンス収集とMayaでの図面配置】で資料集めについて濃い記事を書かせて頂きました。読んで頂いた皆様ありがとうございます。
今回のコラムではいよいよMayaを使用したモデル制作について説明していきます。
基本的な部分から仕事で実際に意識する部分、僕個人のこだわりなど、より深く解説していければと思います。
よろしくお願いします。
ラフモデル制作
前回では一通り資料を集めたあと、MayaのImage planeを使って図面を配置しました。
今回はまず、それらの図面を元にラフモデルを制作していきます。
そもそもラフモデルを制作する理由ですが、全体のシルエットや印象確認が主になると思います。
例えば、ある程度モデリングが進んでディテールを入れるような段階で形状のミスや全体の違和感などに気づくと、修正はかなり面倒なことになります。
また、仕事ではリードやスーパーバイザー、クライアントなどと擦り合わせながら作業を進めることがほとんどです。いざ制作したものを提出して大きな修正が入ると、ハイモデルを制作してからではかなり大きなロールバックが発生します。
そういった大きな修正を防ぐこと以外にも、ラフで全体的に一度軽くモデリングする事で、自分の中である程度スケジューリングして納期までの目安を立てることにも役立つと思っています。
事前にラフモデルを作ることで、より効率的に高いクオリティーを目指すことができます。
今回は静止画ですが、プロップによってはパーツをアニメーションさせることがあります。
銃などの場合は、射撃を行うだけでも色々なパーツが可動します。
ゲームや映像制作ではラフモデルの段階で一度アニメーターにデータを共有して仮アニメーションを付けることがあります。
その場合パーツがどのように動くのか、実際に動くような構造になっているか、などをラフモデルの段階で確認しておくことで、アニメーター修正やハイモデル以降の修正を減らすことも出来ると思います。
それ以外にもパーツの構造を把握して、作品内では動かさないパーツも実際動かしても大丈夫なようにモデリングしておくことで、より説得力のあるモデルになります。
今回、アニメーションは付けませんが、稼働パーツの確認をしたいので、そういったパーツは別オブジェクトとして分割しておきます。
作品によってはリロードなどのアニメーションを付けるために銃とは別途のプロップとしてマガジンや弾薬なども用意する必要があるかもしれません。
ラフモデルを制作することで、そういった追加作業の確認にもなると思います。
それでは、さっそくラフモデルの制作に取り掛かります。
ラフモデルでは細かいディテールなどはモデリングしません。
基本的にオブジェクト同士が干渉しているようなぶっ刺しモデリングで大丈夫です。
曲面なども最低限のシルエットが分かる程度のポリ数があればOKだと思います。
前回のコラムである程度リファレンスを集めましたが、より詳細な物を集めるとなると、事前の準備では少し難しいと思います。
どの程度作りこむのか、またどの部分が映るのか、などは作業が進まないと分からない部分が多いです。
しかし、ラフモデルを作ることで、どこが映ってどのリファレンスが足りてないのかを把握することができると思います。
中にはパーツをアニメーションさせることで、見え方が変わってくるパーツも存在します。
その場合は追加でリファレンスが必要になる場合があるので、少し注意が必要です。
これでラフモデルは完成です。
最後に色んな角度からモデルをチェックして、事前に集めたリファレンスと印象に大きな違いがないか確認してみましょう。
もし、何か異なる部分などがある場合はこの段階でモデルを修正していきます。
ラフモデルを作成したところで、次に前回集めたリファレンスを見ていきます。
足りないリファレンスの補完
前回のコラムでリファレンスについて濃く言及したように、今回のような実在するプロップのモデリングは、ほぼ事前に集めたリファレンスでルックが決まります。
しかし、先述のように事前にパーツ単位のリファレンスを集めるとなると中々難しいです。
リファレンスを集めるにつれて、パーツの名前が分からない、そもそもどうやって調べていいか分からない、といったことが発生してくると思います。
僕も仕事でモデリングするときによく名称用途不明のパーツが出てきて困ります。
大体の銃は名前で検索するとwikiやエアガンの商品ページが先頭にきますが、中にはモデルガンや実銃のレビューブログが下の方に紛れている場合があります。
日本のブログであれば、各種パーツ名や役割など、日本語で記載されているので、パーツの役割やパーツ名で検索するときなんかに役立ちます。
海外のレビュー記事であれば、そもそもパーツ名も英語で記載されてるので一々英語に変換する必要がありません。
銃の名前とパーツ名で検索すると、海外のガンショップページやより詳細な海外のレビュー記事なんかに辿り着けるので、ここまでくると画像収集には困らなくなると思います。
ここまではネットでの検索方法ですが、個人的に最強のリファレンスは雑誌や写真集などの書籍だと思います。
銃の雑誌などは月毎ある銃の特集が組まれるので、目当ての情報が載っている可能性が多いです。
そういった書籍類は画像だけでなく、文章でも詳細に解説されているのでオススメです。
また、基本的に書籍は目当てのもの以外についても詳細に記されているので、ピンポイントな情報以外のサブ知識を得る場所にもなります。
そのようなサブ知識は今回のような銃以外のモデリングや、オリジナルデザインのアセットのモデリングなどで非常に役立ちます。
そしてネットのようにサジェストが他の同名コンテンツでまみれるようなこともありません。
ミッドモデル制作
前回に引き続き、ここまで長々とリファレンスなどについて話してきましたが、ようやく本格的にモデリング作業に入っていきます。大変お待たせしました。
今回はまずミッドモデルを制作していきます。
ミッドモデルの定義ですが、プロジェクトによって異なり、ラフモデルやハイモデルのようにそれほど明確な物がありません。
なので、今回はローモデルとハイモデル両方のベースとなるような物として認識して下さい。
ハイモデルとまではいかないですが、ローモデルでは必要のないディテールまで用意する、といった感じです。
今回のミッドモデルでは、基本的にエッジのベベル処理は行わず、ハードエッジを使います。
ですが、画像のようにある程度大きく丸みがかかったエッジはミッドモデルの段階で、できる限り表現していきます。
シルエットに影響するようなディテールやベベル処理は基本的に全てモデリングしていきます。
実際にモデリング作業に入っていく前に、今回のように図面やリファレンスを見ながらハードエッジを用いてモデリングする際、気を付けなければならないことがあります。
それはリファレンスに使っている画像が実物由来の物である場合、金属光沢やハイライト位置、影や反射によって実際の形状とは少し異なって見えている可能性があるということです。
例えば、下の画像のエッジには強めのハイライトが入っています。
ハイライトが入っていると言うことは、エッジに丸みがあると言うことなので、後でベベル処理が必要になります。
そして画像のエッジをよく見ると、ハイライトは曲面の少し下の方に入っていることが分かります。
そのため、ベベルする前のエッジの正確な位置はハイライトの部分ではなく、ハイライトより少し上の位置になります。
このように実物の画像などを用いる場合は、光の反射や影が無い状態を想像して、実際はどのような形状であるかを考える必要があります。
細かいことですが、これはモデルの印象に直結することです。
実際に僕自身モデリングが進んだ段階でモデルに違和感を感じるときは、大体このような形状の解釈違いみたいなものが原因である場合が多いです。
なので同じ箇所のリファレンスを複数集めて、よく観察しながら正確な形状を把握してモデリングしていくことが大切です。
それでは、早速モデリング作業に入って行きましょう。
全体的な印象を掴みやすそうな比較的大きなパーツからモデリングしていきます。
大きなパーツは後々モデリングするいくつかの細かいディテールに影響を与えるので先にモデリングしてしまいます。
ではまずスライドとバレル(銃身)部分をモデリングしてみます。
今回のP38はバレルが特徴的です。
現代の比較的一般的な、スライドに隠れたバレルの拳銃と異なり、大部分がスライドから露出していて円柱型のバレルが先端から伸びています。
また、バレルはスライドやフレームと複雑に噛み合って一体パーツのような形状になっています。
なので、最初は一体オブジェクトとしてモデリングを行い、ある程度形状ができた段階で分割する方法で進めてみます。
まずプリミティブから、スライド上部の曲面をモデリングしました。
ここでリファレンスをよく確認すると、前後で少し曲面の形状が異なることが分かりました。
取り敢えずスライドの大きく窪んでいる部分で適当に分割して、前後別々にモデリングしてみます。
ある程度形状が出来た段階で別々にモデリングしていたスライドパーツを結合します。
この時に頂点も繋いで一体のメッシュにしておきます。
次に、えぐれている部分を再現するためブーリアンを使用したモデリングを行なってみます。
ブーリアンを行う前に、対象のオブジェクトに非多様頂点が無いか確認しましょう。
非多様頂点や重なったフェースがあるとエラーの原因になります。
重なったフェースはクリーンナップである程度対処できますが、上の画像のような、2つの頂点で2本エッジを共有しているタイプの非多様頂点は探すのも処理するのも少し面倒です。
見つける方法の一つとして、3番キーを押してサブディビジョン表示にしたときに、スムーズされずに、縮んでしまうエッジがエラーを起こしているエッジです。
また多くの非多様頂点はUVにシームができるので、一度UVを投影して一つのシェルにまとめたあとにUV表示で確認すると分かりやすいかもしれません。
このタイプのエラーは対象の頂点を選択して、デタッチ→頂点マージでエッジの繋がりを一度リセットすることでエラーを解消することができます。
ただし、マージのしきい値が高いと余計な頂点まで結合してしまい、UVにもシームが入ってしまうので注意が必要です。
エラーを確認したところで、ブーリアン作業にはいっていきましょう。
Maya 2023以降、Mayaにはライブブーリアン機能が実装されています。
これは処理を待たずにリアルタイムでブーリアン結果を確認でき、ブーリアン中でもモデルの編集も行える非常に便利な機能ですが、一つ問題点としてポリゴンの裏面が見える状態の、いわゆる板ポリ状態のオブジェクトが使用できなくなっています。
なので事前に全てフェースで埋めておく必要があります。
では実際にブーリアンを行っていきます。
これらの処理を行なって画像の状態になりました。
リファレンスを確認すると、スライドの窪みの縁に強めのベベルが入っているのが確認できるので、こちらもモデリングしていきます。
ベベルはMayaの標準機能で行えますが、ベベルをする前にある程度トポロジーを整えておく必要があります。
先程ブーリアンした部分はエッジの位置が元のスライドと合っていません。このままベベルを行うと、トポロジーが滅茶苦茶になって少し修正が面倒です。
今回は簡単にトポロジーを修正しながらベベルを入れてみます。
次はスライドの曲面部分をモデリングしていきます。
後端の曲面はフレーム側までシームレスに曲面が繋がっていて、中央に切り欠きのディテールもあるので少し複雑に見えるかもしれませんが、スライド部分に限定するとほぼシンプルな半円形状です。
この曲面は上部が滑らかな半円になっていて、下の方に行くにつれフレーム側に流れるような形状になっています。
こう言った曲面部分は図面から正確な形状を把握するのが難しいです。
モデリングするときは必ず複数の角度のリファレンスを用意して印象を揃えながらモデリングする事が大切です。
それでは曲面部分をモデリングしていきます。
スライドの曲面がモデリングできました。
僕は今回のようにハードサーフェス系のモデリングにブーリアンを多用します。
ブーリアンは便利ですがエラーや予期しない挙動が多いので、事前にある程度対処することが大切です。
面倒なブーリアンの前には必ずシーンの別名保存をはさむことをオススメします。
今回はここまでです。
次回はMayaでモデル制作の後編になります。
今回の記事は本来一本でまとめて公開する予定でしたが、想像以上に内容が多くなってしまい、文字数がヤバいことになってきたので一旦ここで区切って前編後編に分けることになりました。
少し中途半端なところで区切ってしまいましたが、次回も引き続きよろしくお願いします。