トレンド&テクノロジー / VFXの話をしよう
第5回:今さらですがVFXとはなんだ論 2

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「VFX」という名称がいつから使われ始めたかご存知だろうか。私の知る限り、91年公開の「ターミネーター2」あたりだったと思うが、その呼称を決定的に印象づけたのは93年の「ジュラシック・パーク」だろう。現代に古代の恐竜が蘇るという、およそ従来の合成手法だけでは表現が難しい映像世界をデジタル技術を駆使して見事に再現したのだ。もちろん、同作品には多様な一級のSFX技術も駆使されているが、やはり目を見張ったのはフルCGで作られた恐竜が無数に草原を走り回ったり、人間を襲ったりといった数々のデジタルシーンだろう。

この作品が画期的だったのは、たくさんのデジタル合成はもちろんだが、従来はSFXが担って来た他の部分をCG技術で処理したことなのだ。決定的なのは恐竜そのものをCGで表現したことだ。従来、映画の中で恐竜を表現すると言えば、RKO時代の「キングコング」以来の伝統的なストップモーションアニメか、日本流の着ぐるみしか選択の余地はなかったのだが、ここに来て「3DCGアニメーション」という新たな手法が生まれたのである。

この映画以後、「3DCG+デジタル合成」の手法によって、様々な表現が生み出されて行った。「タイタニック」では沈むタイタニック号が旧作では表現できなかった視点で描かれたし、「グラディエーター」では古代ローマの街並がフルCGで描かれ、「ロード・オブ・ザ・リング」ではフルCGの人間(?)までをも作ってしまった。

これらの例は、VFX以前であればミニチュア撮影、マットペインティング、アニマトロニクスや特殊メイクといった技法で表現したであろう。しかし、デジタル技術を用いることで従来は不可能だった映像表現が可能となったのだ。3DCG+デジタル合成という技法の確立が、「SFX」とは別に「VFX」が新たな特殊効果の分野に認められた理由なのだ。

ここで当初の疑問に戻ると
「じゃあVFXなんて言わないでもCGでいいんじゃない?」

確かに、VFXの手法の特徴がCG技術ということであればそれでも良いし、間違ってはいない。でも、そもそもVFXの意味は「視覚効果」であり、映画の演出上、効果がなければ必ずしもCGである必要はないのだ。沈む船の全体を見せないのであればCGを使う必要はないかもしれないし、古代ローマが舞台でも設定が密室であればCGで街並を作る必要もない。ちょっと変わった顔をしているだけなら特殊メイクでも十分だったりもする。もちろん、そうなればVFXの出番は少なくなりSFXが主体となるし、そういう選択肢は現在も日常的に存在するし、多分この先も変わらないだろう。でも、映画というものは常に新しいイメージを求めるし、ビジネスである限り予算もスケジュールもつきまとうものだ。そんな現実にあって、今やデジタル技術を無視して新しい映像表現を生み出すのはなかなか困難になっている。そのため、どんなイメージでもデジタルはつきまとってくる。沈む船は見せたいが「タイタニック」ほどの予算はないとか、江戸時代の街並の実景は欲しいが手前のセットしかないとか、怪物は作りたいがフルCGで作るほどの時間の余裕はないとか、などが現実的な相談事なのだ。

「VFXスーパーバイザー」はこんな現実的な縛りの中で、デジタル技術をベースにして最も監督の求めているイメージに適う方法論を考えなければならない。しかも予算やスケジュールも考慮しなければならない。前述の相談事で言えば、沈む船はミニチュアにして海だけはCGで表現しようとか、街並はセットから向こうについてはデジタルマットペイントで行こうとか、怪物はその映画にとっては要(かなめ)だから他の予算を回してでもフルCGで行こうとか、と言った決断を下さなければならない。

昨今の映画を見ても、じつはフルCG表現のVFXは案外少ない。でも、特に日本映画では「ALWAYS 三丁目の夕日」のようにミニチュアと3DCGといった複数の方法論をデジタル合成で巧みに組み合わせて高い視覚効果を得ている例もある。私が関わった「交渉人 真下正義」でも、暴走する架空の地下鉄車輛を1/8スケールのミニチュアセットでの実写とCGカットを混在させることで短い制作期間を乗り切ったりしている。VFXといえども、必ずしもCGを使うわけではないとは、そういうことだ。特にSFXはデジタル時代においてもあいかわらず不可欠なセクションであり、VFX側にとっても非常に重要な技法なのである。

最後のまとめとして、VFXとは「デジタル技術をコアにした映画のための視覚効果のセクション」であり、CGはあくまでも手段技法のひとつなのである。VFXを志す方に言いたいことは、CGの知識や技術力も必要だけど、それ以上に映画そのものに深い理解がないと勤まらないことを肝に命じておいたほうが良い。何故ならVFXだけでなく、撮影、美術、SFXをはじめ全セクションのスタッフがやっていることはただひとつ、「映画」を作っているのだから。

© 映像+/グラフィック社刊
現在、映像+に連載中 http://www.graphicsha.co.jp/

本稿は「映像+5」 2008年11月25日発行に掲載されました。
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