トレンド&テクノロジー / デジタルコンテンツの未来〜温故知新〜
第2回:松原 健二(株式会社SNK CEO)

2022.06.03
  • ゲーム
  • コラム
松原 健二 氏

CGと縁の深い方々にお話を伺い、デジタルコンテンツの未来を見通していく記事をお届けする本連載。今回は『ザ・キング・オブ・ファイターズ』シリーズや、『メタルスラッグ』シリーズで知られる老舗ゲーム会社・SNKの代表取締役社長CEO松原健二氏にお話を伺った。2020年にサウジアラビアのMiSK財団が大規模な資本参加をしたことで知られる同社。'21年8月よりCEOを務める松原氏は日本オラクルを経てゲーム業界に入り、いくつもの大手企業で社長を歴任した人物だ。社長の視点で見たゲーム開発と会社経営についてアニメ制作との比較を交えつつお話を語っていただいた。

【聞き手:野口光一(東映アニメーション)】
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MIT・MBAで経営を学びオラクルからゲーム業界へ

東映アニメーション/野口光一(以下、野口):松原さんは日立製作所でスーパーコンピューターの開発に携わられた後、マサチューセッツ工科大学(MIT)の経営大学院へ留学をされたそうですが、日本の大学との違いやMITの雰囲気を教えていただけますか?

松原健二(以下、松原):アメリカで勉強すること自体も初めてでしたので、先生と学生が互いに発言しあいながら進んでいく授業のダイナミックさに圧倒されました。私が進んだのはMITの経営大学院で、ここには世界中の企業で経験を積んだ人が集まってきます。アメリカやヨーロッパ、南米やアジアなど、人種や文化的なバックグラウンド、出身業界にも多様性がありました。

野口:互いに発言しあうというのはどのような形で進んでいくのでしょうか?

松原:たとえばケーススタディを用いる科目ですと、事前にケースという課題文書が指定され、授業までに読んだ上で「この会社はどうしてこういう判断をしたのか?」、「あなただったらどうするか?」、「どういう数字をもとに考えるか?」といったことを授業のなかで議論をしていきます。ケース事例の文章は短いもので10ページ、長いもので30ページほどあったので予習が大変でした。

野口:そこに正解というのは用意されていないんですよね?

松原:そうですね。実際に起きたことをケーススタディとしているので、「この会社はこういう判断をしたけど、あなただったらどうする?」という聞かれ方をします。判断のプロセスを学んで自分の将来に活かすわけです。そこで得た知識そのものが社長として役立つことは当然あるのですが、自分から手を上げて意見を言って、先生と遣り取りをした経験は、より大きな経験として自分の中に残っていると思います。

松原 健二 氏

野口:MBA修了後、帰国をされて入社されたのはデータベース企業の日本オラクルですね。

松原:留学をしたことでアメリカの雰囲気に惹かれ、帰国してもアメリカの企業で働きたいと思って入社をしました。データベースで世界No.1シェアを持つ企業で働くのは貴重な経験でした。というのも、No.2以下はNo.1を追いかけていけば良いわけですが、No.1の企業は追いかける先がありません。そこでは自社が判断してビジネスを作っていく必要があり、その技術が置かれている環境や世の中がどう変わっていくかを考えながら、顧客に説明しサービスや製品を届けていきます。「データベースはこのような形で社会に役立つ」、「こういう形になることをお客さんは求めている」といった事象をきちんとモデル化して、そこからプロダクトをしていくわけです。マーケティングも技術側からのアプローチで構築してお客様に提案するという提案の仕方をしていました。様々な場面で「No.1の方法」に驚く機会が多かったですね。

野口:その後、2001年に転職をされてコーエー(現・コーエーテクモゲームス)に入社をされました。データベースの会社からゲーム会社への転職となりましたが、どんなきっかけだったのでしょうか?

松原:ちょうどインターネットの時代がやって来たのがきっかけでした。私自身、学生の頃からeメールやネットの掲示板を使っていましたし、アメリカでも日本でもインターネットを活用したさまざまな企業が生まれてきたので、この技術で世の中が変わっていくだろうと考えました。そこで自分も何か開発をしたいと思っていたところ、インターネット上でゲームを作ろうとしている会社があるというお話を伺いました。通販のように、すでにあるものをネットに持ってきたのではなく、全く新しいインターネットのサービスを作ろうとしているところに興味を惹かれ、コーエーを訪問したところ創業者の襟川ご夫妻からお誘いを受け、そこでコーエーに入社をしました。

野口:それまでどのようなビデオゲームを楽しまれて来たんですか?

松原:それが私自身はゲームの文化に触れてこなかったんです。コーエーに入社した頃はゲームを理解するために、会社でも暇さえあればPlayStation 2を立ち上げていました。そうしていると部下が「ちゃんと仕事をしていますね」と言うんです(笑)。「どうしてこんなにゲームを知らない人がコーエーに入ってきたんだろう?」と思っていただろうに、よく我慢して一緒に仕事をしてくれたなと思います。ただ振り返って考えてみると、コーエーは主にシミュレーションゲームを作っているので、開発者もやはり思考型の人材が多く、それが私にとっても馴染みやすかったのかなと思います。これは個人的な感想ですが、社風や社員とそこで作られるゲームはどこか近しいものがあると感じています。

松原 健二 氏

野口:当時、ゲーム業界には管理職級を他業種から呼ぶことは珍しかったと思います。しかもゲームに馴染みがなかった方となると、相当異例なことだったのでは?

松原:そうですね。コーエーは2001年に社長が創業者夫人の襟川恵子さんから小松清志さんに代わりました。その時期に私以外にもさまざまな分野でシニアな経験者を採用していました。私は開発マネージメントを希望していたので、『信長の野望Online』のプロデュース担当となりました。当時、オンラインゲームはまだまだ黎明期でしたが、多くのお客様に遊んでいただき、以降『大航海時代Online』、『三國無双Online』、『三國志Online』と展開していきました。

野口:松原さんはゲーム業界の外から招かれ社長までお務めになりましたが、昨今のゲーム業界において、外から招くとしたらゲーム制作にはどんな影響があると思いますか?

松原:さまざまなケースがありますが、最新のIT技術をゲーム業界にもたらすことで、開発においては影響が顕著に表れると思います。ゲームは多くの面で世界最先端の技術を用いた製品といえます。ハードウェアでいえば、PlayStation 5にはスパコンのプロセッサーよりも高性能な部分がありますし、ソフトウェアも映画とは違うダイナミックな処理をする部分があったりします。最新の技術が優秀なエンジニアによってコモディティとなり、オートデスクさんがそれをキャッチアップし、ビルトインすることで一般の方はどんどん使いやすくなる。その繰り返しですよね。特にその面においてはこれまでゲーム業界外の知識や技術が求められ続けてきましたし、それがあったからこそ、ここまでゲーム業界が伸びてきたのではないかと思います。

松原 健二 氏

サウジアラビアの財団の経営と多様性のあるSNK取締役会

野口:松原さんの現在のお仕事に話題を向けさせて下さい。その後、コーエーやジンガジャパン、セガゲームスでも代表取締役社長を歴任され、現在ではSNKのCEO(最高経営責任者)を務められています。どのような経緯でこちらに?

松原:ごくシンプルにエージェントを通じてでした。セガゲームスの社長を2020年3月に退任し、その4ヶ月後に退職をいたしました。その後、いくつかの企業でアドバイザーをしていたのですが、2021年の初めにSNKのお話をいただきました。サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子が設立したMiSK財団が、2020年11月にSNKの株式の33%を取得していたことは知っていましたが、自分が社長候補として呼ばれるとは思いも寄りませんでした。その後、MiSK財団のトップとオンラインで面接をして話がまとまりました。

野口:サウジアラビアの財団による経営はどのような状況なのでしょうか?

松原:取締役会が特徴的ですね。日本の会社の場合、取締役の多くは日本人で、それぞれの取締役が業務を執行しています。SNKでは取締役で事業を執行するのは私一人だけで、他の取締役はSNKの業務に直接は従事していません。国籍もサウジアラビア、イギリス、アメリカ、中国、日本といったグローバルな取締役会です。各人のキャリアも、セガ、ソニー・インタラクティブエンタテインメント、アクティビジョン・ブリザード、エレクトロニック・アーツ、パーフェクトワールド(完美世界)、37Gamesと、世界中のゲーム業界のノウハウがあるメンバーたちです。会話も日本語、英語、中国語の3か国語で進めるため、翻訳を含めて通常の倍くらいの時間がかかります(笑)。日本の会社だと普段から取締役同士もそれぞれの事業を理解していますからコンセンサスのレベルが高いのですが、ここでは資料をきちんと作らないと理解していただけません。その運用も含めて新しい経験をさせてもらっています。

野口:そのなかでSNK東京のスタジオではどのような展開をしていく考えでしょうか?

松原:東京は2021年の11月に開発拠点を立ち上げたばかりで、これから人員も増やし世界を目指す新しいIPの開発にチャレンジします。本社のある大阪、北京の開発拠点も増強しつつ、さらに欧米やアジアにも開発スタジオを開設していきたいですね。

松原 健二 氏

野口:現在、人材の交流はありますか?

松原:コロナ禍でしたので、海外国内とも十分な交流はできていません。北京はモバイル、大阪はコンソールをメインにした開発ということもあり、交流は今後の課題です。

野口:ワールドワイドな企業なので海外のビジネス展開も凄そうですが。

松原:『ザ・キング・オブ・ファイターズ』(以下、『KOF』)は、eスポーツの盛り上がりもあって海外でのブランド力は非常に高いので、国内と海外とが一丸となってビジネスを進めたいと思います。売上本数も海外比重が圧倒的に高くなっています。海外でのライセンスアウト(※1)も順調に伸ばしており、『KOF』がいかに強いIPなのかをSNKに来てから感じました。

(※1)ライセンスアウト
他社のゲームにキャラクターIPを貸し出したり、他社がタイトルの別ラインを制作販売したりする権利を販売すること。収入は契約によるが一般に利益率が非常に高い。

野口:『KOF』はキャラクターがあんなに大勢いるわけですから、IPの塊みたいなものですよね。

松原:お陰さまで『KOF XV』が好評を頂いているのですが、評価コメントに「よくぞ(追加で課金するダウンロードキャラクターではなくパッケージで)最初から39人も出した!」というものがありました。私自身もちょっと気前良すぎなのかなと思っているのですが(笑)。『KOF』キャラクター1人1人が立っていて、背景のストーリーもしっかりしているので、格闘ゲーム以外にも上手く展開していけると思っています。これはSNKに入る前から思っていたことですね。

野口:コンテンツビジネス業界では皆必死になってIPの開発をしているので羨ましがられるでしょう(笑)。アニメ作品の場合、映像の版権収入は国内のほうが多いのですが、ゲームの版権収入で言えば海外の割合が高い状況です。やはり海外は分母が多いので。

松原:なるほど。やはりゲームで動くお金は大きいですね。アニメと比べるとゲームはプレイするためにお金を払いますし、しかもユーザーには追加コンテンツまで買っていただけますから。ただ、だからといってアニメは無くてゲームだけでいいのかというと、そんなことはなくて。やはり物語を浸透させる上では映像の力は非常に大きいですから、アニメがあるからこそゲームへの展開が繋がっていきます。その点、東映アニメーションさんを含めて日本はアニメが強い環境にありますし、ゲームもそこに上手く連動しているので世界的に見ても強力な連携が成立していると思います。

松原 健二 氏

クリエイティブにマーケティングは必要か? クリエイターが知るべき3つの力

野口:以前、『ゲームクリエイターが知るべき97のこと』(第2巻。オライリージャパン刊:2013年)という本の中で、松原さんはゲーム開発者のキャリアを描くスキルを、「1)開発する力、2)仕上げる力、3)伝える力」(※2)と書かれていたのが彗眼だと思いました。これまでゲーム業界でこれらを念頭にクリエイターを育ててこられたのでしょうか?

松原:ゲームに限ったことではないのですが、「仕上げる」ことはビジネスに直結する話だと思いますので、予算やスケジュールのことまでしっかり考えていくのが本当の作り手だと思います。妥協すべきという話ではもちろんありません。ただ、どこかで仕様を仕上げてリリースに漕ぎ着けるという覚悟は絶対に必要です。

野口:リーダーがしっかり手綱を締める必要があるわけですね。

松原:リーダーだけでなくスタッフの理解も大切ですね。最初はどんどんアイデアを出してくるでしょう。でもリーダーは一定程度で「今度に取っておいて、そろそろ纏めよう」と動かなくてはなりません。なぜならアイデアは切りがないし、一方で面白さの調整やバグ取りの期間が製品開発には必要ですから。ただし、そればかりでは単なるスケジュールの管理者になってしまうので、きちんと良いものを作りあげることを前提に話した上で「これだけは守ろう」と伝え、開発の共有感を持たせるわけです。ゲーム制作は人数が多いので、そうしたモチベーションを維持しつつ上手く進行をさせて行く必要があります。そのときに「伝える力」があると、チームの力を伸ばし、さらに価値を高めることができるのではないでしょうか。

野口:映像づくりも同じですね。ある意味で諦めることも重要で、「ここでもう出すぞ」みたいなことがないと、いつまでも作ってしまいがちですから。

松原:そうですよね。ファンも待っていますし、延ばせばそれだけお金がかかりますからね。計画通りに行かないことはたくさんありますが、すべて行き当たりばったりではなく、あくまで計画を立てて、それに対する答え合わせをしていかないといけません。計画と答え合わせは社内の報告でも同様で、「何々を行ないました」ではなく、先月報告した予定に対して、どれだけの違いが生じたかを示すように求めています。そうしないと、上手く進んでいるのか問題があるのか、こちらとしても分からないんですよね。良ければさらに伸ばしていけますし、悪ければこちらも一緒に対策を考えるといったこともできますから。そういったコミュニケーションをするためには、少なくとも自分でどう判断しているのか、簡単な○×△的評価を言ってほしい。そこも「伝える力」に含めているつもりです。

松原 健二 氏

野口:「開発する力」に関連して、ゲーム制作は今や映画の3倍も5倍も開発費がかかるなかで、ヒットするかしないかがより重みを増してくるのではないかと思います。

松原:モノやサービスを作ってヒットするかしないかは当然あると思っていて、映画もそうだと思いますが、1つのヒット作の利益が他のいくつかの企画のチャレンジする費用を支えている状況なんですよね。エンターテインメントの世界に来てよりそれを感じました。

野口:世間からは博打だとよく言われますよね(笑)。

松原:なんで博打と言われるかというと、ゲームも映画もヒットしたときの利益が大きいからなんですよね。面白いと評判になればどんどんネット上などで広がっていき、ソフトですから損益分岐点を超えてからは、ほぼ利益になるわけです。エンターテインメントは嗜好品ですから、面白くなかったら逆に誰も見向きもしてくれません。家電と違って値段を下げれば買ってくれるわけでもありません。そんなふうにソフトウェアであることと嗜好品であることが結びつくと、当たり外れが大きく映るので、それを世間は博打と呼ぶのでしょう。

松原 健二 氏

野口:ヒットのためにはマーケティングが必要だとよく言われますが、ゲームやアニメ業界におけるマーケティングとは何か、頭を捻ってしまいます。エンターテインメント業界では先行事例をマーケティングしたところで、それを開発してリリースするときにはすでに時代遅れのものになっているとよく言われますし。

松原:たしかにバランスが難しいですね。それはSNKも今まさに直面している課題です。私が描いているマーケティングとは、ユーザーが何を求めているかということと、それに対して私たちがやろうとしていることのギャップを見つけて整理し、その上で何をすべきかの道筋を作ることだと思っています。SNKで言えば、新しいIPを創造しつつ、'90年代からの古いIPを再び輝かせるリヴァンプ展開を考えるのもマーケティングのひとつと言えるでしょう。もうひとつはユーザーセグメントをしっかり見極めることです。ゲームの場合は年齢や性別で区切っていくことが多いです。若い世代ほどアクションゲームが好きな傾向にあるとか、女性の方がRPG好きだといったデータがありますが、もう少しブレイクダウンしたデータを調べて決めていくのがマーケティングかなと思います。

野口:それはプロデューサーが行うのでしょうか?

松原:プロデューサーも入りますが、データ分析なども必要なのでマーケティング部門や経営企画部門などが協調しあっていきます。そこで方向性となるものを決めて、その先のクリエイティブがプロデューサーの仕事ですね。ゲーム業界も歴史が積み重なってきたのでレトロな雰囲気が欲しい層も存在します。例えばそういったターゲットセグメントが見つかったときに、作るプロダクトは最新3Dバリバリのよりも、もう少し手作り感がある表現だったり、おとなし目のものが合うことがあります。セガ時代の経験ですが、『ソニックマニア』というゲームでは「2D時代の『ソニック』ってやっぱりこうだよね」と思わせる作りになって、高い評価を得ました。ただ、このジャンルは脈がありそうだとデータで出ても、それが正解になるかはやはりゲームの出来栄えに依ります。そこではマーケティングで考えたものと合っているかどうかの答え合わせをする必要があって、マイルストーンごとにチェックしつつプロモーション施策を考えていきます。開発の人間が「こういうのを作ればいいんだな」と行けるところまでのデータを揃え、かつ会社の方針をミックスして展開して行くのが現在の作り方ですね。

野口:日本のゲーム業界も以前はそういった作り方はしていませんでしたよね。もっと属人的なパッションで開発して、それが偶然ヒットしたような……。

松原:おっしゃる通りです。レジェンドがいかんなくリーダーシップを発揮して作った作品が大ヒットしたというケースも以前はありましたね。ただ、現在においてもマーケティングからすぐにはヒット作が出てくるわけではないと思います。空いているエリアを攻めればいいというマーケティング的な意見もあれば、逆にお客さんがすでにいるところに斬新なものを入れて真正面にぶつけた方がいいという意見もあります。それらを理解した上で、作り手に考えてもらうのがいいかなと思います。

松原 健二 氏

野口:アニメのマーケティングはまた難しいところで、東映アニメーションでいえばマーケティングして生まれた作品は少ないと聞いています。

松原:アニメは歴史も長いですし、マーケティングで作られた作品はファンの方から予測されて見透かされてしまいますよね。

野口:今はユーザーの多様化が進んでいるので、さらに難しくなっています。

松原:そういう点でいえば先ほどお話したIPのリヴァンプをどうすればいいかという課題がありますね。私は個人的に『サンダーバード』の大ファンなのですが、これまでのリメイクはどれも満足できないんです。今、庵野秀明さんが『シン・コンプリート・サンダーバード』(※3)としてリマスターを進めているそうですが、庵野さんであればきっと素晴らしい作品を出してくれると期待しています。セガで一緒だった『龍が如く』元総合監督の名越(稔洋)さんのようなクリエイターと接して感じたことは、優れた作り手は自分のやり方が合っているかを確認する方法を自分でお持ちだということです。まずご自身が経験と感性から導き、それを一度出してみて周りの反応から確かめてさらに先に進める方法を編み出しているのではないかと思うんです。

(※3)『シン・コンプリート・サンダーバード』
1985年に庵野秀明がTVシリーズ『サンダーバード』の名シーンを編集した「ザ・コンプリート・サンダーバード」をリマスターし、音響作業を行なった映像作品。2022年にスターチャンネルで放送予定。

野口:確かに庵野さんも『シン・エヴァンゲリオン』の制作ドキュメント番組でスタジオの人からモニターレビューを受け取っていましたね。

松原:ゲーム業界では任天堂の宮本茂さんのお話が興味深かったです。2008年にCEDECで講演してもらったときにお話されたのですが、ゲームがある程度まで出来上がったらまず任天堂の社内でレビューを行なって、その後でマリオクラブ(※4)でまた客観的にレビューをしてもらい、そこからの課題点や良かった点を明らかにして修正をするとおっしゃっていました。それを聞いたときに、神様のようなゲームクリエイターであってもアイデアが降りてくるのではなく、地道に答え合わせをして進めていくんだと思いました。そういうのを普通の仕事としても身につけておられるっていうのがすごいと思います。自分の感性で作って答え合わせするというサイクルを作ると、ゲームを作りながらマーケティングをやっているような考え方なのかもしれません。もちろん最初には一般的な売り上げやビジネス状況のデータがありますが、それを踏まえながら上手く自分の感性と合わせて答え合わせしながら作るという方法が、日本人には案外良い線なのかなと思います。

(※4)マリオクラブ
任天堂の100%子会社でデバッグやモニタリングをする企業。

野口:最後にゲーム業界でいくつもの大手企業の社長を務められた松原さんから、若い世代に社長を務めて行く上での心構えをお聞かせいただけますか?

松原:そんなに教えられることは多くないのですが(笑)。やっぱり社長の仕事の多くは判断することになると思います。それも自分の後には委ねる人がいない状況で判断する。そのときに情報はすべて揃っているか、考え方のプロセスは皆と共有できているかを意識することが大事だと思います。これで進めるのか止めるのか迷うことはしょっちゅうです。大きな方針変更を指示したり、中止したプロジェクトがいくつもあります。クリエイターが頑張って形にしてきたアイデアを「頑張ってきたのは分かる。でも止めにしよう」と判断するのはとても辛いです。でもそこで先延ばしをするとお金が出ていくばかりでなく、優秀な人材の大切な人生の一部を実りがないことに費やしてしまうことになります。それが一番の責任になります。そういう後悔をしないように、自分が欲しい情報は全部出してもらうように求め、進むのか止めるのかを皆にきちんと「伝えられる力」が大事なのではないかと思います。

松原 健二 氏

松原健二

1962年生まれ。東京大学大学院 情報工学専門課程(修士)修了後、日立製作所に入社。米国マサチューセッツ工科大学経営大学院でMBA修了後、日本オラクルに入社。その後、コーエー(現 コーエーテクモゲームス)に入社後、2007年6月に代表取締役社長就任。以降、ジンガジャパン代表取締役社長CEO、セガゲームス代表取締役社長COOを歴任。2021年8月からSNKでCEOを務める。

Supported by Enhanced Endorphin
INTERVIEWER : 野口光一(東映アニメーション)
EDIT : 日詰明嘉
PHOTO : 弘田充
LOCATION :SNK東京支社

著者

野口 光一

野口 光一

東映アニメーション 
企画部 プロデューサー

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