Transformers Prime
吉平直弘氏 (ポリゴン・ピクチュアズ) Interview 「Smoke for Mac OS Xで作業フローを一新し、 世界レベルの品質要求と過酷なスケジュールをクリア。」
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日本製ロボット玩具から生まれた「トランスフォーマー」は、米国を中心にまず玩具として大ヒットし、いまやコミック、TVアニメ、劇場用映画等で世界へ展開している。そのシリーズ最新作が「Transformers Prime」(トランスフォーマープライム)だ。2010年秋から北米でTV放映が始まったこのフル3D CGアニメシリーズは、TVアニメの限界を超えた高品質なCGで全米のファンの支持を集めている。この人気作品のCG制作を担当している日本の3D CG制作会社ポリゴン・ピクチュアズでは、TVシリーズならではの過酷なスケジュールのもと、より高度な品質要求に応えるため「Autodesk Smoke for Mac OS X」を導入した。その背景と狙いについて同社の吉平直弘氏にお話をうかがった。
今まで作ったことがない高いレベルのクオリティを
ピクチュアズ 制作部
エディットデパートメント
リーダー 吉平 直弘 氏
――「トランスフォーマー」の米国向けTVシリーズを手がけた背景は?
吉平氏:直接のきっかけは「トランスフォーマープライム」のディレクターから指名されたからなんです。実は、以前当社がCG制作したあるテレビシリーズでディレクターを務めていた方で、当時の私たちの仕事ぶりを気に入ってくれたらしく、今回のプロジェクトが立ち上がった時「あの時のチームに任せたい」と言ってくれたんです。もちろん、こんな風に声をかけてもらえた背景には、当社のこれまでの海外営業や、実績に関する積み重ねがあったんだと思いますよ。
――かなり積極的に海外展開を行ってきたんですね?
吉平氏:そうですね。特に近年は積極的に海外市場へアプローチし、多くの作品を手がけてきました。それは技術的にも非常に勉強になりました。実際、海外の仕事はほとんど全てが競合で、最初にコンペティションのためのパイロット版を作らされるんです。それでまず価格と品質を比較され、1番優れていたCGプロダクションが採用されるわけですが、やはり"アジアのCG制作会社に任せて上手く行くのか?"というハードルは高かったですね。いろいろなコンペで、何度も落とされてはまた声をかけられという繰返しの中で、いろいろな作品を形にしていきました。そういう積み重ねが今回の「プライム」に結び付いたのでしょう。
――今回求められたクオリティは相当に高かったのでは?
吉平氏:何といっても「トランスフォーマー」は、世界の誰もが知る非常に著名な作品ですからね。実際「トランスフォーマー」と聞けば、みんな「おお~!」ってなるじゃないですか(笑)。しかも、具体的な映像として思い浮かべるのは、やはりマイケル・ベイ監督の劇場映画版に登場するあの凄い3D CGなんです。当然、私たちが作る「トランスフォーマープライム」の映像に対する期待値も高くなるわけで。それだけに当社のスタッフたちの意気込みもすごくて、今まで作ったことがないレベルのクオリティを出したい、という気持ちが漲っていました。もちろんTVシリーズである以上、とにかく週1本の放映ペースに合わせ、合計26エピソードを一定のクオリティで作って行かなければなりませんから、実際のCG制作はこの時間と品質の葛藤の連続でした。
――これまでにないレベルを目指す以上、取組み方も変わってきますね
吉平氏:ええ。TVシリーズとはいえ"子どもだまし"ではダメだと皆が思っていたし、何より"日本に発注したからこんなもんだ"なんて絶対に思われたくありません。社内制作体制も海外の制作スタイルを見習って一新し、いろいろ新しい試みにチャレンジしました。たとえばmental rayのシェーダー専門家を招いてシェーダー専業部署を作ったのも今回が初めて。ルック・デベロップメントの工程でクルマの金属の質感など今までにないハイレベルなシェーダーを開発し、海外など要求レベルが違う処でも通用するようにしようと考えました。
――具体的にはどのようにして?
吉平氏:ライティングやコンポジットのスタッフも、基本的にシェーダーをいじらないようにしたんです。シェーダーは全天候型というか、"現実にある物体"のように朝でも昼でも夜のシーンでも、ライトさえ正しくあてれば正しく見える、という風にすることで、メカの質感を自然に出そうというわけですね。やたらレンダリングパスを増やして、コンポジット作業を高度で難易度が高いものにするわけには行きませんから......、とにかくシンプルかつ高品質にするにはどうするか、とことん考えていきました。そして、そのチャレンジの流れの中で「Autodesk Smoke for Mac OS X」を導入することができました。実際Smokeの稼働後は、これを核にしたクリエイティブフィニッシングの新フローが大きな効果を発揮したと思います。納期とクオリティ両方を守っていく上で、すごく貢献してくれているという実感がありますね
かつてない高品質なレベルが要求されている
――Smokeはどのような課題を解決したのでしょうか?
吉平氏:実はこれは、個人的に何年も前から感じていた課題なんです。ご存知の通り、近年CGが求められるクオリティは、かつてない高度なレベルが要求されています。特に当社が海外市場をメインに仕事をするようになると、そういう品質要求が非常に強くなってきたんです。これに応えて、もっとハイエンドなCGを作っていこう、そのための仕組みはどのようなものだろう、と考えた時に、いつもネックになったのがこのフィニッシング工程でした。それまで私たちはこの編集作業を別のフィニッシングツールで行っていたのですが、ソフトもハードも古くて作業パフォーマンスが悪く、とてもTVシリーズなどのCG制作ラインに載せられない状態だったんですね。
――どのような問題が大きかったのですか?
吉平氏:たとえば、HDサイズの大きな画像で複雑な合成を行ってデータを出そうとすると、インポート/エクスポート双方に時間がかかってしまう。データ納品も増えているのに、入れたらなかなか出てこないというのでは困るわけです。また、そのツールはYUV形式だったので、YUV10ビットの中でどこまでカラコレやエフェクトを付けて追い込んでいけるか、という点でも問題がありました。時間がかかっても、RGBベースで合成した方が結果的に画像レンジが広く、リッチな画像を作れるんですよ。「トランスフォーマープライム」の計画が立ち上がり、レンダリングも全てリニア32bitで行い、合成もよりハイエンドなものを目指そうという流れになっていく中で、こうした問題が大きくクローズアップされてきたんです。
――フィニッシングの問題が重要になってくる?
吉平氏:ええ。合成はAfter Effectsではある程度以上のレベルに達するのは難しいので、別のツールを導入したんですが、そうなるといっそうフィニッシングの問題が際立ってくるんですね。クリエータたちが誠実に作り、積み上げてきた技術と画像情報の集積を、この最後の詰めで殺してしまうというか......。いつかそのうち、私たちエディットのデパートメントを通した結果「レンジが狭くなったね」とか言われてしまうんじゃないか、と気が気じゃなくて(笑)。
――そこまで厳しくチェックされるものなのでしょうか?
吉平氏:まぁ日本なら情報を一つにした結果、多少劣化してしまったとしても、"見た目OKならOK"というルーズさがあるかもしれません。しかし、海外はこの点では厳しいプロダクションが多く、特にOpenEXRでクライアントに納品する場合はそうはいきません。非常に厳しいクォリティチェックがあるんです。たとえば、見た目で真っ白く飛んでいるような画像でも、必要な箇所はきれいにグラデーションレンジを出すとか、全部プロットしてバンディングがなく滑らかな情報を持たせることなどが求められるんですね。そうなってくると、やはりどうしても、より高機能なエディトリアル・フィニッシングツールが必要になってくるわけです。
――そこでSmoke for Mac OS Xが選ばれた理由は?
吉平氏:機能面ではSmokeはとにかく何でもできると思っていたので、まずは価格帯がポイントになりました。高機能な映像フィニッシングシステムといえば数千万円が当り前ですが、さすがにそれでは手が出ません。というのはウチのようなCGプロダクションの場合、ポスプロ専業の会社とは違ってこのシステムで単純に"1日いくら稼げる"みたいなカウントはしにくいんです。このソフトを導入することで修正に速く、効率的に対応できるとか、後々のクオリティを向上できるとか、付加価値的な効果への期待の方がずっと大きいわけで。となると、やはりコスト的に手頃なSmoke for Mac OS Xという選択肢がクローズアップされる。実は私自身は、数年前からSmoke for Mac OS Xのデモなどを見て「いいな」と思っていたんですけどね(笑)。
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