トレンド&テクノロジー / Case of CG Production 〜理想構造へとシフトさせる環境づくり〜
第2回:Case of khara(上) 〜品質と生産性の狭間で目指す“ほぼCG”の世界〜

2012.07.06

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日本の3D CGが“凄いこと”をやるのはこれから

瓶子氏:思いがけず意見が一致しましたね(笑)。カラーデジタル部とサンジゲンでは、目指すものが多少違う、と思っていたんですが……考えていることは似ているのかな。

松浦:カラーとサンジゲンの違いって?

瓶子氏:たとえば……カラーデジタル部がめざしているのは、作画との親和性を重視する“ほぼCG”です。ほぼ全部をCGで作るけども、効果を考えて作画も混ぜるというフルCGならぬ“ほぼCG”。しかしサンジゲンの場合は、10月公開の『009 RE:CYBORG』(※2)もテレビの『ブラックロック★シューター』(※3)も、フル3D CGになっていますよね。

松浦:そうですね。『ブラックロック★シューター』はちょっと作画もあって、これは演出次第で変わるんですが、『009』は確かにフルCG。でも、これはそもそも私の意思とは関係なく、最初からフルCGで作ろうというコンセプトで立ち上がった企画なので、私自身が選択したわけではないんですよ。ただ、同時に私の中には「作画を超えていかなければならない」という思いも強くあります。“ほぼCG”や“ほぼ3D”で「まあ作画もありますよ」という方向でばかりやっていると、うちの場合は「作画でやった方が良い部分をやってもらいたい」とか「CGじゃやりにくいから作画で」とか、そういった方向になってしまいがちなんですね。それは避けたいわけですが……だからこそ、今はそういう部分もひっくるめて、全て1回はCGで応えてみようと思っています。

瓶子氏:あえてCGで全部に応えてみようと思ったわけは?

松浦:別に作画を排除しようというわけではないんですよ。そうではなくて、とにかく1回全部をCGで作ってみて、その上でサンジゲンが作るCGにおいて、どれを作画にするべきなのか? あるいは作画が本当に必要なのか? きちんと見極めたいと思ってるんです。

瓶子氏:使うべきはCGか作画かきちんと見極められるようノウハウを蓄積したい、と。

松浦:ええ。それさえできれば、私自身は特に作画にもCGにもこだわりはありません。『009』の次に関しても、すでにテレビシリーズを含めて幾つかお話をもらっていて、そちらもCGでと言われているんですが、私自身は作画でもCGでもどちらでもいいと思っています。フルCGで作った方が良ければそうするし、そうでなければ作画も使うという感覚ですね。ただ、そのためにはまず、サンジゲンとして“作画に勝つ”というか、作画マンの方たちが「負けた!」と認めてくれるレベルのモノを作らなければなりません。それができない限り、この分野のCGに未来はないと思っています。

瓶子氏:なるほど。我々も今後もそういうものも作って行きたいと思っていますが、だからと言ってそれがカラーのメインタイトルになるかと言われると、それは違う。少なくとも10年程度のスパンで考える限り、メインタイトルは、やはり必ず作画と3Dが絡んでいくことになるでしょう。この形はたぶん変わりませんね。

松浦:今はもう、アニメで作画だけという作品はほぼないじゃないですか。CGを全く使ってないものなんて無いし、ほとんどがCGと作画のハイブリッド作品。まあフルCG作品も今はほぼゼロですが、アニメ作品全体にCGが占める比率は増えこそすれ減ることはないですよね。フルCG作品だって絶対に出てくるし、むしろどんどん増えていくと思いますよ。

瓶子氏:大きな流れはその通りだと思うので、そこでアニメCG業界としてはもう一度再確認したい事があるんです。海外やメディアからは日本の有力な産業としてコンテンツ産業は~などと言われますが、実際評価されている作品の多くは作画の先輩たちが築いた功績で、そこで使われているCG自体が世界に評価されているわけでは、まだないと思います。

松浦:なるほど、そこに誤解があるのかもしれませんね。

瓶子氏:同じアニメ業界にいる者だから、CGの側に自分たちへの評価と勘違いしちゃってる部分があると思います。実際、私たちはまだ凄いことは何も成していない。つまり、日本のCG(アニメCG)が“凄いこと”をやるとしたら、あくまでこれからなんです。その意味では、偉業を成してきた先輩達からまだまだ力を借りなければならないし、学んでいく部分もたくさんあると思います。

(下)へ続く

※2『009 RE:CYBORG』 2012年10月公開予定の神山健治監督による劇場用長編アニメーション。『サイボーグ009』を原作に現代世界を舞台に描く新たな物語。

※3『ブラックロック★シューター』 2012年2〜3月に、フジテレビ系・ニコニコチャンネルで放映された全8話のアニメーション。

会社概要

会社名 株式会社カラー
創立 2006年5月
業務内容 ・映像作品の企画・原作・脚本・デザイン等の開発:
・映像作品の製作等
代表者 代表取締役 庵野秀明
本社 東京都杉並区
作品 ヱヴァンゲリヲン新劇場版シリーズ/『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』(2012年秋公開)

著者

松浦 裕暁

松浦 裕暁

株式会社サンジゲン代表取締役社長、株式会社ウルトラスーパーピクチャーズ代表取締役社長、株式会社ライデンフィルム代表取締役社長

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