SIGGRAPH ASIAレポート 映画『ゴジラ-1.0』におけるMayaの事例

SIGGRAPH ASIAレポート 映画『ゴジラ-1.0』におけるMayaの事例
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2024年12月4日に開催された「SIGGRAPH ASIA 2024 オートデスク テクノロジーサミット」において、「映画『ゴジラ-1.0』におけるMayaの事例」と題された講演が行われた。第96回米アカデミー賞で視覚効果賞受賞をはじめ、各映画賞や世界中から絶賛された同作のVFXセッションとあって注目度が非常に高く、本来はこのイベントのみの公開予定だった貴重な内容を各社のご厚意により、特別にレポートする。

登壇者

植木 孝行 氏

株式会社白組 調布スタジオ VFX Director
植木 孝行 氏

1982年生まれ。広島県出身。2004年白組入社。CM、博展映像、ゲームムービー、TVドラマ、劇場用映画などの映像制作に多数参加。
制作実績
「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズ (05)(07)(12)
「永遠の0」(13)
「寄生獣」(14)「寄生獣・完結編」(15)
「海賊とよばれた男」(16)
「DESTINY 鎌倉ものがたり」(17)
「アルキメデスの大戦」(19)
「ゴーストブック おばけずかん」(22)
「ゴジラ・ザ・ライド 大怪獣頂上決戦」(22)
「ゴジラ -1.0」(23)

早崎 達矢 氏

株式会社白組 調布スタジオ VFX Director
早崎 達矢 氏

1982年生まれ。神奈川県出身。2004年白組入社。CM、博展映像、ゲームムービー、TVドラマ、劇場用映画などの映像制作に多数参加。
制作実績
「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズ (05)(07)(12)
「永遠の0」(13)
「寄生獣」(14)「寄生獣・完結編」(15)
「海賊とよばれた男」(16)
「DESTINY 鎌倉ものがたり」(17)
「アルキメデスの大戦」(19)
「ゴーストブック おばけずかん」(22)
「ゴジラ・ザ・ライド 大怪獣頂上決戦」(22)
「ゴジラ -1.0」(23)

山口 拓史 氏

株式会社白組 調布スタジオ VFX Director
山口 拓史 氏

1981年生まれ。愛媛県出身。2010年白組入社。CM、フルCGアニメーション、劇場用映画などの映像制作に参加。
制作実績
「friends もののけ島のナキ」(11)
「永遠の0」(13)
「STAND BY ME ドラえもん」(14)
「寄生獣」(14)「寄生獣・完結編」(15)
「STAND BY ME ドラえもん 2」(20)
「ゴーストブック おばけずかん」(22)
「ゴジラ・ザ・ライド 大怪獣頂上決戦」(22)
「ゴジラ -1.0」(23)

『ゴジラ-1.0』のVFXは、実写部分のクランクインに先立つ2021年12月頃から準備を進め、翌22年4月からCGアセットの制作を開始した。そして同年6月より順次ショット制作を開始し、翌23年3月ごろに完成を迎えた、1年以上にわたるプロジェクトだった。そんな本作の制作において中心に据えられたDCCツールはMayaで、白組調布スタジオではバージョン1.0の時代から使用しているため、オペレーションも非常に習熟しているという。

『ゴジラ-1.0』のショットワークにおける各DCCツールの使用ケース。Mayaは全工程にわたって使用されている。
『ゴジラ-1.0』のショットワークにおける各DCCツールの使用ケース。Mayaは全工程にわたって使用されている。

フォトグラメトリを利用した鎌倉シーケンス

植木氏はショット実例をもとにMayaの使用例を解説した。まずは鎌倉のシーケンスのプレビズ制作における使用法。このシーケンスの担当者はアニメーションが得意なジェネラリストで、プレビズの段階から徐々にアニメーションを詰めながら進めていったという。

プレビズのOKテイク
プレビズのOKテイク

背景はドローンの撮影素材をもとにフォトグラメトリしたものをベースに作成。樹木がひと塊のようになっている部分については、山崎監督自身が修正を行った。プレビズの作業者は3Dデータ背景をMayaに配置し、最後に土埃や煙などの処理を行い、完成した。

千葉の山奥でドローン撮影したものをリアリティキャプチャーで3D生成した結果
千葉の山奥でドローン撮影したものをリアリティキャプチャーで3D生成した結果
フォトグラメトリから生成されたデータ
フォトグラメトリから生成されたデータ
背景データを加えたプレビズ。この時点で最終的な映像の概要はほぼできあがっている。
背景データを加えたプレビズ。この時点で最終的な映像の概要はほぼできあがっている。

最初の足元の家を壊すカットはカメラワークがシンプルだったので、背景素材をドローンで撮影し、素材をトラッキングしたカメラに合わせてゴジラの歩行アニメーションをつけていった。

ブレイクダウン映像
ブレイクダウン映像
ゴジラの歩行アニメーション。踏み潰される家など、撮影素材の上にCGを加える。家はHoudiniを使用して破壊し、RS ProxyにしてMayaに読み込んでいる。
ゴジラの歩行アニメーション。踏み潰される家など、撮影素材の上にCGを加える。家はHoudiniを使用して破壊し、RS ProxyにしてMayaに読み込んでいる。
逃げ惑う人々はモーションキャプチャーによる撮影データを使用。モーションキャプチャースタジオがMotionBuilderを使っていることが多いので、MayaのHuman IKを使ってデータのやり取りをしていた。
逃げ惑う人々はモーションキャプチャーによる撮影データを使用。モーションキャプチャースタジオがMotionBuilderを使っていることが多いので、MayaのHuman IKを使ってデータのやり取りをしていた。
「Mayaのメニューバーにあるボタン一発でモーションビルダーに転送できるので便利です。FBXでエクスポートするとHuman IKの情報は付いてこないので、このようにちょっとしたところで使いやすい連携があることに非常に助かっています」(植木氏)。
「Mayaのメニューバーにあるボタン一発でモーションビルダーに転送できるので便利です。FBXでエクスポートするとHuman IKの情報は付いてこないので、このようにちょっとしたところで使いやすい連携があることに非常に助かっています」(植木氏)。

短期間で結果を出せるMayaのBossの機能

また、植木氏はスペシャルエフェクト「ではない」カット制作についての解説を行った。本作のエフェクト専任スタッフはわずか5名程度で、制作中は基本的にスペシャルなカットにかかりきりの状態だった。しかし作中にはそうではないVFXカットも多数あり、それらをローコストで手返しよく、短期間で結果を出すことが求められた。

海に深海魚が浮かぶショット

このカットの後半、海に深海魚が浮かぶショットは当初の想定と異なり、撮影日ごとの天候により海の見え方がバラバラになってしまい、シーケンスとして統一性を欠く状態になってしまっていた。仮編集の段階でカラコレを行ない、色の見え方だけを無理やり揃えていたが無理が生じたため、MayaのBoss機能(海洋シミュレーションシステムで、波や波紋、航跡を用いてリアルな海面を作成することができる)を使用し、海ごと差し替えている。

波やうねりを組み合わせるなどの作業を行っている様子
波やうねりを組み合わせるなどの作業を行っている様子
同ショットのブレイクダウン。風がなく穏やかな潮の流れの撮影素材に、BOSSの海とMASHでばらまいた深海魚のレンダーを合成している。
同ショットのブレイクダウン。風がなく穏やかな潮の流れの撮影素材に、BOSSの海とMASHでばらまいた深海魚のレンダーを合成している。

山崎監督自身も素材作成 銀座でのゴジラ熱線放射シーン

つづいて、山口拓史氏によるMaya使用例の解説が行われた。山口氏が挙げたのはゴジラが銀座で熱線放射をする直前のエネルギーを溜めていくシーンで、尾の先から順に背びれが開いていくようすをカメラが追いかけていく。
山崎監督が「銀座シーケンスの中でも特別印象的なショットにしたい」と発破をかけるほどのスペシャルなシーンだ。作り方自体はオーソドックスで、絵コンテからプリビズ、アニメーションと段階を追って制作を進めていった。

山崎貴監督による絵コンテ
山崎貴監督による絵コンテ
山崎貴監督による絵コンテ
アニメーションの初期テスト。山崎監督からは「まだ緩急が足りないので、最初はもっとじっくり見せたい。何が起こっているのか観客が気付き始めてから、後半にかけてどんどん速度を上げて、最後にはもう止められないという感じを出したい」というチェックバックがあった。
アニメーションの初期テスト。山崎監督からは「まだ緩急が足りないので、最初はもっとじっくり見せたい。何が起こっているのか観客が気付き始めてから、後半にかけてどんどん速度を上げて、最後にはもう止められないという感じを出したい」というチェックバックがあった。
監督のチェックバックを受けて完成したアニメーション。リグもアニメーションもMayaで作られている。「前半はじっくり見せて後半どんどん勢いづいていく感じが出たと思います」(山口氏)
監督のチェックバックを受けて完成したアニメーション。リグもアニメーションもMayaで作られている。「前半はじっくり見せて後半どんどん勢いづいていく感じが出たと思います」(山口氏)
監督のチェックバックを受けて完成したアニメーションを俯瞰で見たもの。
監督のチェックバックを受けて完成したアニメーションを俯瞰で見たもの。

解説は背びれのメイキングに及んだ。青く発光する部分のマスク画像を作るために、まずは背びれのMudboxデータが用意された。

その後、設定の異なる2種類のオクルージョンマップをエクスポートして使用した。
その後、設定の異なる2種類のオクルージョンマップをエクスポートして使用した。
背びれを発光させた状態。
背びれを発光させた状態。
リグで発光タイミングをずらして、細かい筋がじわっと光り始めた後、大きな範囲が強く光る。この発光リグはシーケンス共通のマスターリグにも追加され、別のショットでも使われた。
リグで発光タイミングをずらして、細かい筋がじわっと光り始めた後、大きな範囲が強く光る。この発光リグはシーケンス共通のマスターリグにも追加され、別のショットでも使われた。
最終的な雰囲気をつかむためにCGレンダーされた最初のテスト動画。この段階では背景モデルは仮の状態で、煙もVDBライブラリの煙を置いてレンダーを行った。この時点ではまだコンポジットは行っていない。
最終的な雰囲気をつかむためにCGレンダーされた最初のテスト動画。この段階では背景モデルは仮の状態で、煙もVDBライブラリの煙を置いてレンダーを行った。この時点ではまだコンポジットは行っていない。

つづいて、同ショットの背景ライティングについての解説が行われた。当初は画面全体が暗かったため、画面外の建物をずらしたり消したりして、夕日が差し込むように調整を行った。

「光が当たる場所と影によって作られるコントラストはモデルの粗を隠してくれます」(山口氏)
「光が当たる場所と影によって作られるコントラストはモデルの粗を隠してくれます」(山口氏)
「光が当たる場所と影によって作られるコントラストはモデルの粗を隠してくれます」(山口氏)
Mayaのビューポート表示。瓦礫はフォトグラメトリーモデル。建物や瓦礫は全てRedshiftプロキシーに変換し、インスタンスで配置している。
Mayaのビューポート表示。瓦礫はフォトグラメトリーモデル。建物や瓦礫は全てRedshiftプロキシーに変換し、インスタンスで配置している。
背景のレンダー。山口氏が一人でモデリング・レイアウト・ライティングを繰り返して満足の行くまで仕上げていった。
背景のレンダー。山口氏が一人でモデリング・レイアウト・ライティングを繰り返して満足の行くまで仕上げていった。

山口氏は、こぼれ話的に山崎監督自身が作った煙素材を紹介してくれた。画面の奥の方にある煙について、監督からはさまざまな要望が出ていたが、プロジェクトは終盤の状況。アーティストたちは他の作業にかかりきりで、他に作業者がいなかったため、監督自身が手を動かして作成した。「監督自身が出した要望に応えられず、とても苦しんでいました」と山口氏が紹介すると、会場は大きな笑いに包まれた(笑)。

山崎監督による煙素材。EmberGenで作った煙をBlenderに読み込んでレンダーを行った。
山崎監督による煙素材。EmberGenで作った煙をBlenderに読み込んでレンダーを行った。
完成ショット
完成ショット

山口氏は本ショットの制作を振り返り、煙以外の全ての要素をMayaとMudboxだけで完結させたと語った。制作期間はアニメーションデータを受け取ってから完成まで2週間。監督にMaya画面を見てもらいながらその場で直すという作業を1日のうちに何度も繰り返したという。

ポスターメイキング

ゴジラ-1

次に取り上げられたのは『ゴジラ-1.0』映画の宣伝ポスター。このCG素材もMayaで制作されている。この画像の最終版に至るまでのメイキング変遷が紹介された。

ゴジラ-1.0

まずは定番の足元から見上げる構図で考え、そこからレンズを変えたり遠近感を出したりするなどの試行錯誤を繰り返していたが、背景の建物を写す必要があったため、別のアングルを探っていった。

ゴジラ-1.0
ゴジラ-1.0

そこからまた俯瞰するようにカメラを起こしていく。ひとつ定まったのがこのアングルだった。山崎監督からも「ポスターではあまり見たことがない絵だね」と好評だったという。その後、別の場所に移して探っていったが、やはりこの銀座4丁目の交差点が最適となり、場所をこの位置に定め、瓦礫を追加するなどのブラッシュアップを進めていった。

ゴジラ-1.0
ゴジラ-1.0
ゴジラ-1.0

ところが、完成が間近に迫ったところで、背景の一部削除と画角の変更がクライアントから寄せられたため、対応を迫られたスタッフは追加作業にあたった。当該部分の削除の後、それまで作っていなかった両サイドの背景を制作するため、いったん建物を非表示にして地面を追加し、当時の地図を参照して建物を配置。その後、従来のポスターにあった瓦礫などを再配置し、近景の建物の密度を上げるなどして完成に至った。

追加作業には2人であたり、2日間を費やした。納品サイズは横2万pix×縦1.2万pixで、最新のRedshiftでもレンダリングに2日間かかったという。CG作業はこれで完了し、コンポジット作業者にわたる。

Mayaでの作業画面
Mayaでの作業画面

最後にステージアーティストの早崎達矢氏が、Blender(リグアニメーションで使用)や、Houdini(エフェクト群衆などのシミュレーションで使用)など、他のソフトとMayaの連携を解説した。具体的な例として挙げられたのは、幼体ゴジラのリギングや、大戸島でのシーンメイキングなど。Blenderで作ったものはAlembicエクスポートし、HoudiniはRedshiftのキャッシュであるRSProxyで、これらを最終的にMayaで統合し、Redshiftでレンダリングを行った。

大戸島のシーン、Mayaに読み込んで質感設定
大戸島のシーン、Mayaに読み込んで質感設定
大戸島のシーン、Mayaのブレンドシェイプで作成
大戸島のシーン、Mayaのブレンドシェイプで作成

早崎氏は、「ArnoldやMayaは、世界中にたくさんの技術情報が溢れていて、問題解決しやすいと思います。私達のチームは、パイプラインの中核としてMayaを今後も活用していきたいと思います。」と、慣れ親しんだUIや問題解決上のメリットを挙げ、DCCツールとしての完成度を述べ、講演を締めくくった。

白組「ゴジラ-1.0」のパイプライン
白組「ゴジラ-1.0」のパイプライン
映画『ゴジラ-1.0』- Blu-ray & DVD 発売中

映画『ゴジラ-1.0』- Blu-ray & DVD 発売中
監督・脚本・VFX: 山崎 貴
制作: TOHOスタジオ/ROBOT
製作・配給: 東宝
公式サイト:https://godzilla-movie2023.toho.co.jp/
©2023 TOHO CO., LTD.

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