GRAVITY DAZE
ソニー・コンピュータエンタテインメント Interview 『横へ・上へ「落ち」ていく新感覚――重力軌道アクションが拓く未知の世界』
- Maya
- ゲーム
望まれているのは"新しくて面白いモノを出すこと"
――エフェクトの開発ポイントをご紹介ください
松永氏:従来のPS3のゲーム開発では、エフェクトはモデルに半透明の膜を複数被せていくことで、煙などの複雑な動きを見せていました。しかし、このやり方だとランダムに、つまり毎回違った風に見せようとか複雑な動きを見せようとすると、半透明をすごくたくさん重ねなければなりません。ところが今回携帯機ということもあって、あまりたくさんは重ねられないということになったんです。たとえば1個のモデルだけで複雑な動きやランダム感を出さなければならないということになったんです。そこでプログラマさんと1~2カ月かけて試行錯誤の末にたどり着いたのが、たった1枚のテクスチャで複雑な動きを容易にアニメーションさせる新しい手法です。
ビジュアルアートグループ
アーティスト
松永 拓馬 氏
――具体的にどういう手法なのでしょうか。以前との違いは?
松永氏:今までのアニメーションでは、たとえばモデルに貼ったテクスチャをUVアニメーションさせるとか、あるいは複数のテクスチャを連番アニメみたいに順番に流していくとかいったやり方を取っていましたが、それではやはりテクスチャの枚数が多くなってしまいます。そこで、これをぎゅっとまとめて1枚で複雑な動きのアニメーションが出来ないか......と考えたのが出発点です。ご承知の通りテクスチャにはアルファチャンネルというものがあり、今作では256段階のグラデーションの幅を備えています。このグラデーションを使ってアニメーションさせるというのが私たちのアイディアで、そのために専用シェーダーを開発したんです。これにより、たった1枚のテクスチャと1つのモデルを用意して、この専用シェーダーをアサインすれば、基準になるアルファ値をアニメーションさせるだけで最大256パターンもの変化が作りだせるようになったんです。
土蔵氏:松永さんのエフェクトは単体で再生しても煙っぽく見えるんですが、さらなる改善のためにプログラム側との合わせ技を狙いました。たとえば着地した時に出る煙が煙らしく見えるかどうかは、吹き上がるタイミングや位置の印象による部分も大きいので、その辺りを一緒に調整しながら仕上げていきました。その上で、前述のアルファを利用したパターンが活きるようにアイデアを加えて調和させていったわけです。
――効率化等の効果は上がりましたか?
松永氏:何しろモデルを作らなくてもいいので工数削減になりますし、単純なモデルで複雑な動きができるのですから、50%以上......いや、80%削減といってもいいくらい大きな効率化の効果があったと思っています。 山口氏:実際、今回はアクションシーンからデモシーンまでほぼ全て、少なくとも95%のエフェクトは、松永さんが1人で作りあげてくれました。普通だったら到底あり得ないような作業量だったのは、間違いありませんね。
――――ずっとお話を聞いているとスタッフ間の距離がとても近い感じです
山口氏:そうですね、たしかにすごく近かったですね。というか、最初からそういう感じにしよう、とみんなで言い合ってました。やっぱり開発ではコミュニケーションが何より重要だと思いますし、そのコミュニケーションは自分と相手と両者の協力がないと成立しません。だから議論で勝とうとなんかせずに、お互い柔軟に、建設的に、互いがちゃんと答えを見つけられるような形で協力していきたかったんです。ですから、GRAVITY DAZEの開発チームではゲームデザイナーさんがアートのことを言ってくれても良いし、プログラマさんがアートのことを言ってくれても良いんです。もちろんアートもプログラムのこともプランのことも言います。そんな関係で行きましょう、と、みんなに言って回りました。
――そういうスタイルはゲーム業界でも珍しいですよね?
山口氏:でも、開発って本来はそういうものだったんじゃないでしょうか? 昔のゲーム製作者は1人でゲームを作っていたわけですが、やはり頭の中でプランとアートとプログラムが、互いに緊密にやり取りして脳内補完みたいなことをしていたはずです。今は開発規模が大きくなって用途別に分業化され、間に厚い壁ができてしまうなんてことも起こりがちですが、それってやっぱり正しくない形なんですよね。たとえ分業しても、その間の部分にはもうちょっとグラデーションがあってもいいと思うんですよ。というか、もっともっと混ざりあっていった方が、作るもののクオリティも上がっていくんじゃないかな。そして、そういう作り方をしていく上では、Mayaのような高い柔軟性を備えたツールは欠かせません。バッチリ相性がいいと思いますね(笑)。
――本作の開発を通じて得たものとは何でしょう?
外山氏:そうですね。何というか、GRAVITY DAZEによって、いま業界に蔓延しているある種の本末転倒的な気分を正せたのかな、と思っています。最近は「海外で受けるには?」とか「課金の効率的なやり方は?」みたいなアプローチばかりで、お客さんもうんざりしてたんじゃないでしょうか。このプロジェクトの成功によってそんな閉塞感を打ち破るきっかけが見えたかもしれません。つまり、やはり"新しくて面白いモノを出すこと"こそ、お客さんがいちばん望んでいることなんですよ。......もう一つは、今後私たちのスタジオが世界で存在感を示していく上での道筋というものも、GRAVITY DAZEを通じて見えてきたんじゃないかと思います。
――今後のご計画は?
外山氏:まずはきっちり次回作に繋げることですね。今回、初めてということで様子を見た部分とかも実はあるんですが、そういった部分についても次は大きく爆発させることができると思っています。そして、それをきちんと踏まえた上で、今回得た非常に貴重なノウハウを何とかメソッド化して、伝え、広めていきたいと強く願っています。そう、GRAVITY DAZEをある種の起爆剤として生かしていきたいですね。
導入製品/ソリューション | ・Autodesk Maya |
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導入目的 | ・新規ゲーム製品開発のメインCGツールとして ・ゲーム開発で使用するツール類の開発 |
導入ポイント | ・変化に素早く対応する高い柔軟性、使いやすさ ・MEL等の活用による社内ツール開発のしやすさ |
導入効果 | ・状況変化に対応した新たな開発スタイルの実践 ・C#、Python等による多様なツール開発 ・ツールによる効率化、コミュニケーション促進 |
今後の課題 | ・蓄積した新しい開発ノウハウの普及 ・Mayaの新機能のより幅広い活用 ・さらなる自動化の推進による生産性向上 |
作品概要 |
「GRAVITY DAZE/重力的眩暈:上層への帰還において、彼女の内宇宙に生じた摂動」 対象機種 PlayStation Vita ジャンル 重力アクション・アドベンチャー 発売日 2012年2月9日 ©2012 Sony Computer Entertainment Inc. |
*上記価格は年間契約の場合の1ヶ月あたりのオートデスク希望小売価格(税込)です。