• Home
  • >
  • ユーザー事例
  • >
  • ゲーム
  • >
  • GRAVITY DAZE ソニー・コンピュータエンタテインメント Interview 『横へ・上へ「落ち」ていく新感覚――重力軌道アクションが拓く未知の世界』

GRAVITY DAZE 
ソニー・コンピュータエンタテインメント Interview 『横へ・上へ「落ち」ていく新感覚――重力軌道アクションが拓く未知の世界』

GRAVITY DAZE ソニー・コンピュータエンタテインメント Interview 『横へ・上へ「落ち」ていく新感覚――重力軌道アクションが拓く未知の世界』
  • Maya
  • ゲーム

縦横に広がるオープンワールドを入れ子構造で

――縦横に広がるオープンワールドの制作は大変だったのでは?

船山氏:ええ、BG関係はけっこう膨大なデータ量がありますね。簡単にデータ構成を紹介してみましょう。......本作ではステージという概念はなくて、「街」と呼んでいるんですが、縦横高さ200mほどの空間を1つのエリアとして分割し、小さい街だと10個ほど、大きい街になると24個のエリアによって構成しています。この各エリアには30棟前後の建物が配置され、建物の中には窓、煙突などが入れ子構造で複数配置されています。他にも壊せる柵や看板など「街オブジェクト」と呼ばれる雑多なオブジェクトも2,000個ほど置かれています。このようなボリュームを持った「街」が全部で13個ほどあり、その全てにコリジョン・LODモデルなどを作成しています。これが本作におけるBGの大まかな物量になります。これをBGスタッフ10人前後で構築していったんです。

船山 征一郎 氏
インターナルデベロップメント部
ビジュアルアートグループ
アーティスト
船山 征一郎 氏
ゲーム中最大の都市「ダウンタウン」の全景

――相当なボリュームですが、制作期間は?

山口氏:それを聞かれると返答に困るんですよ(笑)。今回は通常のゲーム開発とは異なるスタイルで進めたもので......。普通はパッと作って完成したら次!というサイクルが多いですが、GRAVITY DAZEでは最初からざっくり全体を作ってしまい、その後どんどん全体の完成度を上げていくやり方を取っているのです。オブジェクト指向的な作り方と言いますか、フルスクラッチでなく、少しずつ全体の完成度を上げていき、それぞれのパーツが入れ子構造的にどんどん積み重なっていくような作り方なんです。全てのステージについて最初から最後まで手を入れ続けている状態なので、「1つの街を何カ月で仕上げた」とは言い難いんですよ。

――入れ子構造的な作り方にはどんなメリットが?

船山氏:たとえば基本パーツを1個直せば一気に全部直すことができるし、新しいことも容易に試せますね。フルスクラッチで作ったら大変なボリュームになるものも、入れ子構造の自動生成ならそれほど大変でなくなります。

山口氏:だからスタッフ数を抑えながら、より広大なマップを作り込んでいけるんです。結果、スケジュールが厳しくても「命を削って」作る必要などなく、みんな楽しく作業できる(笑)。また、多くのスタッフの意見をくみ取りながら臨機応変に作れるのも大きなポイントですね。たとえば他のスタッフの担当ステージが出来てきて、それが凄く面白くなっていたらこちらもそれに合わせて直してしまう。あるいはゲーム全体が仕上って来たときゲームデザイナーさんから「やっぱりここにもコースがほしい」と言われれば、それにも素早く応えていくとか......そんな柔軟な対応も簡単にできます。

1つの街は縦横高さ200mほどのエリアに分けて作成していく
Maya上で活用したツール「File opene」で深い階層にあるデータに素早くアクセスしデータの連携を潤滑に行う

――そうなるとそこで使うツールにも柔軟性が求められますね

山口氏:そうですね。当然、メインツールはAutodesk Mayaです。言わずもがなですがMELはフル活用しましたし、今回はコマンドポートを経由してC#(シーシャープ)もかなり駆使しました。C#はWindowsとの親和性が凄く高いので、コマンドポート経由でファイル管理など他ツールとの連携がしやすかったですね。そこでインフラ整備といいますか、今回はまずそういうファイル管理系のツールをMayaと連携させながらたくさん作りました。もちろんツールはMaya側でも200個ほども作りましたが、それらはMELで作成し、C#側から呼びだす設計にしたんです。これによって変更や不具合への対応も簡単にできるようになりました。C#環境との連携もかなり柔軟に行えましたね。

――MayaにはMELの他にPythonも組み込まれましたが?

山口氏:ええ、今回はそちらもエクスポート絡みでずいぶん使いました。私自身はあまり触ってないんですが、実際に活用しているスタッフからは必ず勧められますよ。「いいよ、Python」って(笑)。聞いてみると、やはりアクセスできる手段がたくさんあって記述を簡潔にできるし、使い方も手軽というか面倒がないということで、とにかく評判がいいんです。時間ができたら、私もぜひ勉強したいと思っています。

――オブジェクト方式的な新しい作り方にスタッフの戸惑いは?

山口氏:このやり方は、以前私が別のオープンワールド的ゲームの開発に携わった時「こうだったらいいのに!」と考えたやり方です。しかし、やはりオープンワールドで縦階層と横階層両方あるフィールドを作るとなった時は、では「どういうルールに基づき、どういうプログラムでやるのか?」という点について相当悩ましかったです。そもそも私にはあまり経験がないので、プログラマさんはじめ多くのスタッフの協力が不可欠でした。特にプログラムについては目から鱗がポロポロ落ちるような発想をたくさん提供してもらい、おかげで何とか実現できたというのが実感ですね。

土蔵氏:まあ、山口さんの提案は普通だったら「正気か?」と止めにかかるレベルでしたね(笑)。それくらい無茶な要求だったんですが、とにかく彼の熱意が凄くて、プログラマも動くしかなかったんです。でも、これをやるのはちょっとした「賭け」だったんですよ。オープンワールドを採用するかどうかでデータ読込みやデータ構造も大きく変わってしまいますし、工数も跳ね上がりますから。でも、出来上がったものを見ると、やはりオープンワールドであることが、地形の裏側まで探索できるゲームデザインやその景観とかとすごく相性が良い。山口さんの熱意を信じて良かった、と今はチームの皆が思っていますよ(笑)。

――けっこう波乱万丈のBG開発だったようですね?

山口氏:何度かつまずいた時期はありましたし「もうダメだな」と思ったことも無いわけじゃありません。でも、そのたびに皆で話し合い、知恵を出し合ってなんとか解決していったんです。上手く行った時は「おおー!」「できるーっ!」みたいな(笑)。そんな時もちょこちょこありましたね。とにかく携帯機でこれだけの規模のオープンワールドというのは、まだどこも作ったことはないものですし、インパクトは相当凄いはず。やはりいろいろチャレンジするに足るシステムだったと思いますね。

開発段階に合わせて進化していくツール

――「街」は人も多いし、キャラクターモーション等も大変そうですね?

斎藤氏:ええ、オープンワールドの街で暮らしている人がすごくいっぱいいて、モーションの数も非常に多かったので大変でした(笑)。実は今回、キャラクターでいちばん重視したのは、この「動き」の部分だったんです。今回の絵は、シェーディング的にトゥーンシェーダーみたいな感じの作りで、止め絵的に密度感のあるタイプではありません。そこで、動きでその特徴を出し、良さを伝えていきたいと考え、モーションキャプチャーを使わずに全部手付けしています。しかも、前述の通り数が非常に多いので、これを少人数でどうやってやっつけるか?......というところで、並木さんにMELでいろいろツールを作ってもらい、作業の効率化を図ったんです。

――キャラクターリグに関して今回のポイントは?

斎藤氏:私から一つだけ並木さんに要望したのは、キャラクターのルートをお腹の辺りにするという点ですね。欧米ではわりと骨盤を中心とするルートに従ってやることが多いのに対し、日本で昔からSoftimage等でやってる人の場合はお腹を中心にやりたがる印象があります。で、今回は手付けのしやすさを考えてお腹の方を選択しました。空中にキャラクタを浮遊させるのも、お腹中心の方がやりやすいんですよ。

並木氏:いずれにせよ、今回の作品ではいろいろ新しいチャレンジが必要になると思いましたし、そうなれば当然、トライアル&エラーもたくさん行われますから、リグも柔軟性が重要になります。そこでベースとなるリグはなるべくシンプルなものにするよう心がけました。基本的にはFKとIKがあって、他の幾つかの補助的なツールをMELで作って、これをサポートしていこうという考え方ですね。そして、現場の方で不足があれば、任意でハンドルなどを追加して誰でも自由にカスタマイズできるよう配慮しています。

並木 良夫 氏
インターナルデベロップメント部
ビジュアルアートグループ
アーティスト
並木 良夫 氏
リグとMELのツールによって、モーションやポーズの共有やコピー・ペーストが容易にできる

――そうした工夫の効果はいかがでしたか

斎藤氏:そうですね。このリグとMELのツールにより、モーションやポーズの共有やコピー&ペースト等もすごく簡単にできたという実感があります。インターフェイスも非常にシンプルで使いやすかったですね。モーションを作る人にはそれぞれ好みのセットアップというものがありますが、今回は並木さんが作ったベースのリグに対して部分部分で少しずつカスタマイズできるようになっていたので非常にスムーズでした。こうしたツールのおかげで、街中のモブのモーションは全て並木さん1人で作成できました。通常のプロジェクトなら3人は必要なボリュームでしたし、効率化ということに関しても相当に貢献できたのではないでしょうか。

シンプルなベースのリグにより、スケルトン構造が違うキャラへ対応しやすく個々にカスタマイズも可能

――「キャラが立っている」と、ユーザにも評判ですね

斎藤氏:ありがとうございます。実際、今回は特に各キャラクタのキャラクタ性の統一ということを重視したんですよ。キャラクタ毎に担当を決め、それぞれが担当キャラクタのモデリング、セットアップ、モーションまで全部やるというやり方です。流れ作業の方が効率が良い部分もありますが、この手法だとそのキャラの動きをイメージしながらリギングしたりできますし、担当キャラへの愛着も湧きます。モチベーションを上げる意味でも効果的なんですね。もちろん中にはセットアップやテクニカル面が苦手なスタッフもいますが、その辺りを並木さんの作ったツールがカバーしてくれたんです。ボタンひとつでポンとリギングができて、すぐモーションを作り始められるといった感じですからね。

テクスチャアニメーション用ツール。テクスチャと顎ジョイントの角度を関連付けできる

――フェイシャルについてはいかがでしょうか

斎藤氏:今回は顔のアニメーションをテクスチャー・アニメーションで行っているんですが、ゲームとして割り切ったテクスチャー・アニメにはしたくありませんでした。それこそフル・セルアニメを再生しているかのような動きを目指したんです。そこでまたMELでツールを作りまして......簡単に言えば大量のテクスチャファイルを扱い易くするのと同時に、テクスチャと顎ジョイントの角度を関連付ける事が出来るツールで、デザイナーの作業を非常に楽にしてくれました。この表情のバリエーションをテクスチャでやっていると言うとけっこう驚かれますね。それこそ顔に大量のボーンを入れていると思われていたり(笑)。

――MELで作ったツールが貢献できたようですね

並木氏:今回あらためてMELの使いやすさや柔軟性を痛感しました。仕様がどんどん出来ていくのに合わせてツールも次々バージョンアップして、機能を加えたり変えたりしながら、ほぼ同時期にどんどん組み込んでいけるんです。臨機応変といいますか......Mayaだからこそ可能な、この圧倒的なフットワークの軽さや使いやすさにはとても助けられましたし、あらためて凄いなと思いましたね。

山口氏:これは私の持論なんですが、開発の前半と中盤、また中盤から後半では開発している内容もどんどん変わっていくものです。となれば、そこで使うツールも変化していくのが当然ですよね。最初に1回作ってしまって終わりというのではなくて、やはりずっとサポートしながら付きあっていくのがあるべきスタンスなんです。私のファイル管理ツールも、開発の流れの中で状況に合わせてどんどん進化していき、バージョンなんてもう「バージョン4」を超えています。たしかに変化に対応してツールを作っていくのは大変ですが、だからこそMayaの柔軟性がそこで生かされるんですね。

製品購入に関するお問い合わせ
オートデスク メディア&エンターテインメント 製品のご購入に関してご連絡を希望される場合は、こちらからお問い合わせください。