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カプコン『ドラゴンズドグマ2』RE ENGINE初のオープンワールドに挑んだアイディアと創意工夫

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ドラゴンズドグマ2

「自由度の高いアクションと、類を見ない冒険感を楽しめるオープンワールドアクションゲーム」と銘打たれたAAAタイトル『ドラゴンズドグマ 2』が2024年3月22日に発売され、早くも熱い支持を受けている。本作は2012年にカプコン初のオープンワールドのアクションRPGとしてリリースされた『ドラゴンズドグマ』の待望の正統続編だ。本作では開発にカプコンの自社製ゲームエンジンRE ENGINEを用いている。『バイオハザード7レジデント イービル』(2017年リリース)で最初に導入されて以降、「バイオハザード」シリーズなどのタイトルで長らく主力として使われてきたが、オープンワールドの作品で使用されたのは本作が初。そこでの各デザイナーのチャレンジと、開発におけるオートデスクのDCCツールとの連携についても伺った。

インタビューを受けていただいた大阪カプコンの皆様
プロデューサー 平林 良章 氏 *写真は非掲載
テクニカルアートディレクター Saunders Bradley氏
リードライティングアーティスト 藍原 啓文 氏
リギングテクニカルディレクター Zapotocky Petr氏
メインプログラマー 長田 真輝 氏
リードアニメーター 前田 成之氏
リードエネミーアーティスト 亀山 徳宏 氏
リードエンバイロメントアーティスト Miguel Alonso Hernandez 氏
テクニカルアーティスト 雲財 亮太 氏

インタビューを受けていただいた大阪カプコンの皆様
インタビューを受けていただいた大阪カプコンの皆様

RE ENGINEとは成長する集合知

「RE ENGINEはタイトルとともにどんどん成長していく集合知のような存在」と、プロデューサーの平林良章氏は最初に説明をしてくれた。各タイトルを開発する上で求められていた表現や技術がどんどん蓄積されていき、使えば使うほどより幅の広い開発が可能になるのがRE ENGINEだ。

平林氏は『ドラゴンズドグマ 2』の開発に際して、「工夫と効率化」を意識したという。一般的には試作開発の中後期からゲームの本開発の前期に、技術開発とゲーム開発が一部並走するが、本作ではそれが進行上のリスクとなるおそれがあった。そこでまずは試作期間終了後1年間ほどを技術開発に軸をおいた期間とし、主要技術を固めた上で本開発に入っていった。その結果、オープンワールドゲームとして必要なグラウンド制作機能や敵の管理ツール、ダンジョン制作ツールなど、基礎機能部分をRE ENGINEで作り上げてからゲームの本開発に臨むことができ良い成果を生んだという。平林氏は「本作においては、要素や技術を足し算するのではなく、掛け算にするのが重要だったため必要なプロセスでした」と言及した。そんな「掛け算」のもとになった技術たちを紹介していく。

『ドラゴンズドグマ 2』プレイ画面
『ドラゴンズドグマ 2』プレイ画面
『ドラゴンズドグマ 2』プレイ画面

世界中で自分だけのキャラクターを作るためのエディットツール制作

『ドラゴンズドグマ2』の特徴の一つにキャラクターのカスタマイズツールがある。身長、顔立ち、体型などの属性を細かく調整できるほか、顔や髪型、肌の色まで細かく調整でき、世界で自分だけのキャラクターを作ることができる。

『ドラゴンズドグマ 2』キャラクターのカスタマイズ画面
『ドラゴンズドグマ 2』キャラクターのカスタマイズ画面
『ドラゴンズドグマ 2』キャラクターのカスタマイズ画面
『ドラゴンズドグマ 2』キャラクターのカスタマイズ画面

本作では旅人や商人、兵士などさまざまなNPCが存在し、獣人やエルフといった種族を含む1000体以上のキャラクターがゲーム上で用意されている。これらはプレイヤーと同じキャラエディットツールから構築されており、プレイヤーは自分と同じクオリティの見た目を持ったNPCたちと冒険の中で交流を深めることができる。またプレイヤーは自身以外に、キャラエディットを行い作成できる"メインポーン"と呼ばれる従者1人と、他のプレイヤーのメインポーンを"サポートポーン"として2人まで雇うことで、最大4人で旅することとなる。このポーン達はオンラインを通して、別のプレイヤーと貸し借りできるようになっているため、自分のメインポーンの個性を出せるようにもキャラクターエディタに豊富な機能をもたせることがとても重要になってくる。そして、こうした多機能なキャラクターエディットシステムだからこそ、ユーザーにとっては使いやすいインターフェースで構成されている必要があった。

システム設計を行なったのは、テクニカルアートディレクターのSaunders Bradley氏、リギングテクニカルディレクターのZapotocky Petr氏(フェイシャル、ボディエディット担当)、メインプログラマーの長田真輝氏だ。ボディーエディットとフェイシャルエディットはMaya上で制作されている。

リギングテクニカルディレクター Zapotocky Petr 氏
リギングテクニカルディレクター Zapotocky Petr 氏
メインプログラマー 長田 真輝 氏
メインプログラマー 長田 真輝 氏

フェイスエディットの構築の際には、ベースのバリエーションを持たせるために、まずおよそ80人の頭部をスキャンしている。これらはすべて同じトポロジーで構築されているため、ブレンドシェイプもワンセットで構築されている。
その他、各顔のパーツにおける詳細部分はジョイントベースでフェイシャルコントロールできる仕組み。
「ブレンドシェイプを変更したら描画メッシュにも反映されるようになる技術を実装しています」(Bradley氏)

テクニカルアートディレクター Saunders Bradley 氏
テクニカルアートディレクター Saunders Bradley 氏
スライダー+ジョイントによって変形されたベース頭の差分が描画頭メッシュへ反映される
スライダー+ジョイントによって変形されたベース頭の差分が描画頭メッシュへ反映される
スライダー+ジョイントによって変形されたベース頭の差分が描画頭メッシュへ反映される
スライダー+ジョイントによって変形されたベース頭の差分が描画頭メッシュへ反映される

ひげ、眉毛、ヘルム(兜)においては、同じシステムでは作りたくないという発想から、Mayaにラップデフォーマがある事に気が付き、エンジン上へラップデフォーマを実装する事にした。
各顔のひげ、眉毛、ヘルムパーツは別のアセットになっており、予めそれらのパーツが必要な顔、不必要な顔で種類を仕訳けをした。
各ヘアーカードのパーツを顔上に対して配置後エンジン上のラップデフォーマによって変形され、顔のスケールに合ったタイミングでフリーズし、ラップデフォーマを削除のうえ、次にスキンバインドを処理。
顔のエディット処理の間にこのプロセスが入る事で、処理付加が掛かるデフォーマ系を使わない方法が取れ、また、エンジン上で異なる質感を表現する為にMaya上でラップデフォーマのグラデーションマップを利用した。
エンジン上へはグラデーションマップを頂点カラーとして変換し、ヘルムのような硬い質感とヘアータイプのような柔らかい質感で異なる頂点カラーを利用して質感表現をした。

装備に関してはユニバーサルメッシュを用意したかったが位置関係の兼ね合いで、獣人、人間(男性、女性)で用意していた。
獣人にはファーがある為、人間とは別の装備メッシュとして作成する必要があり、装備に関してはゲーム中は統一の装備タイプではあったものの、別のメッシュを使い、さらにファーを非表示にする必要があったため、面倒ではあったが、マスクシェーダで対応した。
また、装備の切り替えには各パーツのセットとしてバリエーションを準備。しかしキャラクタによっては必要、不必要なパーツが存在したため、装備のバリエーションの数としては約300種類近く準備した。

「非常に難儀なオーダーではあったが、Mayaのラップデフォーマーが素晴らしかったので、それを参考にRE ENGINE上で同等のデフォーマーを作ってもらいました」(Bradley氏)

ラップデフォーマーによって、髭、眉毛、ヘルムが顔と一緒に変形される。

ボディエディットについてはMaya上で、ボディエディットスライダーとジョイント変更するシステムを実装した。スライダーは自由に動かせるので、数値的にはキャラクターとして非現実的な表現(巨大な頭に極細の体など)も可能になってしまうため、スライダー同士に依存関係を作って、限界値を設定した。これにより、キャラクターとして現実的な範囲をプレイヤーに提示し、使いやすいエディタに仕上げた。こうして作られたエディタはMayaからRE ENGINEへスライダー設定・システムを出力、RE ENGINE上でボディエディットが反映される。そしてRE ENGINE上でも、Mayaと同じスライダーで操作することができる。

キャラクター・アニメーションのバリエーション制作

ゴブリン

本作には「ゴブリンエディター」という風変わりなネーミングのエディターも存在する。これはその名の通り、魔物のゴブリンの体躯や手足を調整するツールだ。これは上記で紹介したプレイヤーキャラエディットのシステムをもとにした簡易軽量版だ。

ゴブリンエディター作業画面
ゴブリンエディター作業画面
ゴブリンの体型変化
ゴブリンの体型変化

『ドラゴンズドグマ 2』では複数体出現する魔物については可能な限り個体差を表現することを目標としていた。プレイヤーと会敵することが多く、群れで行動するゴブリンについては個体差を特に意識して表現するため、この体型変化ツールが作られた。ゴブリン原種のほか、ホブゴブリンなどの基本体型が違う亜種もこのツールを使用、さらにゴブリンの体の泥汚れや装備や武器の種類も用意し、それらをランダムで組み合わせてゴブリンの群れを表現した。

ホブゴブリン......ゴブリン(原種)より大柄で筋肉質な体つき
ホブゴブリン......ゴブリン(原種)より大柄で筋肉質な体つき
チョッパー......ゴブリンより小柄、潜みやすいように頭部は平たく脚は短い。槍を投擲しやすいように腕は長い
チョッパー......ゴブリンより小柄、潜みやすいように頭部は平たく脚は短い。槍を投擲しやすいように腕は長い
ノッカー......ゴブリン(原種)より大柄、頭部は上下に長く幅が狭い、ジャンプ攻撃を得意としているので足が発達している、斧攻撃のリーチを稼ぐために腕も長い。
ノッカー......ゴブリン(原種)より大柄、頭部は上下に長く幅が狭い、ジャンプ攻撃を得意としているので足が発達している、斧攻撃のリーチを稼ぐために腕も長い。

ボディのバリエーション制作とは別に、キャラクターの姿勢や動きにバリエーションをもたせることを、開発側では「特徴付け」と呼んでいた。これはベースのモーションに加算するような形でポーズを変化させるもので、リードアニメーター・前田成之氏は、「Mayaで言うとアニメーションレイヤーに近い感じです。モーション再生時に適応しキャラのシルエットに変化をつけたり、モーションの回転値や足のIKのトランス値にスケールをかけて挙動を大きくすることで動きの特徴を付けます」と説明する。

リードアニメーター 前田 成之 氏
リードアニメーター 前田 成之 氏
リードエネミーアーティスト 亀山 徳宏 氏
リードエネミーアーティスト 亀山 徳宏 氏

内部的には歩いているベースのモーションに対してオフセット値を加える事で、通常の歩行モーションが女性らしい歩行モーションへと変化する。また、回転を例に上げていたが、ベースとなるモーションの回転値が大きいものに対して更に加算することでポーズの破綻の原因になる。これに対して、各部位ごとに許容値を設定してその値に近づいた時に特徴付けを無効にしていくという仕組みをいれている。

実際のゲームのキャラクターエディットで使用している「姿勢」で変化させることのできるパラメーターの動画。待機状態や走りの状態で肘と膝を内側に曲げることで、女性らしい動きを表現する。

プレイヤーはキャラクターエディット画面の「姿勢」の数値を変えることで自分の好みに応じた姿を作ることができる。また、「特徴付け」は汎用の人型キャラのモーションをNPCに適用することができ、威張っていたり猫背であるといったキャラクター性を表現することができる。これによってさまざまなキャラクターの動きをモーションキャプチャーやモーションのバリエーションをキャラクタ毎に作成することなく効率的に表現することができる。このほか、魔物にリターゲットした上で調整を施すことで、足を引きずるアンデッドキャラの姿などを演出することができる。
一つの基本モーションから特徴付けによって、様々なバリエーションのモーションへと変化させられるのが「特徴付け」である。

体格や年齢など設定がバラバラなNPCに対して、同じモーションを流用していても違和感が出ないようにする。
汎用の人型キャラのモーションをゴブリンにリターゲットしてそこに特徴付けをした動画。膝の曲がり具合とかかとの曲がり具合を常に同じになるように調整することで逆関節を表現している。
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