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「Niantic」川島優志氏インタビュー ~世界に通用する仕事術とは?~

「Niantic」川島優志氏インタビュー ~世界に通用する仕事術とは?~

2017.06.23

  • Maya
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Niantic, Inc.のアジア統括本部長、川島優志(かわしま まさし)。Google在籍時に「ホリデーロゴ」を描いた初の日本人であり、Niantic, Inc.へ移籍後はARを活用した位置情報ゲーム「Ingress」の開発に携わり、文化庁メディア芸術祭のエンターテインメント部門で大賞を受賞。

「Ingress」のシステムを一部利用した「ポケモン GO」はピークが落ち着いた現在でも月間アクティブユーザー数が世界で6500万人以上を超える大ヒットになっている。「Ingress」や「ポケモン GO」における「ゲームで人の生活を変える」体験はどうやってデザインされているのか?世界に通用する仕事術を川島氏に聞いた。

----川島さんは過去にGoogle、現在はNiantic, Inc.にてデザイナーとして活動されていますが、クリエイターになったきっかけからお伺いできればと。

川島:母が時計デザイナーで父が建築家という影響はあると思います。それでも自分の関心は、Appleのパソコンを始めとしたテクノロジーにあったんですね。デザイナーの両親に対する反骨精神もあったのかもしれませんが、美大ではなく早稲田大学に進学したんです。でも結局、マルチメディアのコンテンツを自分で作るほうに夢中になって。学校にはほとんど行かず、10単位ぐらいで中退してしまいました。

川島氏が早稲田大学在学中に企画し、製作総指揮・編集・デザインをてがけたマルチメディア・コンテンツ「A/D」。スタッフにはメルカリ創業者の山田進太郎さんやぴあチーフプロデューサーの岡政人さんも。

----意外とアウトローな面があるんですね。

川島:その後、23歳の頃、「アメリカでデザインをするぞ!」と思い立って、何の計画もなく単身アメリカに渡るんです。英語もまったく出来ないし、現地に知り合いもいない。当時は「やる気と情熱があればなんとかなる!」と思っていたんですよ。でも言葉も通じないし、働けるビザもないし、行き倒れる寸前でした。

----今からだと考えられないですね。

川島:若気の至りとしか言えませんが、かえって何も調べずに飛び込んだことが今に繋がっていると思います。雇ってもらうよりも起業したほうが早いとロサンゼルスで起業したことがきっかけでLAのデザインプロダクションに雇用され、そこからGoogleのデザイナーとしてのキャリアに繋がっていくんです。

ピザ職人がイタリアに行くように

川島優志氏

----どうして日本ではなく、アメリカで活動をしようと思ったんですか?

川島:日本で感じていたのは、あらゆるものが外国、特にアメリカから来ているということ。AppleもマイクロソフトもIBMも、全部アメリカのものだった。僕が最初に触ったパソコンはSEGAのsc-1000IIで、NECのPC9801も使っていましたが、Appleに触れた時の衝撃がすごかったんです。PhotoshopとIllustratorを揃えてデザインを初めて、人生が変わった。これはやっぱりアメリカに行かないとな、という気持ちが高まって。ピザ職人がイタリアに行ったことがない、みたいな気持ちだったんですよ。

----(笑)その例えは面白いですね。

川島:そんなピザ職人は信用できないでしょう。じゃあアメリカに行くしかないな、という気合だけで渡米しました。

----英語が全くできなかったのに、仕事が出来たというのは、デザイナーだったということが良かったんでしょうね。

川島:そうですね。現地のデザインプロダクションに入社するための面接で、一生懸命ポートフォリオを見せながらスピーチをしたんです。その時は伝わった!と思っていたけど、一年後にそのボスから「今だから言えるけど、君が面接で喋った時には何を言っているのかさっぱりわからなかった」と衝撃の告白がありました。彼は「一年で随分喋れるようになったね」という褒め言葉のつもりで僕に言ってくれたんですが、ものすごくショックでしたよ。でもそれくらい、仕事を始めてから初めて英語が使いものになったんですよね。

----そのエピソードは、励まされる人も多そうです。

川島:英語を完璧にしてからアメリカに来ようと考える必要はないんじゃないでしょうか。もちろん仕事によっては言葉が大事になりますが、デザイナーやクリエイター、エンジニアっていうのは、言葉以上に伝わる武器っていうものがあると思うので。そういうものがあると思う人は、言葉をちゃんと整えてからというよりは、行ってから覚えるんだという感じでも別になんとかなるというのはあるかなと思います。

何百万もの人々に見られる「ホリデーロゴ」

Google「Doodle ギャラリー」より

Google「Doodle ギャラリー」より
https://www.google.com/doodles/doraemon-2009

----Google時代のお話をお伺いしたいんですが、川島さんはGoogleのロゴをイラストにする「ホリデーロゴ」を手がけておられて、その時もビジュアルで全世界に伝えることをされていましたよね。

川島:僕がGoogleに入った頃は、まだデザインをするチームがあまりいなくて、なんでもやっていたんですよ。当時アートディレクターをしていたのがデニス・ホワンというGoogleのビジュアル面の文化を作ってきたアーティストでありデザイナーで。もともと僕は、彼の面接を通してGoogleに入ったので、ずっと彼のチームで仕事をしていました。デニスも最初はインターンだったんです。彼はエンジニアばかりのGoogleで、アートを専攻した珍しい社員だった。そこで創業者が彼に「イラストを描いてよ」と気軽に頼んで始まったものでした。

----ホリデーロゴはそんな始まり方だったんですね。

川島:そもそもホリデーロゴは、「バーニングマン」というアメリカのフェスに創業者たちが行く時に、「僕らがバーニングマンにいることをみんなにお知らせしよう」ということで始まったものだったんです。デニスの後さらに僕が入って、アメリカ人以外で初めてホリデーロゴを描きました。ホリデーロゴは当初「20%プロジェクト」(Googleで従業員が業務時間の20%は自分のプロジェクトに従事できる制度)で、実際の仕事はWebやアプリのUXデザインをしていたんですが、ホリデーロゴの人気が出たので、20%どころか結局200%プロジェクトみたいになっちゃいましたが...。

----ホリデーロゴのデザインにはどういったことが求められるのでしょうか?

川島:本当に長い時間をかけて作っても、1日しか見られないということ。"どうやって伝えるか"はすごく悩みました。複雑で凝ったものでも伝わりづらいし、シンプル過ぎても何も伝わらないので。また、Web上だけでなく、「Doodle for Google」という子供達にDoodleを書いてもらうコンテストも開催して、実際の展示も行いました。日本では10万人が参加するようなイベントになって、その審査員をやったのも貴重な経験でした。

イングレスの成功

NianticはGoogle社内からのスタートアップからスタートしたプロジェクト

NianticはGoogle社内からのスタートアップからスタートしたプロジェクト。CEOのジョン・ハンケを中心としたグーグルマップのチームがメインだった

----「Ingress」のルーツについて教えてください。

川島:当時、Google社内のスタートアップであったNiantic Labsによって、最初に作られたプロダクトは「フィールドトリップ」というアプリケーションでした。これはゲームではなく、例えば六本木ヒルズの近くに行くと、自動的にプッシュ通知で六本木ヒルズの歴史を教えてくれるというようなもの。Google Glassとも連携して。そこから「もっと人を動かす物を作りたい」とジョンが思ったことが「Ingress」に繋がります。

----人を動かすものというのが動機だったんですね。

川島:ジョンが言っていたのは、「カリフォルニアのすごくいい天気の日に、自分の子供は日曜日でもソファに座ってゲームをやっている。彼を外に出すにはどうしたらいいだろう、そういう力のあるものはなんだろう」ということでした。そのためにゲームの力を利用したいと考えたのが、「Ingress」を作った動機の一つです。

「Ingress」のファンアート

「Ingress」のファンアート

----かなり切実な願いだったんですね(笑)。

川島:ジョンも、もともとはGoogle ストリートビューやGoogle Earthのような、スクリーンの前に座っていれば世界が全部見渡せて行った気分になれるものを作って来たんですが、実際Nianticでたどり着いた答えは、「実際に自分の足でそこにいくべきだ」ということでした。「アドベンチャーズオンフット」(自分の足で冒険すること)というのが、Nianticのミッションなんです。

ー「Ingress」の成功はどうやって作られたんでしょうか。

川島:僕がNianticに入ったのは、「Ingress」のベータ版がでた直後くらいで、まだまだ開発中の段階でした。デニスが先にNianticに入って、ずっと僕を誘い続けてくれて、僕もそこに入ったという感じです。

----川島さんの献身的な「Ingress」のコミュニティの参加がすごく印象的でした。
震災の被災地である石巻や福島でもユーザーイベントを開催されていましたよね。

川島: 「Ingress」のデザインは非常に面白かったですね。それまではUIなどにおいて、目に見えるビジュアルのデザインをすごく重視していました。でも「Ingress」では、もっと広い意味の、ユーザーの深い体験がデザインそのものだったんです。それはアプリの操作性だけではなく、イベントなど、アプリの周りで起こる体験も含めたものであると。

----何がきっかけでそう思うように?

川島:僕が加わった時、日本人は僕だけでした。だから日本でのプロモーションは、PRもマーケティングも僕がやらなくちゃいけない。素人だから色々失敗もするし、全然うまくいかなかった。最初に京都で開いたイベントに集まったのは、わずか24人でした。

24人の集客だった京都のイベント

24人の集客だった京都のイベント

----そんな頃があったんですか!

川島:だからこそ、ユーザー一人一人の顔を覚えられたんですよ。彼らからもらったフィードバックをもとに、少しずつ体験を高めていくことを地道にやっていきました。そのうちにティッピングポイントを超えるタイミングがあって、翌年京都で開催したイベントには5600人以上が来てくれました。その中に、去年来てくれた24人がいて、抱き合っちゃたりなんかして(笑)。そうやって、ユーザーの顔が見える段階から少しずつ、全体としての体験を大事にすることを学びました。

2016年7月の「イージス・ノヴァ東京」では1万人を集めた。	©Niantic, Inc.

2016年7月の「イージス・ノヴァ東京」では1万人を集めた
©Niantic, Inc.

----それも体験を大事にするデザインですね。

川島:Googleの時代には0.1秒でも早く結果にたどり着くデザインが求められていましたが、「Ingress」や「ポケモン GO」はその逆で、15分で行けるところに2時間かかるゲームデザインです。今はあまりにも最短距離でたどり着くことが美化されすぎていますよね。

----遠回りするデザインですか。

川島:でも人間って複雑で、無駄に見えるものが大事だったりする。デザインに関してもそうなんです。あまりにも切り捨てすぎると本当は大事なものが見えなくなってしまう。いろんなものが絡み合って、複雑なものを複雑なままに表現して、回り道をするのもすごく大事なこと。「Ingress」や「ポケモン GO」では、公園にあるけど誰も見向きもしない銅像をスポットにしています。それだけで、普段の通勤にも新しい世界が開ける。やっぱりどこか便利すぎる世界のバランスの悪さがみんなの中にもどこかにあったから、たくさんの人に受け入れられたのかなっていう気がしますよね。

たくさんの人を巻き込むゲームデザイン

©Niantic, Inc.

©Niantic, Inc.

-たくさんの人に外に出てもらうためにどういうところを工夫したのでしょうか。

川島:「Ingress」とか「ポケモン GO」の面白いところは、ゲームのUIなど表側のデザインと、地球上をゲーム盤にすることを両立させたこと。最初はGoogle マップにあるPanoramio (Google社が運営していた、地域情報が付加された無料写真共有サイト)などから数千、数万の拠点を選んでいたんですが、全然足りないので、ユーザーが自分で町の面白いところを見つけて申請し、審査を経て拠点にするということでした。

----ユーザーを巻き込んでしまったんですね。

川島:「Ingress」ではポータル、「ポケモン GO」ではポケストップ・ジムと呼ばれるものになっています。その結果、色々とこっちの予想もできないことが起こるわけですよ。ユーザーに委ねるところが多くなればなるほど、あり得ないし面白いんです。

----ゲームバランスが特殊ですよね。

川島:台湾だと、電話線を格納した箱をポータルにしてしまう人が出て来たり。こちらが意図したデザインではない、世界の作られ方のようなものが浮かび上がって来ました。つまり、世界そのものの面白さがそのままデザインになったんです。「Ingress」が「文化庁メディア芸術祭」のエンターテインメント部門で大賞を取った時には、審査してくれた飯田和敏さんが、「『Ingress』はゲームフィケーションの初めての成功例」だと言ってくれました。

「ポケモン GO」でさらに人々を屋外に

©2017 Niantic, Inc. ©2017 Pokémon. ©1995-2017 Nintendo/Creatures Inc. /GAME FREAK inc.  ポケモン・Pokémonは任天堂・クリーチャーズ・ゲームフリークの登録商標です。

©2017 Niantic, Inc. ©2017 Pokémon. ©1995-2017 Nintendo/Creatures Inc. /GAME FREAK inc.
ポケモン・Pokémonは任天堂・クリーチャーズ・ゲームフリークの登録商標です。

----そこから「ポケモン GO」になるんですね。

川島:「Ingress」の時点で、ゲームデザイン自体は非常に完成されて、これ以上は難しいんじゃないかと飯田さんも言われていたんです。いやいやもっと色々な可能性がありますよ、ということで出来たのが「ポケモン GO」ですね。こちらはもっと間口を広げて、「Ingress」のディープなSFの世界観からもっと誰でも遊べるようなものにしました。

----デザインも一新されましたよね。

川島:デザイン的にはすごく明るい感じになって、わかりやすくなりました。ポケモンのボールが出て目の前にモンスターがいる。子供でも何をするかがわかります。おかげで幅広い年齢の方に遊んでもらえて、おじいさんやおばあさんもスマホを買って孫と楽しむためにプレイするということが出来るようになりました。

ポケモンGO」デザイン ワイヤーフレーム
ポケモンGO」デザイン サムネイル

ポケモンGO」デザイン ワイヤーフレーム→サムネイル

より描きこんでいく (デザイナー・Mieke Hutchins)
より描きこんでいく (デザイナー・Mieke Hutchins)

より描きこんでいく (デザイナー・Mieke Hutchins)
©2017 Niantic, Inc. ©2017 Pokémon. ©1995-2017 Nintendo/Creatures Inc. /GAME FREAK inc.
ポケモン・Pokémonは任天堂・クリーチャーズ・ゲームフリークの登録商標です。

----キャラクターの可愛らしさはもちろん、モーションもすごく工夫されていますね。

川島:モーションに関しては株式会社ポケモンさんや株式会社ゲームフリークさんも開発協力をしてくださって、二人三脚で進めました。

----川島さんはどのくらい3Dのツールを使われているんですか?

川島:LAのプロダクションに勤務していた時代に、マルチメディア・コンテンツの制作でCINEMA4DやLightwaveなどの3Dソフトはずっと使っていました。いまはMayaを使っています。

----Mayaを使うメリットは何ですか?

川島:Mayaはシェーダーのバリエーションをいろいろ試す事ができるのが役立ちました。Mayaに限って言えば、インターフェイスがすごい独特ですけれども、そのユニークなインターフェイスから"こういうことがやりたいんだな"っていうのが伝わってきますよね。なかなか他にない操作感というか。それが無駄なんじゃなくて、Mayaが実現したいことをやるためにはこういうやり方だったんだっていうのがすごく伝わってきて面白いです。

----2D、3D問わずいろいろなツールを使われているんですね。

川島:色々なツールを試してみるのは、単純に自分ができることが増えるのが楽しいからです。ただ、道具によって作れるものが決まってしまうというのはいい面と悪い面がありますから。使う道具に縛られない気持ちを持って、ツールの限界を突破するために自分でプラグインを作るくらいの気概も大事なのかもしれませんね。

----最後に、世界を目指す方法について、川島さんの目線からコメントをいただければ。

川島:そういう人たちにとって「ポケモン GO」が、たくさんの人を巻き込んで世界を動かすことができると思えるきっかけになるといいですね。3DCGっていう点で世界を目指すなら、オートデスクの製品は世界スタンダードですから、使い方に成熟していれば、世界のどこに行っても通用するものになると思うんですよ。

川島優志氏

----いま、他のアジア諸国が3DCGの仕事でどんどん伸びているのに、日本はまだ世界に対して発信が少ない印象があります。日本のアニメ産業も制作会社の売り上げは伸びが少ない。

川島:実際アメリカでも3DCGアーティストは映画業界でもゲーム業界でも競争がものすごく激しいです。ただ、これからVRやARなど、新しい分野で3DCGが使われる業態が増えていきます。その中でチャレンジできるというのはすごく幸せな環境にいると思いますよ。日本でもツールが手に入って勉強できるし、言葉の勉強以上に、実力を磨いて世界の一戦で活躍できるような環境へ挑戦して行ってほしいと思います。

----世界に注目されるようになってほしいですね。

川島:自分の作品が多くの人に見てもらえるのは、単純にクリエイターとして嬉しいこと。Googleのホリデーロゴは世界じゅうの人に見られるようなものだったので、「見られる」ということがやりがいに繋がっていったんです。「Ingress」にしても「ポケモン GO」にしてもそうですが、自分が作り上げたものが本当にいいものだったら、より多くの人に見てもらった方が世界のためにいいと思うんですよ。そういうモチベーションによって、作り続ける事ができるんだと思います。

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