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カプコン『ドラゴンズドグマ2』RE ENGINE初のオープンワールドに挑んだアイディアと創意工夫

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効率的な背景制作をするための技術

背景制作には「Material Assign Tool」が大きな貢献を果たした。これはRE ENGINEのマテリアルをMaya上で再現するためのツールだ。従来のテクスチャワークフローにおいては、作業者がユニークなテクスチャを作っていたためアート表現が統一されておらず見分けづらいため、複数アーティストの間で管理が難しいという問題点を抱えていた。これは作業中にやり直しが生じやすく、さまざまなロスの原因となる。
既存のツールを発展させる形でこのツールを開発したテクニカルアーティストの雲財亮太氏は「元々、私も背景アーティストではあったのでマテリアルの管理は楽にしたいと思っていました」と話す。

テクニカルアーティスト 雲財 亮太 氏
テクニカルアーティスト 雲財 亮太 氏

「Material Assign Tool」は目的に応じて分類されたツリーとサムネイルから、欲しいマテリアルを簡単に見つけることができる。また、GUI上で選択したマテリアルは、ボタンを押すだけで指定したメッシュに適用することができる。このツールでマテリアルを適用したメッシュをエキスポートすると、RE ENGINE上で自動的にシェーダーとマテリアルパラメーターアセットが適用される。

「どのマテリアルでもMaya上で見た目の確認をできるようにはしており、特に頂点カラーを使って調整するようなマテリアル、レイヤーマテリアルのような一から作るのが大変なものは、MayaのStingray PBSゲーム用シェーダをカスタマイズし、調整できるようにしています」(雲財氏)
「どのマテリアルでもMaya上で見た目の確認をできるようにはしており、特に頂点カラーを使って調整するようなマテリアル、レイヤーマテリアルのような一から作るのが大変なものは、MayaのStingray PBSゲーム用シェーダをカスタマイズし、調整できるようにしています」(雲財氏)

さらに、マテリアルごとに合わせてメッシュの分解が可能で、古い仕様のシーンデータをバリデーションして、正しいマテリアルに自動適応し、すでに存在しているマテリアルは同じものを適応させることが可能だ。古いアセットでも、Mayaシーン内のマテリアル名と構成を検査して自動修正できる機能も内包しており、これによってイレギュラーなマテリアルを生まず、プロップを作成するアーティストは直感的に使いたいマテリアルを適応して作業することができる。

ダンジョン内

つづいて、「ダンジョンエディター」について、リードエンバイロメントアーティストのMiguel Alonso Hernandez氏 (以下、ミゲル氏)が解説してくれた。本作には大量のダンジョンが存在し、手動ですべての部屋や通路を作成するには膨大なコストが掛かるため、グリッドに区切り繋げるように組み合わせていった。ダンジョンの各パーツには繋げるための「アンカーポイント」があり、プラレールのように組み合わせていく。

リードエンバイロメントアーティスト Miguel Alonso Hernandez 氏
リードエンバイロメントアーティスト Miguel Alonso Hernandez 氏
ダンジョンエディター。ピンクの部分がアンカーポイント。
ダンジョンエディター。ピンクの部分がアンカーポイント。
ダンジョンエディター。ピンクの部分がアンカーポイント。

外側のメッシュや地面メッシュ、コリジョンを配置し、さらにディテールを追加する。また、ダンジョンのモジュールの組み合わせが単調にならないよう、Maya上でサブパーツを作り、これらのパーツをRE ENGINE上で組み立てる。

サブパーツの配置例。元の通路は同じでもサブパーツ次第で、プレイヤーにとっては全く違った道に見える。
サブパーツの配置例。元の通路は同じでもサブパーツ次第で、プレイヤーにとっては全く違った道に見える。
サブパーツの配置例。元の通路は同じでもサブパーツ次第で、プレイヤーにとっては全く違った道に見える。
サブパーツの配置例。元の通路は同じでもサブパーツ次第で、プレイヤーにとっては全く違った道に見える。

本作では建物の数も多く、こちらも一つ一つを個別に用意すると膨大な量になってしまうため、パーツを組み合わせて制作している。RE ENGINE上には約7000種類のアセットが存在しているという。テクスチャの解像度は基本的に2Kサイズで、ハードウェアのプラットフォームに合わせて調整することもある。

バクバタル地方にある洞窟内の家。左が細かく分かれているのに対し、右は大きなモジュールとなっている。これはモジュール分けをしすぎると全体が硬い印象になってしまうため、アクセントとして柔らかい印象のモジュールを混ぜている。
バクバタル地方にある洞窟内の家。左が細かく分かれているのに対し、右は大きなモジュールとなっている。これはモジュール分けをしすぎると全体が硬い印象になってしまうため、アクセントとして柔らかい印象のモジュールを混ぜている。
バクバタル地方にある洞窟内の家。左が細かく分かれているのに対し、右は大きなモジュールとなっている。これはモジュール分けをしすぎると全体が硬い印象になってしまうため、アクセントとして柔らかい印象のモジュールを混ぜている。
バクバタル地方にある洞窟内の家。左が細かく分かれているのに対し、右は大きなモジュールとなっている。これはモジュール分けをしすぎると全体が硬い印象になってしまうため、アクセントとして柔らかい印象のモジュールを混ぜている。

「アートセクションと相談しながらデザインを進め全体的に有機的なデザインを保ちつつも、パーツを組み合わせて構築できるように工夫しています。最終的に、各パーツはRE ENGINE上で組み上げられ、レベルデザインを自由に変更できるようにしています」(ミゲル氏)。

橋のモデルとモジュール。上水道や橋脚など、同じモジュールは同じ色になっている。一見同じに見えても異なるモジュールで構成されていることが分かる。
橋のモデルとモジュール。上水道や橋脚など、同じモジュールは同じ色になっている。一見同じに見えても異なるモジュールで構成されていることが分かる。
橋のモデルとモジュール。上水道や橋脚など、同じモジュールは同じ色になっている。一見同じに見えても異なるモジュールで構成されていることが分かる。

天候や時間変化をリアルに表現

本作では時間経過とともに天候が変化する演出が加えられている。雨模様と氷の魔法に相関はあるものの、基本的にゲームプレイには直接影響しない。また、ディレクターからは前作の課題でもあった処理負荷をかけないことが求められていたという。にもかかわらず、なぜ天候変化を行なったのか。それは作中における冒険感の演出だ。ディレクターからは「地域ごとに異なる雰囲気を味わえるように天候を表現したい」という指示があったという。

天候(晴れ)
天候(曇り)
天候(薄曇り)
天候(雨)
天候(豪雨)
エリア(ヴェルムント)
エリア(バタル)
エリア(アガメン火山島)
晴れの場合でも地域によって日差しや雲の見た目が異なり、合計15種類(5種類×3地域)の天候が用意された。
特殊な天候
特殊な天候
地域限定の特殊な天候。豪雨地帯では昼夜を問わず雨が降り続け、視界が悪くなる。霧の湿原も恐怖感を演出する。天候は28日間のスケジュールで管理され、ループする。これらは前作を踏襲したもの。

天候によって変化する要素には、大気、雲、太陽の翳り、霧、星、雨、風がある。これらの生成機能はRE ENGINEを使って時間をかけて1から開発され、本作で初めて導入された。

大気(Atmosphere)は、日の昇降に合わせてライティングが変化するのをシミュレーションする機能だ。太陽の高さの数値を入力するだけで、美しい朝日や夕焼けを作ることができる。本作では夜に出歩くことは危険であるため、夕方の見栄えを分かりやすくする必要があり、オレンジを強めに出しているという。雲の影を落としたときに日差しを弱めるときは、雲(CloudScape)自体の影を落とすと処理が重くなるため、太陽の翳り(ShadowProjectionTexture)を使い、擬似的に雲模様を投影し、日差しが弱まるように設定されている。

霧(VolumetricFog)は出現する範囲をボックスで指定することができ、そのなかでグラデーションをかけたり、風の影響で流れていくような表現をすることができる。また地形に沿った霧の表現も可能だ。
リードライティングアーティスト 藍原 啓文 氏
リードライティングアーティスト 藍原 啓文 氏

雨によるシェーダー変化は、雨粒が降って濡れてきて、水溜りができて波紋が広がるようすと、そこから乾燥していく過程などがシミュレートされている(このとき、傾斜部分やメッシュが曲がっているところに水溜りができないようになっている)。また、室内や洞窟内での雨の影響を遮蔽する技術も導入され、これにより、キャラクターが屋根の下に入ると乾いていく表現が可能となった。雨粒のパーティクルを遮蔽させるために『バイオハザード7』でも実績のあるDepthOcclusionを使用した。

風の強さは5種類(無風、弱風、風、強風、暴風)あり、天候に連携する。影響は、草や木の揺れ、マントや髪の毛の動き、煙の立ち上り方など、さまざまな要素に及び、天候ごとに、どの風をどのくらいの確率で発生させるかを設定する。これら連携するシステムのために技研の協力のもと、設定同士をつなげる管理システムが構築されたという。

『ドラゴンズドグマ 2』プレイ画面
『ドラゴンズドグマ 2』プレイ画面
『ドラゴンズドグマ 2』プレイ画面
『ドラゴンズドグマ 2』プレイ画面

平林プロデューサーは『ドラゴンズドグマ 2』の開発を振り返り、「技術的なノウハウの蓄積やさまざまなアイディアの創出がもたらされた」と語った。ここで紹介することができたのは、開発のほんの一部で、本作を通じRE ENGINEはさらに多くの技術を獲得し蓄積したことがうかがえる。平林氏はRE ENGINEを「DCCと一緒で集合知なんです」と説明してくれた。つまり、DCCツールを使用した様々な会社の技術や要望がオートデスクにフィードバックされ、デジタルアーティストにとってより良いツールとしてバージョンアップしていくというわけだ。RE ENGINEへの出力はMayaやMotionBuilderといったDCCツールから行なわれているのを見ると、相互に成長し合って今後は一体どんな表現を見せてくれるのだろうかとワクワクさせられる。奥深いゲーム体験の裏側には未来を垣間見せる技術が輝いていた。

TEXT:日詰明嘉
EDIT:カプコン、オートデスク

ドラゴンズドグマ 2

ドラゴンズドグマ 2

ジャンル: オープンワールドアクション
プレイ人数: 1人
発売日:好評発売中(2024年3月22日)
CEROレーティング:D(17才以上対象)

©CAPCOM

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