トレンド&テクノロジー / 冨田和弘が斬る!建築ビジュアライゼーション業界
第18回:制作費用について考える その4

更新日 2011.10.11

制作費用について考えるも4回目になりました。少々引っ張り過ぎの感はありますがおつきあい下さい。今回は視野を海外や建築以外の業種に広げたお話です。これまでのコラムでは、これまでの自身の経験を元に私なりの回答をもってお話ししてきましたが、今回は問いかけで終わってしまうものもあります。しかし一般論として今持っている情報からなるべく主観を外して書いていますので、何らかのお役に立てるものと思います。


営業範囲を海外に広げる

前回少し触れましたので重複する部分がありますが、おさらいの意味も兼ねてはじめから書きます。海外のクライアントを掴むというと何か大変な事をするような響きがありますが、単純にクライアントの幅を広げる程度の意味です。海外の場合は、CGパースの単価が日本とは違います。クオリティに左右されるとは思いますが、日本の2~3倍程度じゃないでしょうか。クオリティといっても何か特別凄い絵というわけでもありません。通常日本でも散見できるレベルです。私が知っている範囲なので全てがそうかと言われると「あくまで私が知っている範囲」という但し書きがついてしまいますが、そういう世界が有る事は純然たる事実です。

もし、私が話している様なフィーのパイが海外に眠っているのなら、指をくわえて見ている場合ではありません。どんどん出て行くべきです。ただ、日本で営業するようには行きません。それはそうです。物理的な距離がありますから。そのため一番の問題は「どの様に営業するか(クライアントを獲得するか)」という点です。私は英語(一般的には英語ですね)が苦手だから無理」というもう一つの問題点とおぼしき事を言う方もいると思いますが、言葉が堪能な人は世の中に沢山います。前述の話と同様、パートナーを得られれば言葉の問題はあらかた解決出来ます。新規にスタッフを雇う際に英語が出来る人を採用するのも手かと思います。今のCG制作の単価が2~3倍になるのだったら、ペイ出来る内容だとは思いませんか?

という訳で言葉の問題は解決出来たとして、営業はどうしましょうか。私も幾つか頭に思い浮かぶことはありますが、模索中というのが正直なところです。何せ、未だ海外からの受注実績が無い訳ですから偉そうな事は言えません。海外からの受注は私のここ1~2年の課題です。今まさにトライしている最中(ちょっとサボり気味ですが)でもあります。ですのでここで書くほどは実績が伴っていませんので、一般論の一つと捉えて読んでいただけると助かります。


営業先(ターゲット国)は?

まずは営業先ですが、大雑把に分けるとヨーロッパ、中東、アジア、アメリカ辺りになると思います。さてターゲットとなる国はどこが良いでしょうか。一時中東は魅力的な営業先でしたが現在は正直良くわかりません。ドバイ辺りがにぎわっている頃の状況は良く知っていますが、バブルがはじけた後の情報が私の手元にあまりありません。中東は相変わらずお金持ちの国で建設ラッシュは続いているようですが、明瞭な情報がないのでここでは外しておきます。

アジアとは中国をはじめ東南アジアの諸国と定義してお話ししますが、アジアの場合はこれまでの話の内容とは少し違った観点でアプローチするする必要があります。というのも仕事は日本に比べて潤沢(以前よりは失速して来ているようですが)ではありますが、フィーは日本より遥かに安くなります。最近は日本の単価が安くなり、価格的な面ではアジアを使うメリットが少なくなって来ていますが、日本から発注するCGの価格はあくまで日本向けの価格設定で例えば中国の場合は中国国内の大凡2倍の設定になっています。中国国内価格で言えばパース一枚数万になります。これでは日本に制作拠点を置いて制作していたのではペイできません。他のアジア諸国も概ね同じ傾向にあります。そのためここで挙げているアジアの場合は制作拠点を現地に置き、制作スタッフも現地で調達出来ないと上手くいきません。商習慣や国民性などの問題も出てきますのでさらに難しくなります。逆にこれらを克服出来ればメリットは大きいので、トライする価値は十分あります。また上手く機能させる事が出来れば日本の仕事をアジアで制作できます。そうすればフィーは同じでも制作コストが下がるので結果的にフィーを上げる事と同じ事が出来るようになります。

残るはヨーロッパとアメリカですが、この2つがここまで話してきた営業先としてはベターだと思います。勿論商習慣の違いは出てきますが(なにせ日本の商習慣は異質なので)、他の地域と比べれば乗り越える事は難しくないと思います。テイストに関しても大ざっぱに言えばフォトリアルとコンセプチャルな表現の2つに分かれますが(クオリティは何れも高い)、大きく日本との違いは無いように思います。


営業をどうするか

ターゲット国(地域)が決まったところで営業をどうするかという問題が出てきます。現地法人を設立して活動するのが手っ取り早い方法ではありますが、それが出来る資本があれば苦労しません。資本0という訳にはいきませんが、手弁当レベルで行える活動を考えてみます。

取りあえず現地に営業活動をして貰える人間が必要になります。ここのコストを抑えるためには知人、友人、親類の類に頼むことになります。勿論、完全な営業を行って貰えるだけの手当は出来ないので、営業というより簡単なPRレベルの話になります。「そんな知り合いや親類縁者はいない」という人も多いでしょう。かく言う私も0ではありませんが、営業活動に繋がりそうな知人がいません。その場合は諦めるんでしょうか。いえいえ、本コラムでは度々出てきますが、人的ネットワークを活用すれば何とかなるのではと思っています。親しい知人に海外勤務の人間がいるとか、帰国子女の友人がいるとか、外国人の知人がいるなんて人はそこそこいる筈です。自分との関係が深くなければ営業的な事を頼むのは無理かも知れませんが、現地の建築CG事情や、設計事務所など、クライアントとなりうる相手を探ることは可能だと思います。おぼろげにでも見えてくれば直接コンタクトを取ってみる事が出来ます。英文が苦手なら得意な友人に安く書いて貰いましょう。

人的ネットワークがない!と断言できる方は、デジタルネットワークによるPRを行いましょう。簡単にいうとWEBによるPRです。HPを英語で書くことで出来る簡単な方法です。みなさんもCGの情報を集める際に英語のサイトをうろうろすることがありませんか? 同様に海外の人もネットをうろうろして情報を探しています。但し、日本語のサイトでは目も向けてくれないでしょう。英語のサイトを構築するだけで海外(ここでは英語圏)の土俵に上がることができます。後は魅力あるサイトの構築とコンテンツのクオリティの高さで勝負です。実際に日本人でHPに載せているイラストがもとで大手の映像会社のDirectorにヘッドハントされた話などがあります。彼はアメリカ在住ではありましたが、私的なHPがもとで起こった事実です。よく聞くアメリカンドリームではありますが、英語のHPを作らない限りは夢を見ることさえ出来ません。英語化の労力は大した事では無いと思いますので、トライする価値は十分あると思います。


設計/Rendering Next Picture株式会社

異業種に参入する

異業種って何処なんでしょうか? 異業種とはプロダクト関係になりますが、建築CGをやっている人間が入れる場所はあるんでしょうか。良く考えて見て下さい。例えば地デジ化で大量に売れまくった薄型テレビ。テレビってどこに置きますか。大体は部屋の中ですよね。テレビ自体の性能やフォルムも見ますが、宣伝ではテレビのある空間(室内)が必ず出てきます。例えば車。車も同様に車自身の性能やフォルムの事もありますが、必ず背景には街が出てきます。実際に車会社でデザインを最終決定する際には、販売予定の現地映像(北米で売るのならLAの街並など)に車のCGを合成した物を使います。要するにプロダクトの多くは、ミクロな視点では部屋単位、マクロな視点では街全体や風景がデザイン決定プロセスに大きく関わります。ここに建築CGが活躍できる場所が存在します。建築に関係の無いプロダクションが適当にやっているケース多いので仕事としてあまり表に出てきてませんが、確実にパイはあります。関係者と話をすると、やはり建築を知らない人間がやる建築CGは違和感があるようで、建築がわかっている人間に制作をお願いしたいと思っているようです。いま1つ表に出てこないのは発注者側も建築CGをやる側もお互いがお互いの存在を知らないことに起因します。ここを乗り越えられればパイを広げることが出来るようになるでしょう。その手法も最終的には人的ネットワークを活用して入り込むことになりますが、前述の海外の話に比べればハードルが低く感じませんか? ここでもネットワークに自信の無い方は、ネットワークを持っている人間とコラボしましょう。単価も建築CGよりは結構上をいっていますので、クライアントが増え、フィーも向上する。魅力的な世界だと思いませんか。


最後に

今回で制作費用に関してのお話しは終わりにします。もっと詳細に事例を踏まえて書きたい所ですが、そうするとこの内容だけでかなりのボリューム(簡単に書いても4回かかってます)になってしまいますのでこの辺を区切りにさせて下さい。

前回も宣伝しましたが、Visualizing Architectural Design Exhibition(VAD展)が開催されています。東京は10月2日までなので、このコラムがアップされる頃は東京は終わっていますが、大阪、名古屋はこれからです。先日東京の会場である銀座のポーラ美術館に行ってきましたが、目を見張るパースが多く大変刺激を受けました。特に海外の方のパースは絵に対する切り口というか感覚が違っていて非常に興味深く見ることが出来ました。総じて手書きもしくは手書きのハイブリッド手法が多い印象ではありますが、CGレンダラーにとっても表現手法としては非常に勉強になる展示会です。関西、中部圏の方は絶対に損をしないことはお約束しますので、時間の許す方は会場へ足をお運び下さい。



今回掲載しているイメージも、VADに私が出展している2枚のパースの内の一枚です。前回掲載したパース同様に設計からオリジナルで起こしているパースではありますが、いつもの如く制作期間が3日程度と通常の仕事と同じ手順しか踏んでいません。此方はコンセプチャルな表現で纏めてみたものです。

VADに関して
http://vad.jara-net.com/index.html


更新日 2011.10.11
著者プロフィール
冨田 和弘
冨田 和弘
Next Picture株式会社 代表
1990から2007年まで大成建設設計本部に所属し、プレゼンテーションGrのプロジェクトリーダーとして建築家原広司氏、伊東豊雄氏との多数のプロジェクトをはじめ、大規模プロジェクト・海外プロジェクト・設計コンペ等にCGディレクター及びデザイナーとして参画。2008年に株式会社未来技術研究所の建築ビジュアライゼーションセンターの所長に就任。2009年より独立し現在に至る。2006年より京都大学建築学科非常勤講師。建築ビジュアライゼーションの講演、執筆多数。一級建築士。
HP:www.next-picture.co.jp

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