有限会社ライブ
HAYABUSA BACK TO THE EARTH

本物の星空を、本物の動きで---- 3ds Maxで描く"はやぶさ"が拓いた 全天周フルドーム映像の新たな世界

4Kで43分の作品を実質3カ月で作りあげる

ーードームマスターデータの巨大さに関してはいかがでしたか?

上坂氏:なにしろ1フレームのサイズがフルハイビジョンの8倍ですから、これには本当に困りました。もともとこのプロジェクト自体、スケジュール的にも予算的にもさほど余裕がなく、加えて、この巨大なデータファイルのハンドリングの悪さやレンダリングの長時間化が追い討ちをかけて、実際の制作においては時間的にもコスト的にも、もはや少しの無駄も出せない状態になっていました。普通の映画のように、多めに撮影しておいてあとで要らない処をカットしていく、という作り方は不可能だったのです。

ーーどのようにして対処したのですか?

上坂氏:徹底したアニマティクスの活用です。通常はシーンごとに必要な箇所だけ作るアニマティクスを、今回は先に全編通してフルに作りあげたんです。もちろん尺もきちんと計算して、音楽のタイミングやナレーションも入れた完全な映画の詳細設計図です。そして、この完全なアニマティクスに基づいて、無駄を省いてCG映像を制作。そして、アニマティクスの粗い映像を4Kの完成画像にひとコマひとコマ置き換えていく、という単純作業のワークフローとすることで、全体の作業効率を大きく向上させました。また、すべてをアニマティクスで事前に決め込んでおくことで、たとえばモデリングも画面に映らない部分はポリゴンを削るなどして、徹底した軽量化を図るなどの工夫が可能となりました。まあ、そうはいっても、4Kで43分の作品を実質3カ月で仕上げられたのは、スタッフたちの頑張りがあればこそだと思います(笑)。

ーー使用したツールとその制作体制はどのようなものですか?

上坂氏:3ds Maxで作り、After Effectsでコンポジットして、Premiereで編集するというフローです。テロップはPremiere。プラグインで球体状にフィットするよう歪ませてから、載せました。また、制作スタッフは半年間でおよそ7名。延べで25名ちょっとですね。環境的に前述の通りワンサーバで皆がファイルをやりとりすることが難しいので、"何カットから何カットまではこのコンピュータ"という具合にコンピュータごとに担当を決めて割りふり、個々に作業していく分散処理で進めました。サーバもファイルサーバとして使うとやりとりが発生するので、リモートログインして、そのローカルな中でローカルにやっていくスタイルです。リモートログインで、いろんな人が切替えながら使えるという工夫ですね。まあ、それでも重かったですが(笑)。

ーーかなりギリギリの作業という感じですね。

上坂氏:出たばかりのクアッドコアマシンの限界まで、パワーを使い切ったと思います。3ds Maxもまだ32ビットでしたし......あれより1年早かったら同じようにはできなかったでしょうね。逆に3ds Maxが64ビット化し、パソコンの性能もさらに向上した現在なら、より容易に作業できるようになっているでしょう。

ーー3ds Maxをメインツールとした理由はなんでしょうか?

上坂氏:ずっと使い続けてノウハウを蓄積している点が大きいのですが、今回のように未知の世界へ挑戦したり、新手法をどんどん造り出す必要がある時、やはり、思いついたことをごく短時間でスパッと試し、実現できる3ds Maxがだんぜん強みを発揮します。今回は特に物量で勝負する必要があったので、プラグインも3つ作りましたし、スクリプトは無数に書いています。こういうことが手軽にできるのも3ds Maxの魅力ですね。プラグインのうち、正確な星空を作れるプログラムは当社で製品化しようか、とも考えてますよ(笑)。

たった2館から全国へ、そして世界へ

ーー完成時は大きな手応えがあったでしょうね。

上坂氏:もちろん手応えは大きかったのですが、いちばん最初の公開時はすごく不安でした。一般向け作品をフルに監督したのはこれが初めてだったし、前述のように科学映画としては例のないタイプの作品でしたから。しかも、公開館も当初は大阪と日立の2館だけで......公開後それが少しずつ広がっていったのです。これは、見て下さった方がどんどん口コミで広げてくれたのが非常に大きかったと思います。口コミで広まって、九州や北海道など全国から大阪に見に来て下さる方が増え、その方たちが帰って地元のプラネタリウムに電話するんですよ。「上映して下さい!」「なんでウチのプラネタリウムではやらないの?」って(笑)。そうやって全国へ上映の輪が広がっていったんです。

ーーその後、英語版や帰還バージョン、劇場版も制作されましたね。

上坂氏:まず昨年、はやぶさが帰還してくる直前に海外配給が決まり、そのためにまず英語版を製作しました。これも紆余曲折あって、欧米人にはこういう擬人化は受入れられないというので、シナリオを全面的に書き直せ、とずいぶん言われました。でも、それでは『HAYABUSA BACK TO THE EARTH』ではなくなってしまいますからね。そのまま英訳して英語のナレーションを入れたんです。......結果は大成功。ハワイで開催されたフルドーム映画のコンテスト「イミロア フィルムフェスティバル」に出品したんですが、Audience Choice Awardを受賞しました。これは実際に作品を見た人たちの投票で選ばれる賞で、参加52作品中もっとも観客のハートを掴んだ作品と認められたのです。上映には私も行きましたが、すごい反響でしたよ。上映終了と同時に大拍手が湧きあがり、握手攻めです。感動して泣いてくれた観客の方もいました。

ーー帰還バージョンでエンディングを作り直したのは冒険だったのでは?

上坂氏:たしかに完成し成功を収めた作品を、一部とはいえ作り直すのは、大きなチャレンジです。すでにこの作品に対して完成したイメージを持ってる人が多いのに、それを変えてしまうわけですから。製作委員会でも反対意見はありました。お金もかかるし最期まで揉めたんですが、私が押しきりました(笑)。。

帰還カプセル
到着した帰還カプセルは、報道された写真通り"裏返し"になるよう落ち方が繰返しシミュレートされた。

ーーそこまでこだわった理由はなんでしょうか?

上坂氏:実は、昨年6月にはやぶさ帰還をオーストラリアまで見に行ったんです。それはもう大感動でした。小さな光の点が徐々に大きくなって、やがて部品がばらばら砕けてつぎつぎ光の筋になって、その光の色も実に美しくて。この最期の姿をきちんと作品の中に描き、感動を多くの人に伝えたいと思ったんです。幸い2年経って3ds Maxもハードも大きく進化し、ノウハウも蓄積されていたので、制作は非常にスムーズでした。特に3ds Maxの64ビット化は大きかったと思います。多少余裕もでて、たとえばラストのカプセル落下の物理シミュレーションも突き詰められました。09年バージョンではカプセルは表向きのまま落ちてくるんですが、帰還後の写真を見るとカプセルが転倒しているんですね。だからそういう状態になるよう、3ds Maxの物理演算機能を使って、向きや動きを変えながらシミュレーションを繰り返したんです。劇場版については、最初は全部レンダリングし直そうかと思ったんですが、あまりに無茶なので止めて(笑)、3ds Maxのシーンの中にプラネタリウムを作って投影し、それをキャプチャーしました。"その中"で見ている観客の視線をフィードバックさせていく感じですね。

ーーそれにしてもすごいヒットです。

上坂氏:現時点(2011年6月)で観客は30万人を超え、映画も9万近いそうです。多くの方に観てもらえたのは本当に幸せですし、多くの方が、わが事のように応援して下さるのも嬉しく思っています。実は新作『ETERNAL RETURN』の製作も始まっています。こちらも3ds Maxを駆使して、いろいろ新しいことにチャレンジしていますので、来春の公開をどうぞお楽しみに。

導入製品/ソリューション Autodesk 3ds Max
導入目的 ・3D CG制作のメインツールとして
・全天周フルドーム映像という新分野への挑戦
・厳しい納期とコストの中での新しい映像表現
導入ポイント ・豊富に蓄積された制作ノウハウ
・"思いつき"が即座に試せる柔軟性と直感的操作性
・プラグインやスクリプトの活用しやすさ
導入効果 ・特殊な映像システムに最適なワークフローの開発
・新しい表現手法をスピーディに開発
・さらに新しいノウハウの蓄積
今後の課題 ・多角的なアプローチによる一層の品質向上
・さらに新しい表現手法の開発
・より柔軟な制作体制の確立
作品概要 「HAYABUSA BACK TO THE EARTH」
ナレーター:篠田三郎
監督・シナリオ・絵コンテ:上坂浩光
総合プロデューサー:飯山青海
企画/制作:「はやぶさ」大型映像制作委員会
(C)有限会社ライブ (C)「はやぶさ」大型映像制作委員会
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