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サンジゲン Interview 「3DCGアニメーションで2Dセルルックを! 独自の手法で切り拓くアニメーション新時代」

サンジゲン Interview 「3DCGアニメーションで2Dセルルックを! 独自の手法で切り拓くアニメーション新時代」

009 RE:CYBORG

サンジゲン

Posted: 2012.12.17

日本SFマンガの原点にして最高傑作であり、幾度となくアニメ化されてきた石ノ森章太郎の『サイボーグ009』。この名作を『攻殻機動隊S.A.C.』や『東のエデン』の神山健治監督が舞台を現代に移し、全く新しい物語として創りあげた劇場アニメ新作が、『009 RE:CYBORG』である。2012年10月に限定公開が始まると同時に新旧ファンが劇場に詰めかけ、たちまち動員15万人を突破。即座に全国拡大公開が決定し大ヒットとなった。この話題作において、スケールの大きなストーリィと共に大きな話題となったのが、2Dセルアニメのルックながら圧倒的な自由度を持つカメラワークと繊細かつダイナミックな動きを可能にした、3Dアニメーションの新たな映像世界である。この革新的な3Dアニメーションを生み出した株式会社サンジゲンの松浦氏、鈴木氏、植高氏、小川氏にお話を伺った。

神山監督を喜ばせた、ひと晩でモデリングした「島村ジョー」

――どのような経緯で『009 RE:CYBORG』制作に参加されたのですか

松浦 裕暁 氏
株式会社サンジゲン
代表取締役/アニメーション・プロデューサー
松浦 裕暁 氏
鈴木 大介 氏
取締役/モデリング・アニメーションディレクター
鈴木 大介 氏

松浦氏:お話をいただいたのは約2年前です。神山監督と石井プロデューサが当社へ見学にいらして、その後「実はこういう企画があるんだが」と声をかけられました。当時はまだ制作の方向性自体、模索していた時期だったようで「リアル調のCGではダメな気がするが、作画でやるのもちょっと......」という雰囲気でしたね。で、ウチを見学して「サンジゲンの絵柄でやることが、この作品にとって良いんじゃないか」と思われたようです。

――当初は別の絵柄で企画が進んでいたのですか?

鈴木氏:そうですね。最初は別の監督さんが撮る予定で、その監督が作ったPVも完成しており、それを見せてもらったんです。作画でなくCGではありましたが、サンジゲンのスタイルとは全然違う、リアルなシェーディングで作ったものでした。実は私の場合、個人的に『サイボーグ009』という作品への強い思い入れがあったんです。そのせいもあって、これはちょっと違うな、と思ってしまいましたね。

松浦氏:ぼくもそうですね。うちと路線が全く違うということもあって、このままなら自分たちが絵的に注目するような作品にはならないだろうな、と思いました。ぼくらのフルCGに対する思いは、このPVとは全然違う方向を向いていて、見せてもらったような絵を作ろうとは正直全く思ってなかったので......。で、「どう思う」って聞かれたんで、まあ思ったことを言いました(笑)

鈴木氏:私は何しろ思い入れが強かったんで「こうした方が良い」みたいな話をいろいろしましたね。そのうちに「じゃ試しに作ってみませんか?」みたいに言われて。何しろ大好きな009だし、尊敬する神山監督が目の前にいらっしゃるもので、即座に「やりますやります!」なんて調子に乗ってしまった(笑)。で、その日のうちに主人公の島村ジョーをモデリングしたんです。

サイボーグ009(島村ジョー)戦闘服モデルのセットアップ。モデルとBiped、補助操作用のボーンやヘルパー類を表示
パースの付いたカットのため、頭部のサイズを調整できるヘルパーで位置を上げて後ろに引き、スケールを縮小する。

――その日のうちに、ですか

鈴木氏:"乗ってる"時は、顔くらいならひと晩でできちゃうんですよ。まあ髪の毛とかは、難しかったので設定の絵をぺたっと貼り付けましたが、その他の顔はきっちり作って。サンジゲンのセルシェーディングでやれば、ここまでできます!と。すると神山監督がすごく喜んでくれたんですよね。

松浦氏:そうそう。ジョーの顔は、あの時作ったものからほとんど変わっていません。最初のモデルはリアルな感じで時間もかかっているようですが、鈴木はセル質感で1日で作りました。

――2年前に1日で作ったモデルを劇場版で使っているんですか?

松浦氏:そうなんです。とにかく当時の神山さんにとって、このモデルはすごく衝撃的だったようです。ぼくたちにとっては、長年かけて積み上げてきたものですから当り前なんですが、神山監督にすれば、ある日突然出会った新しいCGみたいに感じてくださったようで。非常に驚き、喜んでいただいた。だからって、すぐにお引き受けできたわけではないんですが。

――紆余曲折があったんですか?

松浦氏:当時、当社では『BLACK★ROCK SHOOTER』(以下『BRS』)というTVアニメのシリーズが動いていたので、パワー的に映画まではちょっと無理だろう、と。だからいったん、お受けできませんとお答えしたんです。では、とりあえずCMだけでも作りましょうというので、ジョーやフランソワーズといったキャラクターを使ったCMを制作しました。もっともウチはモデルを作って提供しただけで、CM自体は1〜2カットしか作っていません。でも、その仕上りを見て「やはり映画もサンジゲンにやってほしい」とあらためて言われたんです。それが2011年の暮れ頃。その頃には協力会社の状況を含めだいぶ先が見えるようになっていたので、前向きに考えてみました。ちょうど『BRS』が翌年3月頃に終わるので、上手くいけばBRSの流れでそのまま『009 RE:CYBORG』制作に投入できる、というイメージが湧いてきたんです。またプロダクションI.Gさんから良い条件をもらったのも大きかったですね。で、ここでやらなければダメかな、と。ぼくのアンテナがピコーン!って鳴ったんですよ(笑)

鈴木氏:まあ、私の方は、009だし神山監督だし、断れる術は何もありません。だからもう抗いようもなかったです(笑)

――神山監督がサンジゲンにこだわった理由は何だったのでしょうか

鈴木氏: これは後から聞いたんですが、 神山監督はもともと3DCGで作品を作りたいとずっと思っていたんだそうです。『 攻殻機動隊S.A.C.』や『東のエデン』でも少しずつ使い始めていたけど、最終的には全部3DCGでやりたいと思っていたんだとか。で、自分が思うような3DCGでアニメーションが作れる会社をずっと探してらっしゃったんですね。ただ、そのお眼鏡に適う制作会社がなかなか無かったということでしょう。

――サンジゲンに出会うまでは?

松浦氏:そうですね、神山監督はいろいろ言ってました。モーションキャプチャにせよ、アクターやオペレーター等々多くの人が必要だし、コストも大変だと。今のままではアニメに使うのは無理だろうと思っていたようですね。神山監督自身に3DCGで作りたい気持ちがあっても、実際に作る工程を考えれば考えるほど、資金的にも手間的にも無理な気がしてきてたって。

鈴木氏:そう言ってましたね。本当に3DCGはいろんなことで思ったようにやれない、本当に扱い難いって。それで半ば諦めかけてたところで、サンジゲンに出会った(笑)

――神山監督はなぜそんなに3DCGがやりたかったんでしょうか

松浦氏:まずカメラワークとスローモーションとか、作画でもできなくはないけれど、難しい表現......現実にはほぼ不可能に近い難しさのある表現が、CGなら可能だということ。また、作画は1度上がったらなかなか直せませんが、CGなら何度でも直せます。もちろん無限に直せるわけじゃありませんが、とにかく直しに強い。必要ならアニメーターと直接やりとりしながら直すこともできます。監督にとっては、自分が思い描く絵を作り手にダイレクトに伝えられ、それが上がってくるのは気持ちいいんだと思いますよ。

鈴木氏:作画だと1つのキャラクターをいろんなアニメーターが描くため、同じキャラなのに顔が似ないことがよくあります。それを一致させようと苦労してる間に、制作期間を消費してしまうんですが、3DCGではありえません。何しろ1つモデルを作ってそれをみんなで使い回すんですから、誰が作ったって似ないはずがない。というかそもそも同じモデルですからね。結果、これまでよりずっと効率的に進められるので、そこから先の芝居の話をする時間を十分取れるわけです。神山監督としては、それが嬉しいという感じでした。監督にしてみれば、作画でやる場合より演出面でいろいろなことが試せた実感があるんでしょう。実際、レイアウトなども全部、会議室でアニメーターとモニタを見ながら、その場で決めていったりしてましたし。神山監督は背景出身でパースとかレイアウトにすごくこだわる方なんで、それも嬉しかったんじゃないかな。

――その場でレイアウトがどんどん作れるしどんどん直せる?

鈴木氏:おかげで、ぼくらが最初に出したレイアウトは、ほぼ全て直すことになりましたが(笑)。とにかく実写映画の現場のように直せるんですよ。監督が「いや、こっちからこう撮ろうよ」と言えば、3DCGではカメラ位置を動かして撮り直す、ということがほとんど実写と同じようにできる。それもコンピュータ上で。演出する人間にとっては、ある種理想的な環境でしょう。

アイデンティティを持った映画をCGで作れると証明したい

サイボーグ002の完成モデル(ワイヤーと仕上り)。制作はプリプロ時のキャラクターデザイン画を3ds Maxに読込み、これをベースにモデリングする形で進められた。
フェイシャル制御のためMAXscriptを作成。これによりモーフターゲットへのアクセスが直感的になり、新規で足されたものも整理されてコントロールがより容易になった。
植高 正典 氏
CG作画部 リードアニメーター
植高 正典 氏
小川 実希 氏
CG作画部 シニアアニメーター
小川 実希 氏
ジョーの決意の表情とフランソワーズの切ない表情を表現するため、元からあるモーフ以外に目の形や鼻の高さ、唇の形、眉毛やまつ毛の形を整えるモーフ等を数種用意。前髪を増やし髪同士が触れた時に柔らかさが出るようにしている

――するとスケジュール的にはかなりスムーズに進行できたのですか?

松浦氏:ぼくはそれほど無理をした感じはありませんが......現場はまた違う感想があるかな(笑)。まあ前述の通り、社として本格的に取組めるようになったのは、BRS終了後からですからね。それまでは5〜6人で「人が足りない人が足りない」って言いながら進めていました。で、3月にBRSが終わり、社を上げて本格的な取組みが始まったのが4月。そこから完成まで約半年。

鈴木氏:で、その半年のうち4カ月がラストスパートっていう(笑)。監督もこんなの初めてだって言ってましたけどね。まさかラストスパートが4カ月も続くとは思わなかったって。

――制作体制はどれくらいのスケールで?

松浦氏:全員が参加できるようになった4月以降で、社内のスタッフが平均20名くらい。加えて外注さんが10名前後で、合計30名体制ですね。そして他にモデラーが10名くらいです。まあ、進行中はいろんなことがあったし、30から40名の体制で約半年で映画1本作りあげたんですから、やはりタイトなスケジュールだったというべきかもしれませんね。

――そのタイトなスケジュールの中でやりたかったこととは?

松浦氏:もちろん、大ヒットさせたいとか、そういう思いもありましたが、それよりまず、サンジゲンとしてはこれを「作れる」証明がしたかった。これが第1ですね。CGプロダクションが『009 RE:CYBORG』というはっきりしたアイデンティティを持った映画を、3DCGできちんと作れるということを証明したかった。それをしておかないと、この先なにか新しいことをやりたいと思ってもできないと思ったんですよ。

――なぜ証明する必要があるのですか?

松浦氏:3DCGではこうしたプロジェクトは難しい、と思われている部分があったからです。3DCGでセルアニメ風に見せるキャラクターアニメーション、という当社の手法で、それができるということを証明したかった。それはリクープなどの予算面も含めてです。つまり、たとえ予算が厳しくても、ちゃんとしたものをきちんと作れる環境があり、もちろん赤字にはせず、きっちりリクープして利益も出すということですね。それができなければ誰も発注してくれないでしょう。だから、今回はそういう部分も含めて証明したかったし、実際、証明できると思ったんですよ。

――なぜ3DCGでセルアニメ風のキャラクターアニメという手法を?

松浦氏:3DCGというとリアルなものを連想しがちですが、そうした絵でアニメーションを作っても、私などなかなか感情移入できません。でも、ふつうの作画のアニメには感情移入できますよね。一般的にもそういう方が多くて、日本人は特にそういう傾向が強い。つまりそこに市場があるわけです。だったら、ぼくたちが映画を作れるという証明をする上でも、そこを狙うべきでしょう。もちろんリアル指向が悪いわけではありませんが、CGをやっていると技術に束縛されがちで、ついどれだけリアルなものが作れるか、といったことにばかりこだわりがちですが、やはり僕たちは、あくまで技術を利用する側にいるべきでしょう。こうしたことを踏まえて、僕たちはセル画調という手法を選んだんです。それは予算的にも日本の市場規模的にも、これがベストマッチだと確信しているからです。そして、今回はこの狙いが非常に上手く嵌まった、と実感しています。

鈴木氏:私は、やはり3DCGで作ったキャラクターが生き生きと感情表現するのを多くの人に見てもらい、違和感なく受け入れてもらう、そんな作品を創りたいというのが1番です。言い換えれば、神山監督が思い描くドラマがちゃんとお客様に伝わるように、セル画調の3DCGキャラクターに演じさせる、ということですね。このハードルはどうしてもクリアしたかったな。

――現場の若い方はどんな風にお考えですか?

植高氏:私自身は『009』というタイトルはもちろん知っていましたが、それ以上の深い知識はなく、映画をやると決まってから原作を読みました。だから正直そこまで強い思い入れはなかったんですが、プロジェクト自体に関しては、アニメーターとしてやれることが広がるな、という期待がありましたね。今までのアニメにおけるCGの使われ方って、やはり画面を構成する一部分というか、極めて限定的だったと思うんです。戦艦だとか、メカだとか......要するにメインになることがない。だから私たちも画面全体をコントロールすることができず、アニメーターとしてフラストレーションが溜まってしまうんですね。画面を構成するメインはここなのに、自分たちが作っている絵は別な所で、要するに"にぎやかし"みたいなものにすぎない、と。もちろんそれも重要な要素ではあるんですが、やはり1アニメーターとしては画面の中心を構成したい、という気持ちがあって。『009 RE:CYBORG』ならそれができる、と思ったんです。実際、できましたしね(笑)

小川氏:私はもうとにかく、キャラクターを動かすこと。それもアクションではなく、いわゆる日常芝居をやらせたい、という気持ちがすごく強かったですね。サンジゲンはもともとアクションに強いというか、アクションメインでやる作品が多く、日常芝居は逆にすごく少ないので、やりたくてもなかなかやる機会が無かったんです。『009 RE:CYBORG』は、もちろんアクションもたっぷりありますが、同時に日常芝居も思う存分できそうな気がして、すごく期待していました。

――実際、本作では壮絶なアクションシーンと共に、キャラクターの繊細な感情表現が注目されてますね。特に003のラブシーンとか......

鈴木:あのラブシーンについては、実は最初に神山監督とお会いした時から監督が言ってたんですよ、「キスシーン、作れますか?」って。そのことがずっと念頭にあったんで、ラブシーンはちゃんと監督の求めるものに応えないといけないな、と思っていたんです。で、このシーンのアニメーションを誰にやらせるか迷ってたんですが、最初の六本木ヒルズのシーンでジョーとフランソワーズが宙づりになるシーンを小川さんに任せてみたら、これが異常に良い(笑)。ジョーを慈しむようなフランソワーズの手つきが、もう本当に凄い。フランソワーズの優しさや、ジョーへの思いが凄く乗っていて......これはもう、あの懸案のラブシーンをやってもらうのは彼女しかいない!と。

松浦氏:実際、『009 RE:CYBORG』をきっかけに、小川さんはめきめき力をつけたよね。当時はまだ入社して2年目くらいで、いろんな仕事をそつなくやってたけど、本人が言うようにアクションものが多かったこともあって、それほど目立つ存在じゃなかった。それが『009 RE:CYBORG』を始めて、春になる頃には監督を含めみんなが小川という名前を心に刻みつけていたもんね(笑)。仕切っている側では、植高君に加えてもう小川さんもリードアニメーターにした方がいいんじゃないか、ってずっと話してたんだ。......本人は知らなかったみたいだけど。

小川氏:全然知りませんでした。知ったのは、本当に最後の最後(笑)

鈴木氏:小川さんは、作品の中でリードアニメーターになっていったという珍しいパターンですね。すごくナチュラルなリードというか......本当にみんなをリードしていた思いますよ。実際、あのラブシーンを見て、みんな悔しがっただろうね!

小川氏:いえいえ......(笑)

鈴木氏:いや、あれを見れば、口には出さなくても誰だって絶対悔しがったって!「やられた!」って「くっそー!」って思ったはず。でも、そういうのがすごく大事なことなんですよ。それこそがリードの本来の役目ともいえる。

松浦氏:もちろん実力的には植高君が十二分なものを持っていたけど、圧倒的な物量の作業量の負担が若手や中堅にかかっていく中で、女の子がそうやって実力でリードの立場になっていくって言うのは、現場的にも良かったんじゃないかな、って思いますね。

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