トレンド&テクノロジー / 建築ビジュアライゼーションのニューノーマル
第2回:建築パースと建築ビズの違い

2020.11.12

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建築パースと建築ビズの違い

みなさん、こんにちは。
まだCOVID-19の猛威で先が見えない日々が続いておりますが、如何お過ごしでしょうか?
私は子供が生まれ、育児休業を取得し、毎日家事と育児に追われているうちに、気が付けば3か月も投稿が空いてしまいました。大変お待たせ致しました!
(以下建築ビジュアライゼーションを建築ビズと略す)

さて、今回からいよいよ本題に入りますが、今回は「建築パースと建築ビズの違い」について、世の中の時代の流れと絡めて詳しく解説していきます。この話はビジュアルを生業にしているプロはもちろん、設計業に携わる人にとっても知っておくべき内容だと思いますので是非読んでみて下さい。

建築パースと建築ビズの違い

早速ですが、皆さんは「建築パース」と「建築ビズ」が全くの別物であることに気付いていますか?もしかすると、ただ呼称が変わっただけで、中身は同じと思われている方も多いのではないでしょうか?ですが、もし何も変わっていないのであれば、呼称が変わるはずありません。両者には決定的に違うものがあるのです。

それが「主題」の違いです。

【主題】主な題目。特に、その文章・作品の中心となる内容。(Oxford Languages and Googleより)

突然ですが、このビジュアルは何について描かれたビジュアルでしょうか?

MIRというノルウェーのCG制作会社が描いたもの
MIR(https://www.mir.no/cyprus-observatory)というノルウェーのCG制作会社が描いたもの。MIRについてはいつか詳しく触れたい。

私が初めてこの絵を見た時は、展望台を舞台とした映画のポスターか、何かのアート作品かと思いました。けれどもこれは、「建築を訴求する為のビジュアル」なのです。月を大きく配したそのユニークな構図は、確かに展望台としての建築の魅力を最大限に引き出しており、それでいてとても洗練されています。こんな見せ方で建築を表現したビジュアルは、これまで私が見てきたどの建築パースとも異なるものだと感じました。

そこで海外の建築表現をリサーチしたところ、海外プロジェクトではこのようなビジュアルが盛んに用いられていることが分かりました。それらは「Architectural Visualization(建築ビジュアライゼーション)」と呼ばれていたのです。今でこそ日本でも建築ビズを目にする機会が増えましたが、当時としては珍しい表現方法だったので、私は衝撃を受けました。これまで建築パースで暗黙の了解として守ってきたルールを壊し、全く違うアプローチで意図的に描かないと、こうはならないからです。

建築パース≒建築ビジュアライゼーション

つまり、建築パースとは別の「主題」を設定し、それにあった表現を意図的に選択しないと建築ビズは作れないということです。建築ビズを単なる流行りものと捉えてしまうと、両者の「主題」の違いには気付けません。実は建築パースに慣れ親しんだ人程、建築ビズを描こうとすると建築パースの「主題」で描き進めてしまい、建築ビズの表面上の特徴であるフォトリアルな表現を追い求めてしまったり、情緒的な雰囲気を纏わせるだけに陥ってしまいがちなのです。これは発注者側も同様です。絵は嘘をつけないので、作者が適切に「主題」を設定しているかどうかは滲み出てしまいます。

制作者や発注者(設計者)に関わらず、プロとして、建築パースと建築ビズの違いを理解し意図的に制作できることは、今後必須のスキルになると私は強く思います。なぜなら、世の中のニーズは既に建築ビズに移り変わっており、海外ではもちろんのこと、日本においても益々大きくなっているからです。

建築パースで扱う主題

建築パース

では、建築パースと建築ビズで扱う「主題」はそれぞれ何でしょうか?
まずは、建築パースで扱う「主題」からご説明します。

建築パースで扱う「主題」は、「建築のモノの価値」です。

少しイメージしにくいかもしれませんので、具体的に順を追って説明します。

建築パース

建築パースの役割は本来、建築について描かれた絵としてだけではなく、図面や仕様書では捉えづらい建築を、一般人でも把握し易くする為に生まれた「コミュニケーションツール」です。コミュニケーションを成立させる為にも、誰が見ても誤解の無い様、建築の特徴(又はその美しさ)を正確に伝える必要があります。例えば、その建築はどんな形状?何色でどんな素材?ディテールは?どんな場所で何をする場所(機能)?といった内容です。そして、相手に建築の情報を正確に伝えることを何よりも最優先にする、これが建築パースにおける暗黙の了解、もしくはルールなのです。

「建築を伝える為に、建築を目立たせる」というルール!?

つまり、あくまでも絵の表現は、建築を正確に伝える為の副次的なものになります。絵を魅力的にしていきたい気持ちも大事ですが、もし逆に表現を優先して描いてしまった場合、表現が先行し建築が霞んでしまい、訴求力の弱いビジュアルになってしまいます(上図右側)。これは建築パースの「コミュニケーションツール」としての役割上、絶対に避けなければいけません。

別の具体例を挙げます。例えば夕景の建築パースを描くとします。
夕景の場合、建築もその周りも全て夕日に染まり、美しい情緒的な雰囲気を出すことができますが、建築パースにおいては、建築の美しさはもちろんのこと、建築の部材(=モノ)本来の色が分かるように、夕日の色をあまり反映させずに描くことが求められます。つまり晴れた昼間に白く見える壁は、たとえ夕景でも出来るだけ白く見えるよう表現しなければなりません。

しかしそうなると、建築は美しく描けても、絵全体の調和は損なわれ、絵の魅力は落ちてしまうリスクがあります。その為、情緒的な雰囲気になる時間帯や空は避けられ、建築の本来の色が良く分かり、絵全体で調和し易いように、真っ青な晴れた空の建築パースが多くなるのです。設計者や描き手の本意とは反していたとしても、こういうケースは非常に多いです。

建築パースが抱える問題

虎ノ巻

しかし、この暗黙のルールこそが建築パースの抱えている問題だと私は考えており、未だに設計者と描き手の悩みの種でもあります。もしかするとエンタメ系、ゲーム系などの他業界の方が建築業界に参入しづらいのは、この問題に阻まれているからかもしれません。(単純に予算と制作期間が見合わないのもありますが。)

そこで生まれた解決方法の一つが、建築ビズだと私は考えております。そして建築ビズのニューノーマルにおける方法論は、より深くその本質を理解することで段々と浮かびあがってきます。その方法論についてはこの連載でしっかりとお伝えしていきますが、その為にはもう少し深堀りする必要がありますので、最後までお付き合い下さい。

建築ビズの誕生

建築ビジュアライゼーション

今の時代、建築パースでは心に訴えかけることがなかなか難しくなってきました。しかしそれは建築パースが悪いというわけではありません。時代の変化とともに世の中で求められていることが変わってきたからです。つまり、世の中の価値の軸が移り変わったことにより、これまで建築パースで扱ってきた「建築のモノの価値」を訴求するだけでは通用しなくなってきたのです。そして、その変化によって生まれたのが建築ビズだと私は考えております。この変化を捉える為に、時代の移り変わりについて説明します。

戦後、日本は食べ物さえ十分にない程、モノが不足している時代でした。モノがあればすぐにでも売れる程、価値の軸がモノそのものにあった時代です。この時代では、「モノの価値」を訴求することで、人々の心に訴えかけることができました。建築業界においては、建築パースが建築の持つ「モノの価値」を訴求し大活躍していました。

それから高度経済成長期を経て、モノで溢れた時代に突入します。この時代では、新しくモノを作っても簡単には売れませんので、いかに選んでもらうかが重要になってきます。しかしこれまで通り「モノの価値」を訴求しただけでは、選ばれる事が少なくなってきました。価値の軸がモノそのものから別の何かに移り変わってきたからです。

そして今、消費社会はさらに進み、モノがあるのが当たり前になった社会では、これまで扱ってきた「主題」と「表現」では立ち行かなくなってきます。もちろん建築業界も同様にこの変化の波を受け、建築パースで扱ってきた「建築のモノの価値」を訴求するだけではない、新しい表現が求められるようになります。では、何に価値が移り、何を「主題」に表現すればいいのでしょうか?

モノからコトへ

それが「コト」です。
価値の軸はコトに移り変わりました。「コトの価値」を魅力的に表現し訴求する事が求められるようになったのです。そして、この「コトの価値」を主題として扱い始めた建築ビズが生まれたのです。つまり、建築ビズで扱う「主題」は、「建築のコトの価値」になります。
改めて最初に出てきた月のビジュアルを見返して欲しいのですが、あの中で建築は暗闇の中にある為、形状も素材感もあまり分かりませんよね。これは建築パースにおける、建築を正確に伝えるという暗黙のルールを完全に壊しているのですが、あのビジュアルでは建築の形状や素材感など「建築のモノの価値」を主題に描いているのではなく、まるで月が目の前にあるかのような強烈な展望台の体験を「建築のコトの価値」として訴求しているのです。建築パースと建築ビズは、主題は違えど、建築が持つ魅力を最大限引き出し訴求している点で共通しています。つまり、建築ビズはコトの価値を通じて相手に建築の魅力を伝えるコミュニケーションツールなのです。

今回は長くなりましたので、ここらへんでお開きにします。
次回からは建築ビズについて、「コトの価値」の訴求の仕方や心に訴えかける為の方法論を明らかにしていきたいと思います。
それでは次回もお楽しみにお待ち下さい!

To be continued.

番外編:「学ぶ」は「真似ぶ」

番外編になりますが、私自身海外のビジュアルを真似て、様々な新しい表現を試しましたが、結果的には表面上を真似ただけの、訴求力が弱いビジュアルしか描けていませんでした。しかしそれを脱却した学習方法がありますので、参考に下記に載せておきます。

当時の私の学習方法は、「学ぶ」の語源である「真似ぶ」、つまり真似することから始めました。ただ表面上を真似するのではなく、「リサーチ→分析→実践(真似ぶ)→課題の洗い出し」をサイクルに、ひたすら繰り返し真似することでした。「リサーチ」に関しては、海外の建築ビズはもちろん、絵画、広告、映画、写真、アニメ、漫画に至るまで範囲を広げ、建築ビズがどの分野に似ているのかレファレンスを探します。「分析」は、そうして集めたレファレンスについて、どういういきさつで主題が設定され、なぜその表現を選択したのか、作者の言説があれば照らし合わせながら考察していきます。もちろん単純に構図、色彩、光、ソフトの使い方など技術的な内容も並行して分析します。「実践(真似ぶ)」と「課題の洗い出し」では、分析から得られた手法や表現を真似しながら試し、集めたレファレンスと自分の絵を比べ、良い点と悪い点の両方を挙げ、その改善点を課題として洗い出すことを何度も繰り返しました。PDCAに近いのかもしれません。もし需要があれば、参考になった方法や書籍、チュートリアル動画(Arqui9、マットペインティングなど)などお伝えしますので、InstagramやTwitterなどでメッセージを下さい。(今更ですが、最近SNSを始めてみました)

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著者

山口 大地

山口 大地

株式会社竹中工務店
大阪本店設計部 スペースデザイン部門
ビジュアライゼーショングループ

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