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第21回:広告業界のクリエイターのクリエイティブ力の秘密<5>

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こんにちは、パーチ長尾です。

私は父の影響で中学生の頃から写真を始めました。「おまえも写真撮るか」と、半ば強制的な感じもありましたが、すぐに写真を撮り始めました。もともときれいなものが好きだったからでしょうか、きっかけは偶然でもすぐに熱中したのを覚えています。

でもすぐに「良い写真って何? 」「もっときれいにとるには? 」という思いが出てきて、プロの世界に興味を持つようになりました。初めてプロの世界に足を踏み入れたときは、うれしかったのと同時に、すぐにはプロのコツがわからないということにも気づきました。

今回は優れた【ビジュアル】を作ることについて、私が長年かけて経験してきたプロの世界の「外から見ていても気づかない大事なこと」についてお話しします。
この内容は、3DCGビジュアル制作の質を高めたり、仕事を見直すのに役立つと思いますよ。

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図1 「広告業界のクリエイティブ力 分解図」
代表的な6つのクリエイティブ力をブログの中で紹介。今回は「Visual」


ビジュアルを読み解く

ビジュアル制作の前に、企画、デザイン、絵コンテなどのイメージ固めが行われます。そのイメージを「実現する」「より良くする」のがビジュアルクリエイターの腕の見せ所です。

ビジュアルクリエイターの第1の仕事は、「このイメージを正しく、そしてより深く、読み取れるかどうか」になります。商業クリエイターはアーティストではないので、自分の思いだけで物作りをすることはできません。広告主や前工程(プランナー、ディレクター、デザイナー)のイメージをもとに、自分のアイデアを附加しつつ形にすることが仕事です。そこでイメージを読み取ることは、全ての成否を握るほど重要になります。

私はイメージを読み取るために、打合せを大事にしています。前工程のクリエイターとの打合せで、「何を表現したいのか? 」「広告意図は? 」「製品の特徴は? 」などの《根本的なこと》を重点的に聞き取ります。
そして、この情報を元に自分の表現アイデア・制作手法などを提案しながら、ビジュアルの具体的な部分について打ち合わせしていきます。

事前のイメージがある程度具体化(ある程度ビジュアル化)されている場合は、そのイメージから《雰囲気》《方向性》を読み取っていきます。過去に制作された広告や、似たようなイメージを持つ広告以外のもの(映画、アート、ファッションなど)から受けた印象、効果、文化、などを想定することで、本当の狙いや自分が提案する内容の方向性を定めていきます。

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図2 「イメージから雰囲気・方向性を読み取るために必要な引き出し」
似たようなイメージから、お客さんが表現したい本質を読み取るために、過去と現在のビジュアルを収集する。


ディテールの追求

私たちが普段見ている広告は、消費者が気づかない細かな点まで注意して作られています。アイデア、全体のバランス、不自然さがないか、写真の解像度、印刷品質などなど、あらゆる点を高めるように制作されています。

このような広告を見続けている私たちは、「目が肥えて」しまっているんでしょうね、少しでも手を抜いている広告を見ると、「二流の商品? 」「信用できない企業」といったイメージを抱いてしまいます。だから手が抜けないんですね、徹底したディテールの追求はプロのプロたるゆえんだと思います。

まず、ビジュアルクリエイターが気をつけるのは、機材です。動画も静止画も撮影時の解像度を上回ることはできず、編集や合成を繰り返すたびに劣化してきます。それから、解像度とともに気をつけるのは、トーンの表現力です。一般的に低価格な機材を使用すると、明るい部分のトーンが飛ぶ「白飛び」、暗い部分のトーンがつぶれる「黒つぶれ」という現象が起こります。このような現象は、カメラの場合はレンズとカメラ本体の両方で起こるので、どちらも検討します。特にレンズは再現性を大きく左右するのでチェックしてみてください。

次は、撮影時に「自然に見えること」と「コンセプトに沿った演出」に気を遣います。たとえばライティング。スタジオ撮影では、屋内外で起こる自然な光を再現するようにします。ロケ撮影では、自然光だけでは光量が足りなかったり、陰の部分が暗くなりすぎたりしたときに、人工の光を足したりレフ板を使って光を反射させたりしますが、そのときにも自然光を主ライトとして扱い、不自然にならないようにします。

3DCGで制作を行うときにもこの考え方を使うとフォトリアルな仕上がりになります。メインライトは1つにします(これは撮影業界では1灯ライティングと言います)。その理由は、「太陽は1つしかない」からです。そして、このメインライトを邪魔しない程度に補助ライトを入れて仕上げていきます。

と、ここまでは自然に見えるという追求です。ここまでできたら次はあえて自然なバランスを崩して、目を向けたい部分を少しだけ「不自然」にします。このような演出をすることで、消費者の目が向くようになり、コンセプトをより強く伝えることができます。

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図3 バランスのとれた左の写真から、色とコントラストを強くして、植物と光の印象を強調した。その際には、あまり不自然にしすぎないようにぎりぎりまで強める。


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図4 図3の逆で、色とコントラストを弱くして、生命の終わりと冬の厳しさを表現した。コントラストを弱くすると柔らかい光を作ることができますが、明度と彩度を低くすると冬などの寒さ、寂しさを表現できる。


これはどんな物作り、アートにも共通の考え方です。第一にバランスをとる、そして適度にバランスを崩す、という何年もかかって身につける高度な思考と技術なんです。スキルとしてもまずはバランス感覚を養い、次に崩す感覚を養うことでこの技術を身につけることができるので、自分がどの段階にいるのか、を見極めて次のスキルアップ方法を考えるといいと思います。私たちの会社でもクリエイターはこの訓練を行っているんです。クリエイター(アーティスト)教育に欠かせない、彼らにとって絶対に必要な基礎素養なので、他のスキルと相まって確実に能力が伸びていっています。

最後に、撮影素材(または3DCG素材)がそろったら編集、合成作業に移ります。ディテールの追求という観点で見てみると、なるべく画像を劣化させない作業方法を採用している点がポイントです。はじめに作業計画(どのようなツールを使うか、どんな機能を、どんな手順で使うか)をたてて、作業の行ったり来たりを防ぎます。これは作業効率を上げる上でも効果がありますが、無駄な手数が減るのでその分だけ画像の劣化が避けられます。あとはソフトウェアが新しくなると、劣化を防ぐ、効率化できる、簡単な操作で高い表現力が得られる、ツールが搭載されるので、新機能には目を向けています。

今回は、広告業界のビジュアルクリエイターが優れたビジュアルを作る時のポイント、そのなかでも「外から見ていると気がつかない部分」について紹介してみました。3DCG制作にも役立つ考え方が多いので、ぜひ役立ててみてください!

次回は、お客さんの意図を読み取る《リサーチ》技術について紹介しますので、ご期待ください。



・本連載(第12回~第16回)でもお話ししていた「3DCGのためのカラーマネジメント」について、専門的な情報を発信することになりました。具体的な設定方法等も分かりやすく解説していきますので、ご期待ください。

CG WORLD.jp連載コラム「CG de カラマネ!」
http://cgworld.jp/regular/cg-cms/


・「パーチ長尾のブログ」始めました。クリエイティブやビジネスの抽斗になりそうな情報について、自由に書いていきます。
http://ameblo.jp/perch-com/

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