世界を感動させる体験を作るには?MOMENT FACTORYが語る、「みんな」で作る仕事術

世界を感動させる体験を作るには?MOMENT FACTORYが語る、「みんな」で作る仕事術
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2018年8月31日(金)、オートデスク株式会社の主催によるユーザカンファレンス「Autodesk University Japan 2018」が開催された。本レポートでは、昨年日本にブランチを作った、カナダのマルチメディア・エンタテインメント・スタジオ、MOMENT FACTORY (モーメント・ファクトリー)のセッションをお届けする。

WE DO IN PUBLIC--人を巻き込むこと

AUJのセッション「ステージから自然までを舞台にした、 人と人を繋げるインタラクティブ・エンタテイメント」の様子

MOMENT FACTORY は、マドンナのスーパーボウルでのパフォーマンスの演出、ナイン・インチ・ネイルズら海外一流アーティストのライブ演出のほか、バルセロナのサグラダ・ファミリアにおけるアーキテクチュアル・マッピング・ショー、チャンギ国際空港のメディアファサードなども行う、世界を牽引するスタジオ。
映像・照明・建築・アニメーション・音響、すべてを組み合わせたクリエイティブを行っている。

ジョアナ・マルサル氏

セッションにまず登場したのは、プロデューサーのジョアナ・マルサル氏。

マルサル氏は、MOMENT FACTORYが掲げるのは「WE DO IN PUBLIC」。人々が家から出て、ワクワクする体験をすること。それはまるでキャンプファイヤの火を囲んで、アイデアを共有するように...。彼らの役割は、「人と人を繋げるためのプロジェクトを創ること」だ。

AUJのセッション「ステージから自然までを舞台にした、 人と人を繋げるインタラクティブ・エンタテイメント」の様子

「MOMENT FACTORYはこれまでに、400以上のプロジェクトを手がけてきました。一環しているのは、"多くの人を繋げる"ためのプロジェクトだということ。映像や音響、テクノロジーを使って、独自性のあるプロジェクトやマルチメディアのアートを作ってきたんです」(マルサル氏)

AUJのセッション「ステージから自然までを舞台にした、 人と人を繋げるインタラクティブ・エンタテイメント」の様子

MOMENT FACTORYが作っているのは人々を巻き込んだ「体験」。そのためには、3つの専門知識が必要とされる。社内には下記の3つのチームがある。

AUJのセッション「ステージから自然までを舞台にした、 人と人を繋げるインタラクティブ・エンタテイメント」の様子

1.コンテンツチーム
様々なビジュアルを創るデザイナー。モーションや3Dを担当する

2.インタラクティブ
MOMENT FACTORYの中でも、大きな専門知識を持つ分野。テクノロジー部分を担当する

3.セット(舞台美術)
場を創るチーム。空港や森などのアウトドアを変革するアートディレクターなどを含む

MOMENT FACTORYでは、企画から制作まで、全て自分たちで行っている。それでは、彼らの仕事の進め方を紹介しよう。

まずは、コンセプト、アイデアを創るフェーズ。それをクライアントに提案し、了承を得たらデザインの段階に入る。3つのチームに分かれてものづくりが進むのはこれからだ。

「デザインで最も大事な課程が、プロトタイピングです。実際の現場に行けないので、モックアップを作ってテストをするんです。モックアップが成功したら、作り込みや加工を行う制作のフェーズに入ります。細部が完成したら、最後に現場でインテグレーション、統合を行います。この瞬間にマジックが起こるんです。モーメントファクトリーの独自性がこの時に発揮されるというわけです」(マルサル氏)

ショーを作るということ

AUJのセッション「ステージから自然までを舞台にした、 人と人を繋げるインタラクティブ・エンタテイメント」の様子

MOMENT FACTORYがこれまでに行ってきた仕事の中でも知られているのが、2012年NFL第46回スーパーボウルでマドンナが出演した7分間のショーの演出だ。

「一億人が見ているショーでした。カメラのアングルにはすごく気を使いました。制作には3ds Maxを使っています。使ったプロジェクターの数は36台です。何度も入念なテストを繰り返し、様々な人の協力でこの大規模なショーを作りました」

AUJのセッション「ステージから自然までを舞台にした、 人と人を繋げるインタラクティブ・エンタテイメント」の様子

また、ショーというジャンルでは、日本でも安室奈美恵のショーの演出を手がけている。

「単なるコンサートではなく、観客がイベントの一部と感じられるような演出を心がけています。演出が前に出るのではなく、安室奈美恵の素晴らしいパフォーマンスをあくまで補完するということを意識しました。4万人の観客を、5つのアリーナで迎えました」

人を惹きつけるディスティネーション

AUJのセッション「ステージから自然までを舞台にした、 人と人を繋げるインタラクティブ・エンタテイメント」の様子

また、MOMENT FACTORYでは、リクリエーション施設や公共空間、リゾート施設、リテールショップなどの「ディスティネーション」も制作している。

「ディスティネーションで大事なのは、人を惹きつけるための施設を作ること。
何度も来てもらうということが重要になります。クライアントに場を創ることを相談し、これまでとは違うレベルにまで引き上げることがわたしたちの仕事です」

AUJのセッション「ステージから自然までを舞台にした、 人と人を繋げるインタラクティブ・エンタテイメント」の様子

その一つが、カナダ・ケベック州モントリオールにある「ジャック・カルティエ橋」の光のイルミネーション「JACQUES-CARTIER BRIDGE ILLUMINATION」。1時間毎の光のショーが行われ、ビッグデータやSNSへの投稿などもが反映されるという独自の試みだ。

「エッフェル塔の二倍の長さがあるイルミネーションです。ただ光るだけではなく、意味のあるものを作りたいということで、データを反映するなど様々な試みを入れています。マルチメディアは特別なツールです。新しいものに参加してもらうことができますし、イマーシブな環境において言葉よりも親密なコミュニケーションができる。それがわたしたちのブランドの方向性を表すものになっています」

AUJのセッション「ステージから自然までを舞台にした、 人と人を繋げるインタラクティブ・エンタテイメント」の様子

次世代のツールが登場しているいま、スマートフォンなどを使って、人と人を繋ぐことができる。ワクワクするような、自分のために作り込まれたような体験をすることができるもの、"みんなが一緒に体験出来るものを創る"というのがMOMENT FACTORYの使命だ。

もうひとつ、MOMENT FACTORYの代表的な作品が、スペイン・バルセロナの「サグラダ・ファミリア」に行ったプロジェクション・マッピング。

「プロジェクション・マッピングは、建造物そのものが主役になるものです。サグラダ・ファミリアは非常に複雑な建造物で、ショーを創るのは困難なことでした。宗教を越えた、すべての人に関連性がある国際的なショーを作らなければならなかった。3Dプリンターを使って大聖堂を作り、テストして本番に望みました」

日本でも体験できるアトラクション

ショーは8分間、観客の数は10万人。あらゆる国の人を惹きつけるコンテンツが生まれた。そんなMOMENT FACTORYの世界を日本でも体験できるのが、長崎・伊王島に今年オープンした、体験型のナイトアトラクション「ISLAND LUMINA」(アイランドルミナ)」だ。雄大な自然の中を歩いて進みながら、 光と映像とインタラクティブな仕掛けが散りばめられた、幻想の世界を冒険するアトラクションである。

AUJのセッション「ステージから自然までを舞台にした、 人と人を繋げるインタラクティブ・エンタテイメント」の様子

「公園でハイキングするのと、同じ体験が夜もできるという、イルミネーションで光り輝くナイトウォークです。森の中を歩いて、様々な感情を味わってもらうというコンテンツ。森をキャンバスとして使った、没入型のシアターです。 日本の文化からインスピレーションを得て、ストーリーを作りました。ドラムを打って敵を倒すなど、すべての年代で楽しむことができます」(マルサル氏)

その他にも、シンガポール・チャンギ国際空港に常設されている、Mayaを使った3D技術を用いた映像なども紹介。

AUJのセッション「ステージから自然までを舞台にした、 人と人を繋げるインタラクティブ・エンタテイメント」の様子

「わたしたちは、体験、つまりムードや雰囲気を作っています。技術的や構造物の課題を解決して、人と人を繋ぐという体験をもたらし、人々を驚かせるのがわたしたちの役割です。頭で考えるよりも、心で感じるということ。その瞬間を生きるための体験、記憶に残る体験を作り上げているんです」

テクノロジーはあくまで手段。驚きという感情など、「情緒」が大事だと締めくくった。

MOMENT FACTORYが夢を叶えてくれた

アンドレス・アルド氏
アンドレス・アルド氏

続いて、MOMENT FACTORYのディレクター兼リード・モーションデザイナーのアンドレス・アルド氏が登壇。

アルド氏はアルゼンチン出身。父が建築家、祖母がペインターという芸術一家に生まれた。

AUJのセッション「ステージから自然までを舞台にした、 人と人を繋げるインタラクティブ・エンタテイメント」の様子

「幼い頃から、コンテンツとビジュアルが一緒になっているものがすべてを忘れさせてくれて、別の場所に連れて行ってくれると感じていました。そんな仕事をしたいと思っていたんです。そこで最初はブエノスアイレスでモーションデザイナーになりました。さらに自分の夢を叶えたいということで、カナダに移住し、ゲーム企業に入ったんです」

カナダのゲーム企業では、シネマティクスやディレクターも行っていたアルド氏。そうして5年経った頃、新しいことにチャレンジするべきだと思っていた時にMOMENT FACTORYから突然オファーがあり、コンテンツチームの一員としてジョインした。それから3年、モーションデザイナーのリーダーとして音楽のショーから複雑なプロジェクション・マッピングまで幅広いプロジェクトを創り上げている。

AUJのセッション「ステージから自然までを舞台にした、 人と人を繋げるインタラクティブ・エンタテイメント」の様子

大聖堂にマッピング!観光名所となった「AURA」

アルド氏の手がけたプロジェクトの中でも代表的なのが、モントリオールのノートルダム寺院の大聖堂内でのプロジェクション・マッピング。これは「AURA」と名付けられた常設のショーで、20分間にも渡って大聖堂内に宇宙空間のような幻想的な映像が映し出される。今ではモントリオールの観光名所になっている。

「わたしたちにされた依頼は、新しい体験を大聖堂に作ってほしい、新しい世代を呼び込んでほしいということでした。それは、新鮮で最新鋭のショーでなければいけません」

AUJのセッション「ステージから自然までを舞台にした、 人と人を繋げるインタラクティブ・エンタテイメント」の様子

ショーは、観覧ツアーとメインショーの二部で構成される。まず人々は聖堂の中を歩き回り、様々な仕掛けを体験する。懺悔室に音響を設置し、人々のささやき声が聞こえるような装置も作った。メインのショーは、天井に行われる荘厳な照明と映像によるプロジェクション・マッピング。140の照明、20のミラー、21のプロジェクターを使った。

「これまでにない大規模なキャンバスでした。2500万のピクセルで、コンテンツを展開するんです。難しかったのは、内部の構造物が複雑だったこと。マッピングは普通グレーの平面に行うものですが、聖堂にはたくさんの銅像、柱、飾りがあって、光を反射しやすいものも、そうでない材質も、様々ですし、色も違います」

AUJのセッション「ステージから自然までを舞台にした、 人と人を繋げるインタラクティブ・エンタテイメント」の様子

地元での開催だったために、現地でコンテンツを何度も確認できたため、どうにか成功にこぎつけられたという。

AURAはいかにして作られたのか?

AUJのセッション「ステージから自然までを舞台にした、 人と人を繋げるインタラクティブ・エンタテイメント」の様子

ここからアルド氏が、本プロジェクトがいかに作られたかをブレイクダウンして語ってくれた。最初の段階は、デザインの分析。ディレクターらによってクリエイティブブリーフが行われ、それが終わるとアーティストのもとにイメージ画が渡される。

「彼らがこのプロジェクトをどう捉えているのか、どういうシーンにしたいのかが伝えられます。アーティストの仕事は、そこから美しいショットを作り上げていくこと。私達は、大聖堂の中に林を作ろうとしました。複雑な建造物の中に平らな部分を見つけ、様々なイマジネーションを使って、3Dのジオメトリを作っていこうとしたわけです」

AUJのセッション「ステージから自然までを舞台にした、 人と人を繋げるインタラクティブ・エンタテイメント」の様子

会場では3Dスキャンによって、すべてのジオメトリや構造物をスキャンした。アーティストが、そのジオメトリをクリーニングし、制作に耐えうるようにする。その作業にはMayaが使われた。「Mayaはたくさんのものを取り出すことができる唯一のツールである」とアルド氏。

「ジオメトリを開いてカンバスを創っていくんです。すべてのビジュアルをジオメトリにするという手順をアーティストは行います。そこにどう照明を絡めるのか、イリュージョンとしてベストなところはどこなのか。コンテンツを作ったらシステムに戻して、プロジェクションとして展開し、テストを行うわけです」

ビジュアルの方向性が決まったら、アニマティックの段階に移る。すべての3Dアーティスト、モーションデザイナーが行うステップだ。アーティストは「どこが一番重要なのかを語る語り部でなくてはいけない」と言う。その段階で、ディレクターとのやり取りがされる。

AUJのセッション「ステージから自然までを舞台にした、 人と人を繋げるインタラクティブ・エンタテイメント」の様子

「MOMENT FACTORY では、進捗管理にSHOTGUNを使っています。コミュニケーションを助けてくれるツールで、よりスムーズにディレクターとコミュニケーションを取ることができます」

そうして修正を繰り返し、コンテンツが完成。最後に、現場にて今まで作ってきたものを統合するのがハイライトだ。

「コンテンツが生命の息吹を得る瞬間です。長く作ってきたものでも、やはり現場で見ると全く違うものに見えます。この瞬間のために、あらかじめさまざまな課題を解決しておかなければならないんですね」

AUJのセッション「ステージから自然までを舞台にした、 人と人を繋げるインタラクティブ・エンタテイメント」の様子

そして最大の喜びは実際のショーを観客が見てくれる瞬間。

「音楽や照明が一つになる瞬間は素晴らしいものです。でも、一番楽しいのは、同じように楽しんでくれている人たちを見ること。それはまさに、僕が子どもの頃からやりたかったこと。たくさんの人達に楽しい思いをしてもらうために、僕たちは"we do it in public"をやっているんです」

インスピレーションに満ちた2部にわたる講演。これからもMOMENT FACTORYはショー、ディスティネーション、アクティビティなど、様々な分野で世界中の人々を巻き込み、感動させていくだろう。

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