VTuber界でサバイブするには?MotionBuilderで作られる「まりなす(仮)」のハイクオリティな作品世界

VTuber界でサバイブするには?MotionBuilderで作られる「まりなす(仮)」のハイクオリティな作品世界
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いま(2019年9月現在)、日本には

8000人ものバーチャルYouTuber(以下VTuber)

がいるのだという!2Dや3DCGのキャラクターが主人公となりYouTubeなどでコンテンツを制作・配信するVTuberたち。まさに群雄割拠の時代!ある者は可愛らしさで、またある者は親しみやすさで、他にもツンデレキャラやヤンデレキャラ、さらにバ美肉おじさん(バーチャルキャラを地声のままで演じる中年男性)というこれまでにない型破りなキャラクターまで...

そんな中、圧倒的なクオリティで颯爽とVTuber界に現れたのが、バーチャルアーティストユニット「まりなす(仮)」。4人組のVTuberというだけでも珍しいが、日本のエンターテインメント界を牽引してきた「エイベックス」がプロデュースするユニットというだけあって、リアルのアイドルかと見紛うほどにキャラクターたちのダンスや仕草が洗練されている。もちろんサウンドのクオリティもお墨付きだ。

この「まりなす(仮)」の裏方を担うのが、東京・杉並区に本拠地を置く「デジタルモーション株式会社(以下デジタルモーション)」のエンジニア、小泉純一氏。小泉氏はMotionBuilderなどを使い、ほぼ一人で「まりなす(仮)」のエンジニアリング面を担当している。なぜここまでクオリティの高いコンテンツが作れるのか?!東京・青山にあるエイベックスのスタジオにて小泉氏にお話を伺った。

ゲーム制作歴20年、VTuber歴は1年

小泉純一氏
小泉純一氏

ーー「まりなすチャンネル(仮)」が始動したのは2018年12月で、御社は昨年設立された会社ですから、VTuberを手掛けるようになってまだ1年も経っていない状態でここまでクオリティの高いものができるのかと驚きました。そこで小泉さんの今までの遍歴をお伺いしたいのですが。

小泉:はい、デジタルモーションは2018年1月に代表の吉田(直史)とともに創業した会社です。私自身は、これまで20年くらいゲーム業界にいて、PCやスマホ向けのゲームなどのディレクションやプロデュースをしていました。でも、

ゲームつくるの飽きちゃったな

と思っちゃったんですよね。創業当初は映像をやりたいと思って、After Effectsなどを使って映像制作をしていたんですが、2018年末位から「まりなすチャンネル(仮)」に弊社が加わることになり、モーションキャプチャ一式を担当することになりました。そこからVTuberコンテンツ制作のいろはを手探りでやっていくうちに、現在のモーションキャプチャ(OptiTrack18台)→MotionBuilder→Unityというパイプラインが出来上がってきたんです。どれもプロジェクトに関わってから初めて触るものですから、実質1年ほどのキャリアですね(笑)。

ーーえっ、、天才?天才ですかね?MotionBuilderを使いはじめたのはいつからですか?

小泉:昨年末にこのプロジェクトに入ったので、実質半年ほどです。「まりなす(仮)」では実際にまりなすの4人がスーツを着て、スタジオで一緒に踊っているところをモーションキャプチャしています。一人一人撮影したものを合成するとフォーメーションなどが大きくズレが出てしまうので。

でも、キャプチャしたままのデータだと、どうしても壊れているところが残ってしまう。悩んでいたところ知人から「MotionBuilderだと軽くていいよ」と聞き、導入してみたんです。

ラップトップで作業する小泉氏。「MotionBuilderは軽いのでラップトップでも充分動きます」
ラップトップで作業する小泉氏。「MotionBuilderは軽いのでラップトップでも充分動きます」

ーーモーションキャプチャのデータはFBXで来るので、それをMotionBuilderで修正していくわけですね。「まりなす(仮)」がすごく印象的なのは、ミュージックビデオの中でも指先まで神経が張り巡らされているというか、小さい仕草もそれぞれのキャラクターに合わせられているところです。データ修正時に、どういった点に気をつけていらっしゃるのでしょうか?

小泉:そもそも、彼女たちの動きが素晴らしいんですよ。ですから、元のデータをいじりすぎると個性や動きの良さがどんどん減ってしまう。MotionBuilderでの修正はなるべく最小限にとどめて、わからないように手を加えているという形です。

MotionBuilderのプリセットを活用

ーー実際どのようにデータを修正されているのか、見せていただけませんか?!

小泉:はい。MotionBuilderに便利なフィルターがいっぱいあるので、それでノイズを除去します。プリセットの機能だけで、足やつま先、指先などもならしてしまうことができるんです。そこから、大きなガタツキを取る細かい作業に移っていきます。全体の動きを見ていくと、データがガタっと汚れている部分があるので、消したり、直したり、そこだけ選択してフィルターをかけるなどします。

MotionBuilderのフィルターでノイズを除去する

ーー指先など細かい部分はかなり苦労されるでしょうね。

小泉:指先に関しては、他のマーカーを誤認識してうまく撮れないことが多いので、別のキャプチャシステムでハンドキャプチャを行い、上書きすることもあります。お喋り動画では気にならない部分でも、ミュージックビデオとなると振り付けもありますし、気の使いどころがまた変わってきますね。

ーー主に苦労されている点は?

小泉:複数人で踊ると、腕の角度や首の向き、立ち位置などがメンバー内でズレることがあります。基本的にはピッタリ揃うまで何度も踊るのですが、限界があります。それを、違和感がないくらいのタイミングに直す。これはVtuberとゲームとの違いだと思うんですが、ゲームだとキャラクターの動きをすごくきれいに直すんです。それによってゲーム内の美麗な動きやムービーが出来上がっています。それに反して、Vtuberは直しすぎない方が本人の個性が直結して画面に投影されるので自然になります。ちょうどいい粗さを残す、そのさじ加減が苦労するポイントですね。

ーーVtuberとゲーム内映像の違いは面白い視点ですね。

小泉:あまりにも"作り込んだ"感が出ると、Vtuber特有の"生っぽさ"がなくなってしまう。実際に彼女たち本人が踊っているわけですから、なるべく自然な状態で見せたい。それが大きな違いですね。

ーー4体動くとなると、かなりデータが重くなるのでMotionBuilderでなくては難しいでしょうね。ゲーム業界では複数体キャラクターが出る場面をMotionBuilderでアニメーションをつける方たちもいらっしゃいます。編集のときのアクターの状態は?

小泉:ケースbyケースなのですが、モーションキャプチャのデータは、MotionBuilderでアクターで読み込んでリターゲットしたほうが楽です。モーションキャプチャでスケルトンの状態で出力して、MotionBuilderに持ってくると、関節がねじれてしまうこともあるんですが、アクターならばそういったこともありません。時間がなくてあまり壊れていなそうであれば、スケルトンで出力してそのまま使う事もあります。

ーーラップトップで作業されていますが、それだけのデータでも軽く作業できるのは驚きですね。

小泉:現在のシステムは120FPSで撮影しています。キーフレーム数が多いのでデータが重い。それでもMotionBuilderだと軽く作業できて効率がいいですね。

ーーちなみに、MotionBuilderはどうやって習得されたんですか?

小泉:日本語で読める情報がAutodesk公式のチュートリアルしかなかったので読み漁って覚えたという感じです。特に参考になった記事はチュートリアルの「MotionBuilderでカットシーン制作」あたりですね。

ミュージックビデオを制作するには

まりなす(仮)

ーーYouTubeのコメントでも「本気が凄い」などと書かれていたミュージックビデオ「JUST IN MY HEART」は、どのようにして作られたのでしょうか?

小泉:「まりなす(仮)」プロジェクトにレギュラーで関わっているのは、プロデューサー1名、エンジニアが1名、動画編集が2名、サポート2名です。

ーーすごい少数精鋭ですね!ミュージックビデオではカメラワークもすごく迫力がありました。

小泉:実は、カメラマンがマーカーを付けたカメラを持って走り回って撮影することで、実際のライブのような躍動感を出しているんですよ。

ーーえええ?!

小泉:エイベックスでミュージックビデオを作っているカメラマンさんが、僕が工作したいわばバーチャルカメラで「まりなす(仮)」のダンス映像を撮影しているというわけです。3Dのダンスシーンやステージを作り、そこを撮影した素材をPremiere Proなどの動画編集ソフトで編集をしていく。時には踊って貰いながらバーチャルカメラでそのまま撮影する事もあります。「生感」を出すにはこの方法が一番です。リアルアーティストのビデオと変わらないですね。

バーチャルカメラで撮影をする様子
バーチャルカメラで撮影をする様子
こちらがジンバルを改造したバーチャルカメラ。
こちらがジンバルを改造したバーチャルカメラ。

ーーなるほど迫力あるカメラワークになるわけですね...。リアルのアーティストと変わりませんね。

小泉:「まりなす(仮)」は、Vtuberというよりも「バーチャルアーティスト」ですから。実際のアーティストと同じ土俵に立つ存在である、そこを見せられるようにという思いで作っています。通常のミュージックビデオでは絵コンテがあることが多いですが、実は「まりなす(仮)」では絵コンテが無いこともよくあります。モーションを撮ってしまえば何度も撮影できるので、たくさんの素材を撮って、いいシーンを繋げていくというバーチャルならではのスタイルですね。

ーー「恋愛サーキュレーション」の2Dアニメも御社で作られたんですか?

小泉:実はあのアニメーション素材は、エイベックスさんが所有されている、アーティストのライブなどで使用されるストック素材を使っています。さすがエイベックスというところで、そういう素材がたくさんあるんです。我々も少人数プロジェクトなので使える素材はできる限り使っていきます。「JUST IN MY HEART」の砂漠のシーンはUnityのアセットストアで買ったものですしね、、フフフ、、、。顔の表情、服や髪の動きなどもUnity上でやっています。

小泉純一氏

ーーこれからの展開が楽しみな「まりなす(仮)」ですが、これからどんなことが予定されていますか?

小泉:リアルタイムでのダンスライブ配信などにチャレンジしていきたいですね。OptiTrack以外にもHTC Viveやニューロンなどでもライブ配信の挑戦をしています。僕は会社で「自分で道を作る人」と呼ばれているのですが(笑)、これからも進化していきたいと思います。

小泉純一氏の講演「アーティストの表現を活かしたい!バーチャルアーティストのミュージックビデオ制作事例」が9月26日(木)に東京・グランドニッコー東京 台場にて開催される「Unite Tokyo 2019」にて行なわれる。本記事には収まりきらなかった制作の裏側をさらに大公開!ぜひお楽しみに!

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