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八木竜一氏・鈴木健之氏(白組) Interview 「3ds Maxで"手づくり"したCGアニメ映画の新しくて懐かしい、誰も知らない映像新世界」

friends もののけ島のナキ 八木竜一氏・鈴木健之氏(白組) Interview 「3ds Maxで
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カスタム化可能なリグツールで作るリッチな表現

ナキのキャラクタリグ
ナキのキャラクタリグ。このようなコントローラやToolでアニメーション作業を進める。

――その"時間をかけずに良いものを作る"工夫を幾つかご紹介ください

鈴木氏:まず3Dモデルですが、今回はプレスコを使った点などからも、アニメーションに関して非常に注文が多くなるだろうことが予想できました。そこでリグでは多くの表現を可能にする必要があると考え、自分たちで細かくカスタム化できるようにしています。具体的には、Bipedは使わずに、独自リグを作成して使っていく形です。まあ、自分で作った方が管理しやすいということもあり、アニメーターと意見交換し、試行錯誤しながら作っていきました。
八木氏:とにかくこの映画は、ナキとグンジョーとコタケという主要キャラクタの登場回数が半端なく多いんです。製作に参加したアニメーターもたぶん全員がこの3人に触っているんです。裏返せば、ここに大きな自由度を持たせることが、リッチな表現に繋がると分かっていたんですよ。

コタケのフェイシャルアニメーション作業。右は完成画像

――キャラクタリグとフェイシャルリグはどのような構成で管理されたのですか?

鈴木氏:身体だけとか顔だけとか髪の毛用とか、かなり細かくScriptToolを分けて作っておいて、これらの組み合わせによりいろいろなキャラクタに対応できるようにしました。ナキ用のフェイシャルリグとかコタケ用のフェイシャルリグとか、それぞれの身体のリグといった感じで。全部を一つのToolでまかなってしまおうとすると、体格が大きく異なるキャラクタが出てきた時など、どうしても対応しにくくなるんです。それでも身体は、もののけも人間と同じくらいの体格なら同システムでいけますが、フェイシャルは一番複雑になるのでそうはいきません。そこで顔のリグを作るためのScriptToolを数種類用意。細かい髪の毛とか、中に入れる骨とか、メッシュに付いていく骨とか、変形させたい単位ごとにツールを作って、それらを組み合わせて使っていきました。

ナキの体のアニメーション作業
ナキの体のアニメーション作業。左上にあるのは複数あるコントローラを選択するツール。

八木氏:それで今回は、後からフェイシャルを付けてるのではなく、顔を付けながら同時に手も付け、合わせて確認するやり方を取りました。何度も言うようにプレスコで最初に声を入れたため、身体の演技と顔の演技が切り離せないんですね。そもそも登場するキャラクタ自体、全体に占める顔のウェイトが非常に大きくて、しかも大げさな表現もたくさん使っていたので、顔と身体をバラバラにはチェックしにくいんです。だから、いわば俳優さんになり切っているCGキャラをチェックしていきました(笑)。

――確かに顔も身体もマンガ的なオーバーアクト風ながら自然ですね

鈴木氏:そのための自由度の高さが、ネックになることもありました。なるべく自由に動かしたいという要求もあるので、コントロールポイントもすごくたくさんあるんですが、実際、いざみんなでアニメーションをスタートしたら、とんでもなく時間がかかってしまい、スケジュールを圧迫する要因のひとつにもなってしまったんです。そこでユーティリティで、なるべくライブラリにするなどして軽減を図るなど、工夫が必要になりました。表情についても、マンガ的に変形させるオーバーアクトは瞬間的に入るとすごく効果的なんですが、スタッフみんなが共通して同じ感覚で変形できるわけではありません。違う人が表情を付けると、同じキャラに見えなくなってしまったりするんですね。そこでこれもプリセットとして登録しておいて、いろんなパターンの表情をスタッフがいつでも参照できるようにし、ズレが無いように、また少しでも楽に作業できるように工夫したりしました。

八木氏:モーフターゲットとボーンの組み合わせで表情を作っていくパターンもありましたね。"コタケ"なんか一番それが必要で、デザインしたアートディレクターが、コタケの頬の丸みとかちょっとしたへこみや膨らみ感にすごくこだわっていたんですよ。でも、それを全部ボーンで作っていくのは至難の業です。だったらモーフで一番良い状態に一発で行けた方が良いわけですが、それはそれで大量のモーフターゲットを作ることにもなるし、ある程度は自由度も欲しい。どこまでモーフでどこまでボーンか、全体のバランスを整えながら何度もトライしました。

CGでキノコの森を作る
CGでキノコの森を作る。木の幹は後でミニチュアの実写に置き換える。

――ミニチュア撮影はどんな流れで?

八木氏:最初にレイアウトをアニマティクスで決めていき、これで行こうということになったら撮影。そこへCGを載せて完成、というのが基本的な流れです。ミニチュア化したのはナキの家の内観、外観、対岸の村の家に木の幹。地面、対岸の村の村境の門......。基本的には家の中が1/6で外側は1/24サイズ。これは1/24サイズにしないとスタジオに全部入りきらないからです。で、カメラを置く場所などシュミレーションして、それを置く位置まできっちり決め込んでからミニチュアを作りました。そのため、たとえばミニチュアの地面など実は飛び飛びにしかなくて、それは開いている場所にカメラを入れて撮影するためなんです。だからミニチュアの撮影は最初に徹底的に考えましたね。こう動かせば絶対にカメラはぶつからない、という確証がない限り動かせませんから。それに較べればCGはやはり自由度が非常に高い。ラストの方の崖のシーン等では、ガンガン動かしまくって、溜まったものを全部吐き出しました(笑)。

いつまでもやっていたい、作り続けていたい!

――エフェクトに関してはいかがでしょう

鈴木氏:この作品に関して言えば、エフェクト類は目立ち過ぎないように頑張ってるという感じですが、火や煙、爆発などのエフェクトで「Fume FX」が大活躍でした。あちらこちらで非常に評判が良いんですよ。特にスケジュールも後半は大変になってくるので、AfterBurnがいいかな?といったら、皆にFume FXの方が楽だと言われましたね(笑)。リアルタイムでプレイバックして結果を見直したり、キャッシュをそのまま使い回していったり、後からスピードを変えていったり、いろいろと使い勝手が良いと言うんです。

――Fume FXによる表現効果としてはどういった点が特に?

八木氏:Fume FXで作る"リアリティのある煙"には、とても助けられた実感があります。ご承知の通り、私たちは3ds Maxを使っていますが、実は山崎監督の方は"Maya使い"なんですよ。だから3ds MaxプラグインのFume FXを知らないんですね。で、われわれがこのFume FXで作った煙を見て、山崎監督とVFXディレクターが「これは実写なのかCGなのか、どっちなんだ?」と議論してたことがあったんですよ。作ったわれわれとしては嬉しかったですね(笑)。実際、Fume FXを使ってちょっと湿っぽい感じの煙を出すだけで、すごくリアティが増すんです。しかも、今回は煙自身に演技してもらわなければならないシーンも多々あって、Fume FXは本当に大活躍でした。そうした時、ベタっぽく、質感のない煙じゃ面白くないですからね。私自身、演出できるリアルな煙ができるのがとても楽しかったです。

――プラグインは他にも使いましたか

鈴木氏:パーティクル系で「Krakatoa」とか「ParticleFlow Tools Box3」とか......あと、スタッフが4足歩行のキャラクタに「CAT」を使っていましたね。2足歩行用のリグシステムは作ったんですが、4足歩行用には作っていませんでした。ただ4足歩行のキャラはその1種類だけで、それも1シーンだけの登場だったので開発するまでもないな、と。僕自身はCATを使ってなかったのですが、凄いですよね。4足で勝手に歩いていくので驚きました。でも、同時にあらためて「Biped」の素晴らしさもすごく実感しました。今回は変形がすごく多いので、前述の通り、カスタムリグを生成するためのシステムを作って正解だったとは思うのですが、個人差はあるものの、新しく来た人が今回のリグシステムを習熟するのに思ったより時間がかかったのは誤算でした。仕事によってはBipedを使った方が良いケースも当然あると感じました。日本のCG業界全体で、リグの基本的なあり方みたいなものが方向付けされるといいんですけどね。

八木氏:簡単に引き伸ばせるとか、編集しやすいというのは、最終的にはすごくよかったんですが、どこをどういじったらどうなるのかというのを覚えるのには、確かに少し時間がかかったかもしれませんね。でも、いったん慣れてしまいさえすれば、もうBipedには戻れない身体になっていましたよ、みんな(笑)。

――絶賛公開中ですが、特に見ていただきたい処は?

八木氏:見どころはたくさんありますが、全部手作りであるという点に注目してほしいですね。もちろんCGアニメーションではありますが、CGという道具を使った手作りの作品と言っていいと思います。実際、涙ひと粒から葉っぱ一枚まで全部手で作っているのです。ミニチュアを作ってくれた人も全部手作りで......全編に込められたそういう皆の思いを感じていただけたら嬉しいです。特にキャラクタの表情にはこだわって作り、無理の無い演技ができていると思っています。大げさかもしれませんが、見ていて違和感が出ないように頑張りましたので、そのあたりを感じていただければ。

鈴木氏:私も作った側なんですが、試写で見た時に「なんかすごく自然に見られたな」と思いました。普通のCG映画だと、やはりいろいろ気になってしまう部分とか見つけちゃうんですが、「ナキ」は自然に引き込まれる。素直に感動してもらえるんじゃないでしょうか? そんな気がしています。

八木氏:でも、見直すたびに「ああしたい、こうしたい」と思っちゃうんですよね、正直なところ(笑)。いまだに「いつまでもやっていたい、作り続けていたい!」とか思ってしまう。だってね、すごく楽しいんですよ。自分でも何か意見を出したり手を加えたりして直したものが、どんどん仕上ってくるものを見ていくと、もう確実に良くなっているんですね。ある意味、やればやるほどどんどん良くなっていくんですよ。......まあ、それは私の目から見て良くなっている、ということは確かなんですが、それでも上がるたびに、確実にカットが良くなっていくのは楽しくて仕方がないです。「たまらないぞッ!」っていうテンションです(笑)。

導入製品/ソリューション ・Autodesk 3ds Max
導入目的 ・長編3D CGアニメーション制作のメインツール
・限られた予算と納期のもと新たな表現と品質向上
導入ポイント ・制作グループ内に最も普及し熟練者多数のため
・豊富かつ多彩なプラグインの幅広い活用のため
・使いやすいスクリプトによるツール等の作り易さ
導入効果 ・3D CGアニメ制作に関わる各種の新手法の確立
・制作フロー総体の生産性の向上とコストダウン
・各種ツール類のスピーディな開発
今後の課題 ・さらなる品質向上と作業効率化
・3D CGアニメーションの新たな表現手法の開発
・より生産性の高い制作フローの確立
作品概要 「friends もののけ島のナキ」
上映時間:1時間27分/ビスタビジョン/ドルビーSRD
製作年:2011年
監督:山崎 貴 八木竜一
原案:浜田廣介「泣いた赤おに」
脚本:山崎 貴
製作プロダクション:白組 ROBOT
配給:東宝
(C)2011「friends もののけ島のナキ」製作委員会
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