一歩進んだ奥深い経験をプレイヤーに 『鉄拳8』の制作を支えたMaya × Unreal Engineの連携術
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シリーズ30周年を迎える3D対戦格闘ゲーム「鉄拳」シリーズの最新作『鉄拳8』が2024年1月に発売された。「鉄拳」シリーズは通例であれば、まず業務用(アーケードゲーム)として開発され、その後、家庭用に向けてさまざまな追加要素を加えていったが、本作は家庭用機種でローンチされている。そのため、作品の特長である多くの個性的なキャラクターやステージなど、膨大なアセットを発売時点で揃えておく必要があり、その品質も最新機種向けに最高のものが求められた。これらのチャレンジとそれを支えたオートデスク製品の活用方法について、バンダイナムコスタジオの開発陣に聞いた。
インタビューを受けていただいたバンダイナムコスタジオの皆様
(写真左から)
キャラクター担当アーティスト・湯澤 那有 氏
アートディレクター:浅井 寛司 氏
背景パートリードアーティスト:岡崎 克志 氏
演出担当リードアーティスト:阿部 智洋 氏
「鉄拳」シリーズ9年ぶりのナンバリング新作はMaya、MotionBuilderとUnreal Engineで制作
『鉄拳8』は前作から9年ぶりの新作で、待ちわびたファンの声に応えるべくボリューム感たっぷりの仕上がりだ。32体のキャラクターに15のステージ、ムービーシーンも約100分のメインストーリーに加え、各キャラクターそれぞれに1分~2分のオリジナルのストーリーなど、ムービーだけでも総尺は前作から2倍の分量になり、機能や品質の向上を勘案すると全体の工数は3~4倍にも及んだ。だが、『鉄拳8』の開発初期はまだ前作『鉄拳7』のアップデートやダウンロードコンテンツの開発が続けられていたため、企画やエンジニアのコアメンバーが揃わないなかでの船出となったという。
『鉄拳8』制作には、キャラクター・背景・各種プロップのモデリング制作にMayaを、アニメーションにMotionBuilderを使用している。ゲームエンジンにはUnreal Engine5(以下、UE)を使用し動作させており、プラグイン「Unreal LiveLink for Maya」で連携させていた。
演出担当リードアーティスト:阿部智洋氏は「キャラクターや背景をMayaで制作し、UEで映像を作り上げていくことは、バトルとムービーがシームレスに繋がっていくゲーム演出と親和性が高いと思います。演出チームではムービーシーン単体で映像作品にするのではなく、バトル中のプレイヤーの体験を考慮した総合的な演出を行なっています」と演出のコンセプトを語る。
次世代につなぐ「鉄拳」にふさわしい精巧なキャラクターモデル
『鉄拳8』では、ストーリーモードを軸にしており、そのコンセプトアートを通じて世界観をイメージしながらキャラクターや背景モデル等を作成していった。キャラクターデザインについては、今までのストーリーや設定を踏襲したキャラクター性を意識し、次世代の「鉄拳」シリーズ作品として精細な表現を目指した。その特徴の出し方について、キャラクター担当アーティスト・湯澤那有氏は「素材の表情で面白さを出すことが有効的かつ刷新感も際立つと考え、前作よりもオブジェクトの量感を多くすることを意識しつつ、質感やディティール感で見応えを出すことに注力しています」と話す。
本作のキャラクターモデルはバトル画面とムービーパートで同一のキャラクターモデルが使用されている。デモシーンや勝利演出ではカメラが寄っていき、キャラクターがクローズアップされるシーンでも、そのクオリティを十分に維持できるように細部まで作り込んだ。
阿部氏は「僕から見ても、バストアップや目などのディティールが非常に細かく作り込まれていると思いました。そのため、勝利ポーズの際にはカメラを思い切り近づけて表情をアップにするなど、安心して演出を施すことができました。」と語り、背景パートリードアーティスト・岡崎克志氏も「バトル中はカメラが寄ることはほとんどありませんが、開発者エディターで寄っていくと信じられないくらいのクオリティでした。その容量を背景班に分けてほしかったくらいです」と笑う。
そこまで作り込んだ由について、湯澤氏は「『鉄拳7』がアップデートやDLCなどで息の長い作品になったように、『鉄拳8』も運営していくと思うと、いつまでも通用するクオリティにしておく必要がありました」と話す。
コスチュームについてはバトル中での見栄えを重視し、量感を意識したという。湯澤氏は「衣服の皺が単調かつマットな質感だと、ステージ上で俯瞰したときに背景と馴染んでしまい、見栄えが悪くなってしまいます。その結果、モーションをあてても認識しづらく、低品質に見えてしまいます。そこで、強めの皺を意識して入れるなど、カメラが引いた時でも見栄えよく映るように工夫しました」と述べた。
コスチュームでは、原画の再現性を重視。結果質感コントロールに対し、厳しいレギュレーションを設けた。その都合上、質感用にカスタマイズツールを用意し、細かな質感調整がしやすい環境になった。
ツール設定では、各部位ごとにマスクでIDを振り分ける仕様になっており、グレースケールのテクスチャに対してUE上で色付けをすることで最終的なルックを調整します。例えば、デザイン画で質感を強調したい部分においては、IDの内容に応じてディテールマップを作成し、細部の質感にまでこだわった調整を行った。
本作のコスチュームはキャラクター固有のものからカスタマイズ用のものまで多彩に用意されている。モデルのスキニング全般についてですが、さまざまなキャラクターが着られるように、上半身と下半身と靴のそれぞれの組み合わせによって「絞り骨」を適用し、はみ出ないような工夫をUE上で行なっている。例えば靴に対しては、裾がめり込んで足首が見えないよう、ボーンで細くしてめり込ませないように調整している。UE上で動かし、どのモーションがはみ出るのかを調べ、Mayaへモーションを読み込み、はみ出るポイントを特定し、ウェイトを修正していったという。
「年齢相応の皺を入れつつ、細かな弛みなどキャラクターごとに表現しており、ユーザーがキャラクターにもつ印象が強いパブリシティアートから逸脱しないように制作をしていました」(湯澤氏)
また、キャラクターのフェイシャルについて、湯澤氏は"格好良さや美麗さを崩さないように"というキーワードを挙げ、「人形的な不気味さに気をつけ、ユーザーが持つそのキャラクターのイメージを踏襲して作るようにしました」と語る。「鉄拳」シリーズのキャラクターは、いわゆるアニメ調でも極端にフォトリアルではない、独特の美学を持っているため、浅井氏は「なんとも言語化し難い落とし所に落とし込まなければいけない」と感想を述べた。
湯澤氏は、「完全にフォトリアルにすると違和感が出るので、ディフォルメした部分を付け加え、それが「鉄拳」らしさに繋がっています」とポイントを表現した。髪型制作には「GS CurveTools Maya」のプラグインを使用。キャラクターの魅力を引き出す上での重要な要素となるため、こちらも高いクオリティが求められた。
キャラクター制作を振り返り、湯澤氏は「32人全キャラクターが固有の特徴を持ち、それぞれへの別コスチュームも用意するなど、データ量が膨大でした。他のゲームと比べて埋没しないよう、どこまで作り込めば良いのかを模索する大変さもありました」と話す。
アートコンセプトは「密度感と重厚感、そして破壊」
『鉄拳8』の背景はすべてのモデリングをMaya上で行ない、それらをUEでマージさせる作りだ。ステージ設計はコンセプトアートに合わせ、まず簡易モデル(ホワイトボックス)を作り、大きさ感や遊びやすさを検証する。その後、プランナーやディレクターとプレイして、ステージの狙いやプレイヤーに伝えたいこと、楽しんでもらい点などを確認した後、本モデルの作成にあたる。
UEではブロックのように組んでいくのが特徴のため、リピートした際に汚しや傾きなど飽きさせないための美術的な演出を加えていく。例えば格納庫ステージの場合は、壁パーツを1つずつ作っていくが、このとき見た目としては抑揚が出るよう、背景に表情を作っていくのがコツだ。岡崎氏は「UEでの配置でリピート表現が可能なアセットは、連続配置しても違和感が出ないように、汎用的な表現のモデリング・テクスチャリングになるよう気を使いました。またモデルやテクスチャの表現を変えるなどしてリピート感を緩和させました」と、工夫を語ってくれた。
『鉄拳8』のアートコンセプトは「密度感と重厚感と破壊」だった。背景の一部はキャラクターのバトルアクションによって一部が実際に破壊されるつくりになっている。それを背景アセット上で表現するためには、壊れる部分のモデルを切り分けて作成しておく必要があった。
ステージ破壊のアニメーションやヒビ割れ表現にはMayaのプラグイン「Pulldownit」を使用し、破壊アニメーションに物理挙動を取り入れ、複数のパターンをシミュレーション、同じ動きは取り入れない事をコンセプトに自然な破壊表現を行なった。また簡単な揺れや飛び散るアニメーションは手付けで、物理演算は処理が重くなるためほぼ使用していないという。「Pulldownit」はシミュレーションに対してキーフレームが打たれるのが特徴だが、苦労もあったという。「挙動については60fpsを確保する必要があり、リソースの範囲内でいかにクオリティを出すかに苦労しました」(岡崎氏)
テクスチャの作成にはSubstance Painterやタイリングテクスチャを使用した。質感表現において岡崎氏は「この環境でどういう傷や汚れがつくのか、観察が重要」と教えてくれたほか、密度感を出す上でも「自然な配置を行なうには、しっかりとした観察眼を持っていなければなりません」と話し、「道の端にある砂や枯れ葉など普段から風景を観察したり、風景デッサンなどをすることがより良い背景制作に繋がります」と繰り返した。
『鉄拳8』の画作りは、当初はさらにフォトリアリスティックな方向を志向しており、社内でも研究を進めていたが検証を進め、ゲームとして適正なリアリティを探っていった。その結果、ライティングを含めある程度キャラクタライズされた要素を盛り込み、現在の形に落とし込んだ。特に難しかった背景は「隕石」のステージ。こうした荒唐無稽なアイディアも確かに「鉄拳」シリーズ伝統のエッセンスだ。
浅井氏は「大真面目にバカバカしいことをするのが「鉄拳」の醍醐味です。このとき、あくまでもクオリティが高いものでないと笑いはなりません」と話し、宇宙のステージ制作の難しさを思いやった。「宇宙のリアルを追求していくと、石などは当然のごとく浮遊しますが、ゲームとしてはそれを追求するよりも遊んだときの気持ちよさを追求し、破壊したモノは地面に落ちていくようにお願いしました。遊びとリアルの狭間における矛盾は大変だったと思います」(浅井氏)。
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*上記価格は年間契約の場合の1ヶ月あたりのオートデスク希望小売価格(税込)です。