一歩進んだ奥深い経験をプレイヤーに 『鉄拳8』の制作を支えたMaya × Unreal Engineの連携術
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プレイヤーに感動的な体験を提供する映像演出を目指して
「単純な見た目のスゴさよりも、プレイヤーには感情的な体験をしてもらいたいと考えていました」と、語るのは演出担当リードアーティスト・阿部智洋氏。対戦格闘ゲームは確かにバトルとその結果にプレイヤーの注目が集まりがちだ。ただし、そのキャラクターの魅力を引き出すのはそれまでの演出の力に依ることが大きい。
阿部氏は「演出チームはいつもキャラクターの個性を発揮するような動作や仕草、レイアウトやカメラワークなど、そのキャラクターがその世界に実在して、ユーザーが彼らの戦う意図や思いなどに感情移入してもらいたい、と考えながら演出をしておりました」と話す。
例えば三島一八という強大な力を持ったキャラクターは、強すぎるがあまりの孤独感や神格化されたようすを演出するため、レイアウトや背景物、座り方一つまで入念にチェックして作り上げていった。また、キャラクター同士の関係性にも注意を払い、本編のムービーはもちろん、登場シーンでの掛け合いや勝利演出などを入念に設計していったという。こうしたキャラクター解釈の深さは30年の歴史を誇る「鉄拳」シリーズならではと言えるだろう。
32人の中には本作から新規登場したキャラクターもいる。そこでは演出チームだけでなく、他部署と連携しながら演出を作り上げていった。
「レイナという新キャラクターは二面性があるという設定です。それはどんなものか、シナリオチームだけでなく、ボディのアクターさんや声優さんからデータをいただき、アイディアを練っていきました」(阿部氏)。
演出チームはシナリオからムービーを作っていくが、それぞれの展開において、ユーザーをどのような気持ちに持っていくか。タイミングと尺を考えて最も効果的に演出をしていく。阿部氏は「この壮大なストーリーを達成できているかどうか。それは単純に映像として見るだけのものではなく、それがゲーム体験として面白いのかを含めて検討するという、難しくも楽しい作業でした」と語る。
各モーションの芝居付けは開発チームそれぞれで分担をしている。バトルのモーションは企画チーム、登場・勝利の演出は企画とアニメーター、そしてストーリーパートの芝居は演出チームの担当だ。協力会社のディレクターも加わり、演出をチェックしてキャラクターの表現として最適なものになるようディレクションをしていったという。
そこで役に立ったのはMotionBuilderだ。阿部氏は「リアルタイム性の高さが便利でした。ハイメッシュで高精細なキャラクターモデルおよび背景モデルをロードした状態で撮影してもフレームレートが維持され、その場で入念にあらゆる項目の確認ができました。それにより、例えば素体が地面の凸凹を登る、何かに触れる必要があった場合でも、現場でアクターさんに3Dモデルが合うようにリアルタイムに調整することができました」と語る。
ゲーム中には空中でキャラクター同士が戦うといった、現実ではキャプチャが不可能なシーンも存在するが、その場合は絵コンテ上でレイアウトを決め、MayaやMotionBuilderを使ってアニマティクスの簡単な軌跡を作り、モーションを詰めていった。キャプチャ後に再度レイアウトを調整したりカット割りの編集などを行っていった。
本作ではUE上でフェイシャル作業を行う際にプラグイン「Unreal LiveLink for Maya」(以下、LiveLink)を使用している。ライティングなどを施し、最終的なルックを見ながらリアルタイムに表情を調整することで直感的な制作が可能になった。「そのときどきのキメ顔をチェックするのが主でした。LiveLinkはそうしたツールの垣根をなくす上で非常に重要な機能でした」(阿部氏)
フェイシャルの演出での難しさは笑顔づくりだったという。阿部氏は「このキャラクターがどういう気持ちで笑っているのかをよく考える必要がありました。ただ笑っているのではなく、微妙な笑顔を作る際には、最終的なアウトプットを見ながら、ライティングも同時に調整しながら最適な表現を探し、協力会社を含め時間をかけて探っていきました」と話す。また、目や口が大きい端正なキャラクターの場合は、動きの中で破綻のない表情だったり意図した表情を出すのが難しく、ミリ単位のライティングやカメラ調整が必要だったという。
最後に開発陣に対して、今回使用したツールの使用感を尋ねると、浅井氏は「3Dが主になっているゲーム制作において、Mayaはモデリングの根幹のツールになっています。便利なツールがたくさん出ていますが、結局、自分自身のクリエイティビティの引き出しやセンスがモノづくりに必ず問われてくると思うので、学生さんや若いクリエイターはしっかりと技術を磨き、自分の武器として技術を高めていってほしいです」と、エールを送ってくれた。
湯澤氏も「Mayaを使えばモデリングからマテリアルの構築、レンダリングまで一貫して作業できます。Mayaは作業現場でも拡張性が高く重宝されているツールなので、これからアグレッシブに使っていってほしいですね」と重ねた後、進化するAIにも触れ、「キャラクターモデラーとしては、アーティスティックな作業により多くの時間を割けるように、スキニングやUV作業にはAIを活用し、アートモデリングにじっくり集中していきたいです」と話す。
20年来のMayaユーザーである岡崎氏は「使いやすさはもちろん、汎用性の高さとカスタマイズ性が高く、自分の開発環境に合ったスタイルを構築することができます」と、Mayaの魅力を力説。その上で、「背景班ではZ-brushやSpeedTreeも使うのですが、ソフトを行き来するのが大変なので、Mayaにはそれらの良いとこ取りをしてスカルプト機能を強化してほしいですね」と要望を述べた。
阿部氏はMayaの安定性を評価し、「ツールで重要なのはアウトプットするときに、自分の求めている最適なものを速く正確に、高品質で出してくれること。Mayaは歴史も長く信頼性が高い非常に優れたツールだと思います」と、推薦する。「DCCツールにはそれぞれに強みがあり、クリエイターは最適なものを選択していきますが、そこでの連携性が重要です」と話し、MayaとMotionBuilder、UEとMayaなどのスムーズな連携が、クリエイティブにおいて新しい価値を生み出してくれたことを実感を込めて語ってくれた。
ハイエンド統合DCCツールのデファクトスタンダードであるMaya、モーションキャプチャーに不可欠なMotionBuilder、ハイスペックな3Dゲーム制作で主流になりつつあるUE。それぞれの長所を組み合わせて作り上げたのが『鉄拳8』だ。本作にはそれぞれの制作パートで掲げたコンセプトを具現化し、格闘ゲームに掛け算の奥深さを与えてくれるアイディアや演出が詰まっている。遊び尽くせないほど圧倒的なボリューム感とオリジナリティあふれる世界観。本稿で紹介した作り込みをきっかけにぜひ味わい尽くしてほしい。
TEXT:日詰明嘉
EDIT:バンダイナムコスタジオ、オートデスク
鉄拳8
ジャンル:3D対戦格闘
対応プラットフォーム:PlayStation®5/Xbox Series X|S/Steam®
プレイ人数:オフライン 1人~2人、オンライン 最大16人
発売日:好評発売中(2024年1月26日発売開始)
CEROレーティング:D
TEKKEN™8 & ©Bandai Namco Entertainment Inc.
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*上記価格は年間契約の場合の1ヶ月あたりのオートデスク希望小売価格(税込)です。