株式会社カプコン
ストリートファイターIV
「3D で動く、最高級の絵」を実現した株式会社カプコンの挑戦
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Gatorやリファレンスモデルがもたらすメリット
すべてのメインキャラクタは、統一された IK ベースの基本リグ構造で制御されている。そして、ベースとなるリグ構造への追加要素として、キャラクタ毎に手が伸びる制御や衣服の揺れなどのセカンダリ制御用リグが存在するのだ。実機上で使用されているボーン総数は約350本で、その内訳はボディ 58 本、手 40 本、フェイシャル 54 本、 セカンダリ制御骨 200 本という構成だ。ポリゴン数は 16,000 ポリゴンとやや抑えながらも、表現力を高めるためボーン数は贅沢に使用されているという。
セットアップ作業は、Softimage のエンベロープウェイト調整機能のおかげで快適に進められたそうだ。流れとしては、ウェイトペイントでざっくりとしたウェイト値のあたりをつけた後に、数値入力での微調整が行われている。デザイナが工夫しながらこれらの機能を併用することで多数のキャラクタに対するエンベロープ設定のセットアップもスケジュール通りに完成させることが出来たそうだ。
キャプチャ収録の途中では、サンプルの Face Robot モデルにその場で C3D のモーションを流し込むプレビューも行っている。これは、データに問題が無いかをチェックするだけでなく、演技する役者に対しても結果がわかるほうが、モチベーションがあがるという効果もある。自分の演技がどのようにデータに反映されているかがわかると演技にも熱がはいるというものだ。 即興のプレビューでも、Face Robot が個性までちゃんと拾ったフェイシャルを再現していることにアクターも大いに感心をしていた。
分かりやすい解説を
行ってくださった亀井氏。
さらにエンベロープウェイト設定作業の負担を大きく軽減してくれたのが Gator である。たとえば、キャラクタの衣装で別パターンを用意する場合も、Gator による属性転送によってほんの数クリックで作業をほぼ完了できたという。あとは、前述のウェイト調整機能を利用することでデータを短時間で完全なものに仕上げることが出来たのだ。Gator は衣装などの付帯オブジェクト以外にもフェイシャルリグのセットアップ作業でも大いに役立った。
まず、54 本のボーンを用いてフェイシャルリグを完成させた主人公リュウのデータをサーバ上に保存しておく。そして、他のキャラクタにフェイシャルリグをセットアップする際は、このリュウのフェイシャルデータを読み込み、サイズを合わせた状態でシュリンクラップを適用する。あとは最後に Gator を実行するだけだ。通常は一体のキャラクタの基本的なフェイシャルセットアップに 3 日ほどの工数がかかるのだが、Gator を効率的に活用することで、その作業を約 2 時間に短縮できたのだ。こうした短縮によって生まれた時間は、キャラクタの個性を出すなど作品のクオリティ向上につながる作業に費やすことが出来るという大きなメリットをもたらした。
さらに、「ストリートファイター IV」における基本リグとモデルデータは Softimage のリファレンスモデル機能による関連制御が実現している。つまり、アニメーション付けを完了した状態のリグに対して、リファレンス機能によって新しいモデルデータと差し替えることが可能なのだ。モデリングに変更が加えられエンベロープウェイトを調整し直した新たなキャラクタデータを既存のモデルと差し替えた場合も基本リグに設定されたアニメーションは破たんしないのである。
「モデルデータの変更作業はプロジェクト進行中も頻繁に発生します。こういった状況下では Gator を用いた既存データの効率的な再利用は工数短縮やクオリティ向上に大きな意味をもたらします。そして、リファレンスモデルで実現されているモデリングとアニメーションの並列作業というパイプラインに関してもデータの仕様変更によって時間の許す限りのクオリティ追求をしていくゲーム開発の現場においては理想的なパイプラインだと感じています。」と亀井氏は語ります。
こだわりを追求したアニメーション
アニメーション作業では効率化を図るために全キャラクタ共通の Synoptic View インターフェイスが用意されている。Synoptic View のインターフェイスからボディとフェイシャルの部位にアクセスを行いアニメーション作業が素早く行えるよう設計がされている。Synoptic View とスクリプトを用いたカスタマイズ環境のおかげで、作業効率に優れたインターフェイスを柔軟に構築できたという。
また、Softimage のスクリプト環境の特長として、Visual Basic スクリプト言語にも対応している点がデザイナにとっては大きいという。VB スクリプトは簡単なマクロや、痒いところに手が届く機能などをプラグイン化したり、データ書き出しの時エクセルのリストを参照させてエクスポートさせたりといった作業効率の向上をプログラマに頼らずともデザイナ自身で実現できるためだ。
アニメーション作業は、全キャラで汎用的に利用できる、IK ベースの Rig を使用している。この Rig では、基本的な体部分のみの制御に特化し、フェイシャルや、特殊な制御を必要とするものは、追加の Rig をスクリプトでセットアップする事で拡張を行えるようになっている。その際、Animation Mixer のクリップとして保存されている最新のフェイシャルデータをサーバから読みこみ、スライダのブレンド値で編集を行えるなど、Rig の種類に応じて機能を追加できる。モーション編集における Softimage の F カーブエディタは、領域での調整、数値入力での角度の調整などの使い勝手に優れ、大変満足のいく作業効率が得られたという。
こうして作成された総モーション数は 5,000 近くに上った。登場などの演出場面から必殺技といったバトル中のメインキャラクタの動きのほとんどは手付けによるアニメーションが行われている。コンシューマ版で追加された因縁の相手と戦う際の演出映像は尺が長いこともありメインキャラクタにもモーションキャプチャが採用されている。この作業ではオートデスク製品の MotionBuilder からのデータを Softimage に読み込んで作業が進められた。
キャラクタアニメーションにおいても、2D ドット画時代の動きを 3D として再現することが前提であった。このため、純粋な IK によるキャラクタの動きを決定するモーション以外に、手、足、顔などがディフォルメするアニメーションが表現に加わっているのだ。ダルシムを例にとってみると、基本 IK リグとは別に手足を伸ばすためのセカンダリ制御用の特殊リグが追加されている。手足の伸び縮みをパスで制御するセカンダリリグは基本 IK リグとのブレンド率もウェイト値で調整できるになっている。ここで、伸び縮みの動きに加えて腕が伸びたことによる体積の変化 (腕が細くなる) というディテールまで追求されディフォルメ表現されているのだ。
さらに、演出映像パートでは、豊かな表現を求めフェイシャルリグや指の動きによる手の表情もエクスプレッションを仕込んだスライダで制御されている。他のゲームとの差別化要因としてインパクトのあるフェイシャルアニメーションにはこだわりを持った演出が行われているという。特に「ウルトラコンボ」と呼ばれる連続必殺技でキャラクタが攻撃を受ける瞬間の表情と 3 次元的なカメラの流れるような動きに注目してほしいと亀井氏は語ってくださった。