株式会社スクウェア・エニックス
Final Fantasy XIII
リアルタイムカットシーンのワークフロー
- Maya
- MotionBuilder
- ゲーム
付属物とヘアのシミュレーション
ボディの付属物やヘアのシミュレーションを担当された村松氏にお話を伺った。コンソールの処理能力が向上した現在は、髪の毛や衣服の自然な動きもゲーム上で再現が可能となった。「FF XIII 」のシミュレーションでは、動くべき物を動かすことが大前提として作業が進められたという。
次のような流れでシミュレーションは設定されていく。まず、マントや衣装の裾、ベルト、スカートといったシミュレーション対象の指定を行う。続いて、環境風の強さを設定することで、動きが布先へと伝わる強度がノイズ成分で定義される。ボディのモーションデータを読み込まれた状態でシミュレーションのバッチ処理を実行するというワークフローだ。
演算処理は、専用のサーバで行われ 10 カット 1000 フレームも約 20 分で計算が可能であったという。クロスの衝突制御が難しいケース、モーションが速すぎるケースを除く約半分のシミュレーションでデータ修正を必要としない結果であったという。このようにバッチスクリプトを利用して演算を自動化することで、必要最小限のカットを個別に修正するというワークフローが採用された。
自動処理によって生まれた時間は、より複雑なシミュレーションのクオリティアップに費やすことができたそうだ。例えば、マントのシミュレーション結果の調整は次のように行われる。メッシュ表面のカーブの形状を修正することで、コンストレイントされているボーンの状態をオフセット修正が行える。また、関節位置をダイレクトに操作する修正も可能となっている。これは、ピンニングされた関節コントローラを移動するとボーンにスケールの値がフィードされる仕組みだ。このように 2 重の制御でより自然な動きに動きの調整は仕上げられた。
ヘアシミュレーションのセットアップについても解説を頂いた。ヘア表現は、ベースとなる風の動きに対してスプリングによるシミュレーション結果を重ねる手法で設定された。キャラクタがうつむいた場合や見上げた場合に、気持ちのよい風を自然に表現できるよう工夫が重ねられた。
キャラクタによって異なるが、ヘアには 20 本程度のボーンが割り当てられている。ボーンの移動と回転、エンベロープウェイトで髪の自然な揺れは表現されている。ランダムさを表現するため毛先までエンベロープウェイトが繊細に割り当てられている。
ベースとなるアッドフレームによるヘアの揺れ表現は、従来から行われているものである。これにスプリングのシミュレーション結果を組み合わせることで格段に説得力が増した表現が行えたそうだ。スプリングの動きは、接触面に触れると慣性が無くなるように制限がかけられている。揺れすぎの場合もオフセットコントロールで振幅を変更するとことで動きが抑えられる。場合によっては、シミュレーション結果に対して、Animation Mixer のワープ機能を用いて緩急のタイミング調整も行われているという。
こういった職人仕事のシミュレーション表現と実機上でプロシージャルに処理されるシミュレーションの利点を併用することが理想の表現にたどり着く方法であるという。現在はテクノロジーの端境期だが、今後は両方の融合は進んでいくであろうと考えられるそうだ。
「Softimage には Syflex や Physx など多彩なシミュレーション環境が整っています。Softimage 2010 からは Syflex のマルチスレッド対応で処理が高速化していることも確認出来ているので嬉しい限りです。今後は、スプリングの擬似表現だけでなく ICE を利用してカスタムのシミュレーションを実装して行きたいですね。」とシミュレーション表現における Softimage の優位点について村松氏は語ってくださった。
エフェクト作成と背景制作
「FF XIII 」では、バトル、フィールド、カットシーン用の3つエリアのエフェクト作成が行われた。
エフェクト用モデルリソースの作成、UV の設定、Cgfx シェーダの割り当てといった仕込み作業には Autodesk Maya が活用されている。Maya 上のグラフィカルなボタンの組み合わせによって、自動的に HyperShader のリアルタイムシェーダノードが裏で組みあがるアーティストフレンドリーなワークフローが採用されている。エフェクトアニメーション調整は、実機ツールである Crystal Tools の Effect Editor で行われる。Maya で作成したデータをもとにシェーダのパラメータ調整や UV パラメータ調整によるゆらぎの表現などが Effect Editor で作り上げられる。
当初、同じ形状のモデルに対して使用するシェーダの組み合わせ毎にモデルリソースが増える事態が発生したが、描画用のモデルとシェーダ用のモデルを別々に用意することで問題の解決が図られた。結果としてデータリソースを減らすことや、使用メモリの削減につながっただけでなく、双方の組み合わせを行うことで表現の向上につながったという。
吉田氏によるとエフェクト作成の魅力は、自身の裁量とアイデアで自由に表現が可能なことであるという。分業が進んでいるセクションが多いが、エフェクト班は絵コンテ作成から始まりフィニッシュまで一通りの責任を自分が担うこともやりがいを強く感じるそうだ。ひとつのテーマをエフェクトで表現する場合も、3 人のデザイナがいた場合には、それぞれテイストが異なる個性的なデータがあがってくるそうだ。
「FF XIII 」のバトルエフェクトでは、「余韻」にこだわった演出が行われているという。通常、ゲーム中にエフェクトが多発する場合は、GPU 処理を優先させるために発生したエフェクトを直ぐに収束させるケースが多いという。しかし、「FF XIII 」では常駐メモリをキロ単位で調整することで快適な処理と「余韻」の両方のバランスを見事に成立させているのだ。爆発後も煙が直ぐに収束せずにしばらくとどまるといった演出表現にもぜひ注目して欲しいという。
背景制作パイプラインでは、モデリング作業やブラインドデータを用いたゲーム用属性の埋め込み設定が Maya を通じて行われた。Maya のビューポート上では実機と同等のプレビューが行える環境が整えられた。ポストフィルタ表現やハードウェア固有表現(PS3 の TransparencyAA )を除いた正確なプレビューが行えるため背景制作が効率的に進められたという。背景データでも複雑なアニメーションを必要とする場合は、Maya で簡易的に設定した動きを中間フォーマットで Softimage に受け渡してアニメーションを作りこむような連携もあったという。
*上記価格は年間契約の場合の1ヶ月あたりのオートデスク希望小売価格(税込)です。