株式会社カプコン 
『バイオハザード5』が放つ極限のグラフィック

株式会社カプコン 『バイオハザード5』が放つ極限のグラフィック
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Autodesk Maya を利用した背景制作

背景制作チームの命題は、「灼熱の中のホラー」をキーワードに、光と闇が生み出す恐怖感を最大限に引き出すことであった。制作にあたっては、デザイナとディレクタによるアフリカ・ケニアでの取材が行われた。訪問前には予防接種を受けたり、現地ガイドではボディーガードが同行したりと緊張感を伴う取材であったという。現地ではテクスチャ素材の収集が行われたほか、実際にアフリカの熱気を肌で体感した経験が、後の制作で大きく役立ったそうだ。

『バイオ 5』プロジェクトの背景制作パイプラインには、 Autodesk Maya がメインツールとして利用された。背景制作の流れは次のとおりだ。まず、背景のイメージ画がデザインされるのだが、このイメージ画は、あくまで背景の全体像がデザインされている状態のものだ。

ここからゲームにロードする単位のシーンデザインは、3D デザイナが担当することになる。まずは、企画やコンセプトが検討され、シーンのデザイン構成やライティングに関する方向性が決定される。そして、建物や乗り物などの大きさや配置、道の幅、敵が出現するポイントなどを Maya 上で次々と構築していく。いわゆるレベルデザインの作業である。レベルデザインの段階でも、テクスチャが割り当てられたモデルデータもクオリティは高いものであるという。この状態から各担当者が、テクスチャとモデルデータの精度をさらに突き詰めていくことで、背景シーンは完成に近づいていく。

その後、ゲームプレイ用の当たり判定情報も設定されて、MT フレームワークへの出力が行われる。ちなみに、Maya と MT フレームワークの連携を高めるために、ハイパーグラフ内でノードとして組み上げた属性は、マテリアルパラメータ内の Extra Attribute として抽出されるようになっている。つまり、デザイナがハイパーグラフのノードで設定した Maya 上でのビューイング結果が、MT フレームワーク上でも自動的に再現される環境が整えられているのだ。最終的に MT フレームワーク上では、Maya で焼き付けたライトマップの輝度を絞る調整や各種フィルターの設定が行われる。こうして、HDR の効果を引き出すことによってゲームデータは完成する。

背景データはゲームロード単位で管理されるために、平均して 30 万ポリゴン前後のデータで Maya のシーンファイルは構成されている。湿地帯ステージは草オブジェクトの関係で、そのデータは 500 万ポリゴンにものぼったという。また、オープンな空間の街ステージで扱うモデルデータの個数は膨大であった。こういった条件下では、Maya のリファレンス機能が力を発揮したそうだ。木や電柱などのモデルは、全てサーバから参照するようステージ単位で管理が行われている。このため、効率の良い快適な作業環境を実現できたという。。

シーンには平均 500 個を超えるマテリアルが存在し、400 枚にのぼるテクスチャが扱われたという。マテリアル数が膨大に増加しても、Maya のハイパーグラフでは快適なレスポンスで作業が行えたそうだ。また、異なるマテリアル間でも、同一マテリアルノードを共有化できるのが Maya のハイパーグラフの便利なポイントであるという。そこで、シーン内で重複するライトマップノードは、次のように整理が行われた。MEL を利用したプラグインで、共有ノードを見つけ出し、単一のライトマップノードに再コネクトさせる自動処理である。

背景モデルで使用されるテクスチャ解像度やUVの配置は、メモリ容量との兼ね合いはあるが、各デザイナの裁量にゆだねられている。おもに解像度が1024 ピクセル(最大 2048 ピクセル)の各種テクスチャが割り当てられている。アルベドマップ、法線マップ、スペキュラーマップ、ライトマップ、さらに、一部のモデルには表面の素材感を出すためにタイリングを行うディテールマップは背景でも使用されている。

法線マップやライトマップを美しく生成して、その効果を最大限に生かすためには UV 情報が重要であるという。そこで、背景データには、ライトマップ用のUVと法線マップ用の UV(アルベドと共有) という 2 種類の UV が割り当てられている。

今回、光と影の表現に力を注ぐために、ライトマップの生成では様々な試行錯誤が行われたそうだ。開発当初は、ライトマップ生成にグローバルイルミネーションを利用する検証が行われた。しかし、自動で生成が出来る便利さはあるが、生きた画がどうしても表現されずに納得のいく結果が得られなかったという。『バイオハザード』チームは、最終的なアウトプットされる画が人の心をどう惹きつけるかを最も大事にしているという。そこで、生きた画を生み出すために、デザイナの慣性やセンスでライティングした状態でライトマップを生成するワークフローが選択された。

背景担当リーダの堀氏は、Maya について次のように語ります。「ライトマップ生成におけるライティング作業で、ライト効果のリアルタイムビューイングが優れていたことが、Maya をパイプラインで選択した大きな理由です。また、大量マテリアルの管理、大規模ポリゴンデータを扱う際のインタラクションが快適なことも Maya のアドバンテージだと感じています。」

Maya と MT フレームワークを駆使して作成された背景データは、細部にわたって作り込まれている。ぜひ何度も繰り返しプレイしてこだわりを感じとって欲しいと堀氏は締めくくってくださった。

海外との協業を成功させたポイント

今後、カプコンとしてより大きなタイトルを手がけていくうえで、表現と技術の幅、そして見聞を広げたいという考えはプロジェクト当初から存在したという。その中で、ハリウッドのプロダクションとの協業という話が現実のものへと具体化していったという。このため、今回の『バイオ 5』プロジェクトでは、ゲームプレイパート以外の CG 制作で 70%、モーションキャプチャにいたっては、 95% までが海外制作で行われたという。

海外との協業を行ったリアルタイム演出ムービーの作業は、2007 年 10 月にスタートして 2008 年 8 月末が締め切りという、非常にタイトなスケジュールであった。限られた時間でのちょっとした意識のズレは、大きなロスにつながる。そこで、実際に海外スタッフとの協業を円滑に進めるための手段として、両国の文化に精通して CG も理解している外部スタッフを間に挟んでコミュニケーションを行う作業方式が採用された。考え方の相違をダイレクトにぶつけ合う方法よりも、正確かつ冷静にやりとりが行えたことで、問題解決や互いの意図の理解をよりスムースに行えたという。

また、実制作に入った後の修正ではコストが高くなる。そこで、今回はプレビズをしっかりと行うことで、限られた時間で最高のクオリティの作品を送り出す方針が決定された。プレビズ作業ではストーリーボードに基づいて、まず実写のビデオストーリーボードの撮影が行われた。ビデオストーリーボードでは、モーションキャプチャを担当する役者は、衣装や髪型をセットして役作りを行った状態である。役者がグリーバックカメラの前でリハーサル演技する様子を撮影したものが、ビデオストーリーボードである。これとは平行して、実写では表現不可能な表現や背景シーンは CG によるプレビズで作成される。

グリーンバックでの役者の演技と CG 背景を合成することでビデオコンテを作成するのだ。これをもとに、ショットのビジョンを明確なものとして海外チームと共有したのである。ビデオコンテを作成することで、演技やシーン構成などの問題点の洗い出しが行える。問題点を解決した後に、役者はマーカーが貼り付けられたボディスーツをまとい、本番のモーションキャプチャデータの撮影が行われるのだ。

モーションキャプチャの現場では、MotionBuilder を利用したリアルタイムのボディキャプチャのプレビュー確認が行われた。モーションキャプチャと MotionBuilder の組み合わせを用いた高速なリアルタイムプレビュー環境は、作業効率を高めるうえで大きなアドバンテージであったという。

海外制作チームのモーションキャプチャ作業では、InterSense 社の Vcam バーチャルカメラシステムを採用してカメラの動きに対するキャプチャも行われた。マーカー方式とは異なる慣性ジャイロセンサーで、カメラの 3D 空間での移動と回転情報を取得する方式である。ボディキャプチャの役者の演技とカメラの動きがリアルタイムで MotionBuilder 内のバーチャル環境に再現されるのだ。

バーチャルカメラの利点は、ヘリコプターからの空撮ショットや時速 50KM で併走する車からのカメラショットといった撮影も容易にバーチャル空間上で再現できることであるという。こういったショットでは、あとからカメラのパスアニメーションを加工するのではなく、前もって作成したヘリや車のパスアニメーションの上にバーチャルカメラを乗せる形で撮影は行われた。一気にファイナルアウトプットにもっていくことで、現場でプレビューを行いながら仕上げる手法がとられたのだ。

海外だけでなく国内でのカメラアニメーション作業でもバーチャルカメラによるキャプチャが採用されている。国内の場合は、カプコン社内でカメラの動きはマーカー方式で収録された。カメラの動きは、Null の移動と回転の情報として FBX フォーマットで MotionBuilder から書き出された。FBX データは Softimage に読み込まれ、Softimage 内でカメラアニメーションを再現して編集が進められた。

このように、プレビズやバーチャルカメラ技術を全面的に活用したことで、『バイオ 5』の臨場感あふれるカメラワークや映画のようなショットが生み出されたのである。

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