CAD CENTER Interview Autodesk 3ds Maxで次代の超高精細映像を創る!〈4K〉高画質の3DCG「MIKOSHI」の映像世界

株式会社 キャドセンター
CAD CENTER Interview Autodesk 3ds Maxで次代の超高精細映像を創る!〈4K〉高画質の3DCG「MIKOSHI」の映像世界
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フルハイビジョンの4倍の画素数をもつ超高画質映像「4K」が、映像分野の次代の主役として注目されている。日本でも4K狭帯域衛星放送が始まり、2016年には4K広帯域衛星放送も予定されている。しかし、撮影機材等の問題から4K映像制作のハードルは高く、コンテンツもまだ豊富とは言えない。そんななか「プロダクションEXPO東京2013」で発表されたあるフル3DCGの4K映像が、その圧倒的なクオリティで大きな話題を呼んだ。日本屈指のデジタルコンテンツ制作会社 キャドセンターが、Autodesk 3ds Maxを駆使して制作したこの「MIKOSHI」は、現在も度々引用され、4K映像を代表するCG作品の1つとなっている。制作を担当した橋本拓氏らキャドセンターの4氏にお話を伺った。

ベースはSIGGRAPH用のショートムービー

――4K映像に関するお取組みは以前から?

橋本 拓 氏

株式会社キャドセンター
取締役
映像/グラフィックグループ
グループ長
橋本 拓 氏

橋本氏:直接目に見える形でのニーズは、建築系ではまだはっきり現われていませんが、いずれ4Kがスタンダードとなるのは間違いありません。当社としては、そこでいち早くアドバンテージを獲得するため、プリレンダーはもちろんリアルタイムでも高解像度4Kコンテンツの研究を進めています。また4K関連の機材を扱う企業との連携も進めており、ハード面も含めた多彩な角度から4K市場化を推進している状況です。

――「MIKOSHI」もその流れの中から生まれた企画ですか

橋本氏:いいえ、4K映像としての「MIKOSHI」はたしかに当社の自主製作作品なんですが、ベースとなった企画は、実は東映グループのデジタル映像技術を支える東映デジタルセンター「ツークン研究所」との取組みが出発点です。ツークン研究所が、世界的なCG展覧会・国際会議のイベントであるSIGGRAPHに出展することになり、そこで使う自主コンテンツへの制作協力を依頼されたのです。祭りをテーマとする実写とCG映像を組合せたショートムービーで、当社は作中に登場するお神輿のモデリングとセットアップを担当しました。

――それが「MIKOSHI」のお神輿になったんですね

橋本氏:そういうことです。東映さんとしては、SIGGRAPHという米国のイベント用だけに、海外受けする「和」のイメージで質の高い映像を作りたい、という思いがありました。当然、ディティールにこだわった質の高い表現力が問われますし、見栄えするキンキラキンの感じとかそういう魅力も必要で、お神輿という題材が選ばれたんです。ただ、SIGGRAPH用のムービーはフルハイビジョンでの制作でしたし、4K化へのトライアルについてはイベント終了後に初めて出てきた話になります。

松本 学 氏

映像/グラフィックグループ
テクニカルディレクター
松本 学 氏

松本氏:これはタイミングが良かったんですよ。ちょうどその頃、当社でもカメラやテレビなど4K用機材を揃えて、これから4Kをやり始めようという号令をかけ始めた時期だったんです。そこにこのMIKOSHIというCGコンテンツが、ちょうどいい4K素材としてぴったり嵌まった。自主製作の研究用という意図もあって限界までモデルにチャレンジしようという狙いから、モノとして非常にディティールが細かく作り込めるお神輿は、題材としては最適なんじゃないか、という話になったわけです。

――4Kへのチャレンジに実写でなくまずCGを選んだのは?

橋本氏:4Kに限ったことではありませんが、実写の場合、どうしてもレンズの限界というか、映像素子自体の問題による限界があって、CGの方がより4K等の高解像度映像の性能を引き出せるんじゃないかという思惑がありました。もちろん、いずれ技術革新が起こって実写の方でもっと凄い技術が出てくる可能性はありますが、現状ではCGの方がこうした高解像度の4Kコンテンツに向いていると言えるかも知れません。これは今回のチャレンジを通じて実感したことの1つですね。

――SIGGRAPH用「MIKOSHI」制作の流れをご紹介ください

秋山 一広 氏

インタラクティブコミュニケーションG
ICT3
シニアクリエーター
秋山 一広 氏

秋山氏:神輿のモデリング作業のまとめ役は私が担当しました。といっても、神輿専任のモデリングチームなどあったわけではなく、既存プロジェクトが普通に進んでいる合間で社内のあちこちに声をかけて、皆の協力のもと、少しずつ空いたリソースを使って作ってもらうという進め方でした。最初は6人ほどに声をかけて始めましたが、誰もがなかなかまとまった時間をとれなくて。結局、モデルのパーツをドンドン分けて部品ごとに担当者を変えてやっていくやり方で、最終的には10数人のスタッフに協力してもらいました。

――SIGGRAPH用ムービーのお神輿は3段に変形しますね?

秋山氏:驚かれましたか? あれは現実にはない架空のお神輿なんですよ。お祭りなどで担ぐ本物のお神輿はだいたい1段なんですが、ショートムービーの神輿は変形して3段になったり、龍が飛んだりします。でも、架空だからといって何も知らない素人が適当に作ったら、どうしても嘘臭くなってしまいます。そこで、きちんと神輿を設計できる建築系の設計ノウハウを持った人が東映にいらっしゃるので、その方に架空の三段神輿の図面を描いてもらい、これをベースにモデリングしていきました。もっとも細かいディティールが入っている所もあれば無い所もあり、質感の指定とかも特になかったので、その辺りは既存のお神輿の写真などを参考にしていきました。

――本物のお神輿をスキャニングしたりはしなかったんですか?

4K映像「MIKOSHI」の神輿全体像。三段の特異な形は現実にはないオリジナルの形状

4K映像「MIKOSHI」の神輿全体像。三段の特異な形は現実にはないオリジナルの形状

秋山氏:実はスキャニングも一度やってみましたが、何しろお神輿は大切なものなので、神社から持ち出してスタジオなどに持っていくことはできません。そこでハンディスキャンを使って採ってみたんですが、神輿というのはピカピカ光る反射物がやたらたくさん付いていて上手くいかなかったんです。

――スケジュールはどんな感じで?

秋山氏:最初にスタッフに割り振ってプロジェクトがスタートしたのが12月頃で、実際に制作が始まったのはもう年末近く。最終的に完成したのが2月初めですから、モデル制作期間は2カ月ほどですね。正直いってスケジュール的にはかなり苦しくて、最終的には「時間がないので、どうしてもここで終わり」という箇所も出てきました。一方、クオリティに関してはこの段階では4Kではなかったし、そもそもムービーでは神輿は担がれて動いているという想定だったので、あまりディティールに寄る必要はありませんでした。そこで、無視できるディティールは無視して、ムラなども揺れて分からなくなるような所は工数をかけずに仕上げるなどいろいろ工夫しました。そして、SIGGRAPHのあと4Kにグレード上げようということになり、4Kレンダリングにも堪えられるように細かいディティールまで作り込んでいったんです。

4KのCG映像制作のボトルネックはレンダリング時間

Autodesk 3ds Maxによる制作画面
Autodesk 3ds Maxによる制作画面

Autodesk 3ds Maxによる制作画面

――SIGGRAPH用「MIKOSHI」をどのように4K化していきましたか

秋山氏:簡単に言うと、モデルをテクスチャ化していたのがシーグラフ用神輿、そのテクスチャをモデルに一旦戻して精度を上げたものが4K神輿ということです。ツールは、当初からAutodesk 3ds Max。一部で少し違うソフトも使っていますがメインは3ds Maxです。実はSIGGRAPH用のMIKOSHIも当初はけっこう、3ds Maxを駆使してモデルを作り込んでいたんです。ところがレンダリングを担当してもらった別会社から「重すぎて取り回しできない」とクレームが入り、結局、作り込むのはやめて軽くし、レンダリングパートの会社さんに渡しました。ですからそれを、SIGGRAPH後にもう一度モデルに戻して作り込むと、いうことをしたんですね。

――SIGGRAPH用「MIKOSHI」ではクローズアップはなかったんですか?

橋本氏:そうですね、ご覧いただけば分かりますが、神輿のCG映像を実写に馴染ませるようグレーティングされているので、それほどはっきりディティールまで見せるようには作られていません。前述の通り、われわれはMIKOSHIのモデリングとセットアップを担当し、映像制作そのものは東映さんマターでしたので、完成版をみるまで詳細は分かりませんでした。

松本氏:実際の話、私たちも大いに楽しみにしながらSIGGRAPH用のショートムービーの試写に行ったんですよ。ところが実際に見ると「アップがない!」って(笑)。だから、4K版ではもう、ぐりっぐりに「寄り」で作っていきました。まあ、こちらも「プロダクションEXPO東京」に出そうという目論見があったのでスケジュールは厳しく、急ピッチで作業を進める必要がありましたが。

――カメラを寄せたらアラが見えてくるのでは?

元近 好一 氏

映像/グラフィックグループ
アニメーションチーム
元近 好一 氏

元近氏:そうなんです。「寄り」でカメラを動かしていくと、SIGGRAPH用MIKOSHIのモデルでは足りないディティールがたくさん見えてきたんです。で、カメラを作りながら、同時にここはモデルも作り込もうと言って作り込んでいくわけで......これもすごく大変でしたね。カメラに見えててもモデルがなかったりとか、作りが甘かったりしている所を中心に、もう1回作り直すくらいのこともしてました。まあ、そこまでやっていったからこそ、あれほど迫力のある絵にできたのかなと思っています。

松本氏:4Kですからね、実際4倍見えてしまうわけで。つまり、アラも4倍見えるんですよ。逆に作り込んだ所は、4Kでは確実に舐めるようなカットを作ろうと考えましたね。"そこを作り込むから、それを見せるためにこういうカメラワークにしよう"という感じで。

元近氏:そうですね。ここをここまで作り込んだから、ここをもっとこういう風に見せようとか。いろんな考えが出てきた。SIGGRAPH用のデータでは、非常に細かいパーツが並ぶ部位をテクスチャで表現していましたが、舐めるようなカメラワークでみてみると、4Kでは耐えられないことが分かりました。ディスプレイスメントしたテクスチャを一旦全部モデルに戻し、面取りなど作り直し寄りのカメラに耐えうる仕様としていったわけです(笑)。

――そうなるとレンダリングも手強かったのでは?

元近氏:その通りです。そもそもお神輿ってほとんど全体が反射しまくる素材なので、レンダリングはどうしても厳しいことになります。レンダラーはV-Rayを使い、フレームレートは30。始めは3,840でレンダリングしてたんですけど、途中から4,096にしました。で、たとえば4Kバージョンで全面に絵が入っている状態で、いろいろ工夫はしたんですが、知識の浅さのせいもあって最大1フレーム14時間もかかってしまいました。今ならもうちょっと早くできると信じてるんですけど......(笑)。とにかく全体を通じて一番ネックになったのが、このレンダリング時間の問題でした。

松本氏:だから結局、レンダリングで進行の方針が決まるという感じで......。必要な時間にレンダリング枚数をかけて仕上がり時間を予測し、そこから逆算して「このカットはもう間に合わないから無し」とか、終盤はカット割りとかも全部レンダリング時間に合わせて決めていった感じですね。だから実は「プロダクションEXPO東京」の展示でも、毎日仕上がったものを後から付けたしていったため、会期中の3日間は1日ごとに素材が増えていきました。結局、3日間で30フレームくらい増えたんじゃないかな(笑)。

――コンポジットについてはいかがでしたか

元近氏:これもまたすごく大変でした。とにかくこれも重くて重くて......。1フレームの表示に凄く時間がかかるんですよ。ずーっと表示のバーが伸び続けていって、1分近く経ってやっと1枚表示される感じで、絵のチェックにも手間がかかりました。また反射のガタつきなど、動画を流してみないとチェックできない所も多く、これにも時間を取られて。かなり追い込まれながらやっていた実感があります。

――「MIKOSHI」の制作は既存業務と並行して行ってたんですか

元近氏:後半からは完全に比率が逆転して、MIKOSHI中心になってましたね。既存業務は空いた時間にやったりして。特に終盤はそうしないとどうにもならない状態でしたね。そもそも期間があんまり無かったんですが、レンダリングで1カ月くらい回してたんです。まあ、レンダリングは始めてしまえばその間、別の仕事ができたんですが、問題はその前と後。前段階のチェックではMIKOSHIに全力投球し、レンダリング期間中に他の仕事をがーっとやって。レンダリングが終わったらまたMIKOSHIに戻って、動画のコンポジットをして。で、またコンポジットのレンダリングをかけ始めたら他の仕事をやって......というやり方をしていました。

橋本氏:やはり初めてだったので、状況に応じてすぐにPCのスペックを上げるということまでできなくて、結局、今回は既存の環境でなんとかやっていくしかなかったんです。スタッフには苦労をかけましたが、既存のこの設備でどれくらい大変なのか把握できましたし、このことを含めてノウハウとしてかなりのものが蓄積できたのは間違いありません。

3ds Maxをもう一つの主力ツールに

――今回、3ds Maxをメインツールに選んだ理由はなんでしょうか?

松本氏:実は4Kでやろうと考えた時から、3ds MaxとV-Rayの組合せでないと不可能なんじゃないか、と思っていました。というのは、やはりまずレンダリング速度の問題ですね。4Kでやるとしたら、これがプロジェクト全体のボトルネックになることはある程度分っていたので、3ds MaxとV-Rayでやるのが一番早いだろうと考えたんです。

元近氏:3ds Maxでやって良かったなと思うのは、レンダリング時にフレームナンバー通りに計算しファイル化してくれることですね。これがあったから、前述した「追加で足していく」ことができたんですよ。当社で使用している別のCGソフトではそうはいかなかったので。いろんなフレームをいろんなマシンに割り振って描いちゃうから......。

松本氏:しかも、どのマシンがどのフレーム描いていたか追えない。なので、エラーを起こしてもどのマシンが問題なのか分からないんです。そうなると、今回のようなギリギリの状況で問題が起きた時、対応が困難になるのですね。最終的にはレンダリング勝負になると思っていたので、そこでの差に関する判断が3ds Maxを選ばせたとも言えます。それで、もともと3ds Maxを通常業務でメインツールに使用している、リアルタイムチームの秋山さんにモデル管理をお願いしたという経緯もあります。

元近氏:それと、3ds Maxは3DCG製品の中でも突出してプラグインが豊富ですよね。他ソフトではプログラマに頼んでツールを作ってもらうことが多々ありますが、3ds Maxの場合は開発する前にネットを探せばほとんどの物があるので、それで済んじゃっているっていうのは大きな利点ですね。

――4Kの完成映像をご覧になった時はどうでしたか

秋山氏:正直、映像を見てもまだ完成したという感じはしません。もちろん予算と時間の問題は避けられないし、これが現状での完成形ということは否定しませんが。でも、実際もう少し手を入れた方が良い所もあるんですよ。ある程度整理していますが、やはりいろんな人が少しずつ作っているので、作り方にも無駄が見えるし、効率的なモデルとは言えません。制作前にもっとかっちりしたレファレンスというか、ルールを作って周知してから進められたら良かったんですが。

元近氏:4Kディスプレイで初めて見た時は、やはり感動しましたよ。やってよかった、と素直に思いました。それでも時間が経つと、やはりモデルの整理など、やりきれてない所がけっこう目に付くようになっちゃいますね。まあ「MIKOSHI」自体、これからもプロモーション等で使っていくと思うので、引き続きモデルの整理を進め、コンポジットなどさらにコツコツやっていこうと思っています。また、最新版の3ds MaxとV-Rayのシリーズに最適化していく必要もあるでしょう。こうした作業はこれからも続いていくと思いますよ。

松本氏:私は4Kモニタで編集しながら見てたんですが、やはり繋げて見た時の1回目は「すげー!」ってなりました。で、2回目からはちょっと「ここが見えちゃうんだけど」とか「ここはこうしたいよね」というのが生まれるのは、仕事がら仕方ありません。すごい感動もあり難もありというか......とにかく4Kについては、これでいろんなトライアル&エラーができましたし、2013年度時点の当社の技術と努力の結晶として1つの指標にできると思います。そういえば、このMIKOSHIはいろんな会社さんにも見ていただきましたが、以来某社ではウチのことを「神輿屋さん」って呼んでらっしゃるんですよ。それだけインパクトがあったようですね(笑)。

橋本氏:私ももう100回くらい見ているのでいろいろアラが見え始めましたが、やはり4K映像のMIKOSHIができた時は凄いと思いました。そして、同時に、こうした4K映像を眼にした人はまだまだすごく少ないんだ、と実感したんです。ですから、高解像度映像の技術を追求することも重要ですが、それを世の中の人に見てもらう機会を広げていく必要があるんだ、と思ったんです。もちろん私たちの力だけでできることではありませんが、とにかくわれわれには、あらゆる機会をつかんでいろんな処へMIKOSHを持っていって、啓発も含めた活動を進めるという使命もあるのかな、と思っています。また、当社の実プロジェクトにいかにこのエッセンスを落とし込んでいくか、という課題も非常に重要です。ですから、そういったさまざまな役割を果たしながら、またMIKOSHIそのものもさらにいじり続けつつ、進化させていきたいですね。

株式会社 キャドセンター
設立 1987年10月
資本金 8,000万円
従業員数 150名
代表者 取締役社長 清水宏一
所在地 東京都千代田区(本社)
http://www.cadcenter.co.jp
導入製品/ソリューション Autodesk 3ds Max
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