スタジオジブリがMayaで挑んだフル3DCGアニメーション『アーヤと魔女』の舞台裏 〜世界に向けて切り開いた「日本アニメの新たな一歩と可能性」〜
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宮崎吾朗氏が監督を務めたスタジオジブリの最新作『アーヤと魔女』(NHK総合テレビ TV放映版/82分)が一部に新カットなどを追加して、『劇場版 アーヤと魔女』としていよいよ8月27日(金)より公開される。『山賊の娘ローニャ』で得たセルルックアニメーション制作の経験を活かし、本作ではAutodesk® Maya®でフル3DCGアニメーションに挑んだ。ジブリとしてのアイデンティティを守りつつも新たな表現に挑戦し、日本アニメ史におけるエポックメイキングとなった本作。今回、森下健太郎氏(制作プロデューサー / スタジオジブリ)、ノブタコウイチ氏(制作協力 / 神央薬品)、タン・セリ氏(アニメーション演出)に話を聞き、「新たな一歩」に秘められた思いを語ってもらった。
INTERVIEW & TEXT : 三村 ゆにこ
スタジオジブリの新たな決断
ーー今日はよろしくお願いします。最新作『アーヤと魔女』を観て、視聴者の皆さんはジブリがフル3DCG(※1)でアニメを制作したことに驚かれたと思います。日本アニメの歴史においてもフル3DCGアニメは珍しく、エポックメイキングとも言える作品となったのではないでしょうか。宮崎吾朗監督(以下、吾朗監督)は、当初からフル3DCGで制作するというお考えだったのでしょうか?
※1:「フルシェーディング」とも。3DCGで作ったアニメーションをセル調に落とし込むのではなく、3DCGの立体感や奥行き感を活かした手法のこと
森下健太郎氏(以下、森下氏):実は、企画当初はセルルック(※2)で制作する方向で話が進んでいました。スタジオジブリが長く培ってきた「手描きアニメーション」を簡単には捨てることができないという想いがあったからです。しかしあるとき、吾朗監督が「フル3DCGでやりたいように作ろう」と決断し、フル3DCGでの制作に切り替わりました。日本でフルシェーディングのアニメ作品はあまり見当たらないし、スタジオジブリがセルルックを飛び越えてフル3DCGに挑むこと自体に面白みを感じましたね。
※2:セルルックアニメーション:3DCGでモデルを作り、セルアニメーションのような仕上がりに落とし込んだアニメのこと。背景を手描きにするなど、3DCGの利点と日本人が慣れ親しんだセルアニメの良さを融合させたテクニック。ポリゴン・ピクチュアズが制作し宮崎吾朗氏が監督を務めたTVアニメ『山賊の娘ローニャ』(2014)などもセルルックアニメーション
ーー森下さんはこれまで3DCG作品の制作を手がけられてきたのですか?
森下氏:はい。デジタル・メディア・ラボでCGアニメ制作を手がけた後、マーザ・アニメーションプラネットに移り、映画『キャプテンハーロック -SPACE PIRATE CAPTAIN HARLOCK-』(2013)の制作に携わりました。そんなあるとき、ジブリの鈴木敏夫プロデューサーと吾朗監督から『アーヤと魔女』の原作を渡され、「手伝ってほしい」と連絡をいただいたんです。そして2017年4月にスタジオジブリに移り、『アーヤと魔女』の制作に加わることになりました。CGで制作するという方針は決まっており、私が呼ばれたという経緯です。
ーー吾朗監督が「フル3DCGで制作しよう」と決意されたことで、スタジオジブリとして乗り越えなければならない壁がたくさんあったかと思うのですが、特に問題となった点や議論が重ねられた点はどういったものでしたか?
森下氏:フル3DCGで作るにあたり悩ましかったのが「ヘア表現」でした。『アーヤと魔女』のキャラクターの髪の毛は、サラサラとしたものではなく「シルエット」で表現されているのですが、制作当初はカーブを使用した、いわゆる「ヘア」として作っていました。しかしそれでは輪郭がぼやけてしまい、キャラクターデザインを担当してくださった近藤勝也さんが描くキャラクターのシルエットが表現できなかったんです。それを何とか解決できないかと試行錯誤した期間がありました。
ーー近藤勝也さんといえば、『天空の城ラピュタ』をはじめとするジブリ作品に多く携わられ、『魔女の宅急便』や『コクリコ坂から』でもキャラクターデザインを担当された方ですね。まさに「THE ジブリワールド」を描きだされるキーパーソンでもありますよね。
森下氏:そのとおりです。セルルックであればイメージしやすいのですが、フル3DCGで作るとなった場合、勝也さんの手で描かれた髪の毛どうすれば実現できるのか。そうやって試行錯誤していたある日、吾朗監督が映画『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』(2016)に解決策を見出しました。「これを参考にすれば、勝也さんが描くシルエットをそのまま表現できるのではないか」と。そこから3DCGキャラクターのルックが固まっていきました。
ーーアニメ『山賊の娘ローニャ』でセルルックアニメーションに初挑戦され、今回はフル3DCGに挑戦されたわけですが、吾朗監督が「3DCGでアニメを作る理由」のようなものはあるのでしょうか。
森下氏:吾朗監督はアニメ制作に携わる前は造園設計、ジブリ美術館の総合デザインを手がけられていて、そこから『ゲド戦記』や『コクリコ坂から』で手描きアニメーションの制作に挑戦されました。その後、『山賊の娘ローニャ』でセルルック3DCGに挑み、今回の『アーヤと魔女』に至ります。ひとつのスタイルでずっとやっていくのではなく、積極的に新しい手法に挑戦して発展させていくのだと思います。
ーー『山賊の娘ローニャ』で得た経験をさらに発展させたものが『アーヤと魔女』だったんですね。
森下氏:まさにそのとおりで、『山賊の娘ローニャ』でアニメーションディレクターを担当されたタン・セリさんにお声がけしたのも、そういった背景によるものです。
ーー新たな手法で制作した『アーヤと魔女』ですが、ジブリ作品を通して踏襲しなければならないルールや決まりは存在するのですか?
森下氏:ルールなどは特になかったですね。近藤勝也さんが描くキャラクターという時点でジブリらしいキャラクターデザインになっていますし、スタッフもみんな「ジブリの考え方」を意識していました。手描きアニメーションとしての「キメポーズ」を作ってメリハリを付けるという点も、これまでのジブリ作品を意識したものです。あと、「ジブリらしさ」という点では「背景」も重要な要素です。ジブリの背景はとても緻密で、ひとつひとつの「モノ」に説得力があるんですよ。本作で美術デザインを担当した武内裕季さんが、モデルで作らなくてはならないものをひとつひとつ、設定を考えて緻密にデザインを描いてくださいました。
ーー制作体制についても少しお聞かせください。
森下氏:6割を外部に依頼して、4割をジブリ社内で制作するという体制でした。何よりも大変だったのは、そもそもジブリは「手描きアニメーションのスタジオ」なので、プロジェクトがスタートしたものの3DCGで制作するための設備が一切なかったことです。それこそマシンもソフトもモニターもない状態でした。そのような状況から、パイプラインを新規で用意するのは現実的ではないと考え、神央薬品さんとダイナモピクチャーズさんにパイプライン開発をしていただくなど、協力会社さんの力を大きくお借りすることにしました。データやアセットの管理にオートデスクのプロジェクト管理ツール、「ShotGrid(旧・Shotgun)」を使うことで、常に最新の情報が一目瞭然となる状態で制作することができました。
ーーノブタさんが『アーヤと魔女』の制作に参加された経緯をお聞かせください。
ノブタコウイチ氏(以下、ノブタ氏):森下さんが携わってこられたほとんどの作品でご一緒しているのではないか、というくらい長く一緒にお仕事をしてきており、今回もその流れで声をかけていただきました。
ーーこれまでに多くの3DCG作品の制作を手がけられてきたノブタさんですが、今回最も苦労したのはどういったところでしたか?
ノブタ氏:森下さんもお話しされていましたが、最初のモデリング工程において、近藤勝也さんのキャラクターデザインを3DCGで表現することにとても苦労していたのを今でも覚えています。3DCGで制作する場合、どうしても「後工程」について考えてしまう傾向があるのですが、今回は後のことを考えると絶対に先に進めなかったので、「後の事は後で考えよう」とまずは進めていきました。そうしたら、思ったとおり本当に大変でしたね(笑)。特に、アーヤのママの髪の毛のように「3DCGが嫌がる形状」がところどころにあって。
ーー「3DCGが嫌がる形状」とはどういった形状ですか?
ノブタ氏:パーマがかかった髪の毛をきれいに動かすのは、3DCGでは難易度が高いんですよ。しかも本作は「セルアニメでもリアルでもない」独特なテイストなんですが、だからといって「セルとリアルの中間を取れば良い」という簡単な話ではなく、スタッフもみんな色々と悩みながら作っていました。
ーーフル3DCGでキャラクターを作るって難しいんですね。
ノブタ氏:顔や表情にしても、少し角度が変わると見え方や印象が変わってしまいますからね。フェイシャルに関しては、セリさんが作った「フェイシャルの表情集」の動画に合わせるようリグの提案をしていただけたのが非常に助けになりました。
森下氏:アーヤ、ベラ・ヤーガ、マンドレークの主要キャラクターに関しては、勝也さんにペイントオーバーしてもらって調整しました。特にアーヤは形がとてもシンプルなので、基本となるところがズレてしまうと、まったく違う顔になってしまうんですよ。勝也さんにはあらゆる角度から確認していただき「このほっぺたの膨らみはもうあと鉛筆の線1本分......」といった感じで、細かく調整していきました。わずかな修正ですが、それだけでキャラクターの印象が大きく変わるんですよ。シンプルだからこそごまかしが効かないんですよね。
「スタジオジブリという箱の中」でアニメを作るということ
ーー『山賊の娘ローニャ』でのセリさんの活躍ぶりを鈴木プロデューサーが高く評価しているといった内容の記事を拝読したのですが、吾朗監督と一緒にアニメ制作をするようになった経緯をお聞かせください。
タン・セリ氏(以下、セリ氏):日本のゲームやアニメがすごく好きで、10年前にマレーシアから日本に来ました。ポリゴン・ピクチュアズに入社して、アニメ『超ロボット生命体 トランスフォーマー プライム』の制作に携わった後、『山賊の娘ローニャ』でアニメーションディレクターを務めた際に吾朗監督と一緒にお仕事をさせていただきました。その後ゲーム会社に転職したのですが、『アーヤと魔女』の制作で吾朗監督と森下さんから連絡をもらい、フリーランスとして再びアニメーション演出をさせていただくことになったという経緯です。今はまたゲーム会社で仕事をしています。
ーー記事には「セリさんを慕って、海外から多くのアニメーターが『アーヤと魔女』の制作に集まった」と書かれていました。セリさんを中心としたアニメーターのコミュニティのようなものがあったのですか?
セリ氏:そういうわけではなく、『アーヤと魔女』の制作でアニメーターを募集することになったので、僕の友達やその周りにいるアニメーターに声をかけて集まってもらいました。僕自身外国人ですので、声をかけた友達も外国人だったというわけです。
ーー『山賊の娘ローニャ』で吾朗監督とお仕事をされた経緯から『アーヤと魔女』制作の協力を求められたとのことですが、吾朗監督はセリさんのどういったところを評価して声をかけられたのでしょうか。
セリ氏:『山賊の娘ローニャ』の制作では、僕を含めて3人のアニメーションディレクターいて、僕が最も若手でした。2人の先輩スーパーバイザーはちゃんと責任を感じて仕事をされていたので、「だったら僕は遊び心をもってアニメーションを付けてみようかな」と思ったんです。僕の担当した話数がコミカルなお話だったこともありますが「ちょっとやりすぎたかな」というくらいまでやって、吾朗監督にも「色々と気にせずやっているのは凄く良い」と言われたこともありました。
ーーセリさんの遊び心が気に入ったのでしょうね。良い意味で吾朗監督の予想を裏切ったのでしょうか。
セリ氏:どうでしょうね。怒られたこともたくさんあったので、悪い意味の時もあったかもしれません(笑)。ただ、吾朗監督のオーダーに「そのまま直球で応える」というのも求められていないように感じました。
ーーアニメーションのオーダーはどのようにされるんですか?
セリ氏:吾朗監督はコンテをとても細かく描いて、キャラクターの心情までちゃんと伝えてくれます。アニメーターに正確に解釈してもらって演技を付けてもらう、という感じですね。また、『アーヤと魔女』はフル3DCGアニメですが、日本人が見慣れている「止め」が多いアニメーションを付けたいと言っていました。それを理解した上でアニメーションを作成しながらも、更にもう少し広い解釈をして、場面によって動きの多いアニメーションを別バージョンとして提案するといったこともしました。
ーー「更にもう少し広い視点からの提案」とはどういう意図があったのですか?
セリ氏:3DCG業界の傾向として、フル3DCGは「止め」を重視する作品の例が少なく、更に『アーヤと魔女』の制作で集まってくれた海外のアニメーターたちは「海外風のフル3DCGアニメーション」を作ってきているので、吾朗監督の言っている「止め」や「日本アニメの美意識」のさじ加減を短い制作期間で完全に実現するのは難しいと思いました。よく「日本のCGは動きが硬すぎる」と言われますが、吾朗監督は日本アニメ特有の美意識として「止め」のある芝居を作りたかったんです。だから監督がやりたいことを理解してそこを目指しつつもゴールの幅を広げる必要があり、失敗したとしても見映えの良い仕上がりにするためでもありました。
ーー日本のアニメの美意識と世界から集まったアニメーターたちのバランスを考えられたんですね。
セリ氏:僕の勝手な考えですが、やはり業界の傾向やスタッフの得意不得意をちゃんと考慮しておかなければならないので、仕方がありませんでした。監督の意図を頑張って目指して実現しつつ、ある程度「お互いの中間」に落とし込んでいくのが最も大変だったかもしれないですね。
ーーセリさんにとって、ジブリ作品のイメージはどういうものですか?
セリ氏:宮﨑 駿監督の作品、高畑 勲監督の作品、吾朗監督の作品と多様性があるスタジオなので、「これがジブリの作品」というのは人によって違うのではないかと思っています。ということで、「ジブリとはこういうもの」という固定観念に縛られず、「スタジオジブリの吾朗監督の作品」という建物の中にアニメーションを作っていくというイメージでした。
ーー本作のアニメーション工程で、吾朗監督が最も気を遣っていたことは何ですか?
セリ氏:フル3DCGのアニメーションは豊かな表情芝居が付けられるという利点があり、『アーヤと魔女』で吾朗監督が最も挑戦したかったことかもしれません。だから僕も今回、表情芝居に関して『山賊の娘ローニャ』から更なるクオリティアップを図るため独学でリグを勉強して、良い表情が作れるような顔のリグを作成して挑みました。
ーー表情に関するクオリティアップとは具体的にどういったものですか?
セリ氏:ひとつの例ですが、見え方に関して特に意識したのは宮﨑(駿)監督作品の「口の中の見え方」です。舌のラインや厚み、喉の奥の見え方、歯と歯の裏側といった口の中の見え方をジブリ作品に寄せ、なおかつ魅力的になるようリグを設計しました。個人的に最もチャレンジとなったのが「口角表現のコントロール」で、よりシンプルで簡単に操作できるよう工夫しています。なるべく少ないコントローラーで綺麗な口の形を表現できるので作業が楽になったはずです。
セリ氏:あともうひとつ、眉毛の表現にとてもこだわっていて、吾朗監督によく「勝也さんが眉毛を描くとき、どれぐらい時間がかかっているか知っていますか?」と言われました。眉毛の表現はとても重要なんですね。ということで、絵コンテで描かれている表現に全て対応できるようリグを設計して、眉毛が寄ったり釣り上がったりと自由自在に動くようにしています。
ーーボディーのリグは神央薬品で付けられたんですか?
ノブタ氏:そうですね。セリさんから指示書をいただいて、何度もやり取りを重ねて作っていきました。
セリ氏:ボディーの「捻りの変形」だったりちょっとした線だったり、スカートの揺れ方とかだったり。アニメーター目線で希望をあれこれと伝えました。今回は顔とボディーとでジオメトリ自体分けているのですが、僕が作った顔のリグをとても丁寧に組み込んでくださいました。 別々の環境で作った顔にリグを組み込んでもらうというのも無茶なお願いだったと思います。
ーー別々の環境で作ったものをくっつけるというのは無茶なオーダーなんですね!
ノブタ氏:やはり大変ではありますね(笑)。でも、セリさんが「こうすればできるはず」とアイデアをくださったのでとても助かりました。特に、RotateOrderやFK/IKのスイッチングなどは、ロケーターを外してベイクして......とやるのではなく、リグに組み込むことでアニメーターの作業が簡略化できると知り、とても参考になりました。
ーーアニメーターが動かしやすいリグというのがあるんですね。
ノブタ氏:アニメーターによって動きの付け方にクセがあるんですよ。例えば、胸のあたりが動いても手の動きはそのままにしたいとか、逆に一緒に動かしたいとか。そういった時に、キーフレームをいちいち打たなくても済むように、「キャラクターの動かし方のクセ」に対応できるリグを組み込んだわけです。
ーー様々なプロフェッショナルたちが知識と技術を出し合って、吾朗監督の目指す『アーヤと魔女』の世界を作り上げていったんですね。この取材に向けて何度も作品を視聴したのですが、初めて観たときこそフル3DCGであることに驚きましたが、2回目以降は純粋にジブリ作品として楽しむことができました。ジブリによるフル3DCG表現と吾朗監督による「日本人が見慣れた止めの美意識」の調和が取れている証拠なんでしょうね。
セリ氏:そうですね。吾朗監督はそこの調和にかなりこだわっていたと思います。それゆえ、海外の人から見ると「硬い」と思われる動きになっているかもしれませんが、個人的には日本でのモノづくりは、あまり海外の目線を気にしない方がより面白いものを作れるのではないかと思っています。日本人の「ものづくりのガラパゴス的」なところは良いところではないでしょうか。
ーー最後に、『アーヤと魔女』の制作に携わった感想を聞かせてください。
セリ氏:ジブリの初フル3DCG作品だったので、ちゃんと表情を作ることができるか大きなプレッシャーを感じていました。独りで黙々とリグの勉強をして周りの人とゆっくり話す余裕がないほど大変でしたが、振り返ってみると想定より上手くできたのではないかと思っています。ジブリ初のフル3DCGの制作ですので、視聴者がどんな風に受け止めるか分かりませんが、僕の観点からするとそもそもパソコンを揃えるところから制作がスタートしているので、 完成したこと自体が奇跡的で感慨深いです。もう少し環境が整っていたら改善できる点もたくさんあるので、今後ジブリにおいて3DCGでアニメを作る機会があったらもっと上手く作れるはずです。
ーーノブタさんにもお伺いします。制作を振り返ってどのようなお気持ちですか?
ノブタ氏:制作している最中は本当に大変でした。僕はリグとレイアウト、アニメーション、セカンダリ周りを中心にエフェクト制作等にも参加したのですが、「最初の画」に持っていくまでは本当に苦労しました。セリさんが話されていましたが、僕らもアニメーションを付ける時に「止めるところと動かすところ」がなかなか掴めず、「止め過ぎ」「動かし過ぎ」と言われることが多々あってそのさじ加減が本当に難しかったですね。色々とありましたが、こうやって振り返るととても濃い充実した時間だったと思います。
ーー森下さんにとってもチャレンジングな制作になったと思いますが、振り返ってみていかがですか?
森下氏:3DCGでアニメをつくる設備を築き上げるところから制作が始まったので、セリさんが言うように「奇跡によって完成した」という言葉に尽きます。僕はこれまで3DCGプロダクションで制作進行の仕事をしてきたわけですが、そういったプロダクションではシステム担当の方がかなり丁寧にセッティングしてくれているんですよ。今回初めて機材を用意するところから始めましたが、3DCGの知識が足りないことで対応が後手に回ることが多かったです。セリさんが独学でリグを勉強したように、「制作進行畑」で生きてきた僕自身も業務時間外でCGの専門学校に通い、Mayaをはじめ3DCGの基礎を学び直しました。ジブリとして初めての挑戦でもあり、おそらく全てのスタッフが「もっと勉強しなければならない」といったプレッシャーを感じていたと思います。
ーー今後もジブリで3DCGアニメ作品を制作する予定ですか?
森下氏:少なくとも僕は挑戦したいと思っていて、社内でパイプラインを組んでジブリ主導で制作が進められるようにできたらと考えています。今回は現場のスタッフの皆さんには、CG制作のための設備が整っていない環境で数多くの不便をお掛けしてしまったので、次はクリエイティブ以外のことは気にせず制作に打ち込めるようにしてあげたいですね。
ーー日本のアニメ制作の現場はもう何年も変化がなく、確かにガラパゴス化している面がありますよね。それで良い結果を生んでいる面もありますし改善しなければならない面もあるかと思いますが、日本を代表するアニメーションスタジオが率先して世界に挑むことで、日本のアニメ業界も勇気付けられるのではないでしょうか。
森下氏:スタジオジブリが「フル3DCG作品の制作に挑む」という判断を下すことができる会社で本当に良かったです。今回、セリさんやノブタさんをはじめ様々なクリエイターが「スタジオジブリという箱」に集まって制作してくださったことで、新たなジブリ作品を誕生させることができました。ジブリだからすごい作品が生まれると言うことではなく、その作品に集まったクリエイター達の血の汗が滲むような努力や創意工夫、緻密な作業の積み重ねが結集して初めて、すごい作品が生まれるのだとつくづく実感しています。
ーースタジオジブリのますますの挑戦に期待しています。皆さん、今日はありがとうございました!
*上記価格は年間契約の場合の1ヶ月あたりのオートデスク希望小売価格(税込)です。
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