チュートリアル / もしもMotionBuilderでプリビズをしたら
番外編:VES SUMMIT 2012報告
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予定では前回の続きでデバイスについてお話しするつもりでしたが、10月中旬に米国LAにて開催されたVES SUMMIT2012に参加してきましたので、今回は番外編としてにそれについてのご報告をさせて頂こうかと思います。
VES SUMMITとは?
Visual Effect Sosiety、VESは世界中のVFX制作作業に関わる企業および個人を対象にした団体で、29カ国2500名以上の会員(日本には十数名)がおり、VFX業界の発達、技術向上の推進、会員間の情報交換や地位向上を目的に活動をしています。
VES SUMMITは、SIGGRAPHのような技術的な内容を発表する場ではなく、VES会員である企業のマネージャー等が集まってVFXビジネスについて意見交換を行なう場です。日本では、VFX技術については雑誌やこのAREA JAPANなどで情報収集はできますが、ビジネス面となるとまったく聞こえてきません。最近厳しいと言われているハリウッドのVFXビジネスがどうなっているか非常に興味あるところです。
2012年のVES SUMMITが10/13(土)に開催されました。私は昨年VESに加入したのですが、日本にいるとあまり恩恵がないので、ちょっくらこの会議に出席してみる事にしたのです。
まずはBreckfast Round Table
SUMMITの最初に行なわれるのは、朝食を食べながらの円卓会議「Breckfast Round Table」です。様々なテーマ毎に10人程度がテーブルにつき話合いを行ないます。
私が参加したのは「バーチャルプロダクション」についてのテーブル。
プリビズやバーチャルスタジオなど、デジタル技術を活用して映像制作を進める手法です。まだ発展途上の制作手法ですが、既にテレビのVFX制作ではおおきな成果があるそうで、今後は更なる発展が見込めるだろうとの事。またネットワークを活用してのデータ共有やコミニュケーションなどもこの手法を牽引する原動力となっており、面白くなりそうな予感が感じられました。
本会議開始
本会議はVirgin Galactic社の最高責任者であるGeorge Whiteside氏による基調講演から始まりました。VES SUMMITでは、より広い視点を持つためにVFX業界とは別のところからスピーカーを招いているんだそうです。Virgin Galactic社は宇宙旅行を販売し運営している会社。宇宙へのチャレンジについて熱く語られました。
続いてDisney/ABCテレビジョングループの副社長であるAlbert Cheng氏によるマルチメディアに関するお話です。ここ数年でパソコンやタブレット、スマートフォンといった様々なメディアが出現し、テレビの存在意義が薄まってきていますが、同社はそれに対抗するのではなく、共存していく道をつくり、コンテンツビジネスを広げていこうと考えているそうです。前向きですね。
午前中最後の講演者は、デジタル配信を行なっているYEKAR社の二人、Lee Waterworth氏とMiles Romney氏。日本でも最近はネット配信される映画やテレビ番組を見る機会は増えていますが、この二人はデジタル配信のシステム作りを進めています。中間マージンという搾取をなくし、制作者から直接デジタル配信を請け負い、SNSなどのネットワークを利用したプロモーション展開も行ない、制作者をサポートしようというシステム。映画館好きの私にとってはちょっと寂しい事ではありますが、新しい配信方法として興味深い面はありますね。
午後最初の講演はカリフォルニア工科大学物理学上級研究員のSean Carroll氏による基調講演です。映画の中で描かれているタイムトラベルについて、辻褄あわせるのは難しいよねというお話でした。
さてここからが本番
ここまでは基調講演が主で、VFXビジネスに直接関わるところではありませんでした。VES SUMMITの本番はこれからです。
まず、ウォルト・ディズニー・カンパニー社の副社長Mary Ann Hughes氏とVFXエグゼクティブのRuth Hauer氏による税制優遇についての講演です。今のハリウッドのVFX業界の根底を揺さぶる問題ですね。
VFX制作は米国を始め、カナダ、英国、インド、オーストラリア、ニュージーランドで税制優遇措置を受けながら行なわれているそうです。日本はそういう優遇措置はないので、なかなか仕事はできません。この中でもカナダは、金銭面や教育面での成果から非常に積極的なんだそうです。
問題のカリフォルニア州の影響ですが、やはり州議会があまり積極的ではなく、そこが大きな問題のようです。もし他の州と同じような優遇が得られるのであれば、仕事を取り戻すのは簡単だと言っていました。厳しさはまだまだ続きそうですね。
続いてはデジタル・ドメイン社のCEO、Ed Ulbrich氏が登壇。この夏、業界を震撼させた破産劇について話を聞きました。
原因はビジネスの手を広げすぎたことだろうとの分析。だが、今は大きなプロジェクトがいくつもあり、それらは順調に進んでいるらしく、業務的には大きな損失にはなっていないようです。さらにUlbrich氏は、現在の同社はVer3.0だと表現しました。23年前に発足した時がVer1.0、買収された時がVer2.0、フロリダに進出した時がVer2.5で今がVer3.0なんだそう。Ver3.0で新しいパートナーを得たわけですが、それが中国とインドの企業である事の心配も聞こえてきます。しかし、彼らは強力なパートナーとなるだろうし、新会社としてより高いクオリティの映像制作をできるようにやっていきたいと抱負を語られていました。
次はパネルディスカッション。テーマは「テレビで活用されているVFXは映画のVFXの未来か」です。Zoicやスターゲイト、Pixomondo、Entity FXといった大手が参加しました。
テレビと映画との大きな違いは予算と制作時間。そこでジェネラリストを起用する事によるスタッフ数削減を行ない、人件費を削ることで低い予算でも対応できるようにするそうです。日本の対応に近いですね。
今、最も活用されているのがバーチャルプロダクションです。ロケやセット撮影、天気などのスケジュール変更による再撮影などによるコスト増加をなくすことができるということで、大きな成果を上げているようです。プリビズも活用されており、事前に確認しておく事でポスプロ作業のトラブルを激減させ、結果としてコスト削減や制作時間短縮に役立っていると、パネリスト全員が口を揃えていました。さて、これが映画のVFXの未来かというとなかなか厳しいところはあるでしょうけど、近い形ににはなっていくかもしれませんね。
最後の登壇は、デジタル・ドメイン創始者の一人Scott Ross氏。重鎮の登場です。
彼は、VFX業界はもっとビジネスを重要視しないといけないと提起しました。今まで創造力や技術力が注目されてきたが、ビジネスもそれと同じくらい重要に考えないといけないわけです。それが今回のデジタル・ドメイン騒動につながってきているんですね。
ビジネスと言っても、彼が言うのは金儲けということじゃありません。VFX業界全体のビジネス展開の事を言ってます。今、VFX業界はVFX会社同士で仕事を取り合って、どんどん市場を小さくしています。税制優遇で海外にも仕事を出してしまい、カリフォルニアで仕事がない。それが問題な訳です。悪いのはクライアントだ!だからやつらをやっつけろ!Ross氏の咆哮は最後まで収まる事を知りませんでした。パワフルですね。
ハリウッドはどうなっちゃうのか
VES SUMMITに行ってみて、議題に明るい内容はなく、景気がいい話なんか何もなかったですが、参加されている方々が皆前向きだったのはすごいなと感じました。日本だったら「どうするんだよ。。」という暗い空気に押しつぶられてしまいそうな内容にもかかわらず、それを打破する対策案が次々に出てきます。これがハリウッドの底力なんだなあと改めて思いました。これからも動向に注目していきたいですね。
さて、今回は番外編としてハリウッド事情報告をしてみました。いかがでしたか?
次回は、予定していたデバイスを活方法を紹介していきたいと思います。
お楽しみに。