トレンド&テクノロジー / 冨田和弘が斬る!建築ビジュアライゼーション業界
第26回:3ds Max のポジション

  • 3ds Max
  • コラム
  • 学生・初心者
  • 建築・製造・広告

ここ最近CGの世界で様々な新しい技術を適用したソフトやプロジェクトが出てきています。近年これと言って華やかなニュースが少なく停滞気味に映っていた(少なくとも私の目にはそう映っていました)建築ビジュアライゼーションの世界が活況を呈して来たと言って良いのかもしれません。そこで今回は、今目の前で起こりつつある(起こっている)変化に対して「3ds Maxの立ち位置はどう変化しているのか」を考えて見たいと思います。

CG技術と設計スタイルの変化がもたらすもの

最近の話題としてプロジェクションマッピングによるプロジェクトやゲームエンジンを用いたリアルタイムレンダリングソフト、このコラムでも度々取り上げているBIMを取り巻く種々のソフト・サービス、ARによるコンテンツ、プラスαとしてのMRコンテンツなど大小様々な事があります。一方で建築ビジュアライゼーションに関わるものにとって重要な建築業界の変化と言えば3Dによる設計検討が挙げられます。今更という感じは拭えませんが、設計者自ら3Dを操る人が出てきたことは朗報です。AutoCAD等の2DCADから3D化するもの、Revit等のBIMソフトによるもの、有償無償の3Dモデラーを活用するものなどソフトウェアの種類・手段は様々です。

これらの最近注目されているCG技術・手法と建築業務での3D化によって建築ビジュアライゼーションの手法・コンテンツにも変化が現れ出しました。変化と言ってもパースやアニメーション等の基本的なアウトプットは旧来とさほど変わりはないのですが、制作のタイミングとプレゼンテーションの内容・タイミング、その制作アプローチに変化が出始めています。

例としてBIMによって設計を進めているプロジェクトを挙げてみます。BIMによって設計をしている訳ですから早期から3Dモデルが存在します。そうするとクライアントとのデザインの打合せで最初の段階から3Dによる打合せが行えます。Revit等を打合せに持ち込めば、デザインの話を3Dとリンクしてクライアントに見せられるので、その効果は推して知るべしです。この段階でパースを使用する場合に、これまでは手書きが効果的でより速く制作出来たのですが、Revitであればmental rayによるGIのパースを使用する事が出来ます。と言ったここまでのお話しは以前もお伝えした内容ですが、最近はアニメーションを用いての打合せも可能になって来ています。早期にアニメーションを用いることはこれまでも可能ではあったのですが、アニメーションのクオリティに期待できなかったため選択肢に挙げられなかったという事情がありました。しかし最近はハードウェアレンダラーのクオリティが上がったため、初期段階で使用するアニメーションのクオリティが格段に良くなりました。クオリティが確保出来るのであれば、すでに3Dモデルがある訳ですからアニメーションを使ったプレゼンテーションで打合せをより実りあるものにしようと思うのは自明の理です。

3ds Maxの活用

そこで3ds Maxの立ち位置のお話しです。このコラムを読んで下さっている方の多くは3ds Maxを普段使用されているのではないかと思います。使用用途としてはパース制作のためのモデリング・レンダリング、アニメーション制作のためのモーション設定等が王道といったところでしょうか。しかし前段でお話しした状況下では、制作で使用する機能はなんら変わり有りませんが、使用用途や局面が広がりつつあります。主だった事例を説明します。

最近の建築は自由曲面を使用した複雑な形態を持つものが増えてきました。この場合のモデリングは3ds MaxやMayaまたは自由曲面に強いモデラーを使用する事になりますが、デザイン検討という側面だけであれば単に3Dモデルを構築するだけで良いのですが、BIMの観点からはあまり好ましくありません。かといって例えばRevitで自由曲面を自由に操れるかと言えばそれも難しいでしょう。そこで3ds Maxの登場です。複雑な形態のモデルは3ds Maxで作成し、Revitにインポートして使用するという手があります。また建築形態だけではなく敷地等のアンジュレーションがありBIM系のソフトで作りにくいものもその範疇に入ります。そうですBIMのモデラーとして3ds Maxを使用するといった考え方もあるのです。

もう一つの事例はリアルタイムレンダリングです。最近はゲームのエンジンを使用した(DirectXのshader等)リアルタイムレンダラーが定着しつつあります。昔からこの手の技術はありましたが、ようやく最近になって建築でも取り入れられるようになってきました。

この手のソフトはモデリングから質感設定、レンダリングとワンパッケージで完結しているものと、リアルタイムで動かすことに主眼を置いているものの大きく2通りあります。ここでは後者を取り上げますが、リアルタイム性に主眼を置いているのであればその前段はどうしているのでしょうか? 面白いことにモデリングや質感設定(主にtextureマッピング)は3ds Maxで行い、リアルタイムレンダラーでインポートして使用するというワークフローを取っているソフトが多いのです。多くのソフトが3ds Maxをワークフローに組み込む事を推奨しています。3ds Maxのネイティブファイルを扱える訳ではありませんが、FBX等の中間フォーマットを介して問題無くインポート出来ます(ソフトによってはRevitからのインポートをサポートしているものもあったりします)。

お分かりのように3ds Maxはリアルタイムレンダラーのコンテンツ制作のかなりの部分を担うソフトとして活用できます。何か新しい使い方の様にお話ししていますが、現状制作されているパースやアニメーションを考えて見ればこれまでと何ら変わりなく、選択肢が増えただけだと良くわかります。パースを作る時にレンダリングまでは3ds Maxオンリーで進められるでしょうが、最終はレタッチソフトで仕上げますよね? アニメーションもポスプロは別の映像編集ソフトで仕上げませんか?


デザイン・CG制作:Next Picture

そう、最終成果物に最も近い部分は3ds Maxは使用していなくて、前段の多くの部分を3ds Maxが担う使い方をしているはずです。それと同じで最終のアウトプットがリアルタイムレンダラーでその前段の大部分は3ds Maxを使用すると言ったこれまでと同じ使い方なのです。別の言い方をすれば、リアルタイムレンダラーによるコンテンツは、パースやアニメーションと同列の表現手法で、他と同様に制作の大部分は3ds Maxで行い最終アウトプットで別ソフトが使用されるという形態にすぎません。

ここではワンパッケージで最終まで制作出来るソフトの話を外したましたが、それには理由があります。簡単にいうと新しいソフトとしてモデリングから質感設定まで覚えるのが面倒だからです。私も脳みそが硬化してくるような結構な年齢になってきてたので新期にソフトを習得するのは辛くなってきました。先にお話ししたリアルタイムレンダラーだと制作の大部分で3ds Maxの知識が生きる訳ですから、新たに覚えることが少なくて済みます。ワンパッケージのソフトに相当なアドバンテージがあれば面倒だ云々言ってはいられませんが、その様な差は私の目からは感じられません。そうすると必然的にワンパッケージのソフトは制作のツールとして選択肢から外れることになります。

このように3ds Max自身の使い方は変わらないのですが、使用用途や使用局面が変わってきていて、拡大していく建築ビジュアライゼーションコンテンツのアウトプットに対して、3ds Maxの役割・使用頻度・重要性は増大していると言えます。

最後に

冒頭で建築ビジュアライゼーションコンテンツが活況を呈して来たとお話ししましたが、華やかに見えるアウトプットの選択肢が増えているというだけで、制作の根幹やワークフローが大きく変化している訳ではありません。それだけ建築業界のビジュアライゼーションの進歩が緩やかだと言うことが出来ると思います。逆に言えば今賑やかにプロモーションされている制作手法・技法は、これまでの私達が建築ビジュアライゼーションの制作業務で培ってきた技術・ノウハウ・センスの延長上にあると言っても過言ではありません。これまでの制作の柱だったパースやソフトウェアによるアニメーション業務は、制作の量的な側面では大幅に減少したりはせず、むしろ増える傾向にはあるとは思いますが、求められる性質が変わってきます。フィーに関して言えば、減少傾向に歯止めをかけるのは難しいのではないかと思います。


デザイン・CG制作:Next Picture

このような業界の状況を打破するためには新しい技法の習得やそれによるコンテンツ制作は欠かせません。入ってくる情報や目に映る物だけ見ていると、「すごいな~、でも難しそうだな~」とか、「新しい事に踏み込む勇気は無いな~」などネガティブに捕らえる事があると思いますが、基本的には現業の延長で十分対応可能な範疇であるし、それほど建築ビジュアライゼーションに革新が訪れている訳でもありません。ここは恐れず攻めの姿勢で制作範囲の拡大を進めてみてはどうでしょうか。少なくとも私は、こういったアプローチ無しに今後の建築ビジュアライゼーションの繁栄は無いのでは?と考えますが、本稿をお読みになった皆さんには私のメッセージはどの様に届きましたか?

今回掲載したCGはこれまでと違ってデザインから請け負った椅子です。モデリングからレンダリングまで全て3ds Maxで行っています。これまで私自身がモデリングを行う際は3ds Maxは使用していませんでした。古くから建築CGに関わっている身としては、2Dから立ち上げて3Dを作るという習慣が染みついていて3ds Maxのモデリングが意にそぐわないことが多く敬遠していました。しかし椅子のデザインとなると色々複雑な形態も出てくることが予想されたので一念発起して3ds Maxのモデリングにトライしてみました。紆余曲折ありましたが2日で何とか思い通りのモデルにする事が出来ました。

モデリングしてみて思うことはもっと早くから真剣に3ds Maxでのモデリングに取り組んでいればという後悔の念です。モデリングの概念を理解出来て、それに沿って使えば非常に使いやすいモデラーでした。当たり前ですがレンダリングを3ds Maxで行う事を念頭に置いた場合、そのメリットは増大します。3ds Maxでモデリングされている方からすれば、何を今更という話ですが、新しい事にトライしてみた一例として見て貰えればなと思って載せました。それでは次回またお会いしましょう。




製品購入に関するお問い合わせ
オートデスク メディア&エンターテインメント 製品のご購入に関してご連絡を希望される場合は、こちらからお問い合わせください。