グッドスマイルカンパニー・Knead・マックスファクトリー Interview 「Autodesk 3ds Max で挑むデジタル造形の進化が
成長続けるフィギュア業界にイノベーションをもたらす」
- 3ds Max
- 建築・製造・広告
成長著しいサブカルチャー産業界にあって、拡大し続けるフィギュア市場。かつてはガレージキットと呼ばれるマニア向けの高価な未完成品が主流だったが、近年は精巧かつ安価な完成品が普及し、さらに独特の2.5頭身ものや自由にポーズが付けられる可動式など多彩な製品が登場して、マニアだけでない幅広いファンを獲得している。このユニークな業界を支えてきた原動力といえば熟練した造形師たちの高度な技術だったが、近年はこれに Autodesk 3ds Max 等の3DCGを活用したデジタル造形が加わり、そのさらなる成長を後押ししている。イノベーションが進むフィギュア業界と3DCGの活用について、ねんどろいどやfigmaで知られるグッドスマイルカンパニー、マックスファクトリー、そしてデジタル造形集団Kneadの皆さんにお話を伺った。
手作業でつくる造形師の不足を補うために
――近年のフィギュア市場の活気はすごいですね
制作部 3Dチーム
中村 文年 氏
企画
山枡 啓太 氏
中村氏:そうですね。たとえば当社の主力の1つであるデフォルメフィギュア「ねんどろいど」のシリーズだけで、ひと月に30体くらいの案件が進行しています。他にもちょっとサイズの小さい「ねんどろいどぷち」シリーズや通常のスケールモデルもありますから、合計すればかなりの数になりますね。また「figma」に関してはマックスファクトリーさんが作られていて、こちらも毎月けっこうな数が動いています。
山枡氏:そうですね、「figma」は当社の主力商材となりますが、これだけで月5体前後の案件が動いています。
――それらの原型の造形は手作業とデジタルのどちらが多いですか
中村氏:現状では、まだ原型師の手作業によるアナログ造形の方が多いのではないでしょうか。特に実際に商業原型を作っているのは、手作業の原型師さんの方が中心だと思います。しかし、3DCGによるデジタル造形も急速に普及が進んでいますし、そう遠くない将来、この比率は逆転するかもしれません。それくらいどんどん増えています。
――3DCGの普及の背景には何があるのでしょうか
中村氏:とにかくまず、原型師さんの数が少ないという問題がありました。フィギュア商品への需要が高まり、私たちも出したい商品はいっぱいあったのですが、その作り手である原型師さんの数が圧倒的に足りなかった。そこで、その作業を支援する便利な新ツールとして、3DCGによるデジタル造形が注目されました。もっとも導入当初は正直それほどでもなかったんです。以前、私が勤めていた会社でのことですが、3DCGを購入すると決まった時、上司は"何でもできる魔法の箱と魔法の道具だ"と言っていたのですが、いざデータを作って出力してみたらいろいろ不具合が出て......。原型師さんもすごくがっかりして「これなら手で作った方が早い」と言う始末でした(笑)。とにかく出力に時間がかかり、しかも表面の滑らかさなど精度面にも問題があって後処理にもすごく時間がかかっていました。
――それが近年急速に活用され始めたのですか
中村氏:ええ、そのポイントは出力機にあったと思います。4〜5年前でしたか、出力精度の高い比較的安価な光造形機が登場して「フィギュア制作の時間短縮に使えるんじゃないか?」となったんですね。それまでも、リサイズや左右対称のものを作るのにはやはりすごく便利でしたし、出力後の磨きに労力を取られても少しずつ使っていました。その結果、3ds Max 等の3DCGのデータを扱うことが増えていたところへ、出力機の価格が下がり、逆に出力精度はあがったことで一気にそのデータの活用が広がったんです。まだ比率が逆転するまでは行ってませんが、社内で回しきれない案件など、フリーのデジタル原型師さんに頼むことも増えました。すごく良いデータが上がってくることも多くなりました、今後さらに増えていくのは確実でしょう。
――この流れは業界全体に広がっているのでしょうか
山枡氏:やはり移行期にあるのは確かだと思います。当社の場合、ちょうど1年前からデジタル造形の導入を目指して、木村さんにお願いして3ds Maxの講習をやってもらっているところなんです。正直まだ慣れてないため、過渡期ということをいっそう実感しています。実際、出力機も安くなり精度も上がりましたが、問題はまだいろいろ残っていますからね。たとえばデータで仕上げた原型をそのまま出力しても、手で作った直後と同じ状態になるわけではありません。表面の寸法精度等も上がりましたが、結局、手で作った時の表面の平滑度には及ばないんですよ。逆に平滑度がきちんと出せる機械だと、歪みが発生してしまったりもしますし......。現状では、デジタル造形で最初にバランスを取って出力したものを、さらに手で細かく仕上げていく、というやり方が中心となっています。もちろん出力機の性能は上がっていくでしょうし、これらの問題もいずれ解消されるはずですから、私たちも今のうちに3DCGを修得しておかなければなりませんが。
――デジタルに問題があるならアナログに留まるのも選択肢の1つでは?
山枡氏:昔ながらのやり方は高度に洗練されていますが、だからこそこれ以上、大きなノビシロはあまりありません。3DCGの方は、逆に今後はこれを使って原型を作る作業がどんどんやりやすくなっていくと容易に予想できます。いろんな発展、応用の可能性が大いにあるんですね。ですから、いま手で作っている造形師さんにも早くこれに親しんでもらって、どんどん新しいやり方を見出していってほしいのです。
中村氏:実際、デジタル造形を手がける人は増えていますよね。ゲームメーカーやアニメーション製作会社のクリエーターがフィギュアに興味を持ってデジタル造形を手がけるケースが出てきましたし、ゲーム会社のクリエーターが独立してフリーのデジタル造形師になるケースも少なくありません。そしてその先駆者がKneadさんでしょう。
代表取締役
木村 和宏 氏
木村氏:当社の場合は、もともとD4AというCG制作プロダクションの一部門として生れ、これを母体として設立した組織になります。先駆者かどうかは分かりませんが、デジタル造形専門の制作プロダクションは、たしかにあまりありませんね。ちなみに、メインツールとして 3ds Max を使っているのも、母体であるD4Aが10数年これを使ってきたから、という理由が大きいです(笑)。
――ご自身がずっとお使いになってるんですね
木村氏:そうですね。今ではMAXScript等も組めるようになりました。それで、Kneadを立ち上げてフィギュアの造形を事業の主柱にした時、3ds Max をメインツールとして導入したんです。フィギュアという新分野だけに、従来の映像用のCGの機能だけでは不足するかもしれないって思ったんですよ。もしそうなったら、スクリプトを組んでオリジナルのツールが容易に作れる3ds Max が必要になるはずでしたからね。
3ds Maxによるデジタル造形の多彩なメリット
――では、デジタル造形の作業の流れをご紹介ください
中村氏:まず企画担当から、こういうキャラクターをこういう仕様で......たとえば「ねんどろいど」でやりたい、という仕様書が上がってきます。そこで早速「これは手原型で行こう」とか「最初から3Dで行こう」などと判断します。ジャッジは企画の内容次第で、たとえば鎧をたくさんまとったフィギュアやキャラクターは手で作るのに手間がかかるので、デジタルに向いているとか。まあ、そこまで判断して決める余裕がなくなってくると、デジタルも手造形も関係なくスケジュールが空いている方にお願いしています(笑)。裏返せば、それくらい手作りとデジタルの差はなくなってきたということですね。
――最近は鎧や武器がたくさんついたフィギュアが多いですね
中村氏:そうなんです。だから、とりあえず「データでやろう」と判断できる。その意味でも需要が広がったといえますね。もちろん、手でできないわけではありませんが、時間のことを考えるとそうなりがちなのです。とにかくそうやって依頼先を決めたら、仕様書と共に版元さんからいただいたものやうちで探したものなど、さまざまな資料を渡します。また、ねんどろいどであれば、その体型に落とし込んだデフォルメイラストをこちらで用意したりもしますね。
――デジタル造形の場合は、たとえばKneadさんに届くわけですね
木村氏:はい。3ds Maxを使った実際のモデリング作業は、基本的には1体を1人の造形師が担当していきます。しかし、スケジュールによっては途中でスイッチしたり、切り分けができる所は2人で担当する場合も多々あります。まずは納期重視で、スケジュールの差し替えなども柔軟に対応していくのです。作業期間はものにもよりますが、1体1カ月前後というところでしょうか。「ねんどろいどぷち」の場合はもう少し短縮できるかもしれません。また納品は、これもケース・バイ・ケースですが、グッドスマイルカンパニーさんの場合はデータで納品させていただき、その後の微調整などもお任せしてしまうことが多いですね。
中村氏:ええ。上げていただいたデータは出力用に分割して出力を社内で行います。その後に磨き、複製、彩色、つまり色を塗る作業も社内です。面相という目を描く作業など、どうしても手作業になりますし、かなり時間がかかってしまいます。ですから、期間的にはトータル3カ月はほしいんですが、なかなかそこまでの時間はありません。その後、監修と呼ばれるディレクターによる仕上りのチェックと修正、変更への対応等を行ないます。まず社内監修で当社代表による監修と版元さんの監修が行われ、OKをいただくまで修正とチェックを繰り返すのです。そして、OKがでたらようやく量産の準備に入ります。生産工場は中国になるので、まずその工場に「見本」を支給するので、OKをもらったものを複製して送ります。ただし、工場にはモデルデータは送りません。通称「ベリ型」と呼ばれるベリリウム銅の鋳造型を別途製作し、金型の状態で中国に送っています。
――フィギュアが持っている武器等も同様にKneadさんが作るのですか?
中村氏:オプションパーツまで一式まとめてお願いすることもありますが、基本的にはKneadさんにはフィギュア本体のデータ制作をお願いしています。そして、刀や銃などフィギュアが持つ武器は、社内でCADを使って作り、仕上ったCADデータはIGES等に変換して、これだけは工場に直接データで支給します。それ以外は、前述の通りベリ型支給ですね。
――新しい分野だけに木村さんたちもご苦労があったのでは?
木村氏:苦労というか、当初、感覚の違いにとまどいました。たとえば映像の仕事と一番違うのが「サイズ感」です。CGなら画面内でいくらでも拡大できるので、つい細部を作り込みすぎてしまうんですね。出力してもそこまでディティールを表現できないのに、0.0何ミリレベルまで無意味に細かく作り込んでしまう。またゲームならポリゴン1枚でも描画されますが、当然それでは出力できません。必ず厚みがある形状で作らなければならないし、その厚みも工場生産時の強度等を考え、何ミリ以上の厚みでないとダメとかね。そのような高度な設定に対応できるのが、3ds Maxだったんです。
――同じ3Dでもコンピュータの中とリアルは違う、と
木村氏:そうですね。コンピュータの中ではない、「現実に出てくる」ということを前提にデータを作ることがいちばん難しいのかも知れません。あとは、視野角も注意が必要です。3ds Maxはデフォルトで画角がやや強めのパースが付いており、フィギュアは小さいものなので、さらにパースが効きすぎてしまいがちなのです。そのきついパースのまま造形してしまうと、出力した時の見た目と全然違うものになってしまうことがあるんですね。なので、そういったこともきっちり管理できるよう、注意する必要がありました。
――そこで3ds Maxを使い続けている理由はなんでしょう
木村氏:一番の理由は、前述したように、スクリプトで自由にツールを組めるという点が大きいですね。私だけでなく社内にプログラマもいるので、リソースを広く活用できるんですよ。また、最近はほかのCGツールも似たようなものが出ていますが、やはり3ds Maxはモディファイヤの概念が素晴らしいと思います。スカルプティング系のCGツールだと、ある程度までならポリゴンのモデリングもイメージしたものを素早く作れますが、そのあと形状を整えたり修正したり、監修の多様なオーダーに細かく対応するのが難しいんです。いちいち同じことを繰り返すことになるので、どうしても時間がかかりすぎる。その点、3ds Maxならモディファイヤでどんな監修にも柔軟かつスピーディに対応できるし、それを履歴として残しておけるので、2案を画面内で比較して見せることも可能です。監修の指示に柔軟に、それもいち早く対応していけるスピードこそが、3ds Maxの優れている点なのです。
――3ds MaxはCADへの対応にも強みがあります
木村氏:そうそう、IGESを読めるし、たしかに3ds MaxはCAD回りに強いですよね。ですから、先ほど中村さんがおっしゃっていた、CADで作った「武器」などのデータを3ds Maxに読込んで、ウチで作ったフィギュア本体と合わせる、といった活用も可能です。
- 1
- 2
*上記価格は年間契約の場合の1ヶ月あたりのオートデスク希望小売価格(税込)です。