教育機関・学生 Education

教育機関のカリキュラム

text by 生山 浩
Posted: 2017.09.14

ここでは、CGを教えている学校のカリキュラムについて解説します。
CGを教えている学校には、専門学校、専門スクール、大学、オンラインスクールなどの学校種(学校の種類)があり、学校の中は、CG/VFX、ゲーム、アニメ、映像芸術などの目標に応じた学部・学科・コースに分けられています。
専門学校や専門スクールには、学部・学科・コースの目標に向けて、受講する順番や時期を考慮して科目を配置している「体系化されたカリキュラム」が用意されています。
大学やオンラインスクールでは、学部・学科・コースの目標に向けて、多くの科目が用意され、学生が能力や必要性に応じて科目を選択する「科目選択制」になっています。
そこで、ここではカリキュラムを解説するにあたり、専門学校の体系化されたカリキュラムを例にしていきたいと思います。

標準カリキュラム

CGを教えている学校のカリキュラムを解説するにあたり、専門学校のカリキュラムを調査し、3DCGに特化したCG/VFXの学科の「標準カリキュラム」を作成してみました。
標準カリキュラムを作成してみると、CGを教えるカリキュラムには「制作科目群」「基礎力科目群」「概論科目群」「技術科目群」の4つの科目群に整理できることが確認できます。
以下に、CGを教える標準カリキュラムを科目群ごとに色分けして示します。

年限 コンピュータグラフィックス科(2年制)
1年 2年
前期 後期 前期 後期
1 3DCG制作 スカルプティング ゲーム制作 卒業制作
2 映像制作 ムービー制作
3 2DCG制作 アニメーション制作 個人制作
4 デッサン 進級制作 企業課題
5 クロッキー 絵コンテ・コンセプトアート
6 CG概論 CG技術概論 CG数学物理 CGプログラミング
7 映像理論 美術史 CGスクリプト

※科目群  制作科目群  基礎力科目群  概論科目群  技術科目群
備考:上記の標準カリキュラムは、2年制学科を想定して作成しましたが、3年制や4年制学科においても時間数を調整することで準用できるとものと考えています。

各科目群について

制作科目群

「制作科目群」は、CGを学ぶ学校において最も重要で十分な内容と時間が求められる科目群であり、この科目群はさらに「ツールの使い方を覚える科目」「目標に応じた制作を学ぶ科目」「制作する科目」の3つの要素に整理することができます。
以下に、制作科目群を3つの要素に整理したものを色分けして示し、3つの要素について順次ポイントを解説していきます。

1 3DCG制作 スカルプティング ゲーム制作 卒業制作
2 映像制作 ムービー制作
3 2DCG制作 アニメーション制作 個人制作
4 進級制作 企業課題

ツールの使い方を覚える科目  目標に応じた制作を学ぶ科目  制作する科目

[ツールの使い方を覚える科目]

CGを教えている多くの学校では、3DCGの制作科目でMayaや3ds Maxなどのオートデスク社のソフトウェアをメインツールとして使用していますが、同ソフトウェアはハイエンドに進化し続けており、「3DCG制作」でこれらのメインツールの使い方を熟知することで作業の効率化や作品のクオリティーを享受することができます。
他にも、「2DCG制作」ではテクスチャが作れるように2DCGツール、「スカルプティング」ではZbrushやMudbox、「映像制作」ではMayaや3ds Maxを使ったレンダリングや他社製品(アドビなど)を使った映像編集など、各種ツールの使い方を学ぶ科目になります。

[目標に応じた制作を学ぶ科目]

3DCGツールを使えるようになったところで作品の制作は可能ですが、作品を制作するには制作目標に応じた表現手法・制作手順・各種設定などを学ぶ必要があります。
「目標に応じた制作を学ぶ科目」では、ゲーム・ムービー・アニメーションの制作を目標にしていますが、ゲームやムービーの制作を目標にすると、複数のCGパーツを組み合わせて画面やシーンを構成することから、仕様書・ストーリーボード・絵コンテなどを元にして制作することになり、アニメーションの制作を目標にすると、IK・FK・リグなどの技術的な理解とアニメーションの表現手法も学ぶことになります。
その他にも、レンダラー、ライト、カメラ、マテリアル、テクスチャ、エフェクトなどは、制作目標に応じた各種設定の理解が必要になり、これらは「目標に応じた制作を学ぶ科目」で学ぶことになります。

[制作する科目]

「制作する科目」では、学んだことを活かして作品を制作していきます。
作品を制作すると言っても、作品のクオリティーや学生のスキルレベルは上げていかなければなりません。
作品のクオリティーや学生のスキルレベルの向上には作品のチェックが有効で、「制作する科目」では「企業課題」に限らず「進級制作」「個人制作」「卒業制作」においても企業の力を借りることや、プロデューサー・ディレクター役の指導教員による定期的な作品チェックが必要です。

基礎力科目群

1 デッサン クロッキー 絵コンテ・コンセプトアート
2

基礎力科目群は、デッサンやクロッキーを通して、CG制作に必要な「見る力」「イメージする力」「描写する力」を養う科目群になります。
近年、CGプロダクションやゲーム制作会社でも社内のCGデザイナー向けにデッサンの勉強会を実施しているところが増えており、CGのプロが集まる制作現場においても基礎力が重視されていることがわかります。
「デッサン」の他に「基礎力科目群」には、「クロッキー」「絵コンテ・コンセプトアート」を設置しています。
「クロッキー」は、瞬時に「動きをとらえ」「関節や筋肉の仕組みを考え」「速写する」ことで「見る力」「イメージする力」「描写する力」を養い、キャラクターのモデリングやデザインのトレーニングになります。
「絵コンテ・コンセプトアート」では、絵コンテ・コンセプトアート・ストーリーボードを制作し、各自の作品制作でのプリプロダクトを経験します。

概論科目群と技術科目群

1 CG概論 CG技術概論 CG数学物理 CGプログラミング
2 映像理論 美術史 CGスクリプト

※備考  概論科目群  技術科目群

「概論科目群」は、CGや映像の一般的な概論の他、CGの仕組みや使われている技術、CGのデザインで必要になる美術面など、CGに関する幅広い知識を習得する科目群で、CGの制作効率やクオリティーに影響する科目になるでしょう。
中でも、「美術史」は、絵画、建築、彫刻、装飾、服飾などの工芸・造形芸術を地域による違いや歴史を交えて学ぶことは、CG作品に活かされる知識になるでしょう。
「技術科目群」は、CGの技術的・数学的な理解からCG制作に使われるプログラミングまでを学ぶ科目群で、技術的・数学的にCGを理解することで理屈を持って3DCGを制作することができ、Mayaや3ds Maxのスクリプト、OpenGLや他の環境でのプログラムを使うことでより高度なCG制作も可能になります。

各科目群のポイント

制作科目群[ツールの使い方を覚える科目]のポイント

CGを教えている学校の先生からは、「ツールをどこまで教えればいいか」「xxの機能は教えた方がいいのか」と質問されることが多々ありますが、「ツールの使い方を覚える科目」では、時間の許す限りで各種機能を教えていくべきだと考えます。
また、限られた機能しか使っておらず(限られた機能しか知らず)、地道な作業で時間をかけて作品を制作している学生と出会うこともあり、ツールの使い方をもっと知っていれば、作業の効率化だけでなく、作品のクオリティーを向上させることもできるでしょう。
この「ツールの使い方を覚える科目」では、どこまで詰め込めるかがポイントになってくるでしょうし、教えきれない機能やツールは本サイト(AREA JAPAN)のチュートリアル(ウェビナー)を参照することもお勧めしたいと思います。

制作科目群「目標に応じた制作を学ぶ科目」のポイント

「目標に応じた制作を学ぶ科目」の内容はCG制作の重要な要素であり、既存のゲーム・映画・アニメの1シーンを真似すること・真似できることが、ポイントになるでしょう。
携帯電話、果物、ビン、窓辺の光が差し込む部屋の風景などのモデリング課題の作品をみることが多々ありますが、これらの課題はデッサンやスケッチなどの課題とモチーフが同じであったり、これらの課題の目的・目標は何かと疑問に思うことがあります (これらの課題を完全に否定することはできませんが...)。
また、学生のポートフォリオの中には「なぜこの作品を作ったの?」「この作品をどうしたいの?」に答えられない学生が多くいるのも事実です。
明確な目標を持って作品を制作することは、制作のモチベーションにもつながり、学生が好きな既存のゲーム・映画・アニメの1シーン1カットを真似することの方が、作品の目的・目標が明確になり、十分な説明もできるようになるのではないでしょうか。
または、指導教員が真似することに値する作品だと思う既存の1シーン・1カットを課題にすることで、学生は「なぜこの課題を設定したのか」の説明を聞くことができ、学生は制作の目的や目標を持って制作することができるのではないかと思います。

制作科目群[制作する科目]のポイント

近年、CGを教えている学校では、授業での企業連携が活発になっており、中でも企業による定期的な作品チェックが実施されている学校では、作品のクオリティーやスキルレベルの向上に効果がでています。
このように企業が定期的に作品をチェックしている学校では、常時の指導は指導教員がディレクター役として担っており、企業と指導教員の連携が作品のクオリティーやスキルレベルの向上に効果を上げていると言えるでしょう。
「制作する科目」では、企業との連携、定期的なチェックがポイントになるでしょう。

「基礎力科目群」のポイント

CGを教えているほとんどの学校で「デッサン」は必須科目として設置されていますが、CG作品に影響を与えるデッサンになっている学校は少ないでしょう。
ある学校では、1年次後期の約25%の時間を使って「デッサン」を実施し、学生全員のデッサン画がある一定のレベルに達しており、デッサンによる基礎力の向上がCG作品にも影響していると言えるでしょう。
「クロッキー」は、科目として設置している学校は少ないようですが、「見て」「イメージして(考えて)」「描く」ことのトレーニングになり、美術解剖学の内容を取り入れることは「スカルプティング」に有効なので、科目として設置することをお勧めします。
広い視点を持ち、全体を見通したCGの制作ができるようになることを目的にして「絵コンテ・コンセプトアート」を取り入れている学校は多いようですが、CG制作とリンクしてCG作品に影響が出ている学校は少ないと思います。
これら「基礎力科目群」は非常に重要な科目群ではありますが、CG作品に影響を与えるまでの基礎力の向上には、多くの学校が苦慮しているようで、デッサンの例からも集中した多くの時間が必要であることがわかります。
標準カリキュラムにおいても基礎力は重視していますが、CGに影響を与えるにはまだまだ多くの時間が必要で、さらにCG作品に影響することを意識させることがこの科目群のポイントになります。

「概論科目群」と「技術科目群」のポイント

現在、CGを教えている学校で、「概論科目群」が充実している学校は少なく、また、「技術科目群」が実施されている学校も少ないようですが、制作の効率化や作品のクオリティーに大きく関係する科目群であることから、これらの充実を目指してほしいと思います。

CGを教えている学校のカリキュラム イメージ

「CGを教えている学校のカリキュラム」のまとめ

ここでは3DCGに特化したCG/VFX学科の標準カリキュラムを作成しましたが、目標を絞り込んだ学科であっても学習する内容は多岐にわたり作品を制作する時間を含めて多くの時間が必要であることがわかります。

その他でCGを教えている学校には、ゲームのCGに特化した学科、映像編集に特化した学科、2DCGと3DCGを配分良く学ぶ学科、建築CADやWebデザインも含めて総合的にデザインを学ぶ学科など、目標を絞り込んだ学科だけでなく複数の目標を持った学科も存在しています。
複数の目標を持った学科で、すべての目標に向かうカリキュラムを作成すると、目標ごとの科目を設置しなければならず、カリキュラムは複雑でかなり多くの時間が必要になるでしょう。

学校では限られた年限・限られた時間の中でカリキュラムを用意しなければならないことから、複数の目標を持った学科では目標に合わせて科目のボリュームを調整していかなければならず、すべてが中途半端になってしまうでしょう。

このことからも、複数の目標を持った学科であれば、目標ごとにコースを設置するべきであり、コースごとにカリキュラムを絞り込む必要があるでしょう。

CGの技術は日々進歩しており、オートデスク社のソフトウェアも進化し続けており、学ぶべき内容が広く深くなっていることから、CGを教えている学校においても、技術の進歩・ソフトウェアの進化をキャッチし、企業との連携でカリキュラムを整理し続けてほしいと思います。

生山 浩

生山 浩

株式会社アライアンス 代表取締役

日本電子専門学校に24年間在職し、ゲーム分野の学科を設立し、同分野の学科長、学部長を経て、教育部長、就職部長、副校長を歴任。2014年の退職後、現在の(株)アライアンスを設立。現在は、ゲーム企業などでの採用コンサルを主な事業としている他、地方の専門学校で実施している就職セミナーは好評いただいています。
http://www.allianceinc.co.jp/

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