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第40回「カメラの構造 絞り・シャッタースピード・ISO感度・EV の関係 2」

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こんにちは、パーチ長尾です。

前回に引き続き《カメラ》の話です。
カメラマンにとって【露出】決定は、アングルハントと比べて技術的要素が複雑で、自由にコントロールできないと映像が記録されなくなってしまいます。しかし、露出決定のゴールは単なる【記録の成功】ではなく、【コンセプトを強調するアート的な表現】にあります。目の前にある被写体のどこをフィルムのラチチュードの真ん中に収めるか? 最も明るい箇所をラチチュードの端(一番高いところ)に入れるか、オーバーさせるか? 最も暗い箇所をラチチュードの端(一番低いところ)に入れるか、オーバーさせるか? この操作を完全にコントロールすることで、映像の印象を自由に操れるようになります。

露出決定には4つの要素を活用します。
今回は、これら4つの要素の関係性について理解を深めていこうと思います。
そして、実写とは違う3DCGならではの便利な管理法について考えていきます。

最適な光量に制御する【光を制御する流れ】

「絞り、シャッタースピード、ISO感度」の3つを設定して、【被写体の光量をフィルムまたはCCDに最適な光量に制御】することが露出コントロールです。
それぞれの関係は比例または反比例していて、同じ光量でも組み合わせは複数作り出すことができるので、最終イメージに合わせて、各要素のうち優先するものを決めることが、露出コントロールのアート面になります。
たとえば、被写界深度を深くして手前から奥までピントを合わせたいときは、絞りを優先して値を大きくします(絞り値を大きくする)。そのかわりにシャッタースピードを遅くするか、ISO感度を高くして、同じ光量をうまく活用します。


図1「光を制御する流れ」
被写体から、絞り・シャッター・CCDの順で光が到達する。各段階で光を制御する。
上下は同じ光量だが、絞りが半分になり、シャッタースピードが2倍になることで、CCDに同じ光量が到達する。

要素1、「絞り」

一般的にはレンズ内部にある【絞り羽】と呼ばれるもので、レンズを通る光量を制御します。レンズによってその形は異なりますが、6枚から9枚程度の小さな羽状の板を組み合わせていて、円に近い形をしています。その構造と形は動物の目の【光彩】に似ています。絞り値を大きくすると円は小さく絞り込まれることから、【絞り】と呼ばれています。

目を細めると少しはっきり見えたり、ピントがあって見えることがあると思いますが、絞りにも同様の効果があって、絞り値を高くすると、ピントを合わせた面の前後にピントがあった領域が増えていきます。逆に絞り値を小さくすると、ボケが強くなります。これが絞りのアート的な効果です。

3DCGでは現実の撮影と違って、絞りの数値変更は「光量に影響されず」に行えるので、アート的な効果のみを考えればいいことになります。つまり、《被写界深度(ボケ)》の調整だけを考えれば良いので楽ですね。


図2「レンズの絞り」
左は絞り値が最小で、レンズが取り込むことができる最大の光量を取り込む状態。右は絞り値を高くして、光量を制限している。絞り値はレンズによって異なる。


図3「レンズの絞り表示と、明るさの関係」
レンズの絞り値は口径を元に作られているので、すこしわかりづらいが、1段階で2倍の光量差となる。光が通る面積は二乗となるため。


要素2、「シャッタースピード」

フィルムまたはCCDの直前にある、膜やスリット状の物がシャッターです。これを高速に動かして光が入ってくる時間を制御します。時間が短いほど光量は少なくなり、長いほど光量が増えるという仕組みです。

動いている物を見ているとき、素早く瞬きすると止まって見えることがあると思いますが、シャッタースピードにも同様の効果があって、シャッタースピードを速くすると動いている物が止まって見え、遅くするとブレが激しくなります。これがシャッタースピードのアート的な効果です。

3DCGでは現実の撮影と違って、シャッタースピードの数値変更を「光量に影響されず」に行えるのは絞りと同じです。ここでは《ブレ》というアート的な効果のみを考えればいいことになります。


要素3、「ISO感度」

フィルムまたはCCDには、一定の光量に反応する【感度】があります。ISOが定めた基準があり、「ISO 100」「ISO 400」などの数値がフィルムやCCDの感度表示に使われています。

少ない光でも映像としてとらえることができるように感度を高めた【高感度フィルムやCCD】がありますが、その反面、感度が高くなるにつれ《ノイズ》が強くなります。逆に低感度ではノイズが弱くなります。これがISO感度のアート的な効果です。

3DCGでは現実のフィルムやCCDと違って、物理的な制限がないので、カメラオブジェクトの感度設定はありません。もしあったとしても、自由自在に行えると思います。
そのためアート的な効果の《ノイズ》についても存在そのものがありません。レンダリングによるノイズは別の効果から生まれているので、ISO感度とは関係ありません。ノイズを加える場合は編集プログラム等で、後処理で追加することになります。
3DCGでは、ISO感度はカメラオブジェクトが受け取る光に対する《感度設定》にのみ使われ、ノイズは無視して考えることができます。


絞り、シャッタースピード、ISO感度、EVの関係

3つの要素から解説したように、3DCGでは現実世界の物理的問題に縛られないため、《光量》におうじて絞りやシャッタースピードの値が制限されることなく、アート的な効果に集中することができます。これがいままでの3DCG制作の世界でした。
しかし、現実に撮影された物との合成や、カラーマネジメント、制作者間の環境を統一して効率化する、などを考えたときには露出管理が必要です。

そこで、各要素の物理的な側面がフェイクであることを認識した上で、カメラオブジェクトの感度を規定しておく。これが3DCG世界の露出コントロールの大前提になります。

「絞り、シャッタースピード、ISO感度」の3つの値で基準を作ろうとすると、問題が起こります。
問題点1:それぞれが比例・反比例の関係にあるので調整の仕方が分かりづらい
問題点2:各数値を固定化すると、シーンごとに、絞りやシャッタースピードを変化させてアート表現をすることできない

そこで、EVの登場です。EVは、絞り・シャッタースピード・ISO感度を総合的に数値化したもので、絞りを1段階、もしくはシャッタースピードを倍(もしくは1/2)にしたときに「1 EV」変化します。絞りやシャッタースピードなどに使われる分かりづらい数値で考えるより、すっきりしていて分かりやすいのが特徴です。

実際の撮影時でも【露出計】などを使い、その場の光量を測定し、ISO感度設定に基づいてEV値として表すことが多く行われています。そのEV値をもとに絞りとシャッタースピードの値を決定する、という流れで露出コントロールが行われています。

しかし、3DCGは3つの要素がフェイクなので、この点を無視することができます。するとEVの役割は単純になり、入ってきた光に対してカメラがどの程度明るく表現するか(レンダリングするか)という点だけを考えれば良くなります。
そこでEVは、「カメラオブジェクトの感度」と考えると覚えやすいと思います。


図4「実写撮影と3DCGにおける3つの要素の違い」
ピンクの部分は3DCGでは影響がないので、無視することができる。

仮想空間上でいくらでも被写体の明るさをコントロールできるし(太陽も含む照明そのものを自由に変えられるし)、カメラ側の設定も自由自在のため、仕事によっては「絞り・シャッタースピード・ISO感度」なんて一切使わないことが多いんじゃないでしょうか。

しかし最近の制作環境では、環境光の強さに基準を設けることで、グループ間の設定を統一できたり、カラーマネジメントの導入でより精度良く効率的な作業環境を作れるため、露出コントロールには大きなメリットがあります。

そこで、《カメラオブジェクトの感度を固定化》して環境を統一すると、絞り・シャッタースピード、照明などをシーンに合わせて自由に調整することが可能になります。素晴らしいですね!
ソフトウェアにEVによる環境設定があればぜひ利用してみてください!


図5「3ds Maxの露出設定」
メンタルレイを使用した際の《環境》でEVによる設定が可能


露出コントロールは3段階

ここまで撮影や3DCGソフトを題材にして、露出について解説してきました。しかし、実際のビジュアル制作はいくつかの段階に分けて制作が行われていて、露出コントロールも各工程ごとに行われます。その段階は、従来のアナログ手法と、現代のデジタル手法ともに3段階になっています。ここでは、最終イメージに向かって各段階で管理していきましょう。

第1段階【撮影】

撮影時に露出を決定します。デジタルカメラでもフィルムカメラでも次の3項目を設定して露出をコントロールします。
・ISO感度
・絞り
・シャッタースピード

制作したいイメージに沿って最適な組み合わせを撮影現場で決定します。
被写体と機材等の状況によりますが、撮影時には最終イメージと一致する映像を記録することは難しいケースがほとんどです。
そこで、第2、第3の行程で調整しやすいような情報を記録するための露出を行います。

第2段階【現像/編集ソフトウェア】

撮影してきたフィルムまたはデータを処理するのが第2段階です。
撮影時に完璧なコントロールをするのは難しいため、この段階でより最終イメージに近づけていきます。

フィルムの現像処理は化学反応を使って行われます。現像時間を調整したり、処理液を変えたりして露出やコントラストをコントロールします。現像されたフィルムはいったんスキャニングして、編集ソフトウェア等で合成処理にまわります。
スキャンしたデータや直接デジタル撮影されたデータを、編集ソフトウェアでより細かくコントロールします。

写真では、RAWファイルの現像ソフトや、Photoshop 等の合成編集ソフトを使い、 動画では、カラコレを行うソフトや、合成編集を行うソフトを使って、 色温度・露出・コントラスト・彩度など、多くの色要素をコントロールします。

第3段階【焼き付け/データ書きだし】

できあがったデータをフィルムや紙にする場合は【焼き付け】作業を行い、デジタル配信する場合は【データ書きだし】を行います。

書き出し時に使用されるフィルムや紙は、露出・カラー・コントラストが変化します。その特徴を加味して最終イメージに定着させます。

ソフトウェアで編集・加工されたデータは、最終アウトプットデバイス(HDTV, Projector, WEBなど)に合わせて色変換され、最適なデータフォーマットに書き出されます。
最新の手法は、カラーマネジメントを活用して、編集制作時のイメージをアウトプットデバイスでも同じように表示されるように、カラープロファイルやカラーマネジメント変換エンジンを使って色変換される手法です。


今回は【露出コントロール】について、現実世界の手法を3DCGに置き換えて解説してみましたが、いかがでしたか。
物理的な拘束がないために3DCGでは考える必要がないことが多く、それを混同することで不必要に設定を複雑にしてしまったり、混乱してしまうことが多く見られるようなので、それを払拭できたら、というのも今回の狙いでした。

次回は、露出のアート的な効果について、より実践的な手法を紹介していこうと思います。
現在の露出コントロール術の基礎となった【アンセルアダムスのゾーンシステム】を私なりにデジタルツールに置き換えて作った【デジタル版ゾーンシステム】をわかりやすく紹介していこうと思いますので、ご期待ください。
これまで勘で行っていた露出コントロールが、完璧にコントロールできるので、より正確に最終イメージにたどり着くことができるようになります。いっそう効率的にアート面を強化できますよ。


PERCHでは、3DCG制作の品質向上に役立つセミナーを、企業様に訪問して実施しています。ご関心のあるセミナーがあれば、メールでお知らせください。詳細をお送りします。また、このコラムに関するご質問やご感想などもお気軽にいただけると嬉しいです。
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