トレンド&テクノロジー / 冨田和弘が斬る!建築ビジュアライゼーション業界
第30回:BIM設計下での営業ネタ

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ようやく寒さも緩み、と思ったら随分暖かくなってきましたが、皆さん体調を崩したりされてないでしょうか。私は先日久しぶりに風邪を引いて数日寝込んでしまいました。会社をやってると病気で動けなくなるのは怖いですね〜。

世間話はこの位にして、今回のお題は「BIM設計下での営業ネタ」です。以前、BIMが普及し出すと、パースそのものの発注量は減少傾向になり、パースはより完成度が求められる設計の後工程での利用や、ここ一発の重要なパートでの利用に絞られてくるといったことを本コラムで書きました。その理由としてBIMによる3Dモデルが設計側で出来てしまうので、ちょっとしたパースなどは設計者側で作ってしまうというのが論拠でした。

現在ここでお話ししていたような事が起こっていると感じられますか? 身近に感じている人もいるかもしれませんし、以前と余り変わらないと思われてる方もいるかと思います。私は「やはり減少傾向にある」という印象を持っています。ただ最近は建設業の景気が回復してきているので、仕事の絶対量が増えているために減少傾向が見えにくくなっている状況と考えられますが、これから先のパースの発注量は間違いなく減少していくという思いに変わりはありません。

その様な中で色々な対応をこれまでも書いてきたつもりですが、もう少し原点に戻って、今の状態でも上手く営業して仕事に繋げられないかを考えて見ます。


パースの持つ力

私の付き合いがあるクライアントでBIMでの設計をやっているところでは、上で書いたように気の利いた設計者は自分でパースを描いています。特にRevitでやっているところはMentalrayでレンダリングしたりするので、そこそこのパースが出来ています。そう言った会社に営業に行く、または、行った先がそのようなワークフローをとっていた場合、しっぽを巻いて帰ってくるしか方法は無いのでしょうか。当然方法があると思うので本コラムを書いているのですが、結論の前に次のA、B2種類のパースを見て下さい。


サンプルパースA

サンプルパースB

パースAは設計者がクライアントとの打合せのために自前で制作したものです。パースBはCG制作者がレンダリングしたもので使用用途はAと同じです。同じ物件ではないので比較対象としては適切では無いかもしれませんが、このレンダリング品質の差がクライアントの態度を全く別のものにします。どういった事が起こると思いますか? 前提としてこのパースはコンペや設計図面納品時のものでは無く、設計の打合せのためのもので有る事を頭に入れておいて下さい。

あるプロジェクトでクライアントとインテリアの打合せを進めていました。パースを交えて話をした方が良い段階(図面だけではわかりにくい段階)に来たので設計者はAの様なレンダリング品質のパースを打合せに持ち込みました。クライアントの反応はというと、設計者の話にクライアントは終始耳を傾けいて、これと言った話やトラブルも無く、つつがなく打合せが終了しました。私は設計者として打合せに参加している訳ではなかったので、打合せの出来は上々といった印象です。このプロジェクトは最終的にパースの納品も必要だったために私も打合せに参加していたのですが、そろそろ私が作るパースの話もした方がよいという話になったので、次回の打合せには、私がレンダリングしたBの様な品質のパースを持参しました。そうすると面白いことが起こりました。前回から余り日が経っていないので、設計の進み具合はぼちぼちと言った所で、前回とそんなには変わり映えしない状況だったのですが、クライアントは私のパースをまじまじと見た後、前回とは打って変わって次々と設計に対する注文を付け出しました。

パースの品質が上がっているので、仕上げに関することで意見をし出しただけなら分かるのですが、開口の高さや大きさなど設計に関わる事も多くありました。私は新鮮な驚きを覚えると共に、なるほどな〜と考えさせられました。先に挙げたA、Bのパースはこの話に出てくるパースでは無いのですが(本当のものは掲載できません。悪しからず)、これは私の実体験を元にお話ししています。

では、どうしてこう言ったことが起こるのでしょうか。答えは見えてきていると思いますが、Aのパースではクライアントにこれと言った設計の情報は伝わっていなかったという落ちです。設計者や私達のように日頃建築に接しているものからすれば、Aのパースでも空間的な事は伝わると思ってしまいます。しかし、建築に日頃接していないクライアントからすれば、Aのパースはあくまで模式図的なもので、設計のリアリティが分からず、意見するレベルまで建築を理解出来ないのです。話がスムーズに見えたのは上辺だけで、設計の話が良くわからない状況では活発な論議が無いのも当然です。Bのパースのレベルになると、当然の事ながらクライアントもハッキリと設計を理解出来るようになります。理解出来たなら色々言いたくなるのはクライアントの性。どんどん意見を出してきます。驚くのは件の設計者で、前回はあれだけ理解してくれたと思っていたのに今日はどういった訳? 機嫌が悪い? となってしまいます。


BIMから派生するパースだけでは足りない!

この辺りにBIMの3Dモデルがあるからプロダクションにパースを頼まなくて良いという話の営業的な突破口があります。もし営業で「うちはBIMでパースも描いている」とか「うちは自前でパースは描いているから」と言った話で営業が上手くいかなさそうな時は、先ほどの話をアレンジして話をしてみて下さい。話は事実ですし、経験値も1回2回ではないのでどんどん営業ネタとして使ってもらって結構です。またその際に、3Dモデルを利用させてもらって自社単価より安くできるとか、設計者が作っているパースをレタッチするだけでもかなり違うものが安くで出来るような話しに持って行くと成功率が上がると思います。なにしろ相手は内作によって外注経費を削減している訳ですから、一般の外注よりも安くなる話は必須です。ここで上手く関係を構築出来れば、その後は推して知るべしです。但し、1つだけ気を付けて下さい。まず最初に設計者が自前で描いているというパースは見せてもらって下さい。実は凄いパースを描く設計者もいますので。その場合はさっさと退散しましょう。


営業先はゼネコン・設計事務所だけ?

もう1つBIM設計が普及し出すと起こることをお話しします。設計を生業としている設計事務所やゼネンコンなどは、基本設計や実施設計の図面を外注しています。勿論小規模な事務所は自前で書いているのでしょうが、中規模以上の会社の場合はかなりの率で外注しています(大手は100%と言っても過言ではありません)。現在BIMで設計を進めている会社もそうです。BIMで設計をしている訳ですから、下請けの図面を書いている事務所もクライアントたる設計事務所やゼネコンの使用しているBIMソフトを導入し設計図面を書いています(というか、そうでないと発注が無くなります)。と言うことはどういう事が起こっているかというと、発注側の設計事務所やゼネコンは図面の発注しながら、実は3Dのモデリングを発注しているという事です。

ここでピンと来た方、あなたは鋭い! 私達の仕事から見た時は設計者がクライアントとなるのが当然でしたが、図面書きを生業としている事務所もクライアントになりうるのです。とは言っても図面書きを下請けでやっている会社がパースを直接依頼する事は考えにくく、結局は今までのクライアントである設計者が発注主にはなるのですが、図面を書いている事務所と協業して営業をすることが出来れば、新たなクライアントを獲得する事と同じ事になります。と言うのも、BIMによる図面書きの発注をしているクライアントは、この発注がCG制作にも密接な関係が有る事だとは余り認識が出来ていません。そこで図面を書いている事務所に提案してもらうのです。「今回のご依頼で3Dモデルが出来ますよね。このモデルがあればパース制作やアニメーション制作が簡単にできますよ」と。

ここで言う大元のクライアントである設計者に直接CGの営業をかけても上手くいかないケースは多いのですが、面白いことに、図面書きのの事務所からの提案には乗ってくることもしばしばです。勿論図面書きの事務所はCGに詳しい訳では無いので、パースやアニメを提供したり、営業トークを考えたりと裏から私達がサポートすることが肝要です。図面書きの事務所もCGの仕事をとることで、中間マージンがとれるので、そんなに悪い話では無いと考えてくれます。モデリングの部分は図面書きとして必ずやらなければならない事ですし。ここで話している事も私の空想では無く実体験です。この手の仕事も幾つかやっていますし、結構上手くまわっています。どうですか、新しい営業先が見えては来ませんか?


制作:Next Picture


最後に

東京オリンピックを控え、BIMに代表される3次元設計が急ピッチに進む中、私達の設計への接し方も変わりつつあります。そう言った概念で今回は少し違った切り口での営業を提案してみました。ここでは設計事務所やゼネコンをベースに話をしましたが、景気が良くなってくるとクライアントの範囲が広がり様々な切り口の仕事が生まれてきます。また、直接の設計者を離れた建築CGは結構面白くてやりがいがあったりします。この辺りにはまた次の機会にでもお話し出来ればと思います。

今回のイメージは海外の案件です。コラムとは全く関係ないパースですが今月の1枚ということでお許し願えればと思います。それではまた次回。


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