トレンド&テクノロジー / 冨田和弘が斬る!建築ビジュアライゼーション業界
第31回:パースにも変化が・・・

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ここのところ急に暑くなり、春物の衣服を用意する間も無く半袖に移行してしまいました。私が小さい頃にこんな事は無かったな~と思うと同時に地球環境はどうなっていってるんだろうと仕事を含め心配事の尽きない昨今ですが、そんな変化の波の中で今回のお題「パースにも変化が…」をお届けします。今回のお題を見て皆さんはどう感じられたでしょうか。「そうそう最近は…」とうなずいている人、はたまた「何か変わってきてる?」と首をかしげている人、様々でしようが、私が見聞きしている中でちょっと変わった話があったのでお話ししたいと思います。


クライアント発信の新しいパースの表現

とあるアトリエ事務所からの依頼でパース制作を行った時の事、クライアントからパースの表現について注文がありました。それはレンダリングした絵に線画を重ねて欲しいとの依頼でした。サンプルで見せてもらったパースは手書きよりの表現でしたし、何か新しい表現を求めている様子なので、いつものリアル系のレンダリングにワイヤーフレームの絵を乗せても様にならない事は容易に想像できました。そこで、レンダリングは陰影を弱くテクスチャのリアリティも落とし気味の平板な絵に、線が波打つ手書きの線をレタッチで重ねて表現を行いました。表現の善し悪しは別としてこれまでに描いたことのない絵でした。

一人称で物語風に書きましたが、これは友人から聞いた話です。描かれたパースも見ましたが、確かに面白い表現でした。また、とある設計事務所でトライしている新しい表現として、オブジェクトに陰影は付けているが影は落とさないというパースも見たことがあります。当然リアルなレンダリングで影がない絵では単純に違和感のある絵になってしまうので、この絵もリアルな表現は避けています。このパースもグラフィック系のポスターでみるような面白い表現になっていました。何れも私のプロジェクトでは無いためパースはお見せできず想像してもらうしかないのですが、この様な新しいアプローチが私達のまわりで起き始めている様です。何れのパースも所謂CGCGした絵では無く手書きの着彩感覚が残る表現でしたので、手描きのパースが出来る方なら何でもない表現かもしれません。昔は手描きでやっていてCGに移行したというレンダラーの方には新しい表現としてアナログとデジタルの両方のスキルを生かすチャンスかもしれません。


新しい表現が内包する問題

パースをお見せできないので申し訳ないですが、上に挙げたパースは手描きの要素を色濃く残す、よく言う手書きとCGのハイブリッド表現の延長上にあるものです。しかし注意しなければならないのは手描きの要素が色濃いと言っても手描きの再燃といったものを求めている訳では無く、あくまでCGの新しい表現を求めている点です(手描きを求めているなら手描きのパース制作者に発注すれば良いだけですから)。では今何故CGパースの表現に新しいものが求められているのか。答えは簡単です。「巷にあるCGパースに飽きている」という事です。過去を振り返ってみればわかるように手描きからCGへの移行した時も、表現的には今よりもかなり劣るCGでしたが、その目新しさに設計者が飛びつきました。また、CGを使っているという事自体がクライアントに対して先進的なアプローチを取っている会社であると印象付ける効果があった事もCGの活用に拍車をかけました。聡明期のCGはハード・ソフトとも高額だったため、各社が一斉にCGに移行した訳では無いですが、資金が潤沢な大手と呼ばれる会社はパースや図面表現にCGを取り入れました。更に、静止画を飛び越えてアニメーションにまで踏み込みました。バブル華やかな時代の話です。

話がちょっと横に逸れましたが、「新しい表現が求められる」≒「CGパース表現が飽きられている」とさきほど言いましたが、私は「新しい表現が求められる」≒「CG制作者の表現力が落ちている」または「CG制作者が表現力の向上を怠っている」とこの問題を捕らえています。本コラムでも何度か書きましたが、CG表現の向上は、技術レベルでのリアル系の表現が設計ワークフローの中で使用するには十分なレベルに達している中、技術的なアプローチでは無い絵の表現力が今後の重要な課題であり、絵としての表現力の向上を謳ってきました。残念ながら私の訴えかけを設計者側から「新しい表現」という言葉に代えて突きつけられてしまったというのが実情だと思います。


真に求められる表現とは?

何かCGレンダラーの怠慢の様な書き方をしてしまいましたが、設計者側にも問題はありますし、設計プロジェクト自体にも問題があります。冒頭でお話しした新しい表現を行ったパースに対する私の感想は、「面白くはあるけど、本当にこの表現で良いのか?」というものでした。素晴らしい表現と素直に褒めることは出来ない何か違和感を感じるものでした。もっと端的に言うとそのパースが訴えかけてくるものが希薄だったのです。訴えかけが弱かったのはこのパースで表現したいものが不明瞭だったからだと思います。言い換えれば明快なコンセプトの元に表現が考えられたパースでは無いと感じました。この点は設計者側の問題です。そもそも明快なコンセプト無しに表現を練る事など、レンダラー側では出来ません。不明瞭なコンセプトの元で絵を描けば、ありきたりなパースに収斂していってしまうことは仕方が無い事です。そういう状況下でCG表現の陳腐さを言われてもどうしようもありません(別に言われた訳では無いのですが…)。同時に制作期間にも問題があり、枚数をこなす事で精一杯になってしまうような短納期では表現を熟考している時間はありません。しかもコンセプトを表現する事と関係の無いような修正指示が次々と来ては、レンダラーには手の打ちようがありません。そもそも新しい表現と言うことで描き方を指定して発注すること自体変な話で、最初にパースで表現したいコンセプトがあって、それを如何に表現するか(どの様に描くか)というのが道理だと思いますし、如何に表現するかの部分がCGレンダラーの腕の問われる部分だと思うのですが。


レンダラーに求められるもの

プロジェクト自体に愚痴をこぼしても自体は良くなりません。ではレンダラーはどの様に対処すべきでしょうか。まずは設計者から設計意図を聞き出す努力を惜しまないようにしなければなりません。次に各パースはどの様な場面(紙面)で使われ、何をそこで語りたいかを聞き出します。最近の設計者(特に若手)は、この点が希薄な人が多く、要綱上で必要とされているから描かなければならないが、どういったものを描きたいかが明確になってない場合も多々あります。その場合は此方が少ない情報から頭をひねり、どんどん表現に関する提案をすべきです。例えば、「○○の形状にこの建築の特徴があるようなので、その形状を最大限生かすように縦構図で画角を狭めましょうか?」とか、「計画建物が主ではありますが、周囲の関係性も重要そうなので、周囲の表現を彩度をある程度落としながらもしっかり描いてみてはどうでしょうか」等々。このようにプロジェクトのスタート時点で表現に関する話し合いを行ったら、1発目のアングルチェックやレンダリングチェックの際に時間を惜しまず此方の考える表現を盛り込んだパースを出しましょう。時間に捕らわれて、この部分で手を抜くと全てが水泡に帰してしまいますので、一踏ん張りも二踏ん張りもここでがんばりましょう。ここで上手く相手が乗ってきてくれたら、その後がスムーズになると信じて。点景のちょっとした大きさや量などのたわいのない修正に時間を取られることなく、クリエイティブなCG制作が出来るようになれば、仕事がもっと楽しくなるとは思いませんか。

話ばかりで絵が全く無いのも問題なので、事例として私が関わったプロジェクトのCGパースを載せておきます。

Pers A

Pers B
設計:原広司+アトリエφ、竹中工務店 CG:Next Picture ※PersA,B共通

これは数年前にあったコンペのパースで、建物の鳥瞰パースの制作が必要になった際にフォトモンタージュで描いたものです。AはCGディレクターが求めたリアルな表現で、Bは私なりにコンセプトを表現してみたもので、何れも私が描いています。コンセプトとしては海辺に面しているという立地条件、計画建物が明瞭に見える事、周辺の都市との関係をないがしろにしては行けない等がありました。AとBに明確な善し悪しや正解はないと思いますが、クライアントからOKが出たのはBのパースでした。皆さんはこの2つのパースを見てどう感じられましたか? ご意見頂ければ幸いです。


最後に


前々から主張しているコンセプチャルなパースの話に収束してしまいましたが如何でしたでしょうか。正直に話せば、今時パース表現を云々言っていてもあまり将来性のある話とは思えません。それよりも真に新しい表現にトライする時期に来ていると私は思います。これまでは紙ベースでのプレゼンが主体だったためパースの拘りも必要だったとは思いますが、設計図書が電子納品になりつつある中(シンガポールでは規模の大きい物件はBIM納品が義務づけられていて、年々その摘要面積も小さくなっています)、提案書等の紙媒体がこのままである訳がないと思うのは私だけでしょうか。早い時期にPDF等の電子版へ移行してもおかしくないですし、むしろ自然な気がします。PDFになれば動きのあるコンテンツを盛り込むことができるので、分かり易く説得力のある動的コンテンツがパースに取って代わるような気がします(勿論無くなる訳では無いと思いますが)。そういったことを見据えた新しい表現にトライした方が将来性があると思うんですがね~。

色々書きましたが、結局私達が磨くべきものは自身のセンスだという事に帰結します。恐らくここ何年かでBIMという仕組みを中心に私達の業務にも変化の波が訪れると思います。その時になって慌てなくても良いよう普段からの情報集・勉強・試行錯誤が必要だということは当然としても、デザイン業を生業としている限り、いかなる時代が来ようと我が身を助けてくれるのはセンスだと思いますが如何でしょうか。


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