トレンド&テクノロジー / 冨田和弘が斬る!建築ビジュアライゼーション業界
第16回:制作費用について考える その2

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前回に引き続き制作費について考えて見たいと思います。前回は制作費はそもそも何を根拠に決定されているのかと言うことから考察を始め、建設業という業種自体が持つCGビジュアライゼーションに対する問題点 (CG予算) にたどり着きました。また、実際に制作しているCGに対して異業種 (自動車)から見た時のフィーを参考に挙げました。前者はちょっと暗くなってしまう話になりましたし、後者は少しの自信と光明が射したんじゃないでしょうか。

今回はこれらに対しての回答編というか、解決に向けてのアプローチについて書きます。

真っ向勝負でアプローチする

まずは真っ向勝負での方法です。

1. 成果品のクオリティを認めさせる
2. オリジナリティを発揮する(オンリーワンを目指す)
3. フィー向上のために地道な交渉を続ける

何だこの回答は! 解決策になってない! といったお叱りを受けそうですが、真っ向勝負だと上記に帰結してしまうと言うのが私の考えです。 それぞれについて私の考えを書いていきたいと思います。

成果品のクオリティを認めさせる

「○○さんのパースはセンスがあるので私は○○さんご指名だ」という設計者を何人か知っています。逆に、この様な指名を受けて制作しているCG制作者も何人か知っています。指名が貰えるような素晴らしい表現力のある人は他の人と違ったフィー請求が出来る事が多いです。実際に私が過去に外注管理の仕事 をしている時に、私が明らかにフィーが高いと判断した会社があったのですが、設計者がどうしてもこの会社に頼みたいのでフィーは不問と言うことがありまし た。そういう外注会社は全体の数%ではありましたが何社かありました。

しかし現実問題、指名があれば必ずフィーが良いかと問われれば、自信を持って「そうだ! 」と答えられない事もこれまで経験し見聞きしています。ただ必ずしもフィーが良くないケースがあるのは、前回のコラムでお話しした設計予算にCGに関する予算を組んでいない (又は少ない予算取りしかしていない) こ とが問題である場合が多いので、CG制作者側からどうこう出来る事ではありません。

それよりもここで重要なのは3に関係しますが正規の制作費用をきちんと設計者に伝えることです。たとえ最終的なフィーが希望の金額に至らなくても、最初か ら仕事を取るためのフィーを提示していては先はありません。勿論、フィーに関しては各プロダクション毎で状況が違うとは思いますが、結果はどうであれ勇気 を持って伝える努力はして頂きたいなと思います。そのためにも前例の様に指名で仕事が出来る表現力を身につける事に日々研鑽することが重要ですし、表現力 が豊かな人が増えてくれば (尚かつきちんとしたフィーを伝えることを地道に続けていけば) 、フィーの問題は徐々に上向きになってくると思います。

オリジナリティを発揮する(オンリーワンを目指す)

以前から本コラムでお話ししている事です。オリジナリティを発揮し、「△△会社さんでしか出来ない」という事があればフィーの向上が期待できます (なにしろ他に頼むところが無いのですから)。

1で取り上げているクオリティはその代表的なものですがそれだけではありません。例えば、ろくな図面が無くポンチ絵レベルの資料からモデリングが出来る、 細かい所はお任せでも建築的におかしくないモデリングが出来る等の建築的なスキルや、制作スピードが速い、大量な仕事量を請け負うことが出来る、無理な納 期の仕事を受けることが出来る (金曜スタートの月曜アップ、GW期間中の仕事、盆正月期間の仕事等) 等のパワー系の事など様々な事があります。

このように自社 (自分) の強みは何か? を良く考えて、その強みを他社より抜け出る位に磨きをかける事が出来れば、それはオンリーワンとなりフィー交渉が有利になります。特にパワー系は、クライアント側が焦っていて、尚かつ此方も深夜残業、休日業務等の制作費アップのネタが豊富なのでフィー交渉が上手 くいくケースが多く見られます。

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変わり種モンタージュ (手書きパース + 模型)

フィーの向上のために地道な交渉を続ける

これは1で話しましたし、2でも同様です。というかビジネス努力として常に行うべき事です。更に重要な事は建築ビジュアライゼーションに携わるみん なが実践することです。業界に根付いてしまった標準的なフィーを覆そうと言うのですから、一握りの人間が実践しても単なるはみ出し者と言うだけで効果はありません。諸事情はあると思いますが、結果がどうであれ多くの人が実践してこそ初めてスタンダードとなり得ます。また、そのためにも1、2で挙げている確 かな表現力・技術力を身につけることが重要になります。

もう一度良く考えて見て下さい

3つに項目を分けてお話ししましたが、読めばお分かりのようにそれぞれは連動しています。表現力・技術力・体力を身につけ、それをオンリーワンと言えるレベルまで高め、それを武器にフィー交渉にあたる。これらの事を多くの建築ビジュアライゼーションに関わる人が実践し続けるということです。

非常に当たり前すぎてガッカリした読者の方もいるかも知れませんが、オンリーワンになるという事は容易いことではありません。振り返ってみて下さい。オンリーワンになれるだけの努力を日々自分が重ねているかを。


例えばクライアントがあるパースを見て次のような事を指摘したとします。

・このエントランス部分にもっと立体感が欲しい。

最近制作したパースに当てはめて考えて見て下さい。すぐに制作方針が見えますか? コントラストを付けるのか、彩度をいじるのか、グラデーションで処理するのか、グラデーションで処理する場合はどちら方向にグラデー ションをどの程度付ければ目的の効果が得られるのか等、その絵によって方策は様々ですが、最適解をすぐに導けますか?


・建物にもっとリアリティを出して欲しい。

現状の絵からリアリティを向上させるためには何をすれば良いかすぐにわかりますか? 人はそもそも何を持ってCGにリアルさを感じるんでしょうか?


・空の抜けをもっと表現して欲しい。
・絵全体をもっと柔らかい表現にして欲しい。

空の抜けってどうしたら表現出来るのでしょうか。雲の形、空の色、明るさ、色調の変化?
絵全体の柔らかさとは何を持っていうのでしょうか。コントラストを弱める事で解消できるのか、色調の問題か、エッジの表現手法で変わるのか等々。


または、次のような要望があったとします。

・建築家××さんの□□という建物のファサードのような表現で。

建築家××さんって誰? みたいな事になってませんか。□□という建物といわれ、そのファサードが頭に浮かびますか?


・出所が良くわからないデータがあるのですが、このデータを使って貰えますか?

クライアントから提供されるデータは様々です。普段使っていな いデータが来た時に何らかの対処が出来ますか? 3dsMaxに素直に読み込めない時の回避方法が複数思い浮かべることが出来ますか? また、いつものデータ形式でも読み込めなかったりおかしくなったりすることは希にあります。その時にデータの何処が問題か特定できますか? アスキーデータだったらファ イルを開いてデータを書き換えたりする事もあります。


上に挙げたような事を難なく対処出来ている人は日々研鑽している方でしょう。この様な方は、新しい表現にトライする、新しい技術を身につける等の事 を常日頃実践されているのだと思います。時折これらのような問題に直面して、何とか解決したことのある方も多いとは思いますが、その後は日々の忙しさに埋 没して常にトライする事を忘れがちになっていないでしょうか。
難問やトラブルは1つの経験や知識からだけ解決できることより、複合的な合わせ技で解決できることの方が多いと思います。そのためにも常にそのような心構えをもって実践する事が大事です。結局はこの地道な研鑽がフィーを向上させていく近道ではないでしょうか。継続は力なり。昔の人は良い事をいってますね。

別のアプローチで攻める (角度を変えてみる)

これまでは正攻法の話をしてきました。言われなくてもわかっていると思えることではありますが、具体的な話を突っ込まれた時に初めて気づくことも多 いと思います。まずはこの点が確立できて初めて次のステップへ進めるという思いがあったので、ついつい長く書きすぎました。ここからは別のアプローチでの 方法です。が、紙面の都合でこの後は次回に持ち越しです。一応お題 (別のアプローチで攻める) は挙げておきます。正直、手っ取り早いフィーのアップ方法は此方の方ですので今回同様に次回まで少し考えて見て下さい。


最後に

次回も含めると都合3回に渡ってフィーの事を書いています。これまで最長の内容で書いているのは、ビジネスの世界ではフィーの善し悪しが自分の立ち位置を決めてしまうという思いがあるからです。フィーとは各々の仕事での自分の値段に匹敵します。映画の世界などは顕著ですが、スターになると1本で2桁 億のフィーが支払われます。その人間にそれだけのフィーを支払うだけの価値が有るということです。

私の描いたパース1枚が10万円といわれれば、私の価値はこの仕事では10万円ということです。もし、別のレンダラーが同じ仕事で20万円貰ったとすれ ば、私とその人のこの仕事での能力の差は2倍です。フィーとは自分を外から見た時の価値 (価格) になるのです。だから妥協はしたくない。皆さんも フィーは自分の通信簿だと思って業務に望んで頂ければと思います。


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コンペ提出パネル


今回掲載しているイメージは私が過去に制作した中でちょっと変わり種を用意しました。モンタージュは手書きパースと模型のモンタージュです。一方はコンペで提出したパネルの1つです。
(設計 : D4m設計 + Next Picture)

では次回また。

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