トレンド&テクノロジー / 3DCGの未来~CGアニメとメディアリレーション~
第1回:沼倉 有人 氏(雑誌「CGWORLD」編集長)
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日本におけるフルCGアニメーション制作への理解と振興を目指す本連載。今回より「3DCGの未来 ~CGアニメとメディアリレーション~」とリニューアルをして、CGアニメと関係するさまざまなメディアのキーパーソンにお話をうかがう。記念すべき第1回は2018年8月号で創刊20周年を迎えた雑誌「CGWORLD」の編集長の沼倉有人に登場していただき、CG業界の変遷をお話いただいた。
日本のCG雑誌は1990年代後半には不定期刊も含め10誌以上が林立していたという(http://digitaldna.jp/article/magazine.html)。そんななか、現在まで残っている雑誌は「CGWORLD」のみだ。そんな本誌に携わり始めて13年以上、編集長として6年以上務め続けている沼倉氏が見た変化の激しいこの時代はどのように映っているのか、そして同じように変化を続けていかねばならないCGメディアの役割とは。クロスメディアで展開する20年目の「CGWORLD」を聞いた。
【聞き手:野口光一(東映アニメーション)】
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敢えて創刊20周年記念号で挑戦的な表紙にした理由とは?
東映アニメーション/野口光一(以下、野口):この連載がスタートしてから6年が経ちました。ここで原点に立ち返りまして、折しも創刊20周年を迎えた専門誌「CGWORLD」の編集長にこれからのCGについて伺おうというのが今回の趣旨です。
創刊当時を振り返りますと、CG専門誌は10誌ほど存在しましたが、現在は「CGWORLD」だけになりました。まず御誌が20年続けてこられたことについて、現在の編集長どのような理由が考えられますか?
沼倉有人(以下、沼倉):一般的に「CGWORLD」に対しては「CG専門誌」という認識をされている方が多いかと思うのですが、僕としては、「一般書店に並ぶ、クリエイターが読む雑誌」だと思っているんです。だから、CGを使っているのであれば、アニメ・ゲーム・実写問わずそれぞれの旬な話題を採り上げることが大事だと意識しています。かつては、クリエイターが好きな欧米の第一線のスタイリッシュなアーティストの画作りを追うみたいな方針のときもあったのですが、僕はアニメ調であったりコミカルなもの、可愛らしい表現であったりと、あらゆるCG表現を取り扱おうという意識でいます。
野口:その意味で今回(vol.240:2018年8月号)の表紙(『VRカノジョ』)は象徴的ですね。
沼倉:これは副編集長の藤井(紀明)の強いプッシュです(笑)。業界交流会でも「18禁のCGも扱ってよ」と、冗談半分で言われることがあったので、であれば、20周年のタイミングがベストだろうということで第2特集として「オトナのCG」を扱いました。ただ、こうしたCGを作るにも固有の創意工夫があることも分かっていましたし、読むだけではなく作りたいというニーズも有ることも理解しています。反響も大きかったですし、今回だけではまだまだ掘り切れなかったので、またどこかのタイミングで特集したいなと思っています。
野口:それだけこういうジャンルの取材はできてない?
沼倉:そうなんです。各ジャンルの古参の方やストイックにテクノロジーを追っている方からすると節操ないと言われるかもしれませんが、盛り上がっているシーンはしっかり拾っていこうという方針でいます。
野口:最初はVFXがあって、アニメが増えてきたと思ったら今度は「オトナのCG」が増えてくると、また時代が一周してテライユキに戻ったような気がします。
沼倉:そうですね(笑)。開発のイリュージョンさんのお話を聞いていると、アダルト作品って作り込みが半端ないんです。それはキャラクターモデルだけではなく、小物類にしてもそう。だから、VRにしても本来の(?)目的以外にも、部屋の中を自由に動き回ってプロップをいじって楽しむという遊び方をしている人もいらっしゃるみたいです。
野口:僕たちの時代だと、リアル表現のVFXや最新のCGの技術を追いかけようと思ったら「PIXEL」(1980年12月 ~ 1995年2月 図形処理情報センター刊)や「日経CG」(1986年10月号 ~ 2000年10月号 日経BP社刊)で、メイキング記事を読むという流れがあったのですが、それが飽和していったからこそ、「CGWORLD」は記事の幅を広げていったのかなと思いました。
沼倉:それは10年近く前の副編集長時代から感じていました。創刊当初から5年目くらいまでの時期は、「CG4大ソフト頂上決戦」みたいに最新版の比較をする企画も定期的に行なっていたのですが、現在は統合型3DCGソフトウェアでも開発各社さんごとに方向性や更新のタイミングも変わってきています。機能の拡張も、新機能というよりも改良とかワークフローの部分になってしまっているので、そこは各ベンダー/リセラーのオウンドメディアやブログが担ってくれるかなと。
野口:そこを任せた分、沼倉さんの好きな方向に注力できるというわけですね(笑)。
沼倉:そうですね(笑)。あとは単純に、未知なる表現が好きなんです。セル調CGにしても、野口さんやサンジゲンの松浦(裕暁)さんのおかげで、他の媒体がまだあまり取り扱っていないタイミングから色々と見させていただきました。でもだからといって、こればかりを追いかけているというわけではなく、バーチャルYouTuber特集(vol.237)みたいに、まだ誰もやっていないところとかSNSを見ていて盛り上がっているところを採り上げたいなと思っています。
野口:特集はいつ頃から準備されるんですか? バーチャルYouTuber盛り上がりが来たのは年末で、特集は4月発売号でしたが。
沼倉:校了は発売の前の月の月末です。当時の盛り上がりをキャッチした時はすでに2月発売号に着手していたので、できるとしたらそれ以降ということで、藤井へイノセントに丸投げをしました(笑)。上に立つ人間としての本当申し訳ないところなのですが、どうしても担当編集者の裁量に委ねてしまっています。これをスケール化していくには何らかのフォーマットを作らなくてはいけないという課題を抱えています(苦笑)。
野口:採り上げようとする際、ネタ元としてはSNSのほかにどのようなものが?
沼倉:そのあたりは外部パートナーさん、ライターさんからの情報が非常に助かってますね。親身になってくださる方がいて、取材の行き帰りで情報交換したり、あとは編集会議も週1で行なって共有したりしています。
「CGWORLD」というブランドの象徴が紙の雑誌
野口:Web媒体として「CGWORLD.jp」があり、「CGWORLD CHANNEL」(ニコニコ生放送)があり、秋のCGWORLDクリエイティブカンファレンスと、さまざまな取り組みをされています。そうしたなか、20周年の決意として「紙媒体は辞めない」と述べられていました。紙媒体の販売が厳しい昨今の状況下で、紙での伝達の重要性はどこにあると考えていますか?
沼倉:ちょっと例えが悪いのですが、一度紙を辞めてしまったらもう戻れないなと思っているんです。実は一昨年はCGWORLD事業部全体の収支でいうと赤字でした。それで昨年から選択と集中をして、第4四半期でようやく方向性が見えてきました。これは社内でも言っているのですが、紙の雑誌は「CGWORLD」というブランドの象徴であると。「CGWORLD.jp」もありますが、Webは流れていってしまうものなので、実体化したものがあるかどうかに大きな違いがあります。あとはオーセンティックな取材先では紙媒体を持っているかどうかで、企画書の通りの良さが違ってきますね。これは実感として。今は128ページか144ページで、メイン特集が24ページ、第2特集が16ページ。このボリュームで、できるだけ企画の切り口とか誌面クオリティで気に入っていただける方を増やそうという感じです。その意味では誌面のリソースは増やさず、一方でWebの「CGWORLD.jp」やイベント企画の方にリソースを増やそうとしています。
野口:その理由というのは?
沼倉:やっぱり、接点を増やしたいなという思いはあるんですよね。モノづくりをしたい人は今の時代も多くいらっしゃいますが、2D段階であれば比較的、気軽に情報を取り入れることができると思いますが、3Dの場合はそこまで容易ではない。とすると、彼らの接点になるのはWebかなと。特に若者やホビーユーザーに向けてCGは今後も広がっていくと思いますし、VTuberでは、いわゆるCG・VFX制作現場よりもIT系の企業さんの方が意欲的だと感じています。その意味でも業界向けにこだわっていてはいけないなと考えています。
野口:まとめると、象徴としての「CGWORLD」誌面があり、新規開拓を含め気軽な接点としての「CGWORLD.jp」があると。個人的にはもう少し誌面に柔らかい記事とかコラムが増えてもいいかなと思っています。
沼倉:そうですね。僕自身、雑誌を買って目的以外のページで面白い記事に出会うという経験はしてきましたし、そういう企画をやりたいと思っているのですが、現状それを行なうのであれば「CGWorld.jp」の方かなと。というのも、有料の紙媒体に何でお金を払って貰えるかというと、そこにしか載っていない役立つ情報・資料・絵なりがあるからだと思うんです。なので、アカデミックの世界に軸足を置かれてCG・映像系の教育・研究に携わっている先生がたにその取り組みをリレー形式で語っていただく新連載「アカデミック・ミーツ・インダストリー」をはじめました。
野口:第1回は東京工科大の三上浩司先生でしたね。昔の「PIXEL」みたいに論文を掲載するような流れもありそうですか?
沼倉:そうですね。芸術科学会など三上先生が座長を務めていらっしゃる組織があるので、まずはそこから海外の情報にもリーチできないかとは思っています。今のところ、個人的な願望ですが(笑)。この連載にかぎらず、各分野の最新の取り組みとか、技術的なトピックは機会があれば積極的に取り上げていこうと編集メンバーにはいつも話しています。
野口:そういう技術的な記事を掲載しつつも沼倉さんの好きな緩い企画も行なっていくと。
沼倉:自分で言うのもなんですが、僕は苦手分野がないんですよ。ただ、どの分野もエキスパートの域にはたどりつけないという(苦笑)。学生の頃から、課題に対して70点のクオリティまではかなり早いタイミングまではたどりつける自信があります、でも、そこから80点90点へと高めていくのが向いていない。それは藤井たち、ほかの編集メンバーの方が上手いと思います。CGやVFXって、今も発展途上ですから、そこで追求しすぎないとか躊躇なく切り替えられるという僕の姿勢が、この雑誌の編集長という枠に不思議と相性が良いのかなと思っています。一般人の感覚を持っていて良いというか。でも正直、コンプレックスなんですよ。その筋のちゃんとした系譜とか、作品の旬なものを追いかけたりする皆さんの造詣の深さには本当に感心しています。
野口:アニメの取材を受ける立場の僕からしても、何となく媒体の棲み分けができているような気がしています。他所が監督取材をしているけれども、CG技術は「CGWORLD」の領域だよね、みたいな。
沼倉:編集長になった時はそんなことは考えていなかったんですけどね。これは以前にも言った表現の仕方ですが、僕らはホルモン屋だと。つまり、良い肉だけれどもどう料理するか分からなくて、普通の人が持て余しているところを、「ここをこうすると美味いんですよ」と拾う係(笑)。毎号すべてのCGを拾うというわけではありませんが、技術トピックをプロモーションしたいという需要は絶対にあるので、そう思ってもらえるようにしよう・なろうというのが目下の課題のひとつです。
AIやVR、拡張するCGを扱う媒体の使命とは
野口:このインタビュー連載もそうですが、CGアニメが流行る前から始めまして、現在はコンスタントに制作されるようになり、ひとつのジャンルを形成していると思います。ただCGはもっと幅が広くて、医療や建築の領域からVRにもさらに広がっていくと考えています。沼倉さんの中で、現在興味があるCGの技術やソフトとしてはどんなものがありますか?
沼倉:AI・ディープラーニングのところは非常に面白いなと思っています。先日、YouTubeで公開されて話題になった「AIで色を塗ったアニメ」がよくできていましたね。これは1年くらい前に公開された色を塗るAIの「PaintsChainer」を利用した作品ですが、今後は3DCGツールでもAIを取り入れた何が出てくることは確実でしょう。「CGWORLD」ではビジュアルを解説する分野は得意なのですが、その範疇を超えている技術が非常に増えてきているのが最近の特徴です。VRあればサウンドデザインの話も避けては通れないのですが、それを紙の誌面で読み物として出したところで、概念を語るような薄っぺらいものになるから、それを主体にはしません。でも、インタラクティブコンテンツは絶対に取り上げる必要が出てくる。今までであればプロのCGデザイナーさんとかデジタルアーティストさんに書いてもらうことができましたが、これからはテクニカルディレクターとかテクニカルアーティストみたいな方にお願いすることになるかもしれませんが、そういう書き手がいるかどうか……。先ほど、象徴という言い方をしましたが、そういう部分でも守りながら戦うという面があるんですよね。あのお店、味が変わっちゃったねと言われないようにするという。
野口:難しいところですね。
沼倉:これはテクノロジーという側面から脱線しますが、複数の業界にまたがって活動している人には注目しています。たとえばGOROmanさん(※)にはニコ生でお会いしたのですが、非常に刺激を受けました。今後、こうした方はもっと増えそうだなと思っています。GOROmanさんはゲームプログラマーとしてキャリアをスタートされて、業務の一環で自らSoftimageを扱われたりと3DCGにも精通していらっしゃるのですが、今はVRのエヴァンジェリストとしてSNSやメディアを通じて積極的にその取り組みを発信されています。しかも僕と同い年なんですよ。だから「俺はもう歳だから」なんて言ってられない(笑)。
※ 株式会社エクシヴィ代表取締役社長。VR/ARの企画・開発・コンサルティングなどを幅広く手がける。著書に『ミライのつくり方2020―2045 僕がVRに賭けるわけ』。
野口:20年前の創刊時は『トイ・ストーリー』が表紙を飾り、そこから20年経って、AIがどれだけCG表現として広がるか楽しみですね。
沼倉:そうですね。20周年記念の連載として、テクニカル寄りだけでなく北米を拠点にハリウッド映画のコンセプトアートなどを手がけているの沢田匡広さんによるデジタルアートのTIPS連載「世界大諸説史」も始めたんです。沢田さんはまだ20代半ばですが、非常に意欲的です。フリー冊子CGWORLD Entry.jpでも学生作品のコンペ企画をはじめたりと、これからまだまだ伸びていくであろう若い方をどんどん採り上げたいと思っています。連載「世界大諸説史」の場合は、それだけではなく、「CGWORLD」では2Dも3Dもデジタルアートという意味で分け隔てなく扱うという意思表示でもあります。2年ぐらい前から3D主体の人でデザインをやる人の特集も組んではいたのですが、もっと分け隔てなくやっていこうと思ってはいます。redjuiceさんのように、背景とかメカは3DCGツールを使うイラストレーターさんももっとこれから出てくるでしょうし、それこそAIでフラクタルノイズを発生させて情報量を高める人も出てくるでしょうから、そういう面白い表現をもっと採り上げていければと思っています。
野口:では最後の質問です。この間のCG業界を沼倉さんから見て、どのような変化があったと思いますか?
沼倉:テクニカルディレクターやテクニカルアーティストに適正を持った人がなるようになってきているなと思います。それまでも各所にいらっしゃいましたが、それは点と点に過ぎなかったので。学歴が全てというわけではありませんが、実際にイリュージョンさんでは難関私大といわれる大学の理系の方がインターンをされて、そのまま就職される方もいらっしゃるそうです。そのあたりインタラクティブ研究のところと直結するんですよね。
野口:昔はJCGLとかトーヨーリンクスとかオムニバス・ジャパンなど限られた場所でしかCGの仕事ができなかったけれども、今はCGという分野に幅があって、使い方もより容易になっていますし。
沼倉:表現とテクノロジーはいつの時代もイタチごっこですが、全体としては色んな意味で敷居が下がっていると思います。
野口:そこまでCGが広がっているのだから、これからもっと「CGWORLD」が売れるようになるかもしれないですよ(笑)。
沼倉:そうですね(笑)。編集メンバーもアラフォー&固定化がひさしいですが、対象分野が発展途上なので、思考停止に陥らずに今後も新しい企画やテーマに挑戦していきたいと思います。そのためにも、頼もしいお侍様探しを続けています。この記事を読まれて、編集・執筆をお手伝いいただける方がいらしたら、ぜひご連絡ください。
沼倉有人/Arihito Numakura(CGWORLD)
1975年生まれ、東京都出身。1998年3月に早稲田大学商学部を卒業後、(株)トーメン(現(株)豊田通商)に入社。エネルギープラントなどのインフラ営業に携わった後、一念発起して映像業界へ。2000年4月より(株)東北新社のオフライン・エディターとして、CMやVPの編集を手がける。2005年10月に「CGWORLD」編集部に加わり、2012年7月より同誌編集長を務める。
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INTERVIEWER : 野口光一(東映アニメーション)
EDIT :日詰明嘉
PHOTO : 弘田充
LOCATION : 東映アニメーション