スクエニ野末武志☓ポリゴン瀬下寛之が語り尽くす!「フォトリアルとセルルック、3DCG 表現の現在と未来」
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さまざまなセッション、ハンズオン、インタラクティブな展示などを通じて、先端テクノロジーを実践できる「Autodesk University Japan 2017(AU Japan)」が、2017年9月21日(木)、9月22日(金)の二日間、ヒルトン東京お台場で行なわれました。
初日となる9月21日(木)に行われたトークセッションの3枠目は「フォトリアルとセルルック、3DCG 表現の現在と未来」と題して、株式会社スクウェア・エニックス 第2ビジネス・ディビジョン シネマティック ディレクター野末武志さんと、株式会社ポリゴン・ピクチュアズ監督瀬下寛之さんの対談が行なわれました。
当日は、お二人が作られた、作品ばりのハイクオリティかつ膨大な情報量のプレゼンテーション資料が惜しげもなく公開されました。あまりに膨大なため、当日は全て紹介することができないほど。普段、絶対に公開されない製作工程の濃厚な内容に、会場の衆目が集まりました。資料に加えて動画を再生しながらのプレゼンテーションとなったため、このレポートでは文字でも伝わる部分を抜粋してお送りします。
実は近かった!フォトリアルとセルルック。ワークフローから見るそれぞれの違い
野末:今日は、普段居酒屋で僕らが話をしているような、リラックスした雰囲気で進められたらと思います。自分は『FINAL FANTASY XV』の裏側を描いた映画『KINGSGLAIVE FINAL FANTASY XV』を監督しました。他には『FINAL FANTASY』シリーズと『KINGDOM HEARTS』シリーズから始まって、『FINAL FANTASY VII ADVENT CHILDREN』という映像作品で共同監督をやらせていただきました。
瀬下:監督をしている瀬下です。今年CG30年目で、ポリゴン・ピクチュアズに移籍して約7年目です。主にセルルックのCGアニメーションを手掛けていて、『シドニアの騎士』『亜人』『BLAME!』、そして今度公開する映画『ゴジラ』の新作『GODZILLA 怪獣惑星』をやらせてもらっています。
<それぞれの道>
瀬下:野末君とは、僕がスクウェアで働いていた時に、『FINAL FANTASY X』などの映像を一緒に作っていました。それからCG屋としての長い活動の中で、野末「フォトリアル」と瀬下「セルルック」という表現をお互いに確立しました。当時からよく情報交換をしていて、今回は実際にどういう制作方法なのかを比較しがら話を進められたらと思います。
まずは根本的な話ですが、今画面に映されているのが僕らが作っているCGアニメーションの全体フローです。ここは同じだよね?
野末:基本的には一緒ですね。
瀬下:「企画」「設計(プリプロ)」から始まって、予算と時間があれば「試作」をして、「生産(プロダクション)」「仕上(ポストプロダクション)」をして、テレビや映画などいずれかの出口に「配給」するという6段階が基本です。お互いの工程を分解してみたら意外と近かったんだよね。
野末:基本的にはほぼ一緒ですね。
瀬下:ポリゴン・ピクチュアズの場合は、レイアウトをプロダクション段階でやるということに移籍当時は驚きました。ちなみにアニメーショングループが作業担当します。
野末:だから比較的精度が高くなるんですね。
瀬下:レイアウト、つまりキャラや大小道具といった物をポージングして配置し、構図することを、手描きアニメでいうところの「作画」として行う考え方です。最初の頃は正直カルチャーショックで慣れるまでに時間がかかりましたが、最近はそれを前提に設計してます。
野末:弊社ではレイアウトはプリプロ工程ということで考えてますね。
瀬下:そこ以外はほぼ同じですかね。じゃあ、プロダクション工程の僕のチーム詳細にいきますが、まずモデリングですね。モデリングでは、エフェクトを大道具・小道具の一部として作ったりもします。例えば、銃口からの発射炎「マズルフラッシュ」は、エフェクトアセットとして小道具の中に仕込んで、アニメーターがコントロールできるものにしてます。
キャラモデルとアニメーションモデルを作ったらリギング。リギングからレイアウト用モデル、レンダーモデルへと進み。レイアウトで構図や配置が決まったら、背景を作るフローとアニメーションを作るフローに分岐します。一方ではレンダーモデルを仕上げつつ、最終的にライティングとコンポジット段階で合流します。
セルルックでもフォトリアルでも3DCGは制作の工程が同じです。むしろ手描きアニメのワークフローとは相当違います。
野末:そうですね。最終編集はしますがやりながら更新していく。
瀬下:キャラモデルとアニメーションモデルを作ったらリギング。リギングからレイアウト用モデル、レンダーモデルへと進み。レイアウトで構図や配置が決まったら、背景を作るフローとアニメーションを作るフローに分岐します。一方ではレンダーモデルを仕上げつつ、最終的にライティングとコンポジット段階で合流します。
セルルックでもフォトリアルでも3DCGは制作の工程が同じです。むしろ手描きアニメのワークフローとは相当違います。
野末:うちは比較的カチッと決めて。
瀬下:出戻りさせにくい生産工程なので。ちょっと違うからと前工程に戻すより、編集された状態でできる範囲で調整します。
野末:僕らも実は2Dで最終的に調整していて、3Dに戻らないで2Dで直したりするんです。
瀬下:今日はプロの方が多いのでご理解いただけると思いますが、結構最後の最後でもいじってるんですよね(笑)。そこからダビング、グレーディングして、状況に応じて、配信用、ブルーレイ用、劇場用などの各種データマスターにします。
ライティング&コンポジット
野末:弊社は、基本的には実写映画的なオーソドックスなライティングをしています。いかにリアルでやるかに重要を置いていて。だからすごく作業が重くなっちゃうんですよ。
瀬下:僕らの場合は、マスコミ取材で、「日本のアニメを再現したいんですか?」とよく聞かれます。そうじゃなくて、「アメコミやグラフィックノベル、バンドデシネなどを動かしたい」と言い続けてます。こだわりは絵の魅力と3Dの空間性の魅力を両立させること。だから、リアルな物理ライティングにはこだわってます。なので、セルルックだけど結構重い(笑)
野末:実在するものはオーソドックスに現実に近づければいいんですが、難しいのは魔法の表現。どうするかを最初にきっちり決めないといけないんです。今回、複数のプロダクションさんに参加していただいたんですけど、50社以上参加していて。その意思統一を測るため、独特な表現に関してはプリプロを詰めて。指示書で、見た目や作り方、コンセプトのデータを作って各プロダクションさんに渡して意思疎通を図りました。
プロダクションデザイン、スクリプトドクターの起用
野末:『キングスグレイブ』の脚本は、社外の脚本家さんにお願いしています。日本人の長谷川隆さんに構成の段階から入ってもらって。そこから僕と長谷川さんとチームで揉んだ構成をハリウッドのスクリプトドクターに相談したのはチャレンジでした。スクリプトドクターからはいろいろ言われるので気になりますが、やはり客観的な意見が来るので納得しました。
瀬下:スクリプトドクターの仕事はアメリカでは当たり前だけど、日本にはまったくいないからね。英語で連絡が来るの?
野末:英語で毎朝ミーティングですね。彼らの現場の空気を良くする能力がものすごく高い。
瀬下:ということは褒めたりするの?(笑) どんなことを言われるの?
野末:基本的に前向きに褒めます。「この工程じゃわからないよね」とか(笑)。
瀬下:ハリウッドのスクリプトドクター、一度やってみたいんですよ。でもコスト、結構高いんでしょ?
野末:いや、そうでもなかったと思います。
瀬下:さて、画面に表示しているストーリーデベロップメントの流れですが。まずログライン。物語を数行の文にまとめたものです。いわゆるエレベーターピッチで使われるような骨子です。ビルの一階でどこかのプロデューサーに出会い、最上階にエレベーターが登るまでの数十秒間に伝えて興味を持ってもらうという、あれです。ほんの数行の文章なのに、面白そうだなあと思えるものを作ろう、ということです。そのあとにシノプシス、いわゆる粗筋とか梗概です。
野末:同じですね。
瀬下:そこからプロットへ。僕の場合、構造主義なので、全体を幕で分けて、各幕ごとに分析しながらです。いわゆるミッドポイントやターニングポイント、それぞれのポイントで何が起こるべきかを決め、それらの点を線で結んでストーリーラインとします。そのあと脚本です。今回『BLAME!』の場合は、大ベテランの村井さだゆきさんに手がけていただきました。
野末:村井さんも構成の段階で入ってるんですか?
瀬下:今回の場合は、プロットのあとで脚本で入ってもらいました。もちろん脚本を作ってる途中でプロットも調整しつつ。で、ここからが特に独特なんですが、脚本が仕上がったら、そこに詳細な場面描写や演出を追記します。それを台本と便宜上呼称していて、それがプレスコで使用されます。
野末:僕はエクセルでプロットを書き出す作業をやってますよ。
瀬下:僕はポストイットとホワイトボード(笑)。意外とレトロ。。
野末:これを読みながら声優さんたちが頭に入れていく。大変だ。
瀬下:プレスコでの収録音声を、まず一旦編集します。まずはラジオドラマとして面白い作品を目指します。それで面白かったら絵をつけたらもっと面白いはずなので。
野末:僕らはこれをモーションキャプチャでやってます。
FINAL FANTASY VII ADVENT CHILDREN(C)2005 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. CHARACTER DESIGN:TETSUYA NOMURA
<未来にやりたいこと>
瀬下:色々話したいんですが、やっぱりプリプロを強化したいです。
野末:そうですね。プリプロがきっちりすると、実はプロダクションもきれいに回ったり。
瀬下:それとCG屋は自分たちから発信しなければいけない時代がきていると思っているんです。CGのことをわかっている人達がゼロから作らないと。
野末:「CGアニメーション」という新しいジャンルができたと思ってもらったらいい気がします。
瀬下:希望としてはまさにそう。野末君の場合は最初からゲームと映像用のアセットが連動しますよね。実は僕も『BLAME!』のセットやキャラクターをVRのゲームや2.5Dのプロジェクションマッッピングなどで展開したいんですよね。
野末:CGであるからこそ貯まるアセットを活かしていくんですよね。
瀬下:そう。「アセットが貯まる」ことはまさに僕らの共通点で、違うのはルック、表層的なスタイルだけです。僕らがいかに3DCGを活用して魅力あるコンテンツを作っていくか、プリプロを強化してソリューションを確立することが大事だと考えています。
『シドニアの騎士 第九惑星戦役』(C)弐瓶勉・講談社/東亜重工動画制作局
野末:そのためにはオートデスクさんにソフトを作っていただきたいですね。
瀬下:しょっちゅう飲み屋で話してることを言うと、例えば脚本作成のツールがワープロとかテキストエディターでいい、ではなく、もっと進化させたい。僕らの場合、脚本を作る時からキャラやセットやプロップといった要素をデータベースとして扱い、もっと構造的なことを前提にしたツールがあればと。
野末:そこをちゃんとやってないとプロダクションがそこまで進まない。
瀬下:例えば、脚本上の「ロケーション」がデータベース上でリレーショナルに整理されていて、それをクリックしたら設定や資料が閲覧できたり、あとは登場人物がストーリー内のどの場面に何回出てくるかを分析したり、そういうデータ処理や他工程へのワークフロー・データフロー上のリンクが考慮されたツールが欲しい。
野末:欲しいですね。うんうんって言ってしまいますね。
あっという間に時間は過ぎ、この日のために制作した膨大なプレゼンテーションのシートがすべて読み上げられることがなく終了時間となってしまいました。が、ここまで現場の内容に踏み込んだ濃密なプレゼンテーションが体験できたのは、大変貴重な機会でした。
最後の質疑応答では、未来のCGのプロダクションでは、情報量が少なくスピーディーに製作できるセルルックではスタジオが小型化してさまざまなバリエーションが生まれると予測されました。今後、一層増えていくであろうCGアニメのさらなる多様性が期待されます。