鉄拳タッグトーナメント2
バンダイナムコ スタジオ&プレミアムエージェンシー Interview 「プリビズと Entertainment Creation Suite を駆使し6カ月で創りあげた大作エンディングムービー」
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シリーズ累計出荷本数4,000万本を超え、対戦格闘ゲームとして世界1のシェアを誇る「鉄拳」。この超人気シリーズから生まれたもう一つの人気シリーズが「鉄拳タッグトーナメント」だ。今回12年ぶりに登場したその新作「鉄拳タッグトーナメント2」(以下「鉄拳TT2」)では、シリーズ最多となる58体もの鉄拳キャラクターが参戦。タッグマッチならではの多彩な連携技も人気を呼び、昨年9月の発売直後から販売ランキング1位の大ヒットとなった。また高品質でボリューム満点のムービーは「鉄拳」名物の1つだが、この新作でも全長80分もの高品質なエンディングムービーが注目を集めている。厳しいスケジュールのもと、この大作ムービーの制作を指揮したバンダイナムコの原田氏、相原氏、そして実制作を担当したプレミアムエージェンシーの櫻井氏、伊達氏に話を聞いてみた。
約88分の大作ムービーを常識外れの短納期で
――鉄拳TT2とはどのようなゲームでしょうか
鉄拳シリーズプロデューサー
プロジェクトディレクター
原田 勝弘 氏
第1開発本部 ビジュアルアート部門
VA1部 VA3課 課長補佐
リードビジュアルアーティスト
相原 泰介 氏
原田氏:「鉄拳」は本来1対1で闘うゲームですが、「鉄拳TT2」はその名の通り2人でタッグを組んで闘うところが大きな特徴です。たとえば世界観も鉄拳ではほとんど全員が敵対しているんですが、本作ではさまざまな形で共闘していて、ゲーム的にも演出的にもストーリィ的にもドラマ的にも、本体の鉄拳にはない、2人組だからこそ可能な面白いことをいろいろやっています。登場キャラクターもすごく多いし、サービス要素がぎっしり詰まった、ファンサービス性の強い作品といえるでしょうね。
――特に力を注いだのは?
原田氏:シリーズ前作(鉄拳タッグトーナメント)では、タッグと言っても、実は鉄拳本体と同じく画面には敵味方1体ずつしか出なかったんですよ。つまり交代ボタンを押すと1体が画面外に出て別の1体が出てくる形で、画面では最大2人だったのですが、今回は3体、4体が一気に出てくる画面をたくさん用意し、2体で1体を攻撃するようなタッグらしさに力を入れました。もう1つはエンディングムービー。前作では、エンディングにプリレンダリングのムービーを入れなかったんですが、ファンの間では鉄拳名物のムービーが無いと不満の声が非常に多く、かなり強く言われていたんです。今回キャラクター数は倍増して60体近かったんですが、なんとかファンの声に応えて、全キャラのムービーを入れようとすごく力を入れ、時間を費やしました。
――エンディングムービーの狙いは?
相原氏:タッグとナンバリングタイトルの違いの一つに、ストーリーラインが有るか無いかという部分があります。ナンバリングタイトルでは重厚なストーリーに沿ってそれぞれのキャラクターが役割を果たしながら物語が展開していきますが、タッグではストーリーを設定しないという鉄拳シリーズの文化があります。更なる物語の展開を期待して頂いているお客様もいらっしゃいますが、今作でもストーリーを設けず、その代わりに各キャラクターが持っているバックグラウンドを丁寧に掘り下げ、更に次回作に繋げていけるような内容にしたい、という狙いがありました。19年間に渡って各キャラクターが通過してきた歴史を感じさせるようなものにしたかったんです。そのため個々の設定を見直し、過去の作品で語られた内容のその後を描いたり、そこからアイデアを膨らませたり、更にそれをネタにするなどのアイデアを盛り込みました。まぁ、かなりネタとしていじってしまった部分もありますが、それも含めてお客様には面白がってもらえれば、と(笑)。もちろんコアなお客様ばかりでなく、そういうバックグラウンドを知らないお客様にも楽しんでいただける内容を意識して作りましたので、純粋なエンターテイメント作品として仕上がっているかと思います。
――質・量ともに大作ムービーですね
相原氏:58人のキャラクター全員に、1人1人異なるものを作ったので総計58本。尺は全体で約88分になりました。鉄拳6のエンディングムービーのお客様に「尺が短い!」「もっと見たい!」という反応が多く見られました。これを受け今作では1本1本をしっかりと見応えのある内容にするという課題を設定し、意識的に尺を長めにしています。平均で1本あたり30秒近く鉄拳6より長くなっています。しかし尺を伸ばせばその分スケジュールを圧迫し制作費にも跳ね返ってくるので、構成から表現手法も含め、どうバランスを取るかに苦慮しました。
原田氏:アクション・アドベンチャーやRPGならともかく、対戦格闘ゲームでこれだけボリュームがあるムービーが入るのは、非常に珍しいと思いますよ。裏返せば、それだけスケジュールに無理が出てしまった原因でもありますが......。
――スケジュールに無理が出るとは?
原田氏:鉄拳のような格闘ゲームは、ある意味プレーヤー自身が主人公で、ゲーム自体はプレーヤー同士が闘うためのツールという側面があります。それだけに制作期間もアクション・アドベンチャーやRPGのように2年も3年もかけることはなく、まぁ1年かけたら長い方。具体的にはだいたい8〜10カ月程度のスパンでつくります。だから何十分という尺のムービーを入れるなんて最初から無茶な話なんですよ。これはゲーム機の進化も影響していますね。PlayStationの1や2の頃の解像度ならともかく、いまや高解像度なHDのクオリティで作らなければなりません。なのにPS1や2の時代の感覚でスケジュールを切っているので、ますます苦しくなっているんです。解像度が上がったからといって、お客さんは待ってはくれませんしね(笑)。
相原氏:最初、リアルタイムムービーで内部制作しようという案もありました。しかし社内の開発事情的にスケジュールがフィットせず、原田からもお客様はやはりプリレンダームービーを求めているという話があって......。最終的にはプリレンダームービーで、という結論になりました。58本全てを3Dプリレンダーで作るのは期間的にも無理だろうと感じていたので、表現手法を一部2Dアニメにしたり実写の静止画像を使ったりする事を模索しました。5本程2Dアニメで制作したのですが、それぞれ作家性が際立つ極端な表現に拘りました。結果、全体のバラエティ感に繋がっているかと思います。シナリオレベルでも室内の一部屋で完結する内容にしたり、背景を他のEDでも共有したり、背景素材を別タイトルのものを流用するするなど、いろいろ工夫を凝らして、なんとかスケジュール内で制作可能な構成に落とし込むことが出来ました。
――そこからすぐに制作に?
相原氏:いえいえ(笑)。とにかくボリュームと比較して制作期間が短くタイトだったため、なかなか引き受けてくれる制作会社様が見つからなかったんです。で、いろいろ紆余曲折の揚げ句、ようやくプレミアムエージェンシーさんに引き受けていただき、全58本中22本をお任せすることになったんです。
CGi事業本部
CGi事業部
CGiビジネスチーム
アソシエイトプロデューサー
櫻井 謙士 氏
クリエイティブデザイン本部
3Dデザイン部
デジタルアニメーションチーム
ディレクター/サブマネージャー
伊達 有希 氏
――プレミアムエージェンシー側はどのように受け止めたのですか
櫻井氏:そうですね、最初にお話をいただいた時は、やはりスケジュールを最も懸念しましたね。単純計算で22本30分ものフルHDムービーを半年で作るとなると、当社内のラインも相当分厚いものが必要です。しかも歴史のあるシリーズだけに、お客様が各キャラクターに対してイメージをお持ちですから、これを正確に理解し把握しなければなりません。もちろん、バンダイナムコさんの開発者の方がお持ちのイメージもありますし、他方では鉄拳TT2ということで歴代シリーズとは少し違う作品という要素もある。いろいろと勘案しながら、バンダイナムコさんが持つイメージとどうすり合わせ、弊社が正しくキャラクターを把握するか。そして、それをどんな演出で組んでいくか......。厳しいスケジュールだからこそ、そうしたことをきちんと練り上げ、詰めておく必要が有り、そこに時間が相当必要だろうと感じました。
――従来とは異なる対応が必要になる?
櫻井氏:ええ。ですから今回は、方向性がずれないようにするため、バンダイナムコさんとの最初の打合せで、プリビズ(Previsualization)の活用を提案させていただきました。実はバンダイナムコさんからお話をいただいてすぐ、弊社と提携しているハリウッドを拠点とするプリビズ制作会社のTHE THIRD FLOOR(以下TTF)や、当社内のプリビズの分かる人間と話をしていたんです。TTFとは、それまでプリビズの進め方などの話しはしていましたが、当社でもTTFでプリビズをしっかり回して進めるような案件はそう多くはなく、本格的に案件をもらって一緒に作業するのは今回が初めてです。今回は鉄拳という大きなチャンスを得て、内容的にもしっかり表現するために質の高いプリビズが必要と考え、TTFに声をかけました。
相原氏:最初にプレミアムエージェンシー様と顔合わせをした時に、山路社長から「TTFというプリビズ会社を使いたい」とお話があったんですよね。実はちょうどその頃、私自身もプリビズをフローに導入したいと考えていて、TTFについてもハリウッドの第一線の映画製作の現場でプリビズを作っている会社と知っていましたから、ぜひ一緒にやりたい!ということで話がまとまったのです。
――相原さんはなぜプリビズに興味を?
相原氏:最近の映画やゲームなどの表現で増えている、きわめて複雑なカメラワークやテンポ感など、実際にシーンに起してみないと良し悪しが判断できないような部分が少なくありません。こういうイメージは絵コンテやVコンテだけではスタッフ間でも共有が難しい場合が多く、実際に作ってみないとそのアイデアが良いのか悪いのかなんとも言えないという事があります。そこでこういう難しいシーンを実際にシーンに起し、イメージを共有できるフローとして、プリビズがクローズアップされています。こうした点に私も非常に興味があり、弊社としてもぜひ、別のフローでも導入したいと思っている部分だったんですよ。
プリビズ制作がプロジェクト成功のカギ
――今回のムービー制作全体の概要をご紹介ください
櫻井氏:先ずバンダイナムコ様に、シナリオや粗筋を各キャラクターごとにご用意いただき、これを基にプリビズ制作に入ったのが2011年の11月頭ごろ。できあがったプリビズは相原さんに確認してもらい、OKをもらえるまで修正・調整を繰り返し、OKをもらったものからどんどんモーションキャプチャを取っていきました。そうしてプリビズ内でちゃんとリアルな動きをしているキャラクターからアタリをしっかり作りきったのが、翌2012年の1月半ばから2月末頃。さらにモーションの調整などに時間をかけながら背景の制作も進め、全部素材が揃った4~5月頃からコンポジットを進めていったんです。プロジェクト規模でいうと総数25~30人くらい。他プロジェクトから「返してくれ!」といわれるくらいの腕利きぞろいのチームでした(笑)。
――ポイントとなったのはやはりプリビズ制作ですか
櫻井氏:そうですね。前述の通り、各キャラクターのイメージがズレないように、しっかり把握するためのこのステップが最も重要で、1カ月近くはプリビズに費やしました。TTFに依頼したのは、アクション重視のものを中心に4本で、これはだいたい字コンテから直接作ってもらいました。その代わりモーションキャプチャーには相原さんにも同席してもらい、一緒に打合せながら撮ってもらったので、逆に大きなブレはなかったと思います。社内で進めた残りの18本に関しては、先にイメージコンテ、つまり3Dの効いたタイミングのレイアウトフレームを作って、これで確認しがら進めていった形です。
相原氏:櫻井さんが言った通り、基本的にはモーキャプには全て立会わせてもらいましたし、キャラクター性に関わるような部分は企画の人間も立会って、ぜんぶ確認しながら収録していったので、この部分に関してはモーキャプ時点で、わりと精度の高いものが取れていたと思っています。もちろん、それを組み上げていく中で「もうちょっとこう見せてほしい」とか、「こうしてほしい」といったこちらの要望については何度かトライ&エラーしてもらいながら進めていきました。櫻井さん、伊達さんには最後まで粘り強く対応してもらいました。
――相原さんご自身はプリビズに関するご感想は?
相原氏:すごく驚いたのは、このプリビズが想像以上に早く上がってきたことですね。キャプチャして2週間ほどでプリビズの1回目が上がってきました。このタイミングでレイアウト、カメラワークについてはかなり精度の高い状態で、おまけにエフェクトやSEまで入っていました。あとはブラッシュアップをするだけというところまで、実に短期間で作ってくれたんです。とにかく非常に有効でしたね。
――TTFとのコミュニケーションはどうやって?
櫻井氏:主にテレビ会議です。LAにあるTTFと日本は17時間時差があり、私たちが働いてる時間は向こうが寝てて、指示を出し終わったころ向こうが働き始める感じでした。そこで毎朝テレビ会議を開いて内容に関する指示を出し、上がったものを私たちがチェックして、バンダイナムコさんの意向に沿わない部分をテレビ会議で潰していく。この繰り返しで進めました。この効果はとても大きかったと思います。ただ、やはりこの第1段階に時間をかけたぶん、後行程が厳しいスケジュールになったのは否定できません。実際、プリビズにOKをいただいてカメラが確定した箇所については、即座に背景モデルのクリーンナップにかかり、ほぼ同時進行で進めていった感じです。
――制作側はかなりご苦労されたのでは?
伊達氏:そうですね。やはりこれだけ量があり、しかもスケジュールが厳しいとなると、背景とキャラクター・モデル、アニメーション等々の全てについて、互いに密接に連携を取りながら進めて行くしかありません。そのことは最初から強く意識しました。
――具体的にはどのような流れで進めましたか?
伊達氏:キャラクター・モデルはゲーム用のモデルをもらってブラッシュアップしていった形ですが、アニメーション班には、その仕上りを待たずにブラッシュアップ前のモデルを渡していきました。アニメータはこれを1体1体MotionBuilderに入れて、仮の背景とアニメーションとカメラを置いてどんどんプリビズを作っていったんです。また背景については、プリビズで決めたカメラを背景班にも渡して、使う場所を指示しそこだけ上げていってもらって......。「ここが写るからここをブラッシュアップして」とモデラーの方にお願いし、本当に必要な処だけブラッシュアップしてもらう。そうやって、スケジュールの範囲で可能な限り質の高いものを目指しました。もし「こういう背景がほしいんだ」というだけのオーダーで背景班に渡すと、全部360度きれいにしようとしてものすごいコストがかかってしまいますから(笑)。
――いろんな点でプリビズが効果を発揮していますね?
櫻井氏:特にニーナ(登場キャラクターの1人)のシナリオを見た時は、プリビズが絶対必要だと思いましたね。ニーナは町中を縦横無尽に走り回るので、プリビズでカメラを決めずにどこが映るか分からないまま作り始めたら、町を丸ごと1個モデル作る羽目になりかねません(笑)。
原田氏:そうなってくると現実の映画と同じですよね。実写映画も結局、カメラに入る処だけって感じですから。ズームで入っちゃう処は作り込むけれど、遠景とかはもう板に書き割りしちゃうんですよ。
伊達氏:本当に同じですね。その意味でTTFさんが作るプリビズのデータは、やはりそういう処が非常に巧く作られていて。カメラに映る処は作り込み、遠景の処はすごくシンプルに作ってある。やはり経験の蓄積があるな、と実感しました。
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