セガ『ソニック × シャドウ ジェネレーションズ』Mayaで作る"魅せる"キャラ動作とイベント演出

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セガの看板キャラクターであるソニック・ザ・ヘッジホッグのシリーズ最新作(2024年10月)『ソニック × シャドウ ジェネレーションズ』。これは2011年にリリースされた『ソニック ジェネレーションズ』を、現行機種向けにHDリマスターし、さらに人気キャラクターのシャドウ・ザ・ヘッジホッグ(以下、シャドウ)による新たな物語『シャドウ ジェネレーションズ』を、2in1パッケージとして追加したソフトだ。2D時代のクラシックソニックに加えて、海外での人気が特に高いシャドウの新作が収録されたことで評判は非常に高く、発売初日に全世界販売100万本を突破し、発売3ヶ月を待たずして200万本を突破した大ヒット作だ。本稿ではMayaや関連ツールを活用したキャラクターモデリング、モーション作成、イベントシーン制作について実例を挙げて解説してもらった。これらは制作模様の一端に過ぎないが、魅力あふれるキャラクターたちの動きや演出の影にある高度な技術と工夫を堪能してほしい。
インタビューを受けていただいたセガの皆様
(写真右から)
シニアアートディレクター 馬立 敬一 氏
リード キャラクターアニメーター 郷田 周吾 氏
リード カットシーンアーティスト 渋谷 浩一 氏
リード キャラクターアーティスト 松浦 伸二 氏
効率的なキャラクター制作をサポートするスクリプティング
まずはキャラクター制作チームでアイディアを持ち寄り、ダークヒーローをモチーフとしたキャラクターデザインに取り組んだ。『シャドウ ジェネレーションズ』の主役であるシャドウには羽を生やしたり変身したりする「ドゥームパワー」と呼ばれる力を持っている。
シャドウの表情リグは感情に応じてパラメータが設定されており、ある感情と別の感情をどの程度ブレンドしているかをビジュアル上で確認することができる。こうしたドリブンキーやエクスプレッションを使用したアトリビュートのリンクのUIもMayaなら多少の知識があれば作ることができる。
つづいて、蠢く球体をランダムに表現するための専用シェーダーを作成した。これはボスキャラクターのバイオリザードで、それぞれチャンネルをR=膨らむ大きさ、G=伸縮の速さ、B=時間ずらしとして設定し、Mayaのスクリプト乱数を入れておくと、1ボタンでランダムな表現ができる。このような大量なものに対する実行をする上で便利なスクリプトといえそうだ。「粒自体が同じモデルになっているので、頂点インデックスも固定。適当な頂点インデックスを拾って、それぞれシェル選択で乱数のカラーを当てていく簡単なコマンドです」(リードキャラクターアーティストの松浦伸二氏)
モーション制作におけるワークフローとツールカスタマイズの取り組み

『ソニック』シリーズ等の開発を通じて、社内のTA(テクニカルアーティスト)やスクリプトに精通したアニメーターがMayaのアニメーション関連ツールを継続的にカスタマイズしている。特にグラフエディターのUI改良や表示切り替え機能、Softimage風の数値入力支援、カーブ操作の自動化(スムース、キー収束・間引き等)などを通じて、作業効率を大幅に向上させている。このほかアニメーション周りのツールを読み込むランチャーがあり、モーションツール系が読み込まれた状態で起動することができ、在宅環境の場合はローカルに落としてから起動する形でツールのアクセスをしやすくしている。
シャドウのリグ設計に関しては『ソニックフロンティア』(2022年)を流用している。手足・肘のスケールと可動性が向上しており、パンチのときにインパクトのある誇張表現が可能になっている。また、表情制御ではピッカーから登録ポーズを読み込みやすくし、口の向きをカメラ方向へ動的に調整する仕組み(実機ではシェーダー制御)を導入している。
ピッカーについてはQt Designerを用いたUI設計により、アニメーターが直感的に操作できる。IK/FK切り替え、ミラーリング、グローバルに切り替える機能などの汎用機能も統合されており、作業効率の底上げに寄与している。
メインキャラクター以外のリグに関しては、モジュラーリギングツール「mGear」を採用している。これにより、人型以外の多様な形状のエネミーキャラクターへのリグ対応が可能となり、専門のリガーがいないアニメーター主体のチームでもガイドを引いた上でリグの自動生成が実現できた。スプラインIKとFKの複合制御も標準で搭載されているので、多くのリグを必要とする触手系の敵キャラクターであってもリギングは容易だったという。
ピッカーはDream Wall Pickerを使用。mGearとのスクリプト連携で揺れ物のコントローラーが作成できるので、リグを読み込んでキャラクターにアタッチさせ、Maya上で揺れ物系をシミュレートさせてベイクして出力する。髪の毛など制御が煩雑な揺れものアニメーションを効率的に行うことができた。
本作の特徴的な演出「歪み空間」と、「ドゥームパワー」だ。前者はUnreal EngineとHoudiniを併用して表現を検証・構築した(詳細はイベントの項目で後述)。「ドゥームパワー」を持つエネミーは軟体的な質感を持つ生物で、柔らかくしなやかな動きを意識したアニメーションを手付け、誇張されたスケーリングを使った迫力のあるアクションが表現されている。
モーション班でも一部のインゲームのカットシーンを作成しているが、明確な絵コンテは存在せず、モーション制作者の裁量に任される部分が多い。計画段階では文字ベースのレイアウト指示があるが、カメラワークや演出の具体的な設計は現場で決定されていく。また、ゲーム中の演出とシームレスにつながるよう、イベント班と連携しながら没入感を高める工夫も行われている。
例えばミサイル破壊のシーンではシャドウの特殊能力の一つである「時間停止」を魅力的に見せている。静止した破片が浮かぶ中をシャドウが掻き分けつつ進み、最後にミサイルを蹴り飛ばして、スローが解けると一気に力が解放されて吹き飛んでいく見せ方をした。ソニックシリーズではスピード感やアクロバティックな動きを重視するため、手付けで行われる文化が根づいている。これらは先輩から受け継がれた技術のほか、キャラクターのシルエットやポージングについて、モーションライブラリーや参考資料などを通じてシリーズ特有の格好良さが共有され、受け継がれている。
インゲームイベント「歪み空間入り演出」制作
本作のインゲームイベントの特徴である「歪み空間入り演出」。シャドウの宿敵・ブラックドゥームが支配する世界に到達すると、天地が逆さまになったり物理法則が乱れたりする空間へ強制的に移行する。このとき、ユーザーが没入感を損なうことなくプレイしてもらえるよう、暗転を挟まずシームレスにカットシーンに移行し、ステージ入りすることを目指した。この演出が発動するのは3箇所あり、インパクトのあるビジュアルで驚きを与えつつストーリーテリングの要素もあり、ゲームのテンポ感を損なわないよう演出の尺は15秒から25秒程度に収める必要があった。こうしたいくつもの条件がある中での映像演出はスタッフにとってもチャレンジングだったという。
「最初は『歪み空間』とは何か?をチーム内で模索し定義するところから始めました。これまで通り格好良く攻めたビジュアルになるよう、アイディアを皆で出し合い、3箇所<「アーク」、「レールキャニオン」、「市街地」)でそれぞれ特徴を出していきました」と、渋谷氏は話す。
「アーク」は、最初の「歪み空間入り演出」とあって、ユーザーにステージ変化の情報が分かりやすく伝わるような動きを抑えたカメラワークだ。ここでいきなりカットを割るとプレイヤーの没入感を切ってしまうことになるため、プレイ状態とカメラワークを同じにしている。そこから通路が壊れて万華鏡の中のような世界が現れ、シャドウは空中に放り出される。シャドウ自身も何が起きたか分からず翻弄されている表情をアップで見せ、最後にダイビングをするシーンからプレイアブルな状態になって演出を終える。「ゆっくりと落ちることで、突然変わった世界をプレイヤーにまず認識してもらえる効果的なつなぎになったと思います」(渋谷氏)
「レールキャニオン」。レールが分身して襲いかかってくるなか、シャドウは軽やかに避けるさまを360度回転のカメラワークで見せつつ、最後には放り出されてしまい、プレイアブルなラン状態に繋げていく。2回目の歪み空間入り演出とあって、「アーク」よりも尺は短くなっている。
「市街地」。壊れたトンネルの破片を足場にして駆け上がる、従来とは異なる縦の動きを見せている。シャドウは上から落ちてくる粉々になった破片を綺麗に避け、この世界にも慣れてきたようす。最後はグラインドレールに着地するが、ここで天地が逆さまになっているところをまたカメラワークで見せる特徴的な演出だ。「後半に行くにつれてどんどん絵を派手にしてほしいというオーダーがあったので、カメラワークもアニメのようなクイックな寄り引きを行なっています」(渋谷氏)。
これらのシーンを作る上で効果を発揮したのが自社製の「Sine Expression ツール」だ。選択したノードに周期的な動きを簡単に適用できるほか、細かい揺れを簡単に入れられ、リグに仕込んでいなくても後付けできるため使い勝手が良かったという。「グラインドレール」ではこれを10本ほど作って動きをつけていたという。
「歪み空間入り演出」は通常VertexAnimationTexture(VAT)で通路を分解しているが、トンネルのシーンでは1箇所だけだったので「Sine Expression ツール」を使用した。アーティストだけで複雑な動きも簡単に作ることができて便利だったという。
ここまでインゲームイベントの映像演出を見てきたが、もちろん従来通りのシネマティックシーンも存在する。『ソニック ジェネレーションズ』はカートゥーンスタイルで、セリフが矢継ぎ早に交わされカメラも基本的に固定されているが、これとは対照的に『シャドウ ジェネレーションズ』では映画的な演出を意識しており、心情を描いた細かな仕草や手ブレなど臨場感のあるカメラワークが用いられている。渋谷氏はその背景について「シャドウは自分の生まれに対してトラウマを持ってるキャラクターです。悪に浸食されたり、自分の運命と向き合う葛藤の演技を盛り込みました。また、今回登場するマリアというヒロインはシャドウにとって家族のような存在で、彼女の心情を描くこともポイントでした」と語る。
カットシーン制作においてはまず、シナリオの読み合わせや演出を打ち合わせた後、絵コンテのような2D/3Dの動線図を作成する。その後、協力会社の方でアニマティクスとアニメーション工程をMayaで行なった。アクティングの際に目標としたのは、シャドウの心の葛藤や、マリアとの掛け合いの演技をしっかりと見せること。シャドウは口数が少なく、大げさな感情表情や笑ったりはしないので、繊細な演技が求められた。なかでも感情や思考などの心の動きを伝える際にはフェイシャルが重要で、眉や瞼で表情豊かに描いていった。もともとソニック系のキャラクターは目が顔の半分以上を占めるので、その印象が大きい。瞼をシャッターのように上下させる機械的な動きではなく、眉や眉間も上下させて柔らかい動きにしていくことを意識した。またプリセットポーズで終わらせず、場面毎の感情の強弱に合わせてブラッシュアップを行なったり、シンメトリーなポーズにせずに方向性を持たせたデザインを意識したという。
『ソニックフロンティア』では瞳孔のスケールは変えられなかったが、『ソニック × シャドウ ジェネレーションズ』は瞳孔のスケールを変えられるようにしている。
ドゥームパワーに侵された時や強いショックを受けた等に使用している。目のコントロールはボーンを入れる方式ではなく、目のテクスチャーをUVスクロールで移動/拡大させる方式となっている。
ShadowEyeTrackツール。ツールを実行すると瞳孔の動きをトラッキングしたロケーターが作成される。
シャドウがドゥームパワーを発動したときに、徐々に闇に落ちていくイメージを表現するため目を赤く光らせる演出を行なった。
瞳孔にノードがあればエフェクトのアタッチは容易だが、瞳孔にボーンは入っておらず、球面に貼られた目のテクスチャーをUVオフセットでコントロールする方式なため、そこから瞳孔の座標を取得するのはアーティストでは困難だった。
そこでテクニカルアーティストにツールを依頼し、UVで動く瞳孔の位置/スケールをトラッキングし外部ロケーターに出力するツールを作成。このノードにエフェクトをアタッチして目を光らせた。
この他にも指や体での力強い感情表現や、ハイスピードアクションやカメラワーク、映画理論に基づいたレイアウトなど、工夫された点は枚挙に暇がないので、完成映像からアーティストの意図に思いを馳せてほしい。
リマスターのさらに先へ デフォーム技術の先行開発
『ソニック ジェネレーションズ』をリマスターするにあたり、開発チームは表現としての現代化を推し進めるため、プロジェクトに入る前に「今までに見たことがないキャラクター表現」を合言葉にさまざまな研究開発を模索した。その一例がボーンに依存しないデフォーム表現だ。
これはMayaとゲームエンジンで同じ変形をする独自の頂点シェーダー。通常のボーンによる変形に重ねて適用することが可能で、ストレッチ&スクワッシュの効果を加えたり、キャラクター全体を渦巻状に変形させるといった表現も実現できる。
メッシュに対して球体のプリミティブコントローラーを適用し、強度や影響範囲、さらに「wave」などのデフォームタイプを指定することができる。
まず、TAがMayaとUE5のシェーダーを作成し、アーティストがアニメーションテストを通じて表現の試行錯誤を行った後に、プログラマに内製ゲームエンジンへの実装を依頼した。
アーティストとTAでプロトタイプ環境を構築できたことでスピード感をもって自由に表現を試行錯誤することができたという。
「Mayaはカスタマイズ性が高く、アーティスト主導で多様なビジュアルを作り上げることができる点が特長で、その懐の深さを実感しました」と、リードカットシーンアーティストの渋谷 浩一 氏は語る。
ここでも動きがリズミカルになったり、驚いたときの感情表現を身体全体で描くことができる。
このシーンのアニメーションはMotionBuilderで作成していたため、MotionBuilder版の変形シェーダーもTAによって作成してもらった。
と、ここまで開発のようすをみてきた変形シェーダー技術だが、『ソニック × シャドウ ジェネレーションズ』に盛り込むことは、結果的に見送られることになった。それは『ソニック ジェネレーションズ』と『シャドウ ジェネレーションズ』で、ゲームエンジンが異なるためだ(前者はSEGA独自のヘッジホッグエンジン1、後者はヘッジホッグエンジン2)。また、ユーザーからの要望もオリジナルに忠実なHD化を求められたことも理由としてあった。今回はゲーム機上での実装は叶わなかったが、このような事前調査や表現手法の模索といった作業は、今後のアウトプットに確実に繋がっていくものと考えられる。早くも次回作を期待させる技術の一端が垣間見えた。
Mayaのユーザーエクスペリエンス
最後にMayaのユーザーエクスペリエンスについて、それぞれのアーティストに伺った。
デザインセクションでリードキャラクターアーティストとして最前線で活躍する松浦氏は、学生時代から約四半世紀にわたるMayaユーザーだ。「Mayaはモデリングからリギング、アニメーション、レンダリングまで1つのソフトで一通りできるのがメリットです。まず触れてみて、工程を広く把握した上で自分が特化したい部分を見つけるのが導入として良いと思います」と、初学者に向けたアドバイスをくれた。つづいて、「Mayaの優れた点は、操作内容がMELスクリプトとしてログに記録されることで、同じ作業を繰り返す際にコピペで簡単に実行できる点です。マクロのように活用でき、スクリプトの導入が非常にしやすいツールだと感じています」と述べる。
アニメーションセクションのリードアニメーターの郷田氏は「3Dを始めるのに基本的かつ、操作しやすい機能が揃っているのはもちろんですが、MELやPythonによるツールの開発などがしやすくプロジェクトやチームに合わせたカスタマイズができるのが大きな利点です。本作でもアニメーション周りでは、部内で作成しているアニメーション作業特化のツールやカスタマイズを行っています。ユーザー数も多く、Tipsなどの情報も探しやすいところも魅力の一つです」と語る。
イベントセクションのリードカットシーンアーティスト・渋谷氏はリファレンス機能が安定して使えることを挙げた。「本番モデルがない状態で作り続けるというのが当たり前なので、あとから入れ替えできるのが非常に助かります。Sine Expression ツールでは複雑な動きが比較的簡単に試せて、通路の破片やレールにsinエクスプレッションを入れる事で、バリエーションの異なる動きのトライアンドエラーが容易だったと思います」と話す。
最後に、シニアアートディレクターとしての馬立氏は、「アートディレクションをする際、メカのデザインを確認するときは3Dに起こしてレンダリング画像に描き出すこともしています。Mayaは歴史も長く資料が豊富で、サポート体制も整っているので、今後もDCCツールのスタンダードで在り続けていただきたいと思います」と実感を語ってくれた。
TEXT:日詰明嘉
EDIT:セガ、オートデスク
ソニック × シャドウ ジェネレーションズ
対応機種:PlayStation®5 / PlayStation®4 / Nintendo Switch™ 2 / Nintendo Switch™/ Xbox Series X|S/Xbox One/PC(Steam/Epic Games Store)
※Xbox Series X|S、Xbox One、PC(Steam/Epic Games Store) はデジタル版の販売のみ
発売日:発売中(2024年10月25日(金)発売)
Nintendo Switch™ 2 2025年6月5日(木) 発売予定
ジャンル:ハイスピードアクションアドベンチャー
プレイ人数:1人
発売・販売:株式会社セガ
CERO表記:A
©SEGA
公式サイト:『ソニック × シャドウ ジェネレーションズ』公式サイト
https://sonic.sega.jp/SonicXShadowGenerations/
*上記価格は年間契約の場合の1ヶ月あたりのオートデスク希望小売価格(税込)です。